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結婚編前編 - (2008/07/17 (木) 23:17:51) のソース

ここは、新郎新婦の控え室。式までまだ時間があるので、二人で休んでいる。 
 今日は、俺とゆたかの新しい始まりの日だ。 
 当然、ゆたかはウェディングドレスを着ている。 
 普段、ゆたかは可愛いと表現するのが、最も適している。けれど、今日は違う。 
 ――とても、綺麗だ。 
 似合うとは思っていたけれど、ここまで白のドレスが似合うとは……。 

「う~ん、さすがに緊張するな」 
「そうだよね。……私、ドレスの裾踏んづけて、転んじゃったりしそう……」 
 ゆたかも緊張気味だ。 
「それはあるかもね、ゆたかはうっかりさんだから」 
「あうー、まー君ひどいよー!」 
 膨れるゆたか。少しは緊張が和らいだかな? 
「大丈夫だって、もし転びそうになったら、俺がちゃんと支えるから」 
「それなら安心だね」 
 お互いに笑い合う。緊張も大分和らいだ。 
 すると、部屋の外から話し声が聞こえてきた。どうやらお客さんが来たようだ。

「ヤフー、お祝いに来たよ~」 
「ゆーちゃん、まこと君、おめでと~」 
「二人とも、おめでとう。お祝いに来たわよ」 
「お二人とも、ご結婚おめでとうございます」 

 これはまた、いきなり大人数だ。というか、このメンツだとお祝いと言うより、冷かしになるのでは? 
 唯一の救いは、このメンツに日下部さんがいないことだろう。安堵の息を漏らす。 
「みんな、ありがとう」 
「ありがとうございます」 
「わあ! ゆーちゃん、すごく綺麗だよ」 
「うんうん、純粋なゆーちゃんには、白がよく似合うね」 
「ありがとう、つかさお姉ちゃん、こなたお姉ちゃん」 
「お二人とも、とてもよく似合っていますよ」 
「ありがとう、みゆきさん」 
「本当に綺麗ね、ゆたかちゃん。こんなに綺麗な人がお嫁さんだなんて、まこと君は幸せ者ねー」 
 ニヤニヤしながら、俺を見るかがみさん。やっぱりそうくるか。 
 けれど、期待通りの反応をしては、冷かされるだけだ。 
「ホントだよ。俺は、世界一の果報者だ」 
「まこと君、つまんなーい! もっと初々しいリアクションをおくれよ~」 
「こなたさん、無茶言わないでくれよ」 
「ま、いーけどね。――それにしても、言ってる事が……」 
 少し似てる。そんな事を、こなたさんは呟いた。 
「こなたさん、何に似てるの?」 
「ん? 別に何でもないよ、気にしないでくれたまへ~」 
「そっか、何でもないなら、それでいいんだけど」

「いや~、それにしても、まこと君がプロポーズの相談になんて来るから、どうなることかと思ったよ。うまくいって良かったね~」 
「ちょっ! こなたさん、それは言わないで……」 
「そうだったんだ。だから、あの日はいつもより、帰ってくるのが遅かったんだね」 
「まこと君、ゆたかちゃんに、心配かけさせちゃダメじゃない」 
「かがみさん、不安なものは不安なんだよ……」 
「でも、うまくいって良かったね。私の応援の効果も、あったのかな?」 
「うん、あったと思うよ。あれには励まされたし。でも、できれば、ゆたかに見えないようにしてほしかったかな」 
「ご、ごめんね」 
「でも、つかさお姉ちゃんすごいよ。私、あの日にプロポーズされるなんて、わからなかったよ」 
「なんとなく、そう思っただけなんだけど」 
「いわゆる、女の直感、というものでしょうか?」 
「あ~、あるよね。普段天然なのに、大事な時には鋭いって設定」 
「姉としては、いつもしっかりしてくれてると、安心なんだけどね」 
「またまた~、ちょっとしたドジとかが、可愛いとか思ってるんでしょ、かがみ~?」 
「なっ!?」 
「お姉ちゃん、そうなの? 私、お姉ちゃんのこと大好きだから、そうだったら嬉しいよ」 
「え!? わ、私はただ、その……心配なだけなんだから!」 
 なんというか、相変わらず、かがみさんはわかりやすい反応だ。 
「素直じゃないね、かがみさん」 
「いやいや、そこがかがみの魅力でもあるのだよ、まこと君」 
「そこ、うるさい!」 
「フフッ、かがみさんは、いいお姉さんなんですね」 
「かがみ先輩は、優しいんですね。ゆいお姉ちゃんみたい」 
「みゆきにゆたかちゃんまで……」 
 恥ずかしそうにするかがみさん。彼氏ができて、冷かされたら、もっと恥ずかしがるんだろうな……。 
 ゆたかの事で、散々冷かされたから、かがみさんに彼氏ができたら、仕返しをしよう。 
 きっと、それくらいは許してくれるだろう、恐らくは。

「それでは、私たちはそろそろ戻りますね」 
「二人とも、緊張しすぎないようにね」 
「二人とも、また後でね~」 
「緊張するだろうけど、しっかり楽しみたまへ~」 
 四者四様に部屋から去っていく。なんというか、賑やかだった。 
 けれど、あんな賑やかな状況が、かつて当たり前だったことを思い出す。一年に満たない時間だったけれど、とても大切な時間だった……。 
 ……つい、感傷にひたってしまうのは、歳をとったからだろうか?

