SS美人版 其の四

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SS美人版 其の四 - (2008/05/31 (土) 23:51:05) のソース

 結果的に、その日もサッカー部の方をサボった。
 そこには部員同士の確執があるとか、陰湿ないじめを受けているとか、アルバイトをしているとか、そういった明確な理由は無く。
 目を右に向ければ

「先輩、縫い目の間隔が広すぎます」
「だってあれだもん。みっちょん不器用だもん。自分、不器用ですから」
「だからって1センチはちょっと……」
「そんなヘナちゃんみたいに上手くは出来ないよー」

 正面に向ければ

「編み物の極意とは速く、そして正確に……冷静かつ大胆……イメージは…………アンビリカルケーブル切断! 内部電源に切り替わります! ……縫い糸を……食ってる……!?」

 左に向ければ

「な、なぁ山ちゃん、銀河先輩のメルアドとか知ってんだろ? 教えてくれよなぁ頼む、この通り! ……いや本人の承諾がどうとかじゃなくて……いやだから直に話すとか無理なんだって……」

 下に向ければ、手前から布を食べ、奥へ吐き出していくミシン台が。
 上手く言葉に出来ないが、漠然と『俺はこれでいいのか』と考えさせられるのだが……。
 サッカー、そろそろウォーミングアップとランニングが終わる時間だな…………やっぱ顔出そうかな……。

「山下、縫い目が蛇行してる」
「お前も大変だな。俺とみっちょん先輩両方の面倒見つつ……何作ってんの?」
「編みぐるみ。ぬいぐるみの親戚みたいなもん」
「そ、そうか」
「なぁヘナ、お前でもいいや、教えてくれよ銀河先輩のメルアド! この通り!」
「トミーは何なの、なんでここにいるの」
「察しろよー。少しでも銀河先輩の近くに居たいからだろうが!」
「帰れ」

 まぁ、同感ではある。
 だがヘナよ、それを言うなら机をはさんで対面に居るアブドゥルさんに対してはノータッチでいいのか?
 本人の知らぬところで話題に挙がっている先輩はというと、あぶなっかしい指遣いで裁縫作業を続けている。
 手元に顔を近づけすぎだということを伝えるべきだろうか……。

「もういい、自分で聞いてやるからな、見てろ」
「いや、最初からそうしなよ」

 ヘナとミザルの言い合いも終わりを迎えたらしい。
 ミザルは、みっちょん先輩に気があったのか。

「銀河先輩!」
「……ん? ああ、みっちょんのことか。一瞬誰のことだかわからなかったよー」

 先輩、それあなたの苗字です。

「……みっちょん先輩、それ先輩の苗字じゃないですか」

 ヘナと思考が被ったらしい。

「みっちょんのことはあれだぜ? みっちょんと呼んでくれなんだぜ?」
「………………ほ、本当によろしいのですか!」

 そんな階級の昇格を言い渡された兵隊みたいなリアクションをとらなくても。

「……それじゃあまるで階級の昇格を言い渡された兵隊みたいだぞ、トミー」

 またヘナと思考が被ったようだ。

「おーっと、そんなことを言ってる場合じゃなかったかな? なんか用?」 
「え……あの…………」

 おお、そうそう、みっちょん先輩の暴走に対する一般的なリアクションならそれで正解だぞミザル。

「トミー、言いたいことあるなら早めに言わないと、みっちょん先輩がこっち側に戻ってこなくなるよ」
「マジで!? それってちょっとした病気じゃ……あ……いや…………あの、銀河先輩?」
「だからみっちょんと呼べとなんど言えばかっこ略」
「かっこ……? じゃなくて、あの、メールのアドレスとか教えてください!」
「富竹君だっけか。男友達から名前だけは聞いたことあったなぁ……壱君とかヘナちゃんと仲いいんだよねー」
「そ、そうっす! 昔はずっと3人で遊んでて!」
「壱君もヘナちゃんもみっちょんのアド知ってるし、別に教えても教えなくてもいいかなー」
「じゃ、じゃあ」

