ローゼンメイデンが普通の女の子だったら @Wiki内検索 / 「痣と笑顔という名の仮面」で検索した結果

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  • 奇しき薔薇寮の乙女 第三話
    第三話 「だから、その、帰らないで……」 彼女が羨ましいと、私は思う。 今の私には、あれほどまでの勇気はないのだから。 涙を流して、顔をジュンに向けることが出来ないでいても、彼女は必死に伝えている。 私にもそれが痛いほど分かるし、それだけに、彼女に少し嫉妬した。 恋愛のソレとも取れる告白が、私にとっては、ずっとずっと遠くにあるもの。 顔がくしゃくしゃになってしまうほど、自分の素直さを表に出せる彼女は、私にとっては羨望そのもの。 彼女が羨ましいと、私は思う。 すこしだけ後ずさりして立ち止まることが許される世界から、旅立とうと「努力」する雪華綺晶。 自分の力で1秒を巻いた彼女は、当然のように祝福されるべきだ。 私は未だ、その9秒前にいる。 自分の殻の中という、無限の領域にある白い世界から、私は踏み出せずにいる。 雪華綺晶自身の、雪華綺晶のためにある出口を見つけた彼女が、羨ましい。 私の...
  • "運"無き勝負
    地下組織の者と言われているので、もっと危ない人物なのかと考えていたジュン。 しかし、実際はどうだろう?目の前にいるのは真っ赤な服に青い瞳。 おまけに金髪のツインテールをした女性だ。危ない人物どこか、 これではまるでどこかの国のお嬢様ではないか。 おそらく、街中を歩いていれば十人中九人が振り返るだろう。 ジ「君は、ローゼンメイデンの人…なのか?」 あまりに自分の想像とかけ離れていたので、思わず聞いてしまうジュン。 真「そうよ、私は誇り高きローゼンメイデンの一人真紅なのだわ。     貴方が今夜の相手なのね」 名前は?と聞かれた。そうか、この女性は真紅というのか… ジ「あっ、はい。僕の名前は桜田ジュンです」 自分のタイプの女性だ。 ジュンは目の前にいる女性…真紅を見て少々ぎこちない様子だった。 真「そう、ジュンというね。では、ジュン!さっそく今日の...
  • =さらば!我が愛しき日々よ=第十二話
    ジュンは決意をきめた。 ジ「さらば!男という名の肩書き!」 『ガバ!ガサガサガサ』 水銀燈の服を、勢いよく着ていった。 銀「何だかやかましいわねぇ。私の服に興奮してるみたいねぇ。」 水銀燈の軽い冗談に、 真「そんなわけ・・・、お風呂にもまだ入ってないあなたの汚い服なんかで、ジュンが喜ぶわけがないのだわ。」 雪「ジュンは、私が満足させます。」  むきに噛み付く二人。 銀「あらぁ、冗談なのにぃ・・・こわぁい。」 真「う、うるさいわね。」 雪「今のは、忘れてください。」  その二人をからかう水銀燈。 一方、ジュンは・・・ ジ「一応着れたけど、これ、でかいなあ・・・」 ジュンより15センチは背が高い水銀燈の服である。もちろんぶかぶかだ。 下は、すね辺りまで下りていて、手は指を伸ばしてやっと手首の部分に届く程度である。 胸は、あるわけがないので、そこだけ妙にダボって...
  • 奇しき薔薇寮の乙女 第十二話
    第十二話 後に悔み、覆された水が盆に返るコトを望んでもソレらは決して受け入れない。 因果律が定めたように、未来から過去へ進むことはできないのだ。 あるとしたら、それは現在と過去。 未来からは干渉できず、絶対に塗りつぶされるコトのない事実。 思い出にカテゴライズされはしない、決して消えない黒い記憶。 媒体が違えれば意味も変わる。 それはこれからの一生涯、再生されるべきではない映像として記録された。 いまから目を潰しても、すでに脳裏に焼きついた映像は消えない。 さながらブラウザクラッシャのように。 なにかのきっかけで再生針が落とされるかもしれない、危うい場所に保管される。 人体のブラックボックス、運営者の意思に反する曖昧な場所。 いまなお再生され続ける、あの時の記憶。 ガソリンが切れたにもかかわらず、それは正しく駆動していた。 「うあ……うぅぅ」 喘ぎ声。 快感でも嗚咽でもなく、...
  • 第八話 「過去からの来客」
    第八話 「過去からの来客」 で、何を喋ればよろしいのか? 狭いながらも一丁前に店長室というものがこの喫茶店に存在した。 白兎は店長よろしく机に踏ん反って、僕は棒立ち。 構図的には社長と部下という風に見えるが、僕はまだ雇ってもらえてない。 「で、こういう場ではどう喋るのがよろしいのでしょう」 「……」 そりゃあこっちの台詞だ。面接なのに店側が無言だなんて聞いた事もない。 「私はあなたを雇ってもいいのです。こんな面接などという手順を踏まなくとも」 「じゃあ何故こんな状況になっているんです? 」 相手は店長だというので一応敬語で喋る。 「表現し辛いのですが、雰囲気的と申しましょうか」 つまりはその場のノリって感じかよ! なんていい加減さなんだ。 まぁしかし、面接という事柄と言えど白兎と二人きりになった。 雑談のようになるが色...
  • 第四話  『今日はゆっくり話そう』
    静かな教室の中で、カツカツと響く乾いた音だけが、時の経過を告げている。 チョークが黒板を叩く音は、さながらマエストロの振るタクトが、 リズムを刻んでいるかのようだった。 合間を縫って、中年の男性教師の、伸びのあるバリトンが谺する。 プレイヤーたちは、ノートにシャーペンを走らせ、各々のパートを奏でていた。 時折、くしゃりと紙が縮れる音。それは、四分休符の微妙なアクセント。 授業という名のオーケストラに耳を傾けながら、蒼星石は教科書の陰で欠伸をかみ殺した。 一時限目は、代数幾何。 数学全般があまり好きではない蒼星石にとって、毎週、この時間が苦痛だった。 いつも、忍び寄る睡魔に抗いながら、早く授業が終わることを祈るのである。 昨夜の不眠もあって、今日は殊更、辛かった。 ちょっとでも気を緩めたら、コクリコクリとうたた寝してしまうだろう。 蒼星石はペンを置いて、重い瞼を指先で擦り、腕時計に目を落...
