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新しい絵を描こう R18 - (2014/12/20 (土) 11:20:53) の最新版との変更点

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&bold(){&sizex(3){新しい絵を描こう R18}} <a href="http://privatter.net/u/blackgloom96" target="_blank">黒田さん</a>の書かれた長編みずしほの二人をままお借りしております。 こちらの一覧、最下部の『タイトルは、欲望。』から順にお読みになったこと前提かつ、 <a href="http://privatter.net/p/440250" target="_blank">『花びらは夜開く』</a> こちらのお話の続きを許可を得て書かせていただきました。 力不足ゆえ蛇足でしかないとは思います。黒田さんの作品たちは、本当に素晴らしいみずしほでしたので、触発されました。快く許可いただき、誠にありがとうございます。 あの、日記帳を見てしまった時は、こんな部屋ではなかった。 どこに座ったらいいかもわからず、勝手に部屋を漁って読んだ結果、紫歩の運命を、そして、瑞生の運命をも大きく変えた。 あの時は知ってしまったことを、なんとか取り繕って隠した。読んだわ、だなんて言えるはずもない。彼氏がいる以上、そして、彼氏との結婚を真剣に考えていたからだ。温かい家庭という普遍的なものに、憧れていた。家に帰ったら電気が点いていて、仲睦まじい男女の姿がそこにはあり、二人の愛を思う存分に受ける子どもの姿。 早く早くと夢見ていた。 だが、瑞生の日記を読んでから、我に返ることが多くなった。 これから、どうしてゆくべきか。 道に迷うようになった。 高校の一つ上の先輩である鶴留沙冬子が、紫歩が狙っている市役所に受かったと知るや否や、対策をとことん訊いた。勉強を重ね、公務員試験を受け、沙冬子の後輩となることが決まった。 高校の時から、その氷のような美貌と、どこか抜けている可愛らしいキャラクターに心底、紫歩は惚れ込んで懐いていた。 懐いている様を見た瑞生には、お前あんなキャラじゃないだろ、と冷ややかな目で見られるくらいには。 最初から良き先輩が一人いるという心強さもあって、仕事はいたって順調だった。くじ運は高校の時から恵まれているらしい。悪癖である部分は猫被りと揶揄されようが隠し、特に嫌われることもなく、堅実な仕事を日々こなしている。 安定した職を得て、想像通りの社会人生活が始まり、彼氏とのデートの回数も減り、また、瑞生と予定が合うことも減った。仕事中、隙を見つけて、パソコンの検索欄に雑賀瑞生と入れるのが息抜きになった。 彼女の名前一つで、彼女の勤務先のサイトが出てくる。そこには最新の仕事まで、ずらりと記されていた。 印刷すると息抜きがバレるので、手帳にメモを取った。 彼女にはわざわざ言わなかったものの、表紙を担当した文芸誌は購入したし、瑞生のような若手作家、デザイナーの有志によるグループ展は休みの日に必ずや足を運んだ。瑞生がそこで、ヒーローインタビューかのごとく囲まれているのを、遠巻きに見つめていた。 その時点で、彼氏を誘って行くのはやめた。 彼女が嬉しがらないことを知っていて、できない。 瑞生という人が、どんなキャラクターであるか、紫歩は誰より把握している自負がある。口には出さないものの、あんなに熱い心を持った彼女が、誰かを愛するというのであれば。それがいかに青白く燃える炎めいた想いになるか、想像は容易かった。 どうしたいのだろうか。 このまま、どうなりたいのか。 彼氏と結婚して、子どもを産み、育ててゆくために選んだ職であり、始まった社会人生活であったのに。 結婚したい、と彼にわがままを言うことは減っていった。相手側の性格や経済力に、なんの不満もなかったけれど、ただ、彼の髪型や背格好が似ていることに、今さらになって気づいてしまった。 後に智由利から指摘されて、他人にまで筒抜けだったか、と悔やむばかり。 きっと初めから心は彼女の元にしか、なかったのだ。 だが、紫歩はそこまで器用な人間ではない。精神的にも脆い自覚がある。 道に迷うしかなかった。 だが、それを彼氏にも瑞生にも悟られたくなかった。 三年が経ったある日突然、青天の霹靂のように訪れた、彼氏からの離縁宣言を聞くまでは、隠し通せていると確信していたのだった。 慢心だった。 野村茉莉として今では美しすぎる若手女流作家、という、冷やかしめいた響きを本の帯につけられながら、スターダムを駆け上っている菱沼綾葉と、彼女のアシスタントである灰原実花が、大学時代に付き合いだしたと聞いた昔。何か頭を強く殴られた衝撃を受けた。ふらふらと大学のキャンパスを歩いていて、大丈夫? と声をかけてくれた。そういえば、彼は入学してすぐのタームの同じ教養クラスだった。 今は元気にしているだろうか。 あんなに、苦しそうな、何か我慢した顔で振られた理由は、後に瑞生から聞いて納得した。 周りばかり見つめて、自分のことを、とんと省みなかった。傷つけてばかりだ。 身勝手ながら、彼の幸せを祈る。 何もかも包み込んで、許してくれる恋人が、今、紫歩の隣には居てくれる。その幸せを、彼もまた味わってくれていれば。 部屋というものは整理されすぎると、落ち着かない。 紫歩はごちゃごちゃした部屋が好きだ。圧迫感で落ち着く。部屋が汚い人は寂しがりやだという俗説を、紫歩は痛感しているし、この歳になると、私はそういう性格なのだと認めるしかない。 瑞生から自慢げに部屋を掃除した、と写真付きのメッセージが飛んできて、持ち前のセンスを発揮しやがって、と唇を噛みつつ、自宅を掃除したが、いかんせん、物の絶対的な数が多すぎる。 溜め込んだ雑誌に、着なくなった派手すぎる服に。 そういえば付き合いだして、瑞生からの連絡が来るようになった。スマホの画面に瑞生、と発信者の名前が出るだけで、心が晴れる。 意識しすぎるあまり連絡の一つも自ら取れなかったのだろう。来ないなら来ないで紫歩から電話して、約束を取り付けるが、やはり相手から会いたいと言われる喜びはひとしおである。 --今度は、私も部屋をこれくらい綺麗にしてやる、と誓いつつ、出された瑞生お手製の食事をぺろりと平らげた。 