「だが断る」

 みっちょん先輩の顔の線が太くなった。線が太くなったというか、油臭いタッチになったというか……荒木絵?
 荒木って誰だろ。
 なんというかもう、俺自身どう表現していいのか分からない。

「うそうそ、ちょっと待っててねー、赤外線送るからー」
「あ、は、はい、じゃあこっち受信で……」
「私も参加してよろしいでしょうか。私はアブドゥル=アルハザード。DoCoMoの信者、しかしすでに亡者」
「……きましたきました。って先輩のアドレス長いですね…………」
「じゃあ次こっち受信ねー」
「……」
「……送れました?」
「おーけーおーけ……ダサっ! 富竹君のアドレスダサっ! メルアドの一部がバンプだ! バンプの曲名だ! しかもちょっと古い!」
「古くたっていいんです! バンプ以外の邦楽なんて糞なんですからどうせ!」
「……」

 俺のボキャブラリーの無さでは、どうやらがっくりとうなだれるアブドゥルさんを元気づけることは出来なさそうだ。
 ヘナの顔を盗み見る。
 微妙な表情。やはり同じ事を考えているらしい。

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ここまで1-2

ここから1-3
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 泣き声だった。
 自分より早く届けられていたいくつかのダンボールを開いていたその時に聞いた。
 女の子の泣き声だ。声変わりする前の男の子の泣き声かもしれないが、おそらく女の子の泣き声なのだろう、と適当にジャックは思った。
 泣き声は少しずつ大きくなってきている。
 本人が大きな声で泣こうとしているのではなく、ただ単に相対的な距離が縮まっているだけのことだ。
 ダンボールの山から立ち上がる。

(腰が痛いのは歳だからじゃない、過酷な作業を続けていたからだ)

 体を出入り口の方へ向けると、ちょうど交番の前を通り過ぎる少女の姿が見えた。
 黒髪を腰の辺りまで伸ばした女の子だった。
 彼がこの場所へ来たときの方向、そして先ほどの男の子達が来た方向、つまり向かって右から歩いてくる。
 両手を目のところに当てている。

(やっぱり事情とか聞かなければいけないのだろうか)

 交番から出て、後ろから声をかける。
 その言葉が「君、どうしたの」だったのか「ちょっと、おじょうちゃん」だったのかはその瞬間に忘れてしまっていた。
 振り返った表情の、その言葉にできない魅力が直前の行動や言動を忘れさせたのかもしれない。

「やました……いないの」

 ヤマシタ? 何のことだろうか。
 お人形の名前にしては一般的な日本人のような。

「その、やましたっていうのは、お友達?」
「トミーたちとサッカーしにいったままかえってこないの」
「トミー……ああ、さっきの3人組か」
「…………やましたどこにいるかしってるの?」

 目当てはそのヤマシタって子ただ一人なのか。
 おそらく好意があるのだろう。ませているというか、なんというか……。

「こっちの方にお友達と一緒に走っていったよ」
「……いっしょにきて」
「はぁ……え?」
「へなもういやだ。ひとりであるくのいやだ」

 それはできない、と言いたいが……そういう雰囲気ではないか。

(まぁいい、今日はまだ正式に勤務に移っているわけではないからパトロールという名目で歩き回ってみるか)

 この辺りの地理を頭に叩き込んでおかなければならない……気もする。
 少し待っていてね、と一言残し周辺の地図を引っ張りだしてくる。
 なんというか、このご時世に紙面の地図の需要というものはあるのだろうか……いや、ある。自分にだ。
 そんなことを考えながら少女の元へ戻る。
 心配そうな面持ちでジャックが戻ってくるのを待っていたようだ。

「ええと、じゃあ行こうか」
「……うん」


****

「そうだヘナ」
「何」
「今日、なんか用事があったんじゃねーの? 先生がお前が俺を探してたーっつってたぞ」

 比較的一部の緊張の解けた部室内ではゆっくりとした時間が流れている。
 何人かのイレギュラーはいるものの、部長とOB代表が適当なのだから新入部員の俺にはどうしようもない。
 ……俺、新入部員なんだな。