  • 【たまにはこんな日曜日】
        どうして、こうなるのでしょう。  なんとなくわかってる。わかってるの。  材料よし。  器具よし。  今日は、今日と言う日は、なき言を言っている場合ではないのに。 「……」  今、はじめに考えていたのとは大分違う現実が、広がっている。 【たまにはこんな日曜日】 ―――――  ほんとうに、食べるのがすきだね。  何気ない一言だった。それを聞いたのは、駅前のラーメン大食い一番勝負の看板のかけられた店を瞬殺した直後のこと。あの店長さん、本当に眼をまるくしてた。比喩じゃなく、驚くとそうなるんだ、なんて思ったりしていた。 「……きっと食べるのがすきなら、作る方もいけるんじゃないかな」  正直、あんまり考えたことがなかった。そう言われてみれば、私の眼の前には『食の道』が果てなく続かんとばかりに、気付けば食べ物がある。  ただ、それはひとえに、自分の生活が恵ま...
  • 奇しき薔薇寮の乙女 第十一話
    第十一話 「いや、見事なまでの心身掌握だよなァ。ここまで来るといっそ清々しいもんだけど、どうしたもんか」 原因はもちろん水銀燈であり、結果はなぜか銭湯である。 別に壊れてもいなかったしなんの問題もない我が家の清浄空間が、見事に水銀燈に嫌われてしまった。 理由を聞いても答えてもらえないうえに、今日は銭湯にしましょうという水銀燈に逆らえず現在風呂ン中。 なんだかよくわからないけど、水銀燈に逆らってはいけない空気が流れだすのである。 ヤツめ、男心を知り尽くしているとでもいうのか。 ちなみに水銀燈お手製晩ご飯のメニューは和風であった。 湯葉のあんかけなんかは思わず旨いと言ってしまい、さらに水銀燈の主婦っぷりに拍車をかけてしまった次第。 や、実際にあれだけいろいろと発揮されてしまうと、もうどうにも逆らえない。 午後のアレは洗脳っぽいけど。 薔薇寮で寝てる内にインプラントでも仕込まれたのかと...
  • 第十六話  『サヨナラは今もこの胸に居ます』
    どちらかを、選べ―― 右手は、大好きな姉に辿り着くための片道切符。 左手は、頑ななまでに蒼星石を繋ぎ止める、論詰という名の首輪。 本来なら、迷うハズがなかった。蒼星石は、翠星石に会うために、追いかけてきたのだから。 自らの羨望が生み出した、偶像の姉。彼女を選んでしまえば、目的は、ほぼ達成される。 左手を掴んでいる、姿の見えない者の声になど、耳を貸す義理も、謂われもない。 徐に、蒼星石は右手を挙げた。眼前に掲げられた、偶像の手を取るために。 でも――――本当に……これで、良いの? 指が触れる寸前、胸の奥から問いかける声が、蒼星石の腕を止めた。 それっきり、蒼星石の右手は、ビクともしなくなった。明らかな握手の拒絶。 置き去りにされる寂しさ、悲しさ、辛さをイヤと言うほど味わってきたからこそ、 祖父母や親友たちにまで、同じ想いをさせることに、罪悪感を抱いてしまったのだ。 たとえ、それ...
  • 【愛か】【夢か】
    「おかえりなさい」 夜更けの非常識な来客を、凪いだ海のように穏やかな声が出迎えてくれた。 僕の前に佇む君に、あどけない少女の面影は、もうない。 けれど、満面に浮かぶのは、あの頃と何ひとつ変わらぬ夏日のように眩しい笑顔で。 「疲れたでしょう? さあ、入って身体を休めるかしら」 そんなにも屈託なく笑えるのは、なぜ? 君が見せる優しさは、少なからず、僕を困惑させた。 ――どうして? 僕のわななく唇は、そんな短語さえも、きちんと紡がない。 でも、君は分かってくれた。 そして、躊躇う僕の手を握って、呆気ないほど簡単に答えをくれた。 「あなたを想い続けることが、カナにとっての夢だから」 なんで詰らないんだ? 罵倒してくれないんだ? 僕は君に、それだけのことをした。殴られようが刺されようが、文句も言えない仕打ちを。 ここに生き恥を曝...
  • 薔薇乙女家族
          「起きなさぁい」 布団を被って横たわる僕の耳をくすぐるかの様な声。陳腐な表現だが、鈴を鳴らすかのようなその声は何回聞いても心地よい。その声で僕の為に詩を歌ってくれたら、例え云十年と時を跨いでもその都度惚れ直すに違いない。 「まぁだ寝ているつもりぃ?」 体が揺すられる。彼女の綺麗な指を布団越しに感じられる。 彼女を知らない人間は、とにかく「冷たい」という印象を抱く。それは、彼女が自分自身を守る為に周囲にその手を以て刃を向けていたという事もあり、余計に拍車をかけていた。彼女はとにかく、近寄るものを「敵」の如く扱った。 しかし、その刃の様に冷たい手は僕に対しては暖かく、柔らかかった。この手の温もりは、おそらく僕しか知らないだろうと自負している。 「いい加減に起きなさぁい!」 ガバッと音がしたと思ったら、体を包んでいた温もりがあっという間に寒気に変わった。布団を...
  • *終盤戦1 巴さん地獄変
        どのお酒が一番すき? と問われれば、多分答えることができないと思う。  なぜなら、お酒はどれもすきだからだ。  うん。何が言いたいかっていうと、九平次うまいね。 「さくらだくん、あなたねえ、このぼくねんじん」 「いきなり酷くないかそれ?」  箸を動かす。口へ運べば、しゃっきりとした歯ごたえ。はぁ……なんでこんなにただの漬物が美味しいんだろ。 「あかかぶちょうだい?」 「どうぞ」 「たべさせて」 「なんでだよ」 「さくらだくん?」 「はい逆らいません」  何やってんだ僕は。とりあえずこの赤カブを与えないと危(ヤバ)い雰囲気を感じたので、従うことにする。こんなに赤いのに、僕らはこれを美味しいという……着色料とか使ってないんだよなー。姉ちゃんどこから仕入れてくるんだろう。そういう問題じゃないよ。弱いなあ僕。 「ほら」 「あーん」  何故眼を瞑る。  口に運んでみると、...