彼女の凝り性かつ器用さは何にでも発揮される。泣きながら食べた粥だって美味しかったし、今日作ってくれたアマトリチャーナだって、この前二人で行ったイタリアンより紫歩好みの味付けだった。 紫歩も対人の記憶力には自信があり、仕事もこの長所で上手く回っている面があるが、瑞生の記憶力もさながらだった。紫歩が美味しいと言ったものは、覚えている。惚気て言うなら、自分専用のシェフのような彼女が居る。 そのため、紫歩は料理をする機会を喪失した。 今度のバレンタインには、せめて手作りをあげたいが、どうせ千倍美味しいものを貰うのだ。 たまに、料理の不得手を口にしたら、私は別にお前が作ってくれたものなら何だって美味しいよ、と、はにかんだように笑ってくる。 その顔はずるい。瑞生がめったに見せない、幼い笑顔には、見惚れてやまない。 歯を磨き、生まれつき血色の悪い唇にグロスを少しだけ塗る。 洗面台から部屋に戻れば、瑞生の声が飛んできた。 「そういやお前、食欲も戻ったんだな」 「昔より食べるようになったわよ」 そうだな、と瑞生は頷く。紫歩が食べるようになったからこそ、瑞生の料理の腕はますます上がったのだ。 「健康的になった。顔色だっていい」 「ありがとう」 「……生理不順もましになったのか?」 「ああ、うん。高校の時からずっとピルは飲んだままだけどね。生理がいつ来るかわかるから、便利だわ。この歳になって、ようやく、地に足着いたって思うもの。10年前は、ろくに生理もこないし、まずご飯も食べられないことが多かったし。家のどこかにセーラー服置いてるんじゃないかしら。あの喪服」 紫歩が食事の後片付けを手伝おうとしても、お前が水仕事に慣れてないのは、その綺麗な手を見たらわかるから、座っといてくれ、と制止された。最低限しか置いていないから、割られたくないのだ、と。 喪服、と紫歩が言った途端、あひゃひゃと瑞生の魔女笑いが響いた。 「何よ」 「いや、そうだと思って。まさに喪服だったよな。あれだけの選択肢の中から、黒を選ぶなんて、お前あの時は頭おかしかったよ」 「うるさいわね! 入学式の時点であんたには散々、何だその喪服って馬鹿にされたの忘れてないわよ?」 「ああ、でも。お前があの集団の中では、目立つ恰好だったおかげで。どこからでもお前の姿は見つけやすかったよ」 「あれだけ馬鹿にしておいて今さら……」 二人の声を遮る水音が止まった。食器はすべて、片付けられ、瑞生は手を拭いてから、紫歩の隣に腰掛けた。 付き合いだしてから、じわじわと瑞生との物理的な意味でも、精神的な意味でも、距離が縮んでいることに紫歩は気づいていた。 むろん、明確な瑞生の意思でのことだ。 「今さら、だから。言えるんだ」 水に触れていたせいか、一段と冷たい瑞生の手が肩に触れる。 今でも、生来のスキンシップ嫌いは変わらない。 生理的に、身体が跳ねてしまう。瑞生はそのことをわかっているから、驚かない。でも、近いうちにはこんな拒絶反応もしない自分になりたい。 「あの時から、ずっとお前は美人だったよ。だから、どんなきついことでも言えたんだ」 反論しようとした矢先、顎を掴まれて、瑞生の側を向けと暗に指示される。 目を閉じれば、少しの間を置いてから、柔らかな唇がちゅ、と音を鳴らして触れてきた。 触れるだけでは物足りないのか、瑞生の舌が、紫歩の唇を割り開く。 この関係になってから、こうやって、どちらかの自室にいる時は、いつもキスをするようになった。 それは、瑞生からの時もあれば、紫歩からの時もある。 はっきり言って、瑞生は何事もそつなくこなしやがる、ハイスペックな女だった。こちらだけが色事の経験者だというのに、瑞生はまったく引けを取らなかった。 思わず、あんたにとって私は何人目なのよ? と、こちらが言いたくなるくらいキスが上手い。 しかも至近距離で見ると、その顔の端正さに驚かされる。鼻筋は通っているし、少し切れ長気味の目は鋭いものの優しさが滲み出ている。顎は小さく、きつそうに見えるだろうが、女性的な魅力がそこかしこにある。白人の血でも入っていて不思議じゃない彫りの深さに、見惚れてしまう。大人びた雰囲気に、飲めないはずの酒に酔わされたように、くらくらしてしまう。何せ、すっぴんでこれ。世の女性が怒り狂って暴動を起こすだろうくらい、化粧要らずなのだ。 ふざけないでほしい。こっちは真剣に化粧をしても、瑞生の横に並ぶに相応しいか不安なのに。 離れたところから見ても美人は美人だし、彼女が、本人に言うと苦虫を噛み潰した顔をされるが、若手美人アーティストとして有名なのも前々から知っている。 それは高校の時点で、すでに評判としてあったからだ。美術部が決して盛んな学校ではなく、部員もほぼ0に近かったのに廃部の話が出ることもなければ、部員の数からは考えられない部費をあてて貰えていたのも、すべては瑞生の功績だった。全校集会で生徒の前に出て、表彰状を貰う機会が多い彼女は、その色を抜いて染めた鮮やかな髪色と、シャープな顔立ちで、知らない者は居ないくらいの存在に瞬く間になっていた。 髪を染める、程度ならいくらでもいるが、ブリーチして、ずば抜けた明るさにする生徒はごく少数だったのだ。とんでもない画力を持った美人の美術部員となれば、同性であれ放っておくわけがなかった。 遠巻きながら、彼女は視線をずっと集め続けていた。 --たまたま、この顔に生まれついただけで、顔で評価された、だなんて思うと、私は夜も眠れなくなる。 と本人は嫌悪感を顕にするので、黙っているが。 これで口から毒を吐かなければ、と、たまに残念に思うが、それを言うと自分の首をも絞めるのでやめておいた。 口が悪いのは、生来のものだ。原体験はわからない。悪化してゆく家庭環境のせいで、パステルカラーのセーラーで通うつもりだった高校には即座に行けなくなった。 次年度、一瞬だけ顔を合わせた新二年生に会いたくなくて、何にも染まりたくなくて、黒のセーラーにした。瑞生はさぞびっくりしただろうが、痩せ細って元気はないのに口ばかり虚飾が飛び出る紫歩に、あの時から優しかった。 鶴留沙冬子とも年の差はないが、学年が違うのなら、それがすべてだ。可愛い後輩であれることは、紫歩にとって喜びだった。 あの学校には、履歴上、四年在学したことになる。要するに瑞生とは一個違いで、一つだけお姉さんだが、出先で瑞生が姉だと勘違いされることもあるし、紫歩は気にするのをやめた。 