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~第三十七章~ - (2006/05/24 (水) 22:15:45) のソース

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  ~第三十七章~<br>
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水銀燈の膝に抱かれて、めぐは満ち足りた表情を浮かべている。<br>

穏やかに眠る旧友は、今しも瞼を開きそうだ。<br>
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 銀「そして貴女は、はにかみながら言うのよね。<br>
   いつもみたいに『来てくれてたのね、水銀燈』って」<br>

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それが、子供の頃から繰り返してきた、二人の習慣。<br>
水銀燈が、野良仕事で多忙なめぐの両親に変わって看病の手伝いに行くと、<br>

めぐは大抵、まだ眠っていた。<br>
そんなに寝てばかりじゃ、頭が呆けちゃうわよと水銀燈がからかうと、<br>

必ずと言っていいほど「構わないわ。どうせ、もう壊れちゃってるんだし」と、<br>

言葉を返したものだ。<br>
その度に、ちょっとした口論が始まって――<br>
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 銀「それでも、私たちは一日と経たずに、仲直りしてたわよねぇ」<br>

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喧嘩の後、先に根負けするのは、いつも水銀燈の方だった。<br>

自分の軽口が喧嘩の発端という気後れもあったのだろう。<br>

躊躇いながらも、様子が気になって見に行くと、<br>
めぐは決まって目の下を腫らして、泣き寝入りしていた。<br>

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 銀「私が怒って出ていったからって……泣き沈むくらいなら、<br>

   最初っから、憎まれ口なんか叩かなきゃ良いのにねぇ。<br>

   ホント、貴女って、救いようのないお馬鹿さんだったわぁ」<br>

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水銀燈は、めぐの身体を冷たい石畳に横たえて、別れの口付けを交わした。<br>

十六歳の頃に、ふざけ合って、一度だけ汗ばむ肌を重ねた事が思い出される。<br>

中秋の名月を見に行った鎮守の森の社で、初めて口にした酒に酔いしれ、<br>

火照りを冷ますように着ていた物を脱ぎ捨て、身体を絡ませ合った夜――<br>

嘗て、水銀燈が捨てられていた場所で経験した、初めての感触……。<br>

青く幼い思い出は、もう永久に取り戻せない珠玉の記憶になってしまった。<br>

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重ねた唇を徐に離して、水銀燈は太刀を手に取り、立ち上がった。<br>

もう目を覚ますことのない旧友を見下ろし、花の代わりに言葉を手向けた。<br>

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 銀「本当は、一緒に眠り続けてあげたい……でも、今はまだダメ。<br>

   私には先に、やらなければならない事があるのよ。<br>

   また、貴女を独りにしてしまうけれど……今度は、直ぐに会えるから。<br>

   だから、良い子にして待っててねぇ、めぐ。<br>
   ――それじゃあ、行って来るわぁ」<br>
<br>
くるりと踵を返して、めぐに背を向け、金糸雀と雛苺の元へ歩き出す。<br>

「さようなら」と呟く唇の脇を、一滴の雫がこぼれ落ちた。<br>

歩きながら、指先で目元を拭う。<br>
此処から先は、泣いてはいけない。悲しんでいる暇なんか無い。<br>

<br>
 銀「金糸雀。ヒナちゃんの怪我の具合は、どうなの?」<br>

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横たわる雛苺の容態を診ていた金糸雀は、話しかけられて、顔を上げた。<br>

そして、心配ないという風に、口元を綻ばせる。<br>
けれども、当の雛苺は苦しそうに喘いでいた。水銀燈が眉を顰める。<br>

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 銀「でも、凄く苦しそうよ。大丈夫なのぉ?」<br>
 金「二、三本、骨が折れているの。その影響が出ているかしら」<br>

 銀「発熱、とか?」<br>
 金「ええ。暫く、安静にしていないと。だから、銀ちゃんは先に行って」<br>

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金糸雀は決意に満ちた眼差しで、水銀燈を見詰め返す。<br>
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 金「みんなだって、きっと城内の何処かで闘っている筈よ。<br>

