<br> 翠星石は一人、夕暮れに照らされた道を歩く。<br> 翠「これからどうしようです・・・。」<br> 落ち着いたものの、気分は落ち込んだままだった。<br> 翠「ジュンのせいです・・・ジュンの馬鹿・・・。」<br> 西の空には、黒い雲が浮かんでいた。<br> <br> ジュンの部屋<br> ジュンはベッドの中で後悔していた。<br> <br> 翠星石は君のことが、好きなんだ。―――<br> <br> ジ「そんなわけが・・・。」<br> ジュンにとって、人生で始めてのほろ苦い恋の味。<br> <br> お前らなんか大嫌いだ!皆この家から出てけ!――― <br> <br> ジ「僕は、翠星石にひどいことを・・・何も、あいつのことを何も知らないで。・・・」<br> ジュンは自分が惨めになった。<br> 今まで、怪我をしても心配するのは、のりぐらいしかいなかった。<br> 赤の他人なのに、涙を流して心配してくれた人を、自分が泣かせた。<br> <br> <br> ジ「帰ってきたら・・・謝るか・・・。」<br> もう一度寝ようとしたところで、水銀燈と、雪華結晶が起きた。<br> 銀「ふぁぁ~、よぉく寝たわぁ~。」<br> あくびをしながらむくっと起き上がる。<br> 雪「あら?私はいつの間に・・・。」<br> 目をこすりながら、こちらもむくっと起き上がる。<br> ジ「起きたら、早く出てってくれ。」<br> 自分では分かっているのに、口からは冷たい言葉しか出てこない。<br> 銀「あ・・・、ごめんね、ジュン・・・。」<br> 水銀燈は、早足で部屋を出て行った。<br> 雪華結晶は、ジュンのベッドにもたれかかる。<br> ジ「何だよ、お前も早く出てけよ。」(僕の馬鹿野郎・・・!)<br> 気づいたジュンは、布団の中から雪華結晶に言葉を投げかける。<br> しかし、雪華結晶は動かない。<br> <br> <br> ジ「だから、早く」<br> 雪「出て行きませんわ。」<br> 雪華結晶の突然の言葉に、ジュンの発言は妨げられる。<br> ジ「何でだよ、ここは僕の部屋だぞ・・・。」<br> 雪「ジュン様のお側にずっといる。そう誓いましたから。」<br> 誓いなど、ジュンが知っているわけもなく、<br> ジ「はあ?そんなの僕は知らないぞ。」<br> 予想通りの言葉。<br> 雪「ジュン様が寝ている間に誓いましたわ。」<br> ジ「勝手に誓うな・・・。」<br> 単なる言い合い。しかし雪華結晶にとっては、とても楽しい。<br> 雪華結晶は笑っていた。<br> <br> 両者が黙り込み5分程たった頃、雪華結晶が口を開ける。<br> 雪「あの・・・ジュン様?」<br> ジ「何だよ・・・。」<br> ジュンの言葉は落ち着いていた。<br> 雪「ベッドに腰掛けてよろしいですか?」<br> ジ「勝手にしろ・・・。」<br> <br> ずっと一緒にいます。ずっと―――<br> <br> <br> 雪華結晶はベッドに腰掛けると、ジュンに言った。<br> ジ「ジュン様は、本当はお優しいお方です。ですから、もう少し、<br> もう少し素直になれませんか?」<br> ジュンからの返事はない。<br> 雪華結晶は立ち上がり、ジュンの部屋を後にした。微笑みながら。<br> <br> ジュン様。ありがとう―――<br> <br> 雪華結晶には分かっていた。自分の言った事を、ジュンが理解していることを。<br> 部屋のドアをゆっくりと閉め、雪華結晶は出て行った。<br> ジ「なるよ。もう少し素直に・・・。」<br> 雪華結晶が部屋を出て行った後、ジュンは小声で返事をした。微笑みながら。<br> それは、ここ一年ほどなかった、ジュンの本当の気持ちだった。<br> <br>