3-92 「無題」

「3-92 「無題」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

3-92 「無題」」の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

//←を入力することでページに反映されないコメントになります // //下の「&br()」は見栄えをよくするためのヘッダー改行(2行)です // &br()&br() // //◆◆注意◆◆ //「-------」などは、wikiの仕様の関係で別の文字列に変換されることがあります。プレビューで確認して変だなと思ったら全角にするなどして回避してください // //以下からSSの本文をコピー&ペーストしてください 「それじゃあ今日の特打ちは終了。この後は自由時間よ。折角温泉に来たんだからみんな楽しんでね」 「お疲れさまでしたー」 合宿二日目のカリキュラムが終わった。 闘ってみて再確認したけれど、県予選の決勝まで残った人達はやっぱり強い。 カツ丼さんのまくりも相変わらずで、どの対局も気が抜けないものばかりだった。 そんなこんなで夕方までずっと緊張し続けていたせいで、体も心ももうクタクタ。 麻雀卓に突っ伏したまま眠ってしまいたいくらい。 なのに、何だか楽しくて顔がほころんでしまう。だって 「お疲れ様でした。咲さん」 「うん。お疲れ様……和ちゃん」 原村さんが私の名前を呼んでくれるから。 「咲さん」 そう呼ばれる度に距離が縮まっていくみたいな気がする。 原村さんの心の中に私がいるんだって感じがして、嬉しい。 自分でもびっくりするけれど、もっと一緒にいたいという気持ちを止められない。 それで思わず 「そう言えば、鶴賀の加治木さんに聞いたんだけど、あの露天風呂から夕日がとっても綺麗に見えるんだって。 良かったらこれから二人で行ってみない?」 と誘ってしまった。 原村さんは私の言葉を聞いて一瞬驚いた顔をし、頬を真っ赤に染めた。 「ふ…二人で…ですか?」 か細い声で言うとそれっきり、私の視線から逃げるように俯いてしまう。 自分でも驚く位だから、いつもより積極的な私が原村さんには尚更意外だったのかも。 「えーと、駄目かな?」 恐る恐る尋ねると、原村さんは困ったように睫毛を伏せ、益々顔を赤くした。 (変に思われちゃったかな) 折角名前で呼び合えるようになったから、私はもっと一緒にいたいと思ったんだけど……。 原村さんは違ったのかな……。 心が急に冷たくなって行くのを感じながら俯いたところで 「いいですね。行きましょう」 原村さんの声が降ってきた。 顔を上げると、原村さんが真っ赤な顔のまま精一杯という感じで微笑んでいた。 たったそれだけのことで嬉しくなって、 「良かった。加治木さんの話を聞いてからずっと、原m……和ちゃんと一緒に見たいなって思ってたんだ」 思わず原村さんの手を握ってしまった。 「私も…咲…さんと一緒に見れたら、嬉しいです」 そう言って原村さんも私の手を握り返してくれた。 「でも、対局中は他のことを考えずにちゃんと集中してくださいね」 「えへへ、気を付けます」 原村さんと二人で夕日を見て、それで色々な話をして―――――― そう思っていたのに 「はらむらののかー。一緒に入ろー」 「原村和! 相変わらず無駄な脂肪をつけてますのね!」 龍門淵の人達と入浴時間が重なってしまったみたい。 (折角二人で居られると思ったのに) 夕日は丁度沈んでいこうというところ。 連なる山々の尾根が赤く滲んで、夜の帳が下りる前の最期の輝きに満ちている。 あまりにもその景色が綺麗だったから、私は尚更落胆した。でも… (何でこんなにがっかりしてるんだろう) それに何だか天江さんが原村さんにじゃれついているのを見ると (面白く、ないよ) 原村さんに抱きついて、嬉しそうに目を細めて、それに 「はらむらののかー」 だなんて。 (名前を呼べるようになるまで、私は随分時間がかかったのに) そんなことばかりが頭に浮かんできたから、私は落ち着かなくなって湯船から出た。 