「……ヘナ?」

 こころなしか、ヘナの表情がこわばったように見えるのは気のせいだろうか。
 自慢ではないが俺は人の顔色を伺うのが苦手だ。
 だが勝手知ったる幼馴染の間柄、なんとなく意思が伝わってくる気がする。
 テレパシー? いいえ、ケフィアです。

「そのことなんだけど」
「おう」
「…………二人で話せない?」

 部室内の空気が凍りついた。
 しかしそれが解凍されるのは思いのほか早かった。

「へ、ヘナちゃん、それって、それって……!」
「落ち着け山ちゃん、落ち着くんだ、いいか、今日がお前の年齢イコール彼女居ない歴人生を終わらせる日になるかもしれないぞ……!」
「わ、わわわわわたしはアブドゥル=アルハザード! アブっ! アブドゥ! どぅ! どぅあ! ドゥワッ!」
「みんな何してるの」
「起爆したのはお前だヘナ。……で、二人じゃないとダメなのか?」
「…………ちょっと、他の人の前だと言いにくい」

 部室内の空気は加熱された。
 先ほどの硬化とは打って変わってその発言は、部室内の変人達を活性化させていく。

「にん……しん……?」
「あれ……? もうその一線超えちゃったのか……」
「う、うろたえるな! アブドゥル=アルハザードはうろたえないィィィ!」
「……みんなどうしたの?」
「火に油を注いだのはお前だヘナ。……もういい、ちょっと部室出るか」
「そうだね」

 身体を震わせたりきょろきょろ辺りをうかがったり舞い踊ったりそして考えるのをやめたりしている3人を残し、俺とヘナは部室を出た。
 ……けたたましい音を立ててドアは閉まる。
 俺はこのドアを開閉するたびにいつこの蝶番に油が差されるのかと懸念しなければならないのか。
 廊下は少し涼しかった。そうか、狭い部室内で何人も若い男女がいれば室温もあがるわけだ。
 早足で歩き出したヘナを追いかけつつ少しだけ深呼吸する。
 うん、埃臭い。問題なし。

「どの辺で話す? 授業も終わってっし……他の部活も始まってるからなぁ……」
「人がいなければどこでもいいよ」
「…………屋上、とか?」
「じゃあ私は鍵を開ける役やるから、山下は職員室で胸張って『可愛い女の子と屋上でキャッキャウフフしてくるので屋上の鍵貸してください!』って言う役ね」
「はいはい却下却下」
「その辺でいいよ」
「……こだわったわりにはどうでもいいんだな」

 コの字型になっている校舎の、二つ目の曲がり角でヘナは立ち止まった。
 ヘナは振り返る。
 …………すごい重い相談とかされたらどうしよう。

「すごい言いにくいんだけど」

 そういえばこいつに相談なぞ受けたことなんてあっただろうか。
 ……少なくとも覚えている範囲ではないな。多分。
 こいつは意外と自分で抱え込むタイプだと思う。うん。
 天城ヘナはそういう奴なのだ。

「……いなくなった」
「…………何が? 誰が?」
「……いとう」
「………………………………誰?」
「え?」
「え?」

 それは本当に、本当に久しぶりに見た明確なヘナの驚愕の表情だった。
 そして点になっていた瞳は元にもどり、少しだけ泳ぎ、しっかりとこちらを見据えて

「…………忘れちゃったのか」
 
 少しだけ、本当に少しだけ寂しそうに瞬いた。

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はいはい、1週間でこれだけしかかけてませんよーだ
まぁなんというかアレです、バイトしんどいの。風邪とか引いたしね。木曜に。ハイパー言い訳タイムはじまるぞー\(^o^)/
・・・・すまんかった。
さーて、物語もやっと動きだすぞー。なんかメッセ友が増えてきた
本格的にゲーム化するならあれですね、メッセとかも考えたいですね。

そこまで話がいけばな!