  • ―/― おわりのうた
     彼女は言った。たった一枚の絵を、描きたいのだと。頭の中に曖昧に浮かんでいる絵を かたちにする為に、筆を走らせていたっけ。  それは、何処か遠い遠いところにある景色のようなものらしい。小さい頃から、ずっと 一緒だったけど。実際のところ、それが果たしてどんな景色なのか、それとも本当に『景 色』であるのかすら僕にはわからなくて……ともかく、彼女が『描きたい』と願うものを 僕は知らない。  言葉で伝えられても、僕にはそれを正確にトレースすることは出来ないから。それは当 然と言えば当然のことだったし。それでいて、少しだけ寂しいこと。  また、彼女は言った。この世界には、世界を作り上げるからくりがあって、そして物語 があるのだと。その物語は、少なくとも。それこそこの世界に生きる人々の数だけ、綴ら れていることは確かなのだと思う。  世界のからくりが、物語の中に物語を内包する。だからその数は、実...
  • 奇しき薔薇寮の乙女 第六話 前編
    第六話 前編 「あーもー、わっかんない! 本当にやっていけるのかしら」 そもそも、なんだって高校でこんな勉強をせにゃいけないのか。 もっと専門的っていうか、大学レベルでないと分からないと思う。 それを高校でやらせるなんて、数学の担任は無茶を言いすぎかしら。 でも、コレさえクリアすれば点数稼ぎにはなるし。 「それにしても、ヒナは一体なにを騒いでいるのかしら?」 なんだか大喜びしてるみたい。 さっきまであんなに泣いていたのに。 それはもうホラーばりな雰囲気真っ盛りで。 途中で諦めて部屋に戻ったのはいいのだけれど、あそこまで感情反転されると、それはそれで怖いかしら。 いやー、それにしても、 「休憩よ休憩! ちっとも進まないかしら!」 憎々しい 脂肪も多くて 肉々しい。 あの数学教師は、何か恨みでもあるのかと。 メトボリックをシンドロームさせている最悪な塊、なんとかしなきゃ...
  • s.d.3
      「私の名前はめぐ。柿崎めぐ」   そうして、夢の中では聴くことの無かった彼女の声が、僕の中に 響き始めて。それが僕の中にある曖昧な記憶を形にしていく。 「思い出した?」 そうだ。いつも夢で逢っていたというのに、今の今まで僕は気付く ことが無かったのだ。なんとも間抜けな話である。 「ごめん……まだちょっと曖昧だけど、確かに逢ったことがありま   すね」 曖昧。まだ何処か『もや』が頭の中にかかっているような感じだっ たけど。そうだ、確か前に学校で…… 「そう、良かった。白崎君の引き出しは、壊れてないみたいだね」 「引き出し?」 「そう、引き出し。頭の中の何処かにある、記憶をしまっておくた   めの引き出しだよ」   『再会』からすぐ、こんな話を始めてしまう僕等は、少し奇妙な 感じだったかもしれない。   ...
  • 【お酒と、雪と、お嬢様】
        雪がふる。  雪がふるよ。  静かできれい。あんまり静かで、眠ってしまいたくなる。けど今眠っちゃったら、多分しんでしまうから、しない。  ベランダに出てはく息は、周りがとてもくらいというのに、とてもはっきりと白く見える。部屋のカーテンから漏れる僅かなひかりが、空気を照らしているのだ、きっと。ほう、と手に吹き付ければ、ほのかにあたたかい。  くぴ、と。手に持っていた缶を傾ける。この年になって、この苦い炭酸を飲むのが大変ではなくなってきた。というよりはむしろ、すきになっているかもしれない。味もさることながら、多分こういったものは、喉越しを愉しむ物なのだろうという気がしている。だから、最初の一口目が多分いちばんおいしい。  そういえば、冷蔵庫のストックがついになくなった。これは元々僕が買ったものじゃない。前に遊びにきた『彼女』が大量に持ってきたものを、毎日毎日少しずつ消費して...
  • 走馬灯~MANY MEMORYS~
    走馬灯~MANY MEMORYS~ 今という時は二度と無い。 一瞬一瞬が過ぎ去っていく。 過去という道を渡って人は未来という道を 馬の如く走りそして命の炎を灯って行く。 これはとある乙女の走り跡と消えてしまった灯りの物語。 私はこう思う。 今という一瞬が早く過ぎないのぉ? だって人生とつまらなぁい。 早く過ぎればいいのにぃ。 だけどねぇ・・そうは思わなかった事が何回もあるのぉ。 いずれもあの人の思い出の灯火ばかりだけどねぇ。 逆に言うとあの人との思い出で過ぎ去って欲しいと思った事は 1つしかないわぁ。ただ1つだけぇ。ちょっと悲しかった出来事。 その時は時がただ流れていくのを残酷に感じたわぁ。 だけどあの人はそれを考えてか手紙を残してくれた。 その手紙は“思い出“になって灯っているわぁ。 そうねぇ・・。ちょっと話してあげるわぁ。 他の思い出の灯火...
  • 第8話 『こんふぇっしょん!』
     「ようこそお越しくださいました。ささ、こちらです」 ばっちりセ●ムしてます的な電動扉の向こうに入り込んだアリスこと雪華綺晶を迎えたのは、 上品そうな初老の女性だった。  「本日はお嬢様の為にわざわざご足労を頂き、誠にありがとうございます。お礼を申し上げます」 雪「は、はい…」 先を歩く老婆と共に、敷地の向こうに見える邸宅を目指す雪華綺晶。 なんだか、方便を使ってこの優しそうなお婆さんを騙したのが心苦しくなってしまった彼女である。  「私めは当家の家事手伝いをさせて頂いております、コリンヌ・フォッセーと申します」 雪「あ、私は雪華綺晶ですわ」 コ「雪華綺晶さま。差し支えなければお聞きしたいのですが、お嬢様とはどうしたきっかけでお友達になられたのでしょうか」 雪「お昼をご一緒したんですの」 コ「そうでございましたか…」 そうこう話している...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§1
     「いらっしゃいませ」 扉を開けると。古びたドアベルの音と共に、まずは来店御挨拶の歓迎であった。 客は私一人だけの様子。外に比べて店内は明るくはなかったが、それほど陰気 という印象は受けない。まず眼についたのは、設けられていたカウンター席。 巷でよく見かけるカフェと言ったら、通常オープンテラスでゆったり過ごせる スペースがあるもの。ここにはそれが無い。看板には『カフェ』と銘打ってあ るものの、この造りはどちらかと言うとバーに近いものを感じさせる。    お世辞にも広いとは言いがたい店内は。アンティーク調、と言えば良いだろ うか。よくよく見ると装飾は結構凝っているようで、店内の隅に置かれている 本棚には洋書らしきものが収められているのが見える。  一応テーブル席もあったけれど、とりあえずはカウンターに落ち着くことに した。 「メニューはこちらになります」 受け取って、軽く眺めてみる。...