そもそも顔立ちはまるきり違うのに、なんで姉妹なのよ? と言ったら、雰囲気が似てきたんじゃないか、なんて笑っていた。 その小さな年の差があるからこそ、余計にお前のことは放っておけないと思った、と付き合いだしてから言われた。 どこで学んだのか気障なことを、爆弾のように言うが、そんな彼女のストレートな物言いに、いつも紫歩は惚れ直している。 キスから始まり、いつもなら止まるはずの瑞生が、紫歩のシャツを脱がして行った。そういうことなのだな、と観念する。 もともと、拒む理由なんてどこにもなかった。 瑞生さえ欲しいと思ってくれるならば、いつだって差し出す準備はあった。 だが、瑞生の内心が読めないので、誘うなんてこともできなかっただけだ。 絵にしたい、と酔狂なことを言われて、張り倒しそうになったが、彼女なりの照れ隠しだなんてことくらい、わかっている。 首に痕をつけられるのも、職が違えば、いくらでもつけて欲しかった。 「みずき……」 彼女の唇は降りてゆくばかりで、首筋だけならず、シャツを着たら見えるはずのない胸元や、腹にまで赤い花が咲いてゆく。 そのこそばゆさに、身をよじってしまう。 自然な動きで瑞生の腕が背中に回り、ブラのホックが外された。 支えを失って、外界に触れた胸は、すでに先が尖っている。 思春期に栄養不良状態に陥ることが何度もあったにも関わらず、体型に見合わない大きさに実ったことを、紫歩としては長年忌々しく思っていた。 「ふにふにしてて、気持ちいいよ。紫歩のここ」 「ばか、そんなに揉まなくていいから」 「いつまでも触っていたくなる」 「あんたはどこのおっさんなのよ……」 「なんとでも言え。こっちが何年我慢したと思ってるんだ」 両手で、紫歩の胸を弄んでいたかと思えば、唐突に舌で触れた。びく、と身体が跳ねる。 教えるのも変なので言わなかったが、紫歩は胸が弱い。 「っ、あ……んんっ……」 片方を舐めている間は、瑞生の大きい手がもう片方を揉みしだき、そして指先でてっぺんを弾いてゆく。 紫歩の声が止まらなくなるころには、両胸とも室内灯で照らされて光っていた。 さっきから、ずんずん子宮が疼くような快感が紫歩を襲っていた。 仕事用のタイトスカートのホックを外され、ジッパーを下ろされ、するりと脱がされる。敷かれた布団の上に、無言で優しく身体を移動された。ストッキングも脱がされそうになって、かすかな違和感に、紫歩は唸った。 「あんた、伝線させたわね? 新品だったのに」 「……ごめん」 「安いものだからいいのよ。自分で脱げばよかったわ」 「脱がしたかったんだ。お前、高校の時もタイツだっただろ? 脱がすか、破くかしたいって思ってた」 「変態」 「変態でいい。今やお前の恋人なんだから、これからのことも覚悟しとけよ」 え、今後何が起こるの? と考えさせられている間に、部屋の照明が暗くなった。間接照明だけがぼんやりと部屋を照らす。 少しだけ足を開かされ、下着の上から、瑞生の指がくにくにと触れてくる。 緩すぎる刺激に、胸だけで高められている身体は物足りない。 「いいから、瑞生。触って……?」 思ったより、声が震えた。やけに初々しくなってしまった。 高校生だったころからは、遠い年齢になったというのに、まるであのころにしている気分になる。 こくり、と瑞生が頷き、ショーツも脱がされてしまう。 彼女にじっくりと秘部を見られるのは初めてだった。 「お前、薄いんだな」 「気にしてるんだから……温泉とか行くの恥ずかしいのよ」 確かに角度次第では、紫歩の秘所はほとんど生えていないように見える。 「よく見えて良いよ。コンプレックスに思うな」 「ばか!」 濡れていることはわかっている。 瑞生と二人きりというだけで、興奮するようになったのは、本人のせいだ。 たまに、ものすごく熱い視線を向けてくる。デッサンのために、目前の静物を捉えていたあの眼差しよりも、熱いものが。 気づかないわけがない。 紫歩は生来、察しが良い。 瑞生がどれだけの青白い炎を、その長身に秘めているか知らないわけがない。 目を閉じて、様子を窺いながら、つぷりと、入ってくる指を感じる。商売道具と言って差し支えない彼女の手が、こんなことに使われている。 それだけで、紫歩の心は満たされてゆく。 蜜がしとどに溢れ、紫歩の甲高い声に合わせて、瑞生の指が一つ増えた。長くて、骨張ったその指が紫歩の中を弄って、そして良いところを探ろうとしている。 こんな日が来るとは思わなかった。回り道はしたし、悲しい思いをさせた人もいるが、本当なら、10年前からこんな関係であれたのかもしれない。 その後悔を吹き飛ばすような快感に、しばし紫歩は身を委ねた。 お決まりの気だるさの中で、紫歩はふと、隣で自分を抱きしめて離さない女が、ほとんど着崩れしていないことに気づく。ラフなパーカーに、スエットという恰好のままだ。 そういえば、瑞生は初めてのはず。 紫歩があげられなかったものの、もらってあげられるものだ。 「ねえ、瑞生」 「なんだ」 「私も、あんたに触りたい。あんたが私にしてくれたように、したい。今までたくさん、お世話になったから。その分を、今から返していきたい」 暗がりの中でも、紫歩は夜目が利く。瑞生が一瞬で顔を真っ赤にしたのがわかった。 形勢逆転、と瑞生の上に乗っかった。 「お前、その……刺激的」 朱に染まったままで瑞生は呟く。そういえば自分は全裸のままだった。 「あんたが脱がせたんでしょうが」 「……そうだけどさ」 パーカーを脱がせ、スエットだって脱がせてしまう。抵抗はなかった。 どこかで 、彼女もこうなることを望んでいたかのように。 「それでも、恥ずかしいんだよ……私は、シャイだから」 「知ってるわよ。10年前から、というか中学の時から、ずっとあんたを見てきたんだから」 当分、瑞生の赤面は戻らないと確信した。 飾り気のない下着姿にして、紫歩は瑞生の耳に触れた。 紫歩への想いを封じるかのように増えていったピアスを、ひとつずつ外してゆく。 アクセサリーの価値には明るくないが、大事なものもあるだろう。失くなったら大事だと、近くに置いてあった小さいプラスチックケースに、音を鳴らして、何個あるんだか数えたくないピアスたちは外されていった。 穴だらけ、というのが正しい瑞生の耳に、舌で触れる。 この穴たちは、最初に開けられていたいくつかを除いて、紫歩のせいで作られたものだ。 