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「 what a wonderful world 」-2- - (2007/12/23 (日) 10:13:53) のソース

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   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~<br>
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     ♯2.「 真紅 」 -crimson blow-<br>
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「さ、遠慮せずにぃ。上がっちゃってよぉ」 <br>
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そう言い、家まで送ってくれた真紅を玄関に上げる。 <br>
お邪魔します、という真紅の礼儀正しい声が響く。<br>
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「ふふふ…ここは私一人で住んでるから、気を使わなくても大丈夫よぉ」<br>
「え…ご家族は? 」<br>
「仕事でみぃんな、海外に行っちゃったから」<br>
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そして自分の足を―動かない足を一瞥した。<br>
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「こんな娘と離れられて、あいつらもせいせいしたでしょうし… 」<br>
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(とんでもないコンプレックスの持ち主なのだわ。ついつい付いて来てしまったけど…)<br>
重くなりそうな空気を止める為、真紅は無理やり会話を続ける。<br>
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「でも一人で暮らすのも、大変でしょうに… 」<br>
「そうでもないわよぉ。1週間に一度、食材や必要な物を配達してくれるサービスもあるし。<br>
それに私、料理はこれでも結構得意なの。何かご馳走するわよぉ? 」<br>
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そう言い、屈託無く笑う。<br>
(でも、悪い人間じゃあなさそうね)<br>
その笑顔を見て、真紅もつられて笑う。<br>
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「そうね…紅茶を頂けるかしら? 」<br>
「ちょっと待っててぇ 」<br>
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暫くして、水銀燈がティーポットとカップをカチャカチャ鳴らしながらテーブルに来た。<br>
紅茶の良い香りが漂う。<br>
(足が不自由で大変でしょうに… )<br>
そんな事を考えながら、その姿を眺めた。<br>
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「はい、どうぞ。誰かにお茶出すなんて無かったから、緊張しちゃったわぁ 」<br>
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勧められるまま、紅茶を一口飲む。<br>
葉も市販の一般的なもので、水も普通の水道水の味だったが、不思議な温かさのある味だった。<br>
―おいしい。―<br>
真紅は素直にそう言い、柔らかく微笑んだ。<br>
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「ところで、真紅は何をしにこの町にきたの? 」<br>
一息つき、水銀燈が聞いてくる。<br>
「ええ…お父様に…お使いを頼まれて来たのだわ」<br>
「ふぅん… 」<br>
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(お使い、ねぇ…)<br>
そう思うが、それより気になる事がある。<br>
テーブルに肘をつき、猫なで声で質問をする。<br>
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「ところでぇ…一体どんな魔法を使って私の足を動かしたのぉ? 」<br>
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一瞬、真紅の視線が泳ぐ。<br>
しかし…観念したかのように、ポケットから小さな赤い宝石を取り出した。<br>
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「この石には…不思議な力があるらしく…おそらく、そのせいなのだわ…。<br>
そして… 」 <br>
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真紅は赤い宝石を水銀燈の指先に当てた。<br>
赤い宝石が静かに光だし―<br>
よく見ようと顔を近づけようとすると、真紅は宝石を手元に仕舞ってしまった。<br>
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「この石は、持ち主を選ぶのだわ…。<br>
きっと…私を中継して、その力があなたに流れ込んだせいなのだわ」<br>
「じゃあ、私がその石を持てば… 」<br>
「ええ…でも… 」<br>
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そう言うと真紅は、赤い石を両手で包むように持った。<br>
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「これはお父様から預かったものだし…それに、常に肌身は離さず持っているように言われているの。<br>
あの公園の男も…これを狙って来たと言っていたのだわ。<br>
水銀燈…あなたには悪いのだけど… 」<br>
「なるほどねぇ… 」<br>
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―譲ってもらうわけにもいかないようだし、どうしようかしら。<br>
そう考えた時、あるアイディアを思いつき…<br>
つい、顔がにやけてしまう。<br>
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「ということは… 」<br>
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そう言い、真紅の手を掴む。<br>
すると―<br>
公園の時と同じように、自分の足で立つ事ができた。<br>
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「ということは…歩きたい時は、真紅と手を繋げばいい、ってことよねぇ」<br>
「え…? 」<br>
「やっぱり、私たち友達になりましょうよぉ?<br>
素敵じゃなぁい?友達と手を繋いで散歩とかするのも」<br>
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真紅は…一瞬ビックリした表情をして、その後小さくため息をつき…<br>
それでも―最後には微笑みながら答えた。 <br>
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「やれやれだわ…やけに物分りの良いと思ったら…どこまでも強引な子ね…<br>
よろしく、水銀燈― 」<br>
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「そうと決まれば、連絡先の一つもおしえてくれなぁい? 」<br>
ティースプーンをカチャカチャと指先で弄びながら、水銀燈が尋ねた。<br>
真紅は少し困った顔をして ― <br>
「実は… そうしたいのだけど、急いできたから宿もまだ… 」<br>
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そんな真紅の表情とは対照的に、水銀燈は身を乗り出し、嬉しそうに言う。<br>
「だったらぁ、ここに泊まってかなぁい? 今なら三食付で、とぉってもオトクよぉ? 」<br>
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子供のようにキラキラ輝かせたその目を見て、真紅は…<br>
ため息と共に、少し微笑んだ。<br>
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―――――<br>
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『この部屋を使ってくれてかまわないわぁ。<br>
ふふ…それとも、寂しかったら一緒に私の部屋にするぅ? 』<br>
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そう嬉しそうに笑いながら水銀燈に案内された部屋の中で、真紅は手紙を読んでいた。<br>
父から託された手紙。<br>
それを読み終え、ベッドに少し寝転がる。<br>
そして―意を決したように起き上がり―部屋を出た。<br>
向かった先は―水銀燈の部屋。<br>
ドアの前で息をすっと吸い込み、静かにノックをする。<br>
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「なぁに? 」<br>
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可愛らしい声で返事が返ってくる。<br>
ドアは開けず、壁越しに要件を伝える。<br>
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「その…明日、昔の知り合いに会うのだけど…も、もし明日暇ならで良いのだけど…<br>
その…一緒に来ても…構わないのだわ…」<br>
「…寂しいのぉ? 」<br>
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部屋から、嬉しそうにクスクス笑う声と返事が返ってくる。<br>
一気に顔が赤くなる。<br>
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「そ! そんなこと! 寂しくなんてないのだわ! 」<br>
「へそ曲げないで。冗談よぉ。 そうね…ご一緒させていただけるかしらぁ? 」<br>
「さ、最初からそう言えばいいのだわ」<br>
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気が付けば耳まで真っ赤になっている。<br>
―ドアを開けなくて良かった。<br>
そう思いながら、部屋に戻ろうとした時、声をかけられた。<br>
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「ねぇ、真紅」<br>
「何かしら? 」<br>
「おやすみなさぁい」<br>
「ええ…おやすみなさい」<br>
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いつの間にか微笑んでいる自分に気が付く。<br>
どうも私は、この子に弱いようだ…。<br>
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暫く、ドアを眺めた後― <br>
うるさくならないよう、静かに自分の部屋に戻った。<br>
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                              ♯.2 END<br>
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