  • ずっと傍らに…激闘編 第二十二章~ジュンside~
    昨日の晩に相次いで来た翠星石と蒼星石。 2人は僕が起きた頃には、既にいなかった。 僕の両隣にあった布団は部屋の隅に畳まれていた。 …この置いて行かれた感は何だろう… ちくしょう…学校に行きてぇ… …あ、そうそう。 翠星石んとこのお母さんが梅岡と直に話した… ってのは昨日一昨日の話だよな。 予定通りなら。 ということは、ABCに対して何らかの措置があるはず…だよな? 登校…できる環境になってほしいな…。 (「キモイ、裁縫ヲタク!」) えっ…。 …誰の声だよ…。 (「だからお前って暗くてキモイ奴だったんだな!w」) くっそ…。 窓閉まってるのに…。 (「お前なんか所詮癌だ。死ね」) 何で布団の中に隠れたくなるんだ…。 (「馬鹿だねぇ。そのまんま女になればいいのにwww」) 震えが止まらない…。 (「脳みそ腐ってるんじゃね?」) (「うわぁ…ヲタク臭せぇ…あっち行け、し...
  • 第七話 鏡の姉妹
    「……ねえ、お姉ちゃん」 「どうしましたか?」 「……私達のしたことは――間違い、……だったのかな」 「答えは誰にもわかりませんよ。この世の正しさを保障してくれる神様だって――   ひとの数だけ、居るのですから」   久しぶりの休暇――という訳でもないが。私達は久しぶりに、自宅でのんびりと した時を過ごしている。   しかし、仕事とあればすぐに飛んでいくし。妹もそのことは重々承知している筈。   窓の外には、新月に近くなっている細身の月が見えて。指輪の光のような白く艶かしい ひかりを放っている。折角良い眺めだからということで、部屋のカーテンは開け放してお いた。室内の照明は元より薄暗いものだったし、これならばご近所の迷惑になるというこ とも無いだろう。   眼の前には、グラスを持ちながら、これでもかと言うくらい顔をまっかっかにし...
  • s.d.1
      自分の店を持ちたい、というのが夢だった。ただ、それが実現出 来るのは相当自分も熟年に達してからだろうとは思っていたのだが。   自分の将来設計の為に(と言ってもあくまでマイペースで)普通に 働いていたところ、祖父の訃報が耳に入った。   もともと祖父は時計屋を営んでおり、その死をきっかけに店に空 きが出来た。   僕自身は時計を作ることに興味は無かったが、店にはよく遊びに 行っていた。おじいちゃんっ子、と言えばそうだろうか。 『僕もいつかお店を持ちたいんだ。喫茶店なんかいいな』   そうか、頑張れと。祖父は微笑みながら僕を応援してくれた。   哀しみにくれる僕に対し、祖父は遺言状を残していた。自分が死 んだあとは、時計屋の土地と建物を、僕に譲ると。その書状は、今 でも机の引き出しに大事にしまってある。   時計屋を改装して、客が佇めるス...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.11
          『ひょひょいの憑依っ!』Act.11 白銀のステージライトを浴びて、ゆるゆると路上に佇む、眼帯娘。 だらりと肩を下げ、今にも大きな欠伸をしそうな、さも怠そうな様子は、 立ちはだかるというより寧ろ、寝惚けてフラフラ彷徨っていた感が強い。 冷えてきた夜風を、緩くウェーブのかかった長い髪に纏わせ、遊ばせて…… 水晶を模した髪飾りが、風に揺れる度に、鋭い煌めきを投げかけてきます。 でも、人畜無害に思えるのは、パッと見の印象だけ。 めぐと水銀燈の位置からでは逆光気味でしたが、夜闇に目が慣れた彼女たちには、 ハッキリと見えていたのです。 眼帯娘の面差し、金色に光る瞳、口の端を吊り上げた冷笑さえも。 「貴女……どっかで見た顔ねぇ」 水銀燈は、一歩、めぐを庇うように脚を踏み出します。 午前一時を回った深夜まで、独りでほっつき歩いている娘―― しかも、出会い頭に妙なコトを口走ったとあれ...
  • s.d.4
     「有難う御座いました。またのお越しを」 最後の客が店を出る。今日はそろそろ店仕舞いだ。 「お疲れさまぁ。今日も忙しかったわねぇ……」 肩をぐるぐると回している水銀燈。全くだ、今日は月曜日だと言う のに。評判というものは恐ろしいものだ。 「お疲れ様でした、水銀燈さん。お陰様で、今日も繁盛しました」 「私が居なかったらお店が潰れるってこと、無いわよねぇ」 ジト眼でこちらを見てくる彼女。 「お客様が来るも来ないも、僕はそれなりにやっていきますから。   ま……大丈夫でしょう」 その辺りについては、割とのほほんと構えている。何しろ今までそ れほど客が居ない状態でも、やってこれたのだ。 「楽観的なんだからぁ」 そんな台詞を残して、彼女は着替えのために奥に引っ込む。今日彼 女が仕事中に消費したお酒は、バーボンのボ...
  • 第19話  『星のかがやきよ』
    何を言ってるの? 蒼星石には、悪い冗談としか聞こえなかった。 翠星石は、自分の気持ちを表現するのが下手な女の子。 気恥ずかしさから、つい、意地悪をしてしまう精神的な幼さを残していた。 本当は嬉しいのに、素直に喜びを言い表せなくて…… からかい口調で茶を濁した結果、落ち込む彼女を宥めることは、幾度もあった。 きっと、今の冗談も、いつもの悪ふざけに違いない。 蒼星石は、そう思おうとした。からかわれているのだ、と。 だから、翠星石が「ウソですよ」と戯けてくれるコトを大いに期待していたし、 その時には、ちょっと拗ねて見せて……そして、一緒に笑い飛ばすつもりだった。 ――なのに、蒼星石の期待は、あっさりと裏切られた。 「私……誰……です?」 「な、なに言ってるのさ。やだな……いい加減にしないと、怒るよ」 「ふぇ?」 「どうして、再会できたことを、素直に喜んでくれないのさ。  ボクが、どんな想...