   だから、早く行って! 雛苺のことはカナに任せておくかしら」<br>

 銀「……解ったわ。ヒナちゃんの容態が安定したら、必ず追い付いてねぇ」<br>

 金「勿論! じっちゃんの名にかけて、約束するかしら」<br>

<br>
金糸雀は冗談を交えながらも、自信に満ちた態度で言い切った。<br>

そんな彼女に、水銀燈は何も言わず、頚を縦に振ってみせた。<br>

――足手まといには、なりたくない。<br>
彼女の力強い眼差しには、その想いが、確かに込められていたから。<br>

金糸雀なりの心遣いを、無駄にしてはいけない。<br>
<br>
迷いを振り切って、水銀燈は走り出す。<br>
たとえ金糸雀が叫ぼうと――有り得ないことだが――めぐが呼び止めようとも、<br>

絶対に立ち止まるつもりは無かった。<br>
<br>
でも、何処へ行けばいい? どっちに向かえば良いの?<br>
真紅や、他のみんなは、今どこに?<br>
少し考えて、水銀燈は悩むのを止めた。<br>
勝手を知らない敵地で悩むだけ、時間と労力の無駄だ。<br>
だったら、御魂の導きを信じて、自らの勘に賭けてみれば良い。<br>

後は、野となれ山となれ、である。<br>
<br>
部屋を飛び出し、気の向く儘に廊下をひた走る。<br>
目の前に穢れの足軽どもが現れ、剣を振り翳して襲いかかってきた。<br>

手狭な廊下では、水銀燈の太刀の長さが災いする。<br>
けれど、斬り合うばかりが全てではない。<br>
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 銀「あんた達ぃ……運が悪かったわねぇ。<br>
   私はねぇ、いま凄ぉく虫の居所が悪いのよ!」<br>
<br>
水銀燈は迫り来る穢れの者どもに太刀の切っ先を向けて、冥鳴を起動した。<br>

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金糸雀は、荒い呼吸を繰り返す雛苺を前にして、難しい顔をしていた。<br>

水銀燈には大丈夫と言ったけれど、それは欺瞞だ。<br>
医薬品や道具を納めた行李が無ければ、治療の仕様がない。<br>

だが、そんな事を正直に話せば、水銀燈は雛苺も連れていくと言い張った筈だ。<br>

自分たち二人を護るために、行動を共にする、と。<br>
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 金「それだけは……銀ちゃんの足枷にだけは、絶対になれないかしら。<br>

   銀ちゃんは真紅を護るべきなのよ。カナ達ではなく」<br>

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金糸雀の呟きが聞こえたのだろうか。<br>
雛苺は一度だけ呻いて、儚げに瞼を開いた。瞳に宿る光は、弱々しい。<br>

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 雛「金糸雀ぁ~。ヒナ…………もう……死んじゃうの?」  <br>

 金「な、何を言い出すの。もう、イヤぁね。雛苺ったら、冗談キツいかしら」<br>

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言って、金糸雀は虚しくなった。容態なら、本人が一番、解っている。<br>

実際、雛苺の容態は絶望的だ。<br>
折れた肋骨が左の肺を突き破って、心臓に近い箇所まで達していた。<br>

腹部を強烈に圧迫された拍子に、内臓破裂も引き起こしている。<br>

緊急手術を行わなければ、もう長くはない。<br>
なのに、その為の道具は手元に無く、鎮痛剤で痛みを抑える事も不可能。<br>

金糸雀はただ、風前の灯火が消えゆく様を看取る事しか出来なかった。<br>

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 雛「そんな、悲しそうな顔したら……ダメなのよ。<br>
   金糸雀だって、この間、言ってたの。鈴鹿御前を討ち果たす為には、<br>

   ヒナ達の御魂が、ひとつにならなきゃダメだ……って。<br>

   だから、ヒナはちょっとだけ早く、真紅の元へ行くだけなの。<br>

   きっと……すぐに逢えるのよ」<br>
 金「うん。そうよね……きっと、また」<br>
 雛「うぃ……。ばいばい……金糸雀。また……あとで……なの」<br>

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雛苺は、焦点の定まらなくなってきた瞳を彷徨わせながら、<br>