丹念に耳を舐め、その音で瑞生の世界を支配する。 ぴくぴくと身体は跳ねるが、声を少しもあげやしない。さっきはあれだけ、こっちの声を枯らそうとせんばかりだったのに。ふざけるな。絶対に声を聞かせてもらう。 「あんた、いつまで強情でいられるのかしらね? ひひっ。なめないで」 目で睨まれたが、潤んだ目で睨まれても、それはただ可愛いだけである。 普段は見下ろされる身長差が、布団の上でのみ対等になれる。マウントポジションを奪った紫歩の圧倒的有利だった。 ずいぶんと耳が良いのか、声だけは我慢しているものの、身体が熱くなっている。 舌でなぶるのをやめ、普段はなかなかできない、顎を掴んでの大胆なキスをする。 紫歩の唾液で濡れたままのその耳を優しく片手でマッサージしつつ、瑞生の咥内を舌で制してゆけば、瑞生の顔がどんどん蕩けてゆく。 普段は憎たらしいか、真剣な顔しか、ほぼ知らないので新鮮であった。 顔を離し、荒く肩で息をする瑞生を横目に、ブラをずらす。 自分と比べると小さいのだろうが、それでも、彼女とて女性らしい膨らみを持っている。 手際よくブラもショーツも取り払ってしまえば、世界には、裸の女が二人になった。 「好き」 瑞生の身体を抱き起こし、思いきり、抱き着いた。何にも遮られず、胸同士が、腹同士が、皮膚同士がくっつき合う。 「待たせて、ごめんね。瑞生」 「紫歩……」 「愛してるわ。死ぬまで、死んでからも、一緒よ?」 「あひゃひゃ、怖いこと言うな。さすが魔女。……いいよ、連れて行ってくれ」 「当たり前じゃない」 有無を言わさず、瑞生の長い首筋に紫歩は唇を押し当てた。 さっきの仕返しと言わんばかりに、彼女の白い肌によく映える赤い花を咲かせる。 浮いた噂一つなくて、無性愛者なのでは、だなんていう噂すら立っているのを知っている。もしくはパトロンと不埒なことをしている、とか。そんなことをせずとも、瑞生の収入の方が紫歩の上を行っているのに。 人の女のことを好き勝手、言わないでほしい。 これが周りの目に入って、瑞生にもそういう相手がいるのだと、知れ渡ればいい。 「ちょっと、紫歩……あっ」 指を、瑞生の大事なところに押し当てた。そこは、触れただけで音が立つくらい、濡れそぼっていて、紫歩が触れるたびに、切なげにひくついている。 豆を揺らせば、瑞生の聞いたことのない声が漏れた。 にたぁと笑う。 出せるんじゃない、あんただって。 嬉しくなってきて、押し倒して、足を広げさせる。長い脚だ。鍛えているのか、筋肉の筋すら見える。 人のことを揶揄っていたが、瑞生の下生えも薄かった。もしかしたら、手入れしているのかもしれないが。 指をいったん離し、顔を近づけ、舌で彼女の秘所を味わってゆく。 これが、瑞生の味なのだと、紫歩の細胞一つ一つが喜んでいる。 水音の中に、瑞生の声が聞こえた。 商売道具の手は噛めないから、本当に意思だけで自分を抑え込もうとしているのだろう。 可愛い。 心底、思う。この女は本当に可愛い。健気だし、尽くしてくれるし、心の強さだってある。 もし、紫歩が高校の時に恋心を抱いていたら--いや、あの時からすでに紫歩は瑞生のことが好きだった。絵に惚れたのではない。絵も好きだが、何より、瑞生その人の魅力に惹かれたから、そばにいたのだ。 伝える勇気を持たなかった。物怖じしない社交的な性格ではあるが、永遠に焦がれるあまり、いつか終わるかもしれない恋人関係になるのは消極的だった。怖かった。それに瑞生は優しいから。紫歩が告白すれば応えるのは、目に見えていた。無理やりなら要らない。瑞生から、言ってきてほしい。 わがままだった。そんな臆病さゆえに、瑞生はあれだけ悩み苦しみ、そして出会ってから10年もかかったのだ。 もし、瑞生が大学で彼氏を作っていたら。ショックのあまり、紫歩は死んでいたかもしれない。 ありもしないことを一瞬考えたが、瑞生の低めの嬌声によって、現実に戻ってくる。 あ、っ……という掠れ声とともに、身体が大きく痙攣する。秘所が生き物のようにひくつく。 「いったのね」 「紫歩……わざわざ言葉にするな……ひっ」 「敏感なうちに、ね」 瑞生には負けるが、紫歩も指は長い自信があった。ぬかるんだそこに、二本の指がするすると入り込んでゆく。 それを瑞生が感じて、中がきつくなる。狭い一本道の中で、指をすべて飲み込まれた先に、お目当てのものを見つけた。 「瑞生の初めて、頂くわね」 音も何もしなかったが、紫歩の指には確かな感触があった。 涙目の瑞生の耳にキスをする。そうすれば、瑞生はまた、中をきつくした。 「耳は、やめろばか……変になる」 「気持ち良いんでしょ?」 「たぶん、そうなんだろうけどさ」 「これから、教えてあげるから。ひひっ」 「悪魔め」 「なんとでも言って。……痛みはない?」 「少し、少しだけ。裂けた痛みはあるよ。でも、どうってことない。お前への片想いのほうが、つらかった。何より、つらかったんだ」 瑞生の処女膜を壊した指には、うっすらと血がついていた。愛液と混ざって薄まったそれを、舐める。 鉄錆の味に、彼女のこれまでを想い、身勝手な行為なのに、はら、と涙が頬を伝う。 「あひゃひゃ、ばか紫歩。お前が泣いてどうするんだよ……私の大事なものを、もらっておいて」 瑞生の指が伸びてきて、紫歩の涙を拭う。 「あんたって、なんでどこまでも私に優しいのよ……」 「お前が好きだからだよ」 「何しても、いいのかと勘違いしちゃうじゃない」 「勘違いじゃない。お前になら、何をされてもいい。だって、紫歩は私に愛をくれるだろ。それだけで私は、生まれてきて良かったと思えるんだよ」 紫歩はもう、何も言えなかった。 抱きついて、抱きしめられる。体重を預けても、お前は軽いよな、と言ってくれる。 肌の熱を分け合い、見つめ合って、またキスをした。 瑞生の手が再び、紫歩の汗ばんだ身体を弄りだす。恋人の痴態に興奮していたのが筒抜けになり、口にされ、紫歩はぎゅっと目を閉じた。 夜が明けるまで、ゼロ距離で愛し合えばいい。 好き、可愛い、吐息交じりの言葉が闇を彩って更けてゆく。 身体を交わらせたことで、一つ大きく変わった。 紫歩は、突然身体に触れられても、びくつかなくなった。 これから先、行こうか、逃げようか。 君が望むままに。 → <a href="http://privatter.net/p/448426" target="_blank">『あの日に描いた深い青』</a> 黒田さんによるみずしほ、これから5年後、30歳の彼女たち。 → 『これからも愛を描く』 私による、この話の直接の続編です。