「咲さん?」 原村さんの声が聞こえたけれど、その瞬間心が締め付けられるように痛んだ。 (そっか。私、天江さんに嫉妬してるんだ) その気持ちを悟られたくなくて私は振り返らずに石造りの床を走り、脱衣所に逃げ込んだ。 (どうしてこんな気持ちになるんだろう?) (どうして原村さんを独り占めしたくなるんだろう?) いくら考えても答えは出なくて、私は体をなおざりに拭くと脱衣所の椅子に腰掛けた。 どうしよう……こんなんじゃ原村さんに変に思われちゃうよ。 私だけのものになんてなる筈がないのに。 些細なことで一々傷付いていたら原村さんと一緒にいられない。 その時ドアを開ける音がして、原村さんが入ってきた。 「どうしたんですか?」 と心配そうな顔で尋ねられたけど、 (そんなこと言われたって、何て答えたらいいかわからないよ) 気遣われるのが逆に辛くて、私は顔も見ないまま 「何でもないよ」 と笑って誤魔化した。だけどやっぱりそれでは納得出来ないみたい。 返事は無くて、訪れた沈黙から原村さんの怒ったような、悲しいような気持ちが伝わってくる。 やがて床を踏む音が聞こえ始めて、それがどんどんこっちに近付いてきて、私は原村さんに手を握られた。 「ふぇっ!?」 「私で良ければ、話して下さい。それとも、私じゃ駄目ですか?」 原村さんの目は真直ぐに私を見つめていた。 それはいつも通り優しくて、強い、私の大好きな眼差しだった。 (気持ちが挫けそうになった時、原村さんはいつもそうやって私を励ましてくれるね。 原村さんのその眼差しには……適わないよ…) 「あ、あのね、自分でもよくわからないんだけど」 顔を見ることが出来なくて俯いていたけれど、原村さんが私の隣に腰を下ろし、耳を傾けてくれるのがわかった。 「最近気になる人がいるんだ。 どうしてわからないんだけど、その人と一緒にいるとそれだけで嬉しいの。 その人は私の心が挫けそうな時にいつもそばに来てくれて、励ましてくれて、それが嬉しくて、一緒にいたいって思う。 その人のためなら何だって頑張れる気がするの。 でもそれだけじゃなくて……。 凄く自分勝手なんだけど、その人が私以外の人といるのが嫌なんだ。 私のそばにいて欲しいって、そんな風に独り占めしたくなる。 何でなのか、自分でもわからないんだけど」 手を握られた瞬間からドキドキしていたけれど、話し始めると心臓の鼓動は一層大きくなって、離し終わってもまだうるさい位に響いている。 こめかみの辺りが熱くて、目を開けていられない。 こんな緊張、県大会の決勝でもしなかった。 私が思わず拳をぎゅっと握ったところで、原村さんが口を開いた。 「それは、恋じゃないでしょうか。咲さんはその人に恋してるんだと思います」 「ふぇっ!? 恋って……! だってその人女の子だよ!?」 思わず言ってしまってから後悔したけれど、もう遅い。 暫く経っても原村さんの返事は無くて、きっとびっくりしているんだと思う。 相手が女の子だなんて、やっぱり変だよね。 嫌われたらどうしよう。 原村さんに嫌われたくないよ。 怖くなって、また心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。 「相手が女の子だって、関係ないですよ。 魅力的だったら、そんなことに関係なく恋をしてしまうと思います。 私にだって、いつも目で追ってしまう人がいます。 その人の笑っている顔が見ると凄くドキドキして、嬉しくて、 だからいつも笑っていて欲しいんです。 自分に出来ることがあったら何でもしてあげたい。 いつまでも一緒にいたい、そのためにはどんな辛いことだって乗り越えられる。 そんな風に思うんです。 それは自分でもどうしようもない気持ちですから、同じように相手を想う咲さんの気持ちを変だなんて想わないですよ」 恐れていたことが起こらなくて、それどころか原村さんは私の気持ちがわかるって言ってくれた。 顔を上げると目が合って、思いがけずびっくりしたけれど視線を逸らすことが出来なくて…… 「和ちゃんは、今誰かに恋をしてるの?」 「はい。咲さんと、その…お、同じです」 「相手は、誰?」 