手を虚空に伸ばしていく。金糸雀が、その手をしっかりと握り締めると、<br>

雛苺は安堵の溜息を吐いて、微笑んだ。<br>
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その後、雛苺が金糸雀の手を握り返してくることは、遂に無かった。<br>

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同じ頃、他の仲間たちに遅れて城郭に辿り着いた翠星石とベジータは、<br>

やっとの事で城内に踏み込んでいた。<br>
固く閉ざされた門を開くのに、思いの外、時間を食ってしまったのだ。<br>

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ここを潜れば、再び激しい戦闘が待っていると覚悟していたものの、<br>

漸くにして突入した城内は、不気味に静まり返っていた。敵襲の気配がない。<br>

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 翠「……誰も、居ねぇです」<br>
 ベ「油断するなよ。何処から出てくるか、解らねえぞ」<br>

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室内の様子を眺め回していた翠星石が、板張りの床に転がる行李を見付けた。<br>

小走りに駆け寄り、確かめると、それは確かに金糸雀の持ち物だった。<br>

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 翠「間違いねぇです! 金糸雀たちは、此処まで来てたですぅ」<br>

 ベ「問題は、その後、どこに向かったか……だ」<br>
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行李が転がっていた真ん前には、ぽっかりと落とし穴が開いている。<br>

二人の脳裏に、同じ光景が浮かび上がっていた。<br>
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 翠「やっぱり、落ちやがったですかねぇ」<br>
 ベ「その可能性は、大だな。あいつ結構、鈍くさいから」<br>

 翠「……じゃあ」<br>
 ベ「ああ、行こうか。女性優先……と言いたいところだが、俺が先に行く。<br>

   お前は、その行李を持って、後から付いて来いよ」<br>

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言って、ベジータは躊躇なく縦穴に飛び込んだ。<br>
五秒待っても、十秒待っても、ベジータから返事が届くことは無かった。<br>

よほど深い縦坑なのか、それとも、なにか別の仕掛けが働いているのか。<br>

翠星石は痺れを切らして「ええい、女は度胸ですっ!」と吐き捨て、<br>

縦穴に身を投じた。<br>
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急速な落下によって、翠星石は胃液が逆流するような感覚に苛まれていた。<br>

冗談ではなく、あと数秒、こんな頼りない浮遊感を強いられていたら、<br>

吐き散らしていたかも知れない。<br>
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浮遊感は唐突に終焉を迎え、翠星石の身体は漆黒の闇から、<br>

どこだか判らないが、薄暗い空間に放り出されていた。<br>
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 ベ「やっと来たな。どうやら、ここが終着駅らしいぜ」<br>

 翠「ふへ? あ――」<br>
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頭上から声を掛けられ、近くに男の体臭を嗅ぎ付けた翠星石は、<br>

ベジータに抱きかかえられている現実を知って赤面した。<br>

異性の腕に抱えられた事など、産まれて初めての経験だった。<br>

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 翠「なななっ……何しやがるですっ! 離しやがれですぅっ!」<br>

 ベ「……あのなあ。俺が抱き留めなかったら今頃……って、まあ良いけどよ」<br>

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ベジータは、ポカポカと殴ってくる翠星石を床に降ろして、周囲に目を配った。<br>

柱には篝火が据え付けられているものの、燃焼の勢いが衰えていて、仄暗い。<br>

闇に目が慣れてくると、部屋の隅に座り込んでいる人影を、視界に捉えた。<br>

声を立てず、足音を忍ばせて、人影に近付く。<br>
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 ベ「金糸雀……か?」<br>
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呼びかけると、その人影はビクッ! と肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。<br>

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 金「ベ……ジータ?」<br>
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金糸雀は泣いていた。横たわる、一人の娘を前にして、涙を流し続けていた。<br>