&bold(){&sizex(3){新しい絵を描こう R18}} [[黒田さん>http://privatter.net/u/blackgloom96]]の書かれた長編みずしほの二人をままお借りしております。 こちらの一覧、最下部の『タイトルは、欲望。』から順にお読みになったこと前提かつ、 『[[花びらは夜開く>http://privatter.net/p/440250]]』 こちらのお話の続きを許可を得て書かせていただきました。 力不足ゆえ蛇足でしかないとは思います。黒田さんの作品たちは、本当に素晴らしいみずしほでしたので、触発されました。快く許可いただき、誠にありがとうございます。 あの、日記帳を見てしまった時は、こんな部屋ではなかった。 どこに座ったらいいかもわからず、勝手に部屋を漁って読んだ結果、紫歩の運命を、そして、瑞生の運命をも大きく変えた。 あの時は知ってしまったことを、なんとか取り繕って隠した。読んだわ、だなんて言えるはずもない。彼氏がいる以上、そして、彼氏との結婚を真剣に考えていたからだ。温かい家庭という普遍的なものに、憧れていた。家に帰ったら電気が点いていて、仲睦まじい男女の姿がそこにはあり、二人の愛を思う存分に受ける子どもの姿。 早く早くと夢見ていた。 だが、瑞生の日記を読んでから、我に返ることが多くなった。 これから、どうしてゆくべきか。 道に迷うようになった。 高校の一つ上の先輩である鶴留沙冬子が、紫歩が狙っている市役所に受かったと知るや否や、対策をとことん訊いた。勉強を重ね、公務員試験を受け、沙冬子の後輩となることが決まった。 高校の時から、その氷のような美貌と、どこか抜けている可愛らしいキャラクターに心底、紫歩は惚れ込んで懐いていた。 懐いている様を見た瑞生には、お前あんなキャラじゃないだろ、と冷ややかな目で見られるくらいには。 最初から良き先輩が一人いるという心強さもあって、仕事はいたって順調だった。くじ運は高校の時から恵まれているらしい。悪癖である部分は猫被りと揶揄されようが隠し、特に嫌われることもなく、堅実な仕事を日々こなしている。 安定した職を得て、想像通りの社会人生活が始まり、彼氏とのデートの回数も減り、また、瑞生と予定が合うことも減った。仕事中、隙を見つけて、パソコンの検索欄に雑賀瑞生と入れるのが息抜きになった。 彼女の名前一つで、彼女の勤務先のサイトが出てくる。そこには最新の仕事まで、ずらりと記されていた。 印刷すると息抜きがバレるので、手帳にメモを取った。 彼女にはわざわざ言わなかったものの、表紙を担当した文芸誌は購入したし、瑞生のような若手作家、デザイナーの有志によるグループ展は休みの日に必ずや足を運んだ。瑞生がそこで、ヒーローインタビューかのごとく囲まれているのを、遠巻きに見つめていた。 その時点で、彼氏を誘って行くのはやめた。 彼女が嬉しがらないことを知っていて、できない。 瑞生という人が、どんなキャラクターであるか、紫歩は誰より把握している自負がある。口には出さないものの、あんなに熱い心を持った彼女が、誰かを愛するというのであれば。それがいかに青白く燃える炎めいた想いになるか、想像は容易かった。 どうしたいのだろうか。 このまま、どうなりたいのか。 彼氏と結婚して、子どもを産み、育ててゆくために選んだ職であり、始まった社会人生活であったのに。 結婚したい、と彼にわがままを言うことは減っていった。相手側の性格や経済力に、なんの不満もなかったけれど、ただ、彼の髪型や背格好が似ていることに、今さらになって気づいてしまった。 後に智由利から指摘されて、他人にまで筒抜けだったか、と悔やむばかり。 きっと初めから心は彼女の元にしか、なかったのだ。 だが、紫歩はそこまで器用な人間ではない。精神的にも脆い自覚がある。 道に迷うしかなかった。 だが、それを彼氏にも瑞生にも悟られたくなかった。 三年が経ったある日突然、青天の霹靂のように訪れた、彼氏からの離縁宣言を聞くまでは、隠し通せていると確信していたのだった。 慢心だった。 野村茉莉として今では美しすぎる若手女流作家、という、冷やかしめいた響きを本の帯につけられながら、スターダムを駆け上っている菱沼綾葉と、彼女のアシスタントである灰原実花が、大学時代に付き合いだしたと聞いた昔。何か頭を強く殴られた衝撃を受けた。ふらふらと大学のキャンパスを歩いていて、大丈夫? と声をかけてくれた。そういえば、彼は入学してすぐのタームの同じ教養クラスだった。 今は元気にしているだろうか。 あんなに、苦しそうな、何か我慢した顔で振られた理由は、後に瑞生から聞いて納得した。 周りばかり見つめて、自分のことを、とんと省みなかった。傷つけてばかりだ。 身勝手ながら、彼の幸せを祈る。 何もかも包み込んで、許してくれる恋人が、今、紫歩の隣には居てくれる。その幸せを、彼もまた味わってくれていれば。 部屋というものは整理されすぎると、落ち着かない。 紫歩はごちゃごちゃした部屋が好きだ。圧迫感で落ち着く。部屋が汚い人は寂しがりやだという俗説を、紫歩は痛感しているし、この歳になると、私はそういう性格なのだと認めるしかない。 瑞生から自慢げに部屋を掃除した、と写真付きのメッセージが飛んできて、持ち前のセンスを発揮しやがって、と唇を噛みつつ、自宅を掃除したが、いかんせん、物の絶対的な数が多すぎる。 溜め込んだ雑誌に、着なくなった派手すぎる服に。 そういえば付き合いだして、瑞生からの連絡が来るようになった。スマホの画面に瑞生、と発信者の名前が出るだけで、心が晴れる。 意識しすぎるあまり連絡の一つも自ら取れなかったのだろう。来ないなら来ないで紫歩から電話して、約束を取り付けるが、やはり相手から会いたいと言われる喜びはひとしおである。 --今度は、私も部屋をこれくらい綺麗にしてやる、と誓いつつ、出された瑞生お手製の食事をぺろりと平らげた。 彼女の凝り性かつ器用さは何にでも発揮される。泣きながら食べた粥だって美味しかったし、今日作ってくれたアマトリチャーナだって、この前二人で行ったイタリアンより紫歩好みの味付けだった。 