思ったままに尋ねると、 「えっ!? あの、その、また私からですか?」 原村さんは眉尻を下げて、ちょっぴり泣き出しそうな顔をした。 「神社でお願い事を聞いた時も私から言ったじゃないですか。 今度は咲さんが先に教えて下さい」 原村さんの顔は真っ赤で、それを見ながら私も同じように赤い顔をしてるんだろうな、と思った。 きっと原村さんも同じように緊張しているんだ…………あれ? (私と、同じ?) その瞬間、リンシャンカイホウをつもる時と同じような確信が心の中に生まれた。 伏せられた牌がわかるようなこの感覚。 原村さんの好きな人って、もしかして……。 (今日はこれ、あがっていいんだよね) 私はおずおずと手を伸ばして、でもしっかりと原村さんの手を握り締めた。 これできっと伝わったはず。握った瞬間体が小さく震えるのを感じて、それが確信に変わったけれど、 「ちゃんと言って下さい」 原村さんは私の目をじっと見ながら先を促した。 握っていた手を握り返されて、その温もりに勇気を貰って、私は頷いて口を開く。 「私、和ちゃんが好き」 「はい。私も咲さんが好きです」 返って来た言葉を受け止めて、何度も何度も心の中で繰り返した。 心臓ってこんなにドキドキするものだったんだ。 それより、気持ちが通じ合うことがこんなに嬉しいことだったなんて。 「あ、ありがと。これからも宜しくね」 「は、はい。こちらこそ宜しく御願いします」 「あ、あのさ。和って呼んでいい?」 「も、勿論、いい、ですよ」 「うん」 「和、好きだよ」 返って来たのは 「嬉しいです。咲……さん」 という言葉。何となく呼び捨てで言って欲しかったけれど、それでもいい。 だって私達にはきっとこれから沢山時間があるから。 そう。あの時はそう思っていたんだ。 だって原村さんが転校するなんて思わなかったから。 原村さんのいない帰り道で夕日を見上げると、私はいつも切なくて、たまらなくなる。 結局原村さんに「咲」と呼んでもらうことは出来なかった。 ------ [[3-161 「無題」]]に続く //下の「&br()」は見栄えをよくするためのフッター改行(3行)です // &br()&br()&br() // //プレビューボタンで確認後、文字認証を経てページを保存してください //
//←を入力することでページに反映されないコメントになります // //下の「&br()」は見栄えをよくするためのヘッダー改行(2行)です // &br()&br() // //◆◆注意◆◆ //「-------」などは、wikiの仕様の関係で別の文字列に変換されることがあります。プレビューで確認して変だなと思ったら全角にするなどして回避してください // //以下からSSの本文をコピー&ペーストしてください 「それじゃあ今日の特打ちは終了。この後は自由時間よ。折角温泉に来たんだからみんな楽しんでね」 「お疲れさまでしたー」 合宿二日目のカリキュラムが終わった。 闘ってみて再確認したけれど、県予選の決勝まで残った人達はやっぱり強い。 カツ丼さんのまくりも相変わらずで、どの対局も気が抜けないものばかりだった。 そんなこんなで夕方までずっと緊張し続けていたせいで、体も心ももうクタクタ。 麻雀卓に突っ伏したまま眠ってしまいたいくらい。 なのに、何だか楽しくて顔がほころんでしまう。だって 「お疲れ様でした。咲さん」 「うん。お疲れ様……和ちゃん」 原村さんが私の名前を呼んでくれるから。 「咲さん」 そう呼ばれる度に距離が縮まっていくみたいな気がする。 原村さんの心の中に私がいるんだって感じがして、嬉しい。 自分でもびっくりするけれど、もっと一緒にいたいという気持ちを止められない。 それで思わず 「そう言えば、鶴賀の加治木さんに聞いたんだけど、あの露天風呂から夕日がとっても綺麗に見えるんだって。 良かったらこれから二人で行ってみない?」 と誘ってしまった。 原村さんは私の言葉を聞いて一瞬驚いた顔をし、頬を真っ赤に染めた。 「ふ…二人で…ですか?」 か細い声で言うとそれっきり、私の視線から逃げるように俯いてしまう。 