ベジータの背後から行李を抱えた翠星石が姿を見せると、<br>

眼を見開き、無情な現実を嘆くように頭を振った。<br>
<br>
 金「遅……かったわ。来るのが……遅すぎたかしら」<br>
 翠「どういう……ことです?」<br>
 金「……雛苺が……雛苺が」<br>
 翠「っ! 雛苺が、どうしたですっ?! まさか――!」<br>

<br>
翠星石は、金糸雀の隣に駆け寄り、彼女の前で眠る娘を目の当たりにした。<br>

本当に、静かに眠っているだけの様に見える。<br>
けれども、その胸は上下していなかった。<br>
手にしていた行李を取り落として、翠星石は両手で顔を覆った。<br>

<br>
 翠「そんなっ! 何故ですっ?! なぜ、雛苺が?」<br>
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その場に跪き、泣きじゃくる翠星石に、金糸雀は何も答えず、俯くだけだった。<br>

何を告げたところで、言い訳にしかならないと知っていたから。<br>

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重苦しい空気の中、ベジータは金糸雀の右隣に片膝を着いて、<br>

彼女の肩を優しく支えた。<br>
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 ベ「他の仲間たちは、どうしたんだ? 一緒じゃなかったのか」<br>

 金「銀ちゃんは、先に行ったわ。真紅たちの事は、解らないかしら」<br>

 翠「解らないって、どういう事ですっ!」<br>
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翠星石に胸ぐらを掴まれた金糸雀は、目を逸らせて、訥々と答えた。<br>

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 金「笹塚の罠に……掛かってしまったのよ。仕方……なかったかしら」<br>

 ベ「分断されて、金糸雀は他の二人と此処に落とされた訳か」<br>

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ベジータは悲嘆の吐息を漏らすと、雛苺の遺体を抱きかかえて、立ち上がった。<br>

そんな彼の様子を、眼に涙の跡を残した二人の娘が、不思議そうに見上げる。<br>

数歩、進んだ所でベジータは振り返り、彼女たちに語りかけた。<br>

<br>
 ベ「泣いてたって仕方ないぜ。この娘が死んじまったのは、悲しいだろうさ。<br>

   だけどな、お前たちの仲間は、今この瞬間も闘い続けているんだぜ。<br>

   お前らが助けに行かなくて、誰が行くって言うんだ?」<br>

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その一言は、翠星石と金糸雀の眼を覚まさせた。確かに、その通りだ。<br>

冷たい言い種かも知れないが、死を悼む暇があったら、<br>
生きている友を助けるべきだった。<br>
そうでなければ、また、掛け替えのない仲間を失ってしまう。<br>

金糸雀も、そして翠星石も、涙を拭って力強く頷いた。<br>
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 金「ありがとう、ベジータ。あなたの言う通りかしら」<br>

 翠「悲しんでる暇なんか無ぇです。<br>
   蒼星石や真紅、銀ちゃん、薔薇しぃに、きらきー。<br>

   みんなと合流して、絶対に鈴鹿御前をブッ斃してやるですっ!」<br>

 ベ「その意気だぜ。そんじゃあ一丁、派手に弔い合戦といくか」<br>

 金「ええ! 銀ちゃんを、追い掛けるかしら!」<br>
 翠「思いっ切り、暴れてやるですぅ!」<br>
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廊下に出た三人は、直ぐに、水銀燈の向かった方角を把握した。<br>

何故なら、破壊の跡が生々しく残されていたのだから。<br>
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 翠「冥鳴の痕跡ですね。銀ちゃんも相当、頭にきてるみたいですぅ」<br>

 金「それは、カナ達だって同じかしら。おいで、氷鹿蹟」<br>

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金糸雀は廊下に灯された行燈の明かりで影を造り、精霊を起動した。<br>

軽快な仕種で精霊の背に跨り、雛苺の亡骸を預かると、<br>
水銀燈の去った方へ精霊を走らせる。<br>
翠星石とベジータは、その後ろを風のように追い掛けた。<br>