紫歩も対人の記憶力には自信があり、仕事もこの長所で上手く回っている面があるが、瑞生の記憶力もさながらだった。紫歩が美味しいと言ったものは、覚えている。惚気て言うなら、自分専用のシェフのような彼女が居る。 そのため、紫歩は料理をする機会を喪失した。 今度のバレンタインには、せめて手作りをあげたいが、どうせ千倍美味しいものを貰うのだ。 たまに、料理の不得手を口にしたら、私は別にお前が作ってくれたものなら何だって美味しいよ、と、はにかんだように笑ってくる。 その顔はずるい。瑞生がめったに見せない、幼い笑顔には、見惚れてやまない。 歯を磨き、生まれつき血色の悪い唇にグロスを少しだけ塗る。 洗面台から部屋に戻れば、瑞生の声が飛んできた。 「そういやお前、食欲も戻ったんだな」 「昔より食べるようになったわよ」 そうだな、と瑞生は頷く。紫歩が食べるようになったからこそ、瑞生の料理の腕はますます上がったのだ。 「健康的になった。顔色だっていい」 「ありがとう」 「……生理不順もましになったのか?」 「ああ、うん。高校の時からずっとピルは飲んだままだけどね。生理がいつ来るかわかるから、便利だわ。この歳になって、ようやく、地に足着いたって思うもの。10年前は、ろくに生理もこないし、まずご飯も食べられないことが多かったし。家のどこかにセーラー服置いてるんじゃないかしら。あの喪服」 紫歩が食事の後片付けを手伝おうとしても、お前が水仕事に慣れてないのは、その綺麗な手を見たらわかるから、座っといてくれ、と制止された。最低限しか置いていないから、割られたくないのだ、と。 喪服、と紫歩が言った途端、あひゃひゃと瑞生の魔女笑いが響いた。 「何よ」 「いや、そうだと思って。まさに喪服だったよな。あれだけの選択肢の中から、黒を選ぶなんて、お前あの時は頭おかしかったよ」 「うるさいわね! 入学式の時点であんたには散々、何だその喪服って馬鹿にされたの忘れてないわよ?」 「ああ、でも。お前があの集団の中では、目立つ恰好だったおかげで。どこからでもお前の姿は見つけやすかったよ」 「あれだけ馬鹿にしておいて今さら……」 二人の声を遮る水音が止まった。食器はすべて、片付けられ、瑞生は手を拭いてから、紫歩の隣に腰掛けた。 付き合いだしてから、じわじわと瑞生との物理的な意味でも、精神的な意味でも、距離が縮んでいることに紫歩は気づいていた。 むろん、明確な瑞生の意思でのことだ。 「今さら、だから。言えるんだ」 水に触れていたせいか、一段と冷たい瑞生の手が肩に触れる。 今でも、生来のスキンシップ嫌いは変わらない。 生理的に、身体が跳ねてしまう。瑞生はそのことをわかっているから、驚かない。でも、近いうちにはこんな拒絶反応もしない自分になりたい。 「あの時から、ずっとお前は美人だったよ。だから、どんなきついことでも言えたんだ」 反論しようとした矢先、顎を掴まれて、瑞生の側を向けと暗に指示される。 目を閉じれば、少しの間を置いてから、柔らかな唇がちゅ、と音を鳴らして触れてきた。 触れるだけでは物足りないのか、瑞生の舌が、紫歩の唇を割り開く。 この関係になってから、こうやって、どちらかの自室にいる時は、いつもキスをするようになった。 それは、瑞生からの時もあれば、紫歩からの時もある。 はっきり言って、瑞生は何事もそつなくこなしやがる、ハイスペックな女だった。こちらだけが色事の経験者だというのに、瑞生はまったく引けを取らなかった。 思わず、あんたにとって私は何人目なのよ? と、こちらが言いたくなるくらいキスが上手い。 しかも至近距離で見ると、その顔の端正さに驚かされる。鼻筋は通っているし、少し切れ長気味の目は鋭いものの優しさが滲み出ている。顎は小さく、きつそうに見えるだろうが、女性的な魅力がそこかしこにある。白人の血でも入っていて不思議じゃない彫りの深さに、見惚れてしまう。大人びた雰囲気に、飲めないはずの酒に酔わされたように、くらくらしてしまう。何せ、すっぴんでこれ。世の女性が怒り狂って暴動を起こすだろうくらい、化粧要らずなのだ。 ふざけないでほしい。こっちは真剣に化粧をしても、瑞生の横に並ぶに相応しいか不安なのに。 離れたところから見ても美人は美人だし、彼女が、本人に言うと苦虫を噛み潰した顔をされるが、若手美人アーティストとして有名なのも前々から知っている。 それは高校の時点で、すでに評判としてあったからだ。美術部が決して盛んな学校ではなく、部員もほぼ0に近かったのに廃部の話が出ることもなければ、部員の数からは考えられない部費をあてて貰えていたのも、すべては瑞生の功績だった。全校集会で生徒の前に出て、表彰状を貰う機会が多い彼女は、その色を抜いて染めた鮮やかな髪色と、シャープな顔立ちで、知らない者は居ないくらいの存在に瞬く間になっていた。 髪を染める、程度ならいくらでもいるが、ブリーチして、ずば抜けた明るさにする生徒はごく少数だったのだ。とんでもない画力を持った美人の美術部員となれば、同性であれ放っておくわけがなかった。 遠巻きながら、彼女は視線をずっと集め続けていた。 --たまたま、この顔に生まれついただけで、顔で評価された、だなんて思うと、私は夜も眠れなくなる。 と本人は嫌悪感を顕にするので、黙っているが。 これで口から毒を吐かなければ、と、たまに残念に思うが、それを言うと自分の首をも絞めるのでやめておいた。 口が悪いのは、生来のものだ。原体験はわからない。悪化してゆく家庭環境のせいで、パステルカラーのセーラーで通うつもりだった高校には即座に行けなくなった。 次年度、一瞬だけ顔を合わせた新二年生に会いたくなくて、何にも染まりたくなくて、黒のセーラーにした。瑞生はさぞびっくりしただろうが、痩せ細って元気はないのに口ばかり虚飾が飛び出る紫歩に、あの時から優しかった。 鶴留沙冬子とも年の差はないが、学年が違うのなら、それがすべてだ。可愛い後輩であれることは、紫歩にとって喜びだった。 あの学校には、履歴上、四年在学したことになる。要するに瑞生とは一個違いで、一つだけお姉さんだが、出先で瑞生が姉だと勘違いされることもあるし、紫歩は気にするのをやめた。 そもそも顔立ちはまるきり違うのに、なんで姉妹なのよ? と言ったら、雰囲気が似てきたんじゃないか、なんて笑っていた。 その小さな年の差があるからこそ、余計にお前のことは放っておけないと思った、と付き合いだしてから言われた。 