  • nothing or all?
    私は誰かと遊びたい 私は誰かと遊べない 小さい頃から人見知り 中々友達作れない そんな私のお父様 私を認めて下さった 髪は銀色 目は紅い それでも私は愛された 私が高校入る前 急死なさったお父様 大好きだったお父様 一人になった私には 働かずとも生きられる 大きな遺産が遺された     その後雇った執事さん 裁縫上手なその人の 笑顔はとても優しくて どうしてだろう いつの日か 私もつられて笑ってた 学校行ってもただ孤独 私の居場所は私だけ 未だに話す人もなく 喧騒の中でただ独り 今日も空気に溶けている 息をするのも苦しくて 必死に自分を押し殺す 私を見てよ 認めてよ 口に出せたら楽なのに     家路について一時間 私を迎える執事さん あなたの笑顔に癒されて 私はすぐに生き返る 笑顔もすぐに思い出す あなたの作った服を着て...
  • 【空と森のノート】
       「はあ……暇ですねぇ」  誰に語りかけるでもなく、呟いてみる。  気だるい午後――には、まだ早い。今はまだ、お昼前。庭にお水はもうやってしまったし、朝のお仕事は終わってしまった。  気晴らしにスコーンでも焼こうかしら、とも思うのだけれど、妹が出かけているし、それもなんだかやりがいが無い。  妹は森へ木の実を採りにいった。もう暫くすれば、帰ってくるような気もする。  そうすれば、今日の午後は、木の実を使ったタルトでも作ることが出来る――ああ、待ち遠しい。レシピはもう覚えてしまっているから――その内新しいものを思いついたら、またノートに書いておこう。  ちょっと、外へ出てみた。  樹々の隙間から、木漏れ日が私の顔を照らす。今日も、天気が良い。ぽかぽかと暖かいし、やわらかいベッドに潜り込んだら、もういくらでも眠ってしまえそう。  でも、それは駄目。ぐうたら過ごすのは楽には楽...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§エピローグ
    §エピローグ  冬は、全てが眠りにつく季節だと思う。ついこの間まであんなに美しい彩り を見せていた樹々の葉が、いつの間にか枯れ木になり。今はその枝を冬風に揺 らしている。  きっと春になればまた新緑は芽吹き、穏やかな風が吹くだろう。今はその為 の準備期間。たとえ眠っていても、時間はこうやって進んでいるから。  街はひかりで彩られ、賑わいを見せている。その理由は簡単で、もう少しで クリスマスがやってくるから。  大きな通りに、ツリーが飾られている。イルミネーションの電飾が、きらき らと輝いていて美しい。人々は何処かうきうきとした様子で歩いている。    この季節だけ見ることの出来る、一瞬の景色。  冬に眠りについた人々が見ている、束の間の夢。  そんな中で独り、私は歩いている。細い小道に入ると、煌びやかだった電飾 は幾分ささやかなものになり、道を照らしていた。  店に辿り着き、...
  • フラグメント/― 灰がちのスケッチブック
     何度、この絵を見てきたことだろう。  クレヨンで描かれたらしい絵が載せられている。その、一頁。  二人のひとらしきものが、手を繋いでいる。一面の花に、囲まれながら。  白と紫の彩りを含む花。  笑顔を浮かべ、手を繋いでいる。  ただ、右に居るひとの顔の部分が、真っ黒に塗り潰されている為。  その人物の表情を、窺い知ることが出来ない。  そうやって、私は否定されているのだと思い知らされる。  無かったことにされようとしているのか。  それはどうしようもなく、実際に在ったことだというのに。  私はそれを、彼女に伝える術がない。  本当はあるのかもしれないけれど。  私は少し、疲れてしまったかもしれない……そんなことも、思う。    
  • エイプリルフール短編
    四月馬鹿。つまり、エイプリルフール。 僕はこの日が大嫌いだ。 というのも全て、ここ数年のアイツらに原因がある。 本当なら引き篭もってしまいたいけれど……始業式の日でもあるし、僕は仕方なく学校へと向かっていた。 その道中。 「あらぁ?相変わらず冴えない顔で歩いてるわねぇ?」 幼馴染の一人、水銀燈に朝から出くわしてしまった。 「……うるさいな……」 僕は彼女に不機嫌さを隠さない表情でそう告げ、これ以上関わらないように早足で歩く。 背後から「つまんないわねぇ」という声が聞こえてきたが、無視して歩く。 僕と、それから数メートル離れて水銀燈が、通学路を歩く。 嫌な予感が背中からひしひしと伝わってくるのが、何とも最悪な気分だ。 工事中と書かれた看板で封鎖された道を横目に、僕はいつもと同じ通学路を歩く。 途端に、足元が崩れ……僕は...
  • 【真っ白なノート】
        そこには、ノートがありました。  大事なことを、書き残すための、ノートです。  大事なこと。  それは様々な、思い出。  ですが、そのノートには、何も残りません。  いつまでも、いつまでも。  書いた端から、消えていきます。  魔法のかかったノートは。  ずっと真っ白な、ままでした。 【真っ白なノート】 ――――  不思議な森の外に、女の子が住んでいました。  不思議な森が、何故不思議であるかを、その女の子は知りませんでした。  知らなければ、そんな不思議も『無い』ことになります。  だから女の子は、ある日足を踏み入れてしまったのです。  絶対に入ってはいけないといわれていた森の中へ。  女の子はそして、迷ってしまい――  女の子は、森に呑まれてしまったのです。  それは。森にとって、大切なものが壊れてしまう、少し前の、お話。 ―――  森に...