自分でも驚く位だから、いつもより積極的な私が原村さんには尚更意外だったのかも。 「えーと、駄目かな?」 恐る恐る尋ねると、原村さんは困ったように睫毛を伏せ、益々顔を赤くした。 (変に思われちゃったかな) 折角名前で呼び合えるようになったから、私はもっと一緒にいたいと思ったんだけど……。 原村さんは違ったのかな……。 心が急に冷たくなって行くのを感じながら俯いたところで 「いいですね。行きましょう」 原村さんの声が降ってきた。 顔を上げると、原村さんが真っ赤な顔のまま精一杯という感じで微笑んでいた。 たったそれだけのことで嬉しくなって、 「良かった。加治木さんの話を聞いてからずっと、原m……和ちゃんと一緒に見たいなって思ってたんだ」 思わず原村さんの手を握ってしまった。 「私も…咲…さんと一緒に見れたら、嬉しいです」 そう言って原村さんも私の手を握り返してくれた。 「でも、対局中は他のことを考えずにちゃんと集中してくださいね」 「えへへ、気を付けます」 原村さんと二人で夕日を見て、それで色々な話をして―――――― そう思っていたのに 「はらむらののかー。一緒に入ろー」 「原村和! 相変わらず無駄な脂肪をつけてますのね!」 龍門淵の人達と入浴時間が重なってしまったみたい。 (折角二人で居られると思ったのに) 夕日は丁度沈んでいこうというところ。 連なる山々の尾根が赤く滲んで、夜の帳が下りる前の最期の輝きに満ちている。 あまりにもその景色が綺麗だったから、私は尚更落胆した。でも… (何でこんなにがっかりしてるんだろう) それに何だか天江さんが原村さんにじゃれついているのを見ると (面白く、ないよ) 原村さんに抱きついて、嬉しそうに目を細めて、それに 「はらむらののかー」 だなんて。 (名前を呼べるようになるまで、私は随分時間がかかったのに) そんなことばかりが頭に浮かんできたから、私は落ち着かなくなって湯船から出た。 「咲さん?」 原村さんの声が聞こえたけれど、その瞬間心が締め付けられるように痛んだ。 (そっか。私、天江さんに嫉妬してるんだ) その気持ちを悟られたくなくて私は振り返らずに石造りの床を走り、脱衣所に逃げ込んだ。 (どうしてこんな気持ちになるんだろう?) (どうして原村さんを独り占めしたくなるんだろう?) いくら考えても答えは出なくて、私は体をなおざりに拭くと脱衣所の椅子に腰掛けた。 どうしよう……こんなんじゃ原村さんに変に思われちゃうよ。 私だけのものになんてなる筈がないのに。 些細なことで一々傷付いていたら原村さんと一緒にいられない。 その時ドアを開ける音がして、原村さんが入ってきた。 「どうしたんですか?」 と心配そうな顔で尋ねられたけど、 (そんなこと言われたって、何て答えたらいいかわからないよ) 気遣われるのが逆に辛くて、私は顔も見ないまま 「何でもないよ」 と笑って誤魔化した。だけどやっぱりそれでは納得出来ないみたい。 返事は無くて、訪れた沈黙から原村さんの怒ったような、悲しいような気持ちが伝わってくる。 やがて床を踏む音が聞こえ始めて、それがどんどんこっちに近付いてきて、私は原村さんに手を握られた。 「ふぇっ!?」 「私で良ければ、話して下さい。それとも、私じゃ駄目ですか?」 原村さんの目は真直ぐに私を見つめていた。 それはいつも通り優しくて、強い、私の大好きな眼差しだった。 (気持ちが挫けそうになった時、原村さんはいつもそうやって私を励ましてくれるね。 原村さんのその眼差しには……適わないよ…) 「あ、あのね、自分でもよくわからないんだけど」 顔を見ることが出来なくて俯いていたけれど、原村さんが私の隣に腰を下ろし、耳を傾けてくれるのがわかった。 「最近気になる人がいるんだ。 どうしてわからないんだけど、その人と一緒にいるとそれだけで嬉しいの。 その人は私の心が挫けそうな時にいつもそばに来てくれて、励ましてくれて、それが嬉しくて、一緒にいたいって思う。 その人のためなら何だって頑張れる気がするの。 でもそれだけじゃなくて……。 