どこで学んだのか気障なことを、爆弾のように言うが、そんな彼女のストレートな物言いに、いつも紫歩は惚れ直している。 キスから始まり、いつもなら止まるはずの瑞生が、紫歩のシャツを脱がして行った。そういうことなのだな、と観念する。 もともと、拒む理由なんてどこにもなかった。 瑞生さえ欲しいと思ってくれるならば、いつだって差し出す準備はあった。 だが、瑞生の内心が読めないので、誘うなんてこともできなかっただけだ。 絵にしたい、と酔狂なことを言われて、張り倒しそうになったが、彼女なりの照れ隠しだなんてことくらい、わかっている。 首に痕をつけられるのも、職が違えば、いくらでもつけて欲しかった。 「みずき……」 彼女の唇は降りてゆくばかりで、首筋だけならず、シャツを着たら見えるはずのない胸元や、腹にまで赤い花が咲いてゆく。 そのこそばゆさに、身をよじってしまう。 自然な動きで瑞生の腕が背中に回り、ブラのホックが外された。 支えを失って、外界に触れた胸は、すでに先が尖っている。 思春期に栄養不良状態に陥ることが何度もあったにも関わらず、体型に見合わない大きさに実ったことを、紫歩としては長年忌々しく思っていた。 「ふにふにしてて、気持ちいいよ。紫歩のここ」 「ばか、そんなに揉まなくていいから」 「いつまでも触っていたくなる」 「あんたはどこのおっさんなのよ……」 「なんとでも言え。こっちが何年我慢したと思ってるんだ」 両手で、紫歩の胸を弄んでいたかと思えば、唐突に舌で触れた。びく、と身体が跳ねる。 教えるのも変なので言わなかったが、紫歩は胸が弱い。 「っ、あ……んんっ……」 片方を舐めている間は、瑞生の大きい手がもう片方を揉みしだき、そして指先でてっぺんを弾いてゆく。 紫歩の声が止まらなくなるころには、両胸とも室内灯で照らされて光っていた。 さっきから、ずんずん子宮が疼くような快感が紫歩を襲っていた。 仕事用のタイトスカートのホックを外され、ジッパーを下ろされ、するりと脱がされる。敷かれた布団の上に、無言で優しく身体を移動された。ストッキングも脱がされそうになって、かすかな違和感に、紫歩は唸った。 「あんた、伝線させたわね? 新品だったのに」 「……ごめん」 「安いものだからいいのよ。自分で脱げばよかったわ」 「脱がしたかったんだ。お前、高校の時もタイツだっただろ? 脱がすか、破くかしたいって思ってた」 「変態」 「変態でいい。今やお前の恋人なんだから、これからのことも覚悟しとけよ」 え、今後何が起こるの? と考えさせられている間に、部屋の照明が暗くなった。間接照明だけがぼんやりと部屋を照らす。 少しだけ足を開かされ、下着の上から、瑞生の指がくにくにと触れてくる。 緩すぎる刺激に、胸だけで高められている身体は物足りない。 「いいから、瑞生。触って……?」 思ったより、声が震えた。やけに初々しくなってしまった。 高校生だったころからは、遠い年齢になったというのに、まるであのころにしている気分になる。 こくり、と瑞生が頷き、ショーツも脱がされてしまう。 彼女にじっくりと秘部を見られるのは初めてだった。 「お前、薄いんだな」 「気にしてるんだから……温泉とか行くの恥ずかしいのよ」 確かに角度次第では、紫歩の秘所はほとんど生えていないように見える。 「よく見えて良いよ。コンプレックスに思うな」 「ばか!」 濡れていることはわかっている。 瑞生と二人きりというだけで、興奮するようになったのは、本人のせいだ。 たまに、ものすごく熱い視線を向けてくる。デッサンのために、目前の静物を捉えていたあの眼差しよりも、熱いものが。 気づかないわけがない。 紫歩は生来、察しが良い。 瑞生がどれだけの青白い炎を、その長身に秘めているか知らないわけがない。 目を閉じて、様子を窺いながら、つぷりと、入ってくる指を感じる。商売道具と言って差し支えない彼女の手が、こんなことに使われている。 それだけで、紫歩の心は満たされてゆく。 蜜がしとどに溢れ、紫歩の甲高い声に合わせて、瑞生の指が一つ増えた。長くて、骨張ったその指が紫歩の中を弄って、そして良いところを探ろうとしている。 こんな日が来るとは思わなかった。回り道はしたし、悲しい思いをさせた人もいるが、本当なら、10年前からこんな関係であれたのかもしれない。 その後悔を吹き飛ばすような快感に、しばし紫歩は身を委ねた。 お決まりの気だるさの中で、紫歩はふと、隣で自分を抱きしめて離さない女が、ほとんど着崩れしていないことに気づく。ラフなパーカーに、スエットという恰好のままだ。 そういえば、瑞生は初めてのはず。 紫歩があげられなかったものの、もらってあげられるものだ。 「ねえ、瑞生」 「なんだ」 「私も、あんたに触りたい。あんたが私にしてくれたように、したい。今までたくさん、お世話になったから。その分を、今から返していきたい」 暗がりの中でも、紫歩は夜目が利く。瑞生が一瞬で顔を真っ赤にしたのがわかった。 形勢逆転、と瑞生の上に乗っかった。 「お前、その……刺激的」 朱に染まったままで瑞生は呟く。そういえば自分は全裸のままだった。 「あんたが脱がせたんでしょうが」 「……そうだけどさ」 パーカーを脱がせ、スエットだって脱がせてしまう。抵抗はなかった。 どこかで 、彼女もこうなることを望んでいたかのように。 「それでも、恥ずかしいんだよ……私は、シャイだから」 「知ってるわよ。10年前から、というか中学の時から、ずっとあんたを見てきたんだから」 当分、瑞生の赤面は戻らないと確信した。 飾り気のない下着姿にして、紫歩は瑞生の耳に触れた。 紫歩への想いを封じるかのように増えていったピアスを、ひとつずつ外してゆく。 アクセサリーの価値には明るくないが、大事なものもあるだろう。失くなったら大事だと、近くに置いてあった小さいプラスチックケースに、音を鳴らして、何個あるんだか数えたくないピアスたちは外されていった。 穴だらけ、というのが正しい瑞生の耳に、舌で触れる。 この穴たちは、最初に開けられていたいくつかを除いて、紫歩のせいで作られたものだ。 丹念に耳を舐め、その音で瑞生の世界を支配する。 ぴくぴくと身体は跳ねるが、声を少しもあげやしない。さっきはあれだけ、こっちの声を枯らそうとせんばかりだったのに。ふざけるな。絶対に声を聞かせてもらう。 