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幻想の尻尾 - (2006/08/29 (火) 11:00:08) のソース

<p>「わたしはJUMのおよめさんになるー!」<br>
「じゃあ、ぼくもすいぎんとうのおむこさんになるよ!」<br>

幼き頃に二人で誓った夢<br>
ずっとずっと思い続けた夢<br>
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「フゥ…」<br>
今日何度目になるかわからない溜め息が出る。彼女…水銀燈が溜め息を吐くのには理由がある。<br>

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「やっぱり誰もいるはずないわよねぇ…」<br>
別に教室に人がいないわけではない。ただ、仲の良い友人達が帰ってしまったのだ。だが友人達が悪いわけではない。<br>

今日は放課後に委員会の集会があるから先に帰っていいと言ったのは水銀燈だからだ。しかし、その集会が予想以上に早く終わったために、ほのかな期待を込めて教室に向かったのだ。<br>

「2、30分くらい待ってても罰は当たらないのにぃ…」<br>

いつまでも言っていても仕方ないので一人で帰る。一人で帰るのは久しぶりだ。</p>
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帰り道を歩いていると、ふと前方に見たことのある人影が二つ。<br>

「JUMと…真紅?」<br>
一人で帰る時に友人と出会うと嬉しくなるものだ。水銀燈は駆け足で二人に近寄った。<br>

しかし、二人は少し話した後に横道にそれる。疑問を抱きつつも水銀燈は二人を追いかける。<br>

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そして見てしまった。<br>
二人が、JUMと真紅がキスしている現場を…<br>
「嘘…嘘よ…」<br>
その現実から逃避するかのように水銀燈は走っていった…<br>

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その後水銀燈は一目散に自宅に逃げ帰った。<br>
水銀燈は何度も夢であるようにという願いを込めて瞼を閉じるが、瞼を開けると現実を突き付けられる。<br>

「JUM…JUMぅぅ…」<br>
ありえないと思いたかった。<br>
夢だと信じたかった。<br>
水銀燈はJUMがモテないと思っていたわけでも、幼馴染みという関係で安心していたわけでもない。<br>

JUMがモテているのは知っていたし、JUMがとられるかと心配もしていた。<br>

だが、怖かった。<br>
今の関係が壊れるのが。<br>
JUMに嫌われるのが。<br>
「夢が…終わっちゃったぁ……」<br>
泣いても泣いても涙が溢れ出てくる。その涙を止めてくれる人はいなかった。<br>
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「ねぇ、JUMって何か夢はあるぅ?」<br>
「なんだよ、突然。」<br>
「だってぇ、JUMの進路とか聞きたかったんだものぉ。」<br>

「ああ…僕達ももうすぐ高三だからなぁ…」<br>
「だからぁ、幼馴染みとしてJUMが悪い道に走らないように聞いておきたかったのよぉ。」<br>

「お前なぁ……」<br>
「まぁ、いいや。僕の夢は…水銀燈と……」<br></p>
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<p>「うぅん…朝ぁ…?」<br>
どうやら疲れて寝てしまったようだ。<br>
「今までのは…夢?」<br>
携帯の日付を見る。<br>
日付は確かに変わっている。<br>
夢であって欲しかったことは夢ではなく、夢であって欲しくなかったことは夢だったようだ。<br>

「そうよねぇ…何を…期待…してたんだろう…」<br>
一年前に似たような話をしたような気がする。<br>
でも、確かあの時は…<br>
「私ってばおばかさんねぇ…ありもしないことを妄想するなんて……」<br>

そう…あの時、JUMは夢を教えてくれなかった。<br>
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ピンポーン<br>
水銀燈の現状を知ってか知らずか、チャイムが鳴る。<br>
「はぁい…今…出るわぁ…」</p>
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<p>出たいわけではないが、重大なことかもしれない。<br>
家に居るなら出るべきだろう。<br>
「水銀燈?いないのかー?」<br>
ドアノブに触れる時にドア越しに聞こえてくる聞きたくて聞きたくない声。そういえば今日はJUMと出かける予定があった気がする。でも…今自分は凄い顔をしてる。<br>

今日は断ろう。<br>
どちらにせよJUMの顔をまともに見る自信がない…<br>
「JUM?ごめんねぇ…なんか体調が悪いみたいなのよぉ。」<br>

「風邪か?大丈夫か?」<br>
ああ…とてもとても優しいJUM…<br>
だけど今はその優しさが痛い。<br>
「大丈夫よぉ。だけど今日は行けそうにないわぁ。」<br>
「そんなに悪いのか?医者に行ったほうがいいんじゃないか?今悪い風邪が流行ってるし…」<br>

なぜこの人は優しくしてくれるのだろう?<br>
「…大丈夫」<br>
「大丈夫じゃないだろ?少し見せてみろよ。」<br>
溜め込んでいた何かが弾けたような気がした…<br>
「大丈夫って言ってるじゃない!!帰ってよ!!」<br>
「水銀燈…?お前いきなりどうした?本当に大丈夫か?」<br>

「なんで…なんで…優しくするのよ…!真紅と付き合っているくせに!!」<br>

「お前…何言って…」<br>
「見ちゃったのよ…あなたと真紅がキスしているのを…」<br>

「!!」<br>
「私だって…私だって……私の夢を叶えたい!!JUMのお嫁さんになりたい!!」<br>

「!!!」</p>
<br>
<p>
僕は気がついた時にはドアを開けて水銀燈を抱き締めていた…<br>

「JUM…?」<br>
水銀燈も戸惑っている。<br>
だけど今こそ僕は自分の気持ちと向き合う時だ。<br>
「なぁ…水銀燈…あの時教えなかった夢を教えてあげるよ。」<br>

「僕の夢は昔幼馴染みと誓った【夢】を叶えることなんだ。」<br>

「…嘘…」<br>
水銀燈から涙がこぼれ落ちる。<br>
それを拭いてあげながら僕は続ける。<br>
「嘘じゃない。…真紅の件はあの後断ったんだ。」<br>
「僕は昔から好きだった子がいる…ってね。」<br>
「水銀燈。僕は君が好きだ。二人で夢を誓ったあの日あの時から今まで君だけが好きだった。」<br>

「僕と…付き合ってくれないか?」<br>
水銀燈は泣いている。<br>
でも…今までと違って嬉しそうに…<br>
「私も…私もJUMが大好きよ…」<br>
彼女の笑顔はとても綺麗だった。<br>
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「ねぇ?JUM?」<br>
「ん?」<br>
「私の夢を叶えてね。」<br>
「ああ…叶えてみせるさ…」<br>
「君の夢も…僕の夢も…」<br>
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終わってしまったと思われた夢。<br>
でもずっと前から繋がっていた夢。<br>
これからも二人が夢を見るのを止めない限り、二人の夢は終わらないだろう。</p>
<hr>