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――真……紅。<br>
――真紅ぅ~。<br>
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薔薇水晶と雛苺に名前を呼ばれた気がして、真紅は息を呑み、眼を覚ました。<br>

なんだか、不思議な胸騒ぎがしている。<br>
二人に、良くないことが起こった予感……。<br>
<br>
 紅「なんだか……力が漲ってくる。この感覚は……そう言うコトなの?」<br>

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籠手をずらして、左手の甲を眼前に晒す。<br>
そこには【義】に加えて【忠】と【孝】の文字が、<br>
真円の痣を縁取る様に並んでいた。<br>
御魂が宿ったと言うことは、つまり、彼女たちが死んだ事を意味している。<br>

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 紅「薔薇水晶……雛苺……貴女たちは、もう」<br>
 蒼「薔薇しぃと雛苺が、どうかしたのかい?」<br>
<br>
真紅の独り言を聞き付けて、蒼星石が声を掛けた。<br>
それまで真紅は、彼女の存在に気付いていなかったので、<br>

心臓が喉から飛び出すかと思えるほど、無様に身体を震わせてしまった。<br>

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 蒼「ごめん。おどろせた?」<br>
 紅「別に、構わないのだわ。周囲に気を配っていなかった、私が悪いの」<br>

<br>
曖昧な笑みを浮かべて、ずらした籠手を元の位置に戻そうと左腕を引いた瞬間、<br>

真紅の手首は蒼星石に掴まれ、彼女の前に引っ張られていた。<br>

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真紅の痣が変化している事を確認して、蒼星石は柳眉を逆立てた。<br>

けれど、その怒りは二人の死を隠そうとした真紅に対してではなく、<br>

背負わされた運命に対して向けられたものだった。<br>
<br>
或いは、翠星石の御魂が含まれていなかった事を密かに喜んでしまった、<br>

自身への嫌悪だったのかも知れない。<br>
蒼星石は、きつく握り締めていた真紅の手を、そっ……と手放した。<br>

<br>
 蒼「ごめんね、真紅。こんな、強引なコトしちゃって。<br>

   乱暴な真似をするつもりは、無かったんだけど」<br>
 紅「気にしなくても良いのよ。私こそ、隠そうとして悪かったのだわ」<br>

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八人は、御魂という不可思議な縁で結び付けられた姉妹なのだ。<br>

私生活の事ならともかく、御魂に関する情報ならば、共有すべきだった。<br>

それが、一丸となって闘う仲間への、最低限の礼儀である。<br>

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 紅「それより、ここは何処なのかしらね。みんなの行方は?」<br>

 蒼「残念ながら、ボクには知る術が無いよ。<br>
   真紅の方が、御魂の気配を鋭敏に感知できるんじゃないかな?」<br>

 紅「それもそうね。ちょっと試してみるのだわ」<br>
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瞼を閉じて、意識を集中する。<br>
途端、強烈な負の波動が押し寄せてきて、真紅は悲鳴を上げ、眼を見開いた。<br>

こんなにも禍々しい気配を放つ者は、四天王にすら居なかった。<br>

それ以上となれば、該当しそうな存在は、鈴鹿御前しか思い付かない。<br>

<br>
真紅は神剣を掴むと、いきなり走り出した。負の波動を辿って、ひたすら走る。<br>

その後ろに蒼星石がピタリと貼り付き、真紅の背中を護衛していた。<br>

散発的に飛び出してくる穢れの者を斬り伏せ、風の如く駆けていた二人は、<br>

突如として大きな広間に飛び出して度肝を抜かれた。<br>
<br>
ここは、どういう部屋なのだろう? <br>
油断なく周囲を見回す蒼星石の瞳に、昇り階段が映る。<br>
その階段を視線で辿っていった蒼星石は、玉座に腰を降ろした男と、<br>

彼に寄り添う娘を眼にして思わず息を呑んだ。<br>
それは嘗て、彼女がジュンと呼び愛した男性と、<br>
彼を巡って刃を交えた娘……巴だった。<br>
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