  • 飴と鞭
      僕のご主人様…もとい、彼女はかなり高慢だ。     「ジュン、もう少し上品にできないの?」     僕の一挙一動に文句をつける。     「紅茶の温度が低いわ。淹れ直しなさい」     僕を紅茶汲みロボットのように扱う。     「…今度はちゃんと出来たわね。偉いわ、ジュンくん?」     飴と鞭。そんな言葉が有ったっけか。   …砂糖を頼むよ。   「きゃ!何をするの?ジュ… ん…ぁ」     とびきり甘い奴を…ね?         「ジュン…?」 「何だ?」 「何故私の髪をいじってるの?」 「そりゃあ真紅の髪が綺麗だからだ」 表情一つ変えずに言い放つ。 とたん、真紅の顔が紅茶みたいな色に染まった。 「げ、下僕に髪をいじる権利など与えた覚えはないのだわっ!」 「嫌なのか?」 「むっ…」 嫌じゃないくせに。そう言うように僕は微笑む。 「…続きは後!紅茶を持ってきて頂戴」 「は...
  • L/R.8
        L.―  眼が覚める。  ――此処は、何処だっけ。  ああ。また、眠ってしまったんだ。此処最近は、己の身体が己のものでは無いような気がする。てのひらを開いて、結んで。こうやって感じる何かで、とりあえず僕がまだ生きているという感覚を保つ。  姉さんと、話をしていたんだっけ。――彼の声も、聴こえたような気がしたんだけどなあ。何だか、不思議な感じ。  とりあえず、ベッドから身体を起こす。血を、沢山吐いた筈だったのだけれど。来ているものも、布敷きも、ぼんやりとした暗闇越しからわかる位に真っ白だった。  廊下へ出る。姉さんは、もう帰ってしまったのかな……声が、聴きたいな。  二階の廊下。階段とは反対の突き当たりに、電信が置いてある。新しもの好きの院長が、仕入れてくれたもの。これは僕にとって、とても大切な繋がりだった。  ……?  鳴って、居る。電信が。静かに、音が響く。  ...
  • 【お酒と、お正月と、お嬢様】
       新年明けたからといって、別段何の感慨も沸かないというのが、僕の常だった。  特にテレビを観るわけでもなし、どうせ観たところで下らないし。そう思って、僕は相も変わらず、年越しの瞬間から、ずっとネットに繋いでいるだけだった。  年が変わってから暫くして、ぶぶぶ、と携帯電話が身を震わせ、メールが届いたことを僕に知らせてくれる。日付の変更から二、三十分経っているのは、それだけ元旦と共にメールを飛ばした輩が多いせいだろう。センター大忙し。お疲れ様。  どれもこれも、友人からだった。  『あけましておめでとう!』『今年もよろしくお願いします』……  ――そもそものところ、こういったメールが届くこと自体、何も悪くないだろうとも思う。むしろ有難いこと。彩りのある絵文字が満載された文面を見やりながら、考える。一昔前の自分ならば、そんな思いも抱かないに違いなかった。新年を祝ってくれる、そうい...
  • 双子のsds
    「ん・・・・」 重く閉ざされた瞳を、一人の少女はゆっくりと開く。 カーテンの隙間から差し込む朝の光が眩しかったのか、目を細めた。 しばらくベッドの上でボーッとし、何時もの様に目を擦る。 そしてチラッと横を向く・・・・・・ 「・・・・へ?」 彼女、蒼星石は目を丸くした。取り合えず再び目を擦ってみる。 「・・・・・」 やっぱりこの状態は変わらなかった。そして顔を少し赤く染めらせる。 一週間に一度は必ず起きる現象が起きていたから。 ・・・・・・・その現象というのは朝起きると双子の姉、翠星石が蒼星石が寝ているベッドに潜り込むという事だ。 おそらく昨日、借りてきたホラー映画を一人で見ていたせいだろう。 ・・・・・・・兎に角このままベッドで寝てても物語は進まないので、ベットから出て、クローゼットを空けて、制服を取り出す。 さすがにこの部屋ではベッドで寝てるとはいえ、ここには実の姉が居るので流石に着替...
  • 第八話 ジュン
      僕に出来ることは何だろう、と思う。   人並みに学校へ行き、人並みに友達を作り、人並みの暮らしを営んできたつもり。   そんな折、僕はあることをきっかけに、学校へ行くことをやめてしまう。所謂登 校拒否とか言うやつだ。 『裁縫が得意だって?』『女の裸を想像しながら、デッサンとか考えるんだろ?』 ――全く以て、馬鹿馬鹿しい理由。だけど、その馬鹿馬鹿しい言葉を投げかけられ て、僕は打ちのめされた。学校の生徒全員に、知られてしまった事実。恥ずかしさ と悔しさで、僕は自分の存在そのものを、消してしまいたかった。   両親は海外へ仕事に出ていてる為に家には居ない。姉と二人暮しをして、今をぼ んやりと生きている。姉には随分心配をかけてしまっているし、そしてそれに対し 申し訳ないとも勿論思っている。   ただ、頭でどんなに『平気だ』と考えても、心が...
  • *序盤戦
       「大丈夫よ、ジュン。国によって飲酒は16歳から認められるわ」 「もう早く始めましょうよぉ。何か隠し玉でもあるのかしらぁ?」  真紅、ここは日本だ。  あと水銀燈。お前は酒がすきすぎる。ボトル抱えるな。 「いえいえ、本当に無理はなさらぬよう。しかしながら、皆様もう大学生。昨年よりは羽目を多少外したところで、お酒の神様も見逃してくれるでしょう」  白崎さん……無責任なこと言わないでください……  昨年、というのは。丁度僕が独りだけ大学に落っこちたものの、とりもあえず高校は卒業したんだということで、ちまりとお酒なんかも出されたりもしたのだった。  それでもまだ、当時は結構平和的に行われていた筈のそれ――ごめん、ちょっと嘘ついた。  今回は一体どうなってしまうのだろう。  会場となった我が家の居間。妙に広い間取りがこういうときばかりは役に立つ。入ろうと思えば入れる空間。 ...
