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『少女の恋の物語』 - (2007/03/15 (木) 21:39:42) のソース

<p>『少女の恋の物語』<br>
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初恋というものを考える時、真紅の場合は、<br>
ありきたりにも幼稚園の保父さんだった。<br>
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しかし、それが明確に恋心であったのかと言えば、おそらく違う。<br>

あの年の端は性に関係なく、他人と自分との境界というか<br>

線引きが曖昧で、まして異性というものを意識することなんぞ、<br>

まったくなかったからである。<br>
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異性に「男」という今までになかった感情を持ちはじめてからの<br>

最初の恋が、ほんとう意味での初恋だろう。<br>
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真紅にそれがやってきたのは、中学校の入学式を一週間後に<br>

控えた日のこと、旧知の仲の雛苺と出かけていった繁華街においてだった。<br>
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<p>一目惚れというものだった。<br>
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真紅には、これが一目惚れということが、実感としてあった。<br>

真紅は決して外貌に惚れたのではない。<br>
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彼女は一目見て自分が、彼の心の深奥まで辿り着いた思った。<br>

真紅はたしかに、彼についていまだ外見以外のどんな情報も<br>

知らなかったが、自分はすでに彼の心の純粋性を見抜き、<br>

そこに惚れたのだと信じた。<br>
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真紅は夢見がちな少女だった。ために真紅は恋をしたというより、<br>

恋に恋をしてしまったのである。<br>
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もちろん、本人はそんな壮大な勘違いには気づいていない。<br>

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だから真紅は、さきほどから雛苺に体を揺さぶられていることも知らず、<br>

ただぼんやりその場に立ちつくしていたのである。<br>
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往来に突如としておとずれた、本来再び会うことのない、<br>

その時かぎりの恋は、運よく一週間後の入学式当日の校門前で、<br>

早々と再会を果たすことになった。<br></p>
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<p>……のだが、再会した初恋の人の格好と言うのは、<br>
どこからどう見てもセーラー服であり、<br>
真紅が衝撃のあまり、彼女を指さしてとんでもない悲鳴を発するや、<br>

彼女に同伴していた女の子が前に立ってかばい、<br>
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「なんですか、おまえは、うちの妹に向かってなんて声あげてやがるですかっ!」<br>

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こうして真紅の初恋物語は、なんとも間の抜けたかたちで幕を閉じたのだった。<br>

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<br>
おしまい。<br></p>