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涙サプライズ - (2014/12/20 (土) 11:05:19) の1つ前との変更点

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&bold(){&sizex(3){涙サプライズ}} 一年生瑞生と紫歩と素子。 瑞生、誕生日おめでとうおめでとう。 スマホのスケジュールアプリを開いては何度もため息をついた。 紫歩の特技はプロフィール暗記である。相手が口を滑らしたことも、すべて覚えている。それはもう気味悪がられるくらいに。 なのに、瑞生の誕生日を勘違いするなんて、何事か。 瑞生と知り合ったのは去年だ。誕生日を聞く仲になるころには、11月4日なんて、とうに過ぎ去っていた。 やっと祝えると思い、秋冬に向けて、瑞生が制服に合わせて履いているブーツの種類違いをあげようと用意していたのに。 昨日はまったく遭遇することなく帰った。 学校にプレゼントの紙袋を抱えてきて、初めて気づいたのだ。 城村優雨花なら、こんなミスは犯さないだろう。疑問に思い訊けば、僕には誕生日、教えてくれなかった! と喚いていた。 怒っているだろうか。 ブーツをあげる、と宣言していたし靴のサイズも訊いていた。 それで昨日、渡さなかったとなれば、気分は良くないであろう。 考えてみても答えは出ないままに授業を過ごし、放課後、まずは瑞生のクラスを覗いてみる。 姦しく話す女生徒の中に、ひときわ目立つ髪色の彼女は見つからなかった。 紫歩より早く出て、まっすぐ部活に向かったのか。 小走りに美術室に向かえば、引退したはずの元美術部部長、桑城素子がちょうど歩いてくる。 深紅のセーラー服に、柔らかなブラウンの内巻きのロング、スレンダーかつ背も高い。美人と呼ぶ他にない顔立ち、食えない笑顔に何度、口から生まれた女と揶揄される紫歩が口をつぐんだか定かではない。 「おや、紫歩さん」 「素子さん……」 「瑞生さんなら、美術室にいるよ」 「ありがとうございます」 「誕生日、だったんだっけ。昨日」 「ええ。素子さんは祝われたんですか?」 「言葉でね。私から何か貰ったら気が引けるのが予想つくから」 軽快な喋り口に、颯爽とした振る舞いながら、どこかで転けたのだろうか、膝に包帯が巻かれていた。桑城素子は、長い手足に身体がついていかないのか、度々、特にそのほっそりとした足を怪我していることが多い。 「一日くらい、どうっていうことはないだろう」 そんなことを考えているとは思っていないだろう素子に励まされ、紫歩は頷いた。 「ありがとうございます」 素直な礼に、少し驚きつつも、すぐに素子は朗らかに笑った。よく響く笑い声と共に、横をすれ違ってゆく。 がらり、と開けた美術室で、瑞生は黙々と絵を描いていた。 誰が入ってきたのか確認するでもなく、キャンバスに絵を描いている。 いつもより乱暴な手つきだった。 「……瑞生?」 「何しに来た」 「ごめん、誕生日、今日だと思ってた」 「……ああ」 「プレゼントの 、受け取ってくれない?」 紫歩の言葉に、瑞生は手を止め、ゆっくりと後ろを向く。椅子から立ち上がり、紫歩のそばに歩み寄ってきた。 無愛想なままで。 「……忘れられてたのかと思った」 「本当に本当にごめんなさい。私のミスなの」 「気にしてない。気持ちだけで嬉しいから」 「あの……これ、前に聞いたブーツなんだけど……良かったら、もらって?」 瑞生はよく知っているであろうブランドの紙袋に、目が輝き出す。 なんだか物で釣ってしまった気が、ものすごくするが、やむを得ない。 「……ありがとう、紫歩」 「お誕生日、おめでとう。瑞生。16歳になったのね」 「やめろ、照れるだろ。少しの間だけ、お前より年上だな」 「瑞生お姉ちゃん?」 「やめろやめろ! で、一日遅れの詫びはあるのか」 あひゃひゃ、と笑い混じりに訊かれる。 「んー、良かったら、回転寿司にでも行く?」 「奢りか?」 「当たり前じゃない」 「行く。片付けるから、待ってろ」 「え、ううん。描いてて。気が済むまで。私は、瑞生の絵が好きなの」 紅くなった顔そのままに、瑞生はふいっと目をそらした。反応に困っているらしい。 「まだ、早いし。ね?」 「……わかった」 再び椅子に座りなおし、紫歩は後ろの特等席に腰掛ける。プレゼントは、瑞生の私物置きに、そっとまとめて置かれた。 筆をとり、さっきとは打って変わった手つきで色がつけられてゆく。 綺麗。 呟いた言葉に、瑞生の耳が染まる。 鮮やかな空の絵が、そこには広がっていた。 happy birthday mizuki!11/4