 こなたさんたちが去った後、またお客さんがきた。 
「おーっす! 祝いにきたぜ」 
「二人とも、おめでとう」 
 日下部さんと峰岸さんだ。 
 峰岸さんは久しぶりだけれど、日下部さんとはよく会う。けれど、今日は驚くべきことがあった。 
「うわ! 日下部さんがスカートだ!」 
「驚く事じゃねーだろッ!」 
「痛っ!」 
 おめでたい日であっても、日下部さんの突っ込みは厳しい。 
「みさちゃん、普段スカートはかないから、まこと君が驚いても仕方ないんじゃないかな」 
「峰岸さんの言うとおりだよ、日下部さん」 
「……まこと、あやのはもう峰岸じゃねーぞ」 
「あっ! そうか、じゃあ……、日下部さんの言うとおりだよ、日下部さん」 
「な、なんだそれ! わざわざ紛らわしい呼び方すんな!」 
「い、痛い! 痛いって、日下部さん」 
「み、みさちゃん。あんまり乱暴はダメよ、おめでたい日なんだから」 
「そーは言うけどな、あやの。こいつ絶対わざとやってたぞ」 
「わざとですよ、日下部先輩の反応を見て、少し笑ってましたから」 
「わわっ! ゆたか!?」 
「さっすが、嫁はちゃんと見てるな♪」 
「よくいじわるしたりするから、そのお返しだよ、まー君」 
「観念しろ、まこと」 
 怖い笑顔の日下部さん、苦笑いのあやのさん、ゆたかの逆襲、フォローはもう望めないな……。

「しっかし、まことがこんなに可愛い娘と結婚とはなー」 
「俺もびっくりだよ。考えてもみれば、まずきっかけから偶然だったなぁ」 
 偶然、岩崎さんがゆたかの傍にいなくて、偶然、その時にゆたかの体調が悪くなって、偶然、俺が通りかかった。 
 俺がゆたかを気にし始めたきっかけは、かなり偶然が重なり合っていたのだ。 
「言われてみると、確かにあの時は、珍しい状況だったかも」 
「すごくドラマチックなきっかけだったのね」 
「うん、偶然が偶然を呼ぶ、みたいな感じかな」 
「はぁー、偶然かー。私にも、男の幼馴染がいりゃーなー。偶然の一つや二つ」 
「み、みさちゃん……」 
 顔を赤らめるあやのさん。そういえば、あやのさんのお相手は、幼馴染である日下部さんのお兄さんだったか。 
「日下部さん、そうは言っても、誰もがあやのさんみたいに、うまくいくとは限らないよ」 
「わかってるよ。……ちくしょー! 売れ残りのケーキになんか絶対なんねーぞ!」 
「その意気ですよ! 日下部先輩!」 
「あんがとな、それじゃ私は、柊と第二次作戦会議に行ってくる!」 
 第一次はダメだったようだ。 
 日下部さんは、部屋から走り去っていった。 
「二人とも、ごめんね。騒がしかったでしょう?」 
「そんなことありませんよ」 
「そうだよ、あやのさん。騒がしいのなんて、日常茶飯事だったじゃないか」 
「そうね、今日は懐かしいやりとりが見れそう……」 
「だね、楽しい雰囲気になりそうで、何よりだ」 
 日下部さんは、案外こなたさんと絡んでそうだ。あの二人は、意外に仲がいい。

「それじゃあ、私はみさちゃんのところに行くわね」 
「うん、わざわざありがとう」 
 あやのさんが部屋を去る。 
 みんなと会ったからか、陵桜での日々を思い出してしまう。 
 今も充実している。けれど、陵桜での濃い時間には適わないだろう。 
 だって、あんなに個性的な人達に囲まれていたんだ。毎日が楽しいに決まってる。ただし、かなり疲れるけど……。 
「先輩たちは、みんな元気みたいだね」 
「元気すぎるよ。いや、むしろ変わってなさすぎる」 
「そんな事言ってるけど、まー君、ずっと嬉しそうな顔してたよ」 
「うっ……、さすがにバレてるか」 
「うん、あんなに嬉しそうな顔してたら、誰でもわかっちゃうよ」 
「そ、そんなに嬉しそうだったのか」 
 懐かしさからか、嬉しさが完全に顔に出ていたようだ。