「あんた、いつまで強情でいられるのかしらね? ひひっ。なめないで」 目で睨まれたが、潤んだ目で睨まれても、それはただ可愛いだけである。 普段は見下ろされる身長差が、布団の上でのみ対等になれる。マウントポジションを奪った紫歩の圧倒的有利だった。 ずいぶんと耳が良いのか、声だけは我慢しているものの、身体が熱くなっている。 舌でなぶるのをやめ、普段はなかなかできない、顎を掴んでの大胆なキスをする。 紫歩の唾液で濡れたままのその耳を優しく片手でマッサージしつつ、瑞生の咥内を舌で制してゆけば、瑞生の顔がどんどん蕩けてゆく。 普段は憎たらしいか、真剣な顔しか、ほぼ知らないので新鮮であった。 顔を離し、荒く肩で息をする瑞生を横目に、ブラをずらす。 自分と比べると小さいのだろうが、それでも、彼女とて女性らしい膨らみを持っている。 手際よくブラもショーツも取り払ってしまえば、世界には、裸の女が二人になった。 「好き」 瑞生の身体を抱き起こし、思いきり、抱き着いた。何にも遮られず、胸同士が、腹同士が、皮膚同士がくっつき合う。 「待たせて、ごめんね。瑞生」 「紫歩……」 「愛してるわ。死ぬまで、死んでからも、一緒よ?」 「あひゃひゃ、怖いこと言うな。さすが魔女。……いいよ、連れて行ってくれ」 「当たり前じゃない」 有無を言わさず、瑞生の長い首筋に紫歩は唇を押し当てた。 さっきの仕返しと言わんばかりに、彼女の白い肌によく映える赤い花を咲かせる。 浮いた噂一つなくて、無性愛者なのでは、だなんていう噂すら立っているのを知っている。もしくはパトロンと不埒なことをしている、とか。そんなことをせずとも、瑞生の収入の方が紫歩の上を行っているのに。 人の女のことを好き勝手、言わないでほしい。 これが周りの目に入って、瑞生にもそういう相手がいるのだと、知れ渡ればいい。 「ちょっと、紫歩……あっ」 指を、瑞生の大事なところに押し当てた。そこは、触れただけで音が立つくらい、濡れそぼっていて、紫歩が触れるたびに、切なげにひくついている。 豆を揺らせば、瑞生の聞いたことのない声が漏れた。 にたぁと笑う。 出せるんじゃない、あんただって。 嬉しくなってきて、押し倒して、足を広げさせる。長い脚だ。鍛えているのか、筋肉の筋すら見える。 人のことを揶揄っていたが、瑞生の下生えも薄かった。もしかしたら、手入れしているのかもしれないが。 指をいったん離し、顔を近づけ、舌で彼女の秘所を味わってゆく。 これが、瑞生の味なのだと、紫歩の細胞一つ一つが喜んでいる。 水音の中に、瑞生の声が聞こえた。 商売道具の手は噛めないから、本当に意思だけで自分を抑え込もうとしているのだろう。 可愛い。 心底、思う。この女は本当に可愛い。健気だし、尽くしてくれるし、心の強さだってある。 もし、紫歩が高校の時に恋心を抱いていたら--いや、あの時からすでに紫歩は瑞生のことが好きだった。絵に惚れたのではない。絵も好きだが、何より、瑞生その人の魅力に惹かれたから、そばにいたのだ。 伝える勇気を持たなかった。物怖じしない社交的な性格ではあるが、永遠に焦がれるあまり、いつか終わるかもしれない恋人関係になるのは消極的だった。怖かった。それに瑞生は優しいから。紫歩が告白すれば応えるのは、目に見えていた。無理やりなら要らない。瑞生から、言ってきてほしい。 わがままだった。そんな臆病さゆえに、瑞生はあれだけ悩み苦しみ、そして出会ってから10年もかかったのだ。 もし、瑞生が大学で彼氏を作っていたら。ショックのあまり、紫歩は死んでいたかもしれない。 ありもしないことを一瞬考えたが、瑞生の低めの嬌声によって、現実に戻ってくる。 あ、っ……という掠れ声とともに、身体が大きく痙攣する。秘所が生き物のようにひくつく。 「いったのね」 「紫歩……わざわざ言葉にするな……ひっ」 「敏感なうちに、ね」 瑞生には負けるが、紫歩も指は長い自信があった。ぬかるんだそこに、二本の指がするすると入り込んでゆく。 それを瑞生が感じて、中がきつくなる。狭い一本道の中で、指をすべて飲み込まれた先に、お目当てのものを見つけた。 「瑞生の初めて、頂くわね」 音も何もしなかったが、紫歩の指には確かな感触があった。 涙目の瑞生の耳にキスをする。そうすれば、瑞生はまた、中をきつくした。 「耳は、やめろばか……変になる」 「気持ち良いんでしょ?」 「たぶん、そうなんだろうけどさ」 「これから、教えてあげるから。ひひっ」 「悪魔め」 「なんとでも言って。……痛みはない?」 「少し、少しだけ。裂けた痛みはあるよ。でも、どうってことない。お前への片想いのほうが、つらかった。何より、つらかったんだ」 瑞生の処女膜を壊した指には、うっすらと血がついていた。愛液と混ざって薄まったそれを、舐める。 鉄錆の味に、彼女のこれまでを想い、身勝手な行為なのに、はら、と涙が頬を伝う。 「あひゃひゃ、ばか紫歩。お前が泣いてどうするんだよ……私の大事なものを、もらっておいて」 瑞生の指が伸びてきて、紫歩の涙を拭う。 「あんたって、なんでどこまでも私に優しいのよ……」 「お前が好きだからだよ」 「何しても、いいのかと勘違いしちゃうじゃない」 「勘違いじゃない。お前になら、何をされてもいい。だって、紫歩は私に愛をくれるだろ。それだけで私は、生まれてきて良かったと思えるんだよ」 紫歩はもう、何も言えなかった。 抱きついて、抱きしめられる。体重を預けても、お前は軽いよな、と言ってくれる。 肌の熱を分け合い、見つめ合って、またキスをした。 瑞生の手が再び、紫歩の汗ばんだ身体を弄りだす。恋人の痴態に興奮していたのが筒抜けになり、口にされ、紫歩はぎゅっと目を閉じた。 夜が明けるまで、ゼロ距離で愛し合えばいい。 好き、可愛い、吐息交じりの言葉が闇を彩って更けてゆく。 身体を交わらせたことで、一つ大きく変わった。 紫歩は、突然身体に触れられても、びくつかなくなった。 これから先、行こうか、逃げようか。 君が望むままに。 → 『[[あの日に描いた深い青>http://privatter.net/p/448426]]』 黒田さんによるみずしほ、これから5年後、30歳の彼女たち。 → 『これからも愛を描く』 私による、この話の直接の続編です。

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