&bold(){&sizex(3){涙サプライズ}} &font(#aaaaaa){一年生瑞生と紫歩と素子。 瑞生、誕生日おめでとうおめでとう。} スマホのスケジュールアプリを開いては何度もため息をついた。 紫歩の特技はプロフィール暗記である。相手が口を滑らしたことも、すべて覚えている。それはもう気味悪がられるくらいに。 なのに、瑞生の誕生日を勘違いするなんて、何事か。 瑞生と知り合ったのは去年だ。誕生日を聞く仲になるころには、11月4日なんて、とうに過ぎ去っていた。 やっと祝えると思い、秋冬に向けて、瑞生が制服に合わせて履いているブーツの種類違いをあげようと用意していたのに。 昨日はまったく遭遇することなく帰った。 学校にプレゼントの紙袋を抱えてきて、初めて気づいたのだ。 城村優雨花なら、こんなミスは犯さないだろう。疑問に思い訊けば、僕には誕生日、教えてくれなかった! と喚いていた。 怒っているだろうか。 ブーツをあげる、と宣言していたし靴のサイズも訊いていた。 それで昨日、渡さなかったとなれば、気分は良くないであろう。 考えてみても答えは出ないままに授業を過ごし、放課後、まずは瑞生のクラスを覗いてみる。 姦しく話す女生徒の中に、ひときわ目立つ髪色の彼女は見つからなかった。 紫歩より早く出て、まっすぐ部活に向かったのか。 小走りに美術室に向かえば、引退したはずの元美術部部長、桑城素子がちょうど歩いてくる。 深紅のセーラー服に、柔らかなブラウンの内巻きのロング、スレンダーかつ背も高い。美人と呼ぶ他にない顔立ち、食えない笑顔に何度、口から生まれた女と揶揄される紫歩が口をつぐんだか定かではない。 「おや、紫歩さん」 「素子さん……」 「瑞生さんなら、美術室にいるよ」 「ありがとうございます」 「誕生日、だったんだっけ。昨日」 「ええ。素子さんは祝われたんですか?」 「言葉でね。私から何か貰ったら気が引けるのが予想つくから」 軽快な喋り口に、颯爽とした振る舞いながら、どこかで転けたのだろうか、膝に包帯が巻かれていた。桑城素子は、長い手足に身体がついていかないのか、度々、特にそのほっそりとした足を怪我していることが多い。 「一日くらい、どうっていうことはないだろう」 そんなことを考えているとは思っていないだろう素子に励まされ、紫歩は頷いた。 「ありがとうございます」 素直な礼に、少し驚きつつも、すぐに素子は朗らかに笑った。よく響く笑い声と共に、横をすれ違ってゆく。 がらり、と開けた美術室で、瑞生は黙々と絵を描いていた。 誰が入ってきたのか確認するでもなく、キャンバスに絵を描いている。 いつもより乱暴な手つきだった。 「……瑞生?」 「何しに来た」 「ごめん、誕生日、今日だと思ってた」 「……ああ」 「プレゼントの 、受け取ってくれない?」 紫歩の言葉に、瑞生は手を止め、ゆっくりと後ろを向く。椅子から立ち上がり、紫歩のそばに歩み寄ってきた。 無愛想なままで。 「……忘れられてたのかと思った」 「本当に本当にごめんなさい。私のミスなの」 「気にしてない。気持ちだけで嬉しいから」 「あの……これ、前に聞いたブーツなんだけど……良かったら、もらって?」 瑞生はよく知っているであろうブランドの紙袋に、目が輝き出す。 なんだか物で釣ってしまった気が、ものすごくするが、やむを得ない。 「……ありがとう、紫歩」 「お誕生日、おめでとう。瑞生。16歳になったのね」 「やめろ、照れるだろ。少しの間だけ、お前より年上だな」 「瑞生お姉ちゃん?」 「やめろやめろ! で、一日遅れの詫びはあるのか」 あひゃひゃ、と笑い混じりに訊かれる。 「んー、良かったら、回転寿司にでも行く?」 「奢りか?」 「当たり前じゃない」 「行く。片付けるから、待ってろ」 「え、ううん。描いてて。気が済むまで。私は、瑞生の絵が好きなの」 紅くなった顔そのままに、瑞生はふいっと目をそらした。反応に困っているらしい。 「まだ、早いし。ね?」 「……わかった」 再び椅子に座りなおし、紫歩は後ろの特等席に腰掛ける。プレゼントは、瑞生の私物置きに、そっとまとめて置かれた。 筆をとり、さっきとは打って変わった手つきで色がつけられてゆく。 綺麗。 呟いた言葉に、瑞生の耳が染まる。 鮮やかな空の絵が、そこには広がっていた。 happy birthday mizuki!11/4

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