<p>日曜日の商店街にて――<br> <br> 「お! 薔薇水晶じゃないか。一人で買い物か?」<br> 「そう言うジュンこそ……いつもみたいに取り巻き……引き連れてないのね」<br> 「よしてくれ。学校じゃ、あいつらが勝手に、僕に付きまとってくるだけだよ。<br> 休日ぐらいはウルサイのに邪魔されず、のんびり過ごしたいもんだ」<br> 「……ふぅん? じゃあ……ふふっ、今日は私が、貴方を独り占めできる日だね」<br> 「おい。そりゃ、話が飛躍しすぎてないか」<br> 「たまには良いじゃない。ね、お買い物……付き合って。<br> ウルサイのが嫌なら、静かに……いい子にしてるから。<br> ダメなんて言ったら……泣いちゃうよ?」<br> 「ほほーぅ。じゃあ、ダ――」<br> 「……くっ」<br> 「おい、待て待て。なんで顔を伏せる。ホントに泣く気か」<br> 「だって……ジュンが…………意地悪するんだもん」<br> 「――ったく。ただの冗談だってのに、これじゃあ僕が悪者じゃないか。<br> しょーがないな。分かった。付き合うから」<br> 「……ホント?」<br> 「ああ、本当だよ。だから、こんな人の多い所で泣き出さないでくれ」<br> <br> <br> いつでも都合よく出せる女の涙は卑怯だ! とは決して言えないジュンなのでした。<br> <br> <br> もっとも、薔薇水晶の頼みなら、なんでも聞いてあげるつもりでしたが―― <br> <br> <br> 買い物の途中にて――<br> <br> 「――あ、そう言えばさ。昨日の夜、12chの旅番組を見てたんだ。<br> 夫婦で民話の里を巡るってヤツ」<br> 「……夫婦で?」<br> 「おい。何故そこで頬を染める……。ま、気にせず話を続けるけど。<br> その番組で、座敷わらしの出る宿が紹介されてたんだ。予約は数年待ちだってさ。<br> しかも、その部屋『槐の間』って言うんだぜ。<br> お前のオヤジさんと同じ名前だな――って、どうしたんだ? 強張った顔して」<br> 「……遂に……秘密がバレてしまった」<br> 「なんだよ、急に怖い声で。秘密って、なんだ?」<br> 「ここだけの話…………あの宿に出るワラシ様は、お父さまの作ったお人形。<br> 『開運なんでも望み叶えたるわコンチクショーですぅ』人形……略して、座敷ワラシ」<br> 「どこをどう略せば、そうなるんだよっ!」<br> 「……姉妹ドールとして……『発毛と育毛の歓びアナタに届け・お菊ちゃん』とか、<br> 『いつでもどこでも携帯テレホンガール・メリーちゃん』がある」<br> 「うっわぁ。なんか、どっかで聞いたことある名前ばっかりだな」<br> 「お父さまは、伝説を作る男…………ステキ♪」<br> <br> <br> 都市伝説ばかりじゃ、しょーがないけどな! とは決して言えないジュンなのでした。<br> <br> <br> そんな父親を慕い続ける素直な薔薇水晶が、大好きだってことも―― <br> <br> 暮れなずむ町の帰り道にて――<br> <br> 「ジュン…………今日は……その」<br> 「ん?」<br> 「ありがとね。お買い物……付き合ってくれて」<br> 「――いいさ、別に。どうせ、目当てもなくブラついてただけだし」<br> 「……」<br> 「なんだよ。僕の顔、じーっと見て。なにか付いてるか?」<br> 「眉毛……目と鼻と口……それと、メガネ」<br> 「はいはい。真面目に聞いた僕がバカだったよ」<br> 「……」<br> 「またかよ。なんだって言うんだ、いったい」<br> 「ごめんなさい。こんな風に、ジュンの横顔を近くで眺めるコト……なかったから」<br> 「そっか。いつもなら真紅たちが周りにいるから、二人っきりって珍しいシチュだよな」<br> 「うん。それで、つい……買い物の最中も、貴方だけ……見つめてた」<br> 「……バカ。恥ずかしいこと、言ってんじゃねーよ」<br> 「迷惑だった?」<br> 「し、知るかよ」<br> 「ふふ。じゃあ、迷惑ついでに……」<br> 「ん!? お、お前っ、今なにした――」<br> 「じゃ……また学校でねっ。……さよなら!」<br> <br> <br> おずおずと頬をくすぐった少女の吐息と唇は、初々しいまでの柔らかさで――<br> これからも、ずっと僕だけ見つめてくれよ! とは決して言えないジュンなのでした。<br> <br> 夕闇の中へ溶けてゆく女の子の背中を見送りながら、ふと、少年は思う。<br> こんなにも躍る心で、早く学校に行きたいと願ったのは、何年ぶりだろうか――と。</p> <hr> <br> <br> 「…………」<br> 「むにゃむにゃ……」<br> <br> 眠れない。<br> 突然何を言い出すかって?<br> 僕の隣の少女を見れば、分かってくれるか?<br> 眠れない僕をよそに、可愛らしい寝顔で眠っている。<br> 少し無表情な普段と比べて、幸せそうに。<br> 何故か着けている左目の眼帯も、今は外している。<br> まぁ…寝てるんだから、当たり前なのかもしれないが。<br> <br> 「んー……ジュ…ン……好きぃ……」<br> <br> 寝言か?<br> さりげに嬉しい事を言ってくれた。<br> そして、胸の奥が暖かくなった。<br> <br> 「僕も好きだよ。薔薇水晶…」<br> <br> 眠り姫を起こさない様に、その柔らかな頬に口付けを。 <p> </p> <p> </p> <hr> <p> </p> <p> </p> <p>ジ「僕って枕が変わるとどうも寝つきが悪くてさぁ…」<br> 蒼「わかるわかる。僕もそうなんだ。」<br> <br> 薔「私も…アヒルちゃんがないとお風呂が寂しい…。」<br> ジ・蒼「…」<br> <br> 薔「あと…シャンプーハットがないと…髪が洗えない……。」<br> ジ・蒼「(゜Д゜)」<br> <br> 薔「…え、違う?…ちょっ…こっち見ないで……。」</p>