朝特有の肌寒さに揺らされて、目を覚ます。<br> 時計を見てみると、6時半を少し過ぎた頃。<br> <br> そろそろ起きなくちゃ。<br> 姉さんは朝が苦手だから、起こしてあげなきゃ。<br> そして朝ご飯とお弁当も作って、あぁ、今日はゴミの日だったかな。<br> <br> そして目にはいるのは、枕元に転がった携帯電話。<br> 画面には、昨夜押しかけた番号の欠片が映っている。<br> 昨日も駄目だったんだなぁ、なんて、苦笑い。<br> <br> 今日のお弁当は、少し多めに作ってみようかな。<br> そして、作りすぎたからどうぞ。なんて、とてもありきたりだけど。<br> あなたは唐揚げが大好きだったね。今から間に合うかな。<br> 時計を見る。7時に届きそう。<br> 今から作ればぎりぎりかな。姉さんを起こす時間は…ごめんね。<br> <br> 「あと1分だけ。それで起きよう。」<br> <br> そう言い訳をして、2、3度寝返りを打っていると、<br> ふと、お弁当ふたつ抱えて泣いている自分を思い浮かべる。<br> <br> 「…やっぱり、あと3分。」<br> <br> すぐ起きていればよかったなぁ、なんて考えて、<br> また苦笑い。<br> <br> あぁ、今日も臆病な僕は、いつでもあなたが大好きです。<br> <br> オハリ<br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。<br> 僕を、女の子として見てくれるひとがいた。<br> そのひとは姉が好きになったひとで。僕が好きになったひとでもあって。<br> 二人でそのことを話し合ったことは無かったけれど、なんとなく分かってしまった。<br> あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。<br> 幸せな彼の顔。幸せな姉の顔。そして僕の顔。<br> 三人で笑いあうことがとても楽しかった。でも、少しだけ切なかった。<br> あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。<br> 明日こそ彼に思いを伝えようと決めた日の放課後、校舎裏で互いを抱きしめあっていた彼と姉。<br> 二人は本当に幸せそうで、泣いていたのは僕だけだった。<br> あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。<br> 姉の幸せを願っていながら彼を手に入れたいという粘着質の黒い衝動。<br> 少しずつ落ち着いていって、自分に失望し、それでいて再び混沌の中に意識を沈める。<br> ただ彼に抱きしめてもらいたい。ただ彼に僕が好きだと言ってもらいたい。彼に愛され、彼を愛したい。<br> あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。<br> 彼をあの校舎裏に呼んで、自分の気持ちを伝えたとき。<br> 伝えずに入られなかった。引き下がりたくなかった。だから伝えた。<br> 彼はただ一言“ごめん”と呟いて。僕は涙が止まらなくて。<br> こらえきれずに彼の胸の中で泣いた。<br> ―――何年かが経って。<br> 今、彼は姉と幸せな家庭を築いている。<br> 僕にそれは無い。このまま独りでもいいと思う。けれど。<br> <br> この胸の痛みはまだ残っている。<br> <br> <br> <br> <hr>