  • ―/ライラック8
     独り歩く、冬の通学路。  ああ――なんて、なんて青すぎる、空。冬の雲の切れ間、その向こう側に覗く空が、何処 までも高い。  この街には雪があまり降らなくて、その代わりに冬には冷たい雨が零れる。青色の空には 白い雲がよく似合うと思うのだけれど、今の空の大多数を埋めているのは灰色だった。  青と、灰。その曖昧なコントラストが、何かかたちを為そうとしている――それはまるで 幽霊か何かのような――気がして、僕は下を向いてしまう。  これでは中也の様だ――以前、彼女から貸してもらった詩集の一遍を、僕は思い出していた。  何の変哲も無い色をした光景は、自分でも解しがたい感情をもたらすことがある。それは決 まって、自分のこころが、虚ろに揺らいでいる時に起こるのだろうと――何となく思った。自ら が揺れているからこそ、普遍の、或る平衡を保っているものに感じ入るのだろう。 『しかはあれ この魂はいか...
  • =さらば!我が愛しき日々よ=第七話
    見つめ合ったまま静かに時が過ぎていた。 そんな静寂を破ったのはリビングから騒音で起きて来た真紅だった。 『ガチャ』 真「うるさいわね。ジュン、何を騒いで・・・。その娘は誰?」 後半は凄みの聞いた声で僕に聞いてくる真紅。 ジ「え、だ、誰って・・・僕が知るわけ無いだろ!」 雪「初めまして。私は雪華結晶。薔薇乙女の7女ですわ。」 背後からいきなり声がしたので、僕は跳ね上がった。 真「7女?7女は薔薇水晶じゃなくて?」 雪華結晶は雷に打たれたような驚いた顔をして、 雪「えっ・・・、そ、そんな・・・。ひどいですわ・・・、私を、私を忘れるなんて・・・」 両手で顔を覆い泣き出してしまった。 そんなことを尻目に、 ジ「また増えるのかよ。」 と、発言したのが悪かったらしく、 雪「そんな・・・ジュン様まで・・・、ひどいですわ・・・、あんまりですわ・・・。」 雪華結晶は顔を上げて...
  • 『薔薇HiME』第2話
    翌日、約束どおりジュンは巴に連れられ学校への道を歩くことになった。 「有璃珠学園ってどんな学校?」 沈黙を避けようと、早々にジュンがそんな疑問を話題にする。 「中高一貫の共学で…あの、普通は進学のときにしか編入はないところなんだけど…」 後半を言い辛そうにする巴に、ジュンが笑いながら気にしないよう言った。 「ん…そう…話を戻すね。 ……そうだなぁ、学園の真ん中に、"nのフィールド"って湖があるのが、やっぱり一番特徴かなぁ」 「"nのフィールド"?変な名前の湖…」 「うん、わたしもそう思う」 ジュンが洩らした感想に、巴が笑いながら相づちを打つ。 「でね、その湖にはいろんな言い伝えがあるんだけど… …まぁそれに準えた学園行事が多いし、追々知ることになると思うよ」 他にも巴はいくつか学園の話をしたが、「敷地がやたらと広い」「学食は豪...
  • ―/ライラック5
     この世界の、風が無かった。  だから思ったのだ。ああ、これはきっと夢なのだろうと。 『本当に、それは夢だったの?』  そう言われてしまえば確かな返事は出来ないのだけれど、そんなことを僕に聞いてくれ るひとも居ないから。  世界の中で、僕と君の二人きり。いつも自分が見ている風景と何ら変わりは無い筈なの に、何処かしら『何か違う』雰囲気が漂っているのは何故なのだろう。  硝子が。  上を見上げれば、空が青色を見せている素振りで。実は僕らに嘘をついていた。  世界が、嘘を、ついていた。 「世界は、硝子で出来ていたのよ。初めはみんな、透明だったのに。  ……ひとが。ひと、という存在が、それに色をつけただけ」  そんなことを語る君の言葉を信じることにしたのは。この世界で動いているものが、 僕ら以外に何もなかったから。もっとも、それ以前に。僕が君の言葉を、信じないこ となんて無いの...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§2
    ―――――――――――――――――― 「ええ。彼は元気、元気な筈……なのだわ」 そう。きっとそうよねぇ。素っ気なく応えて、私はグラスの中身を煽る。 「白崎さん。同じの、もう一杯ちょうだぁい」 「畏まりました。……が、良いんですか? 真紅さんは」 見れば、本格的に寝てしまっているであろう彼女の姿。顔をこちらに向けて、 すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。紅く染まっている頬が、見ていて微笑 ましい。  普段の彼女はと言うと、所謂『隙の無い』性格をしている。こういう風に無 防備に眠ってしまっているところを男が見たら、ころりとやられてしまいそう な感じもする。  まあ。そういうことが起こっても困るか、彼女の場合は。 「大丈夫よぉ。帰るときになったら起こすわぁ」 そう言って私は、グラスに改めて注がれた中身を見つめる。  今日彼女をバーに誘ったのは、ジュンについて久しぶりに色々と話し...
  • s.d.プロローグ
      冬は全てが眠りにつく季節だという言葉に、僕は賛同の意を示し たい。昨年の冬に、店の常連客から聞いたこと。冬は時間が止まり、 風景がいのちを失い。また来るべき春に向けて、皆眠っているのだ と。   眠りは、時間の停止を表す。そのことを実は、僕はもっと前から 聞かされていたのだけれど。   この地方に雪はあまり降らないけれど、だからこそたまにちらつ く仄かな白は余計な哀愁を際立たせる。雪は静かに舞い落ちると言 うのに、身に吹き付ける風は一体何処からやってくるのだろう―― そんなことを、もう少しでやってくる季節になればいつも考えてい る。   今、季節は秋。冬が全て眠りにつく季節ならば、秋はそこに至る まで、ゆっくりと空ろな夢を見せる時間であると僕は思っている。 周囲が完全に色を失ってしまうまでの幕間。   この季節だけ見せる樹々の黄や紅も、夏よりも...
  • ―/ライラック1
     夏の訪れを感じさせる蒸し暑さの中、ここ最近降り続いている小雨がそれを助長してい る空気だった。雨の一粒一粒は、勿論冷たいもの。だけどそれは、ちっとも涼しさをもた らしてはくれない。  まあ、それでも。もともと小雨模様が嫌いではない僕にとっては別に気になるものでも ないし、何時も通りに今日も学校に向かえばいいだけの話。  悪く言えば、色々なことについて僕は無関心なのだと思う。昔(と言っても、僕自身それ ほど妙齢に達しているとは言えないが)好きだった服のデザインなどについても。思いつい たらその辺にある紙に書き散らしていたのをやめてしまったのは、一体いつからだろう。  デザイン画に付随した裁縫なんかも僕の趣味だったが、それが友人達に知れ渡ってしま ったときは、それはもう酷く気持ち悪がられたものだった。それが原因で学校に行きたく なくなってしまった時も確かにあって。何を食べても吐いてしまう...
  • 最終話  『Good-bye My Loneliness』
    1日が10日になり、1ヶ月が経ち、いつの間にか4年という歳月が過ぎて―― 翠星石の居ない日々が、当たり前の日常となりつつあった。 祖父母や、巴や水銀燈や、かつての級友たち…… 双子の妹として、誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきた蒼星石ですらも、 彼女の存在を、だんだんと遠く感じ始めていた。 ――薄情だろうか。 そう。とても、酷薄なことかも知れない。 ただ会えないというだけで、どんどん記憶の片隅に追いやってしまうのだから。 でも……それは、ある意味、仕方のないこと。 生きている者たちをマラソン選手に喩えるならば、 翠星石はもう、道端で旗を振って声援を送る観客の一人に過ぎない。 それぞれのゴールを目指して走り続けなければならない選手たちは、 いつまでも、たった一人の観客を憶えてなどいられないのだ。 それほどまでに、現代社会は目まぐるしく、忙しない。 高校卒業。大学入試、入学。成人式。...
  • 【ゆめうつつ】~トロイメント~§プロローグ
     日常。それは、少しずつうつろいで、形を残さないもの。毎朝起きて、そし て大学へ行き。何の変哲も無い日々を、私は過ごしている。  変哲が無い、と言うと。如何にもつまらなそうな感じがするのだけれど、別 段そうは思っていない。変化が無いというのは、それだけで素晴らしいこと。 友達が居ない訳では無い――むしろ、親友と呼べるような存在も居て。私は楽 しくやっているのだ。  そう、そうやって。日常の幕間は、流れていく。  今日の講義は午後からだったから、大学へ行くまでかなり余裕があった。二 度寝に対する誘惑は、確かに少しはあったけれど。こういうところで生活のリ ズムを崩してしまうのも勿体無い話。現にリズムを崩しに崩して、普段の講義 を受けることができず。たまに出されるレポートの存在に気づかない輩だって いる。  まあ、もっとも。そんな友人に泣きつかれる前に、色々と世話を焼いてしま う私も。随分と...
  • 第三話 アリスの支配
    超機動戦記ローゼンガンダム 第三話 アリスの支配 「ピチカート起動!メイメイ照準!てぇーーー!!」 サクラダに迫り来るミサイルをレーザーが打ち落とし間髪要れずに6連装のミサイルが発射される。 未だに続く戦闘。背後の敵は翠星石と蒼星石が殲滅したものの、数に勝るアリス軍との戦闘は続いていた。 「っ・・・しつこい!」 白を基調にされたキラキショウがバーズにライフルを放つ。放たれた銃弾は頭部を撃ち抜くが撃墜には 至っていない。人工知能の詰まれたバーズにとって頭部などは飾りでしかない。至る所に装備されている センサーやカメラがある限りバーズは動き続ける。 バーズはセンサーで敵機を察知するビームライフルとマシンガンと二つ装備されている銃器のうち マシンガンを選択するとキラキショウへ銃口を向け連射する。パラララララと小刻みな音と共に弾が排出される。 キラキショウは回避運動をするが、いかんせんばら撒かれ...
  • s.d.2
    s.d.2   店に戻り、とりもあえず営業再開とする。今日休憩をとっていた のには自分なりに目算があって、月曜日は比較的客がこないことを 僕は知っていた。   客の多寡について、僕は常連客が足を運んでくるかどうかで判断 している。そんなことを言っているから、いつまで経っても新規の 客が増えないだろうかとも思うのだが、あまり大きな問題では無い。   忙しさよりも、流れる時間を大切に。それがこの店のモットーだ と考えているから。   とは言っても、夜の部になればそれほど悠長に構えてはいられな い。今から一年ほど前に雇ったバイトの娘の評判がとても良いから だ。なので、バーでの売り上げは上々と言える。昼間とはうって変 わった喧騒に包まれる時間はそれなりに充実していると感じるあた り、自分の考え方も少しは変わってきたのかもしれない。   今日はそのバイトの...
  • 【お日さまのノート】
        この空気が、とてもすきだ。  私はこんな雰囲気を、太陽のにおいに包まれたものとして捉えている。  住んでいる場所から少し離れた場所には、澄んだ小川に水がさらさらと流れていて。  その水面は、差し込む陽が反射して、そのゆらめきに光を映し続けていた。  小川は森の間を縫うようにして続いていた。もし私が小さな葉っぱの船を作って、ここに流したとしても。その船が、一体何処にたどり着くのかを私は知らない。  この細い水の尾は、何処かで行き止まってしまうのか、それとも。  森の中で、ちょっとだけ開けた場所。その真ん中に、私の家はある。  そこへと戻る途中、私はまた、新しい標を見つけた。とりもあえず、バッグからノートを取り出し、その標の位置を記しておいた。  こうやって書き残しておかなければ、忘れてしまう。  私は自分の記憶力に関して、相当の自信をもっていた。例えば、今まで何に挑戦した...
  • 第六話 双子の過去
    超機動戦記ローゼンガンダム 第六話 双子の過去 銃器から閃光が走る。走った閃光は船体を削り取り確実にダメージを与えていく。 火薬の詰まった弾薬が艦に着弾する。するとあっという間に船体は爆炎に包まれた。 「うあっ!?砲撃手!何をやっている!?」 「ただいまの攻撃で右舷格納庫の外壁大破!ベリーベル1番から4番、13番、20番沈黙!」 「隔壁!消化剤防御!砲撃手、これ以上着弾を許すな!メイメイ、照準後撃て!!」 ラプラスによって再び目覚めた大量のバーズによりサクラダは被害を被っていた。 「水銀燈!JUMが危険なのだわ!っと!」 真紅の余所見すら許さない大量のバーズによる集中砲火。真紅はなんとか掻い潜ってはいるが いかんせん戦力不足だ。現在バーズと交戦しているのはシンク、スイギントウ、バラスイショウ、キラキショウの 4機しかない。対してバーズは20機はいるだろうか。さすがに数が違いすぎる。 「う...
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