凄く自分勝手なんだけど、その人が私以外の人といるのが嫌なんだ。 私のそばにいて欲しいって、そんな風に独り占めしたくなる。 何でなのか、自分でもわからないんだけど」 手を握られた瞬間からドキドキしていたけれど、話し始めると心臓の鼓動は一層大きくなって、離し終わってもまだうるさい位に響いている。 こめかみの辺りが熱くて、目を開けていられない。 こんな緊張、県大会の決勝でもしなかった。 私が思わず拳をぎゅっと握ったところで、原村さんが口を開いた。 「それは、恋じゃないでしょうか。咲さんはその人に恋してるんだと思います」 「ふぇっ!? 恋って……! だってその人女の子だよ!?」 思わず言ってしまってから後悔したけれど、もう遅い。 暫く経っても原村さんの返事は無くて、きっとびっくりしているんだと思う。 相手が女の子だなんて、やっぱり変だよね。 嫌われたらどうしよう。 原村さんに嫌われたくないよ。 怖くなって、また心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。 「相手が女の子だって、関係ないですよ。 魅力的だったら、そんなことに関係なく恋をしてしまうと思います。 私にだって、いつも目で追ってしまう人がいます。 その人の笑っている顔が見ると凄くドキドキして、嬉しくて、 だからいつも笑っていて欲しいんです。 自分に出来ることがあったら何でもしてあげたい。 いつまでも一緒にいたい、そのためにはどんな辛いことだって乗り越えられる。 そんな風に思うんです。 それは自分でもどうしようもない気持ちですから、同じように相手を想う咲さんの気持ちを変だなんて想わないですよ」 恐れていたことが起こらなくて、それどころか原村さんは私の気持ちがわかるって言ってくれた。 顔を上げると目が合って、思いがけずびっくりしたけれど視線を逸らすことが出来なくて…… 「和ちゃんは、今誰かに恋をしてるの?」 「はい。咲さんと、その…お、同じです」 「相手は、誰?」 思ったままに尋ねると、 「えっ!? あの、その、また私からですか?」 原村さんは眉尻を下げて、ちょっぴり泣き出しそうな顔をした。 「神社でお願い事を聞いた時も私から言ったじゃないですか。 今度は咲さんが先に教えて下さい」 原村さんの顔は真っ赤で、それを見ながら私も同じように赤い顔をしてるんだろうな、と思った。 きっと原村さんも同じように緊張しているんだ…………あれ? (私と、同じ?) その瞬間、リンシャンカイホウをつもる時と同じような確信が心の中に生まれた。 伏せられた牌がわかるようなこの感覚。 原村さんの好きな人って、もしかして……。 (今日はこれ、あがっていいんだよね) 私はおずおずと手を伸ばして、でもしっかりと原村さんの手を握り締めた。 これできっと伝わったはず。握った瞬間体が小さく震えるのを感じて、それが確信に変わったけれど、 「ちゃんと言って下さい」 原村さんは私の目をじっと見ながら先を促した。 握っていた手を握り返されて、その温もりに勇気を貰って、私は頷いて口を開く。 「私、和ちゃんが好き」 「はい。私も咲さんが好きです」 返って来た言葉を受け止めて、何度も何度も心の中で繰り返した。 心臓ってこんなにドキドキするものだったんだ。 それより、気持ちが通じ合うことがこんなに嬉しいことだったなんて。 「あ、ありがと。これからも宜しくね」 「は、はい。こちらこそ宜しく御願いします」 「あ、あのさ。和って呼んでいい?」 「も、勿論、いい、ですよ」 「うん」 「和、好きだよ」 返って来たのは 「嬉しいです。咲……さん」 という言葉。何となく呼び捨てで言って欲しかったけれど、それでもいい。 だって私達にはきっとこれから沢山時間があるから。 そう。あの時はそう思っていたんだ。 だって原村さんが転校するなんて思わなかったから。 原村さんのいない帰り道で夕日を見上げると、私はいつも切なくて、たまらなくなる。 結局原村さんに「咲」と呼んでもらうことは出来なかった。 ------ [[3-161 無題>3-161 「無題」]]に続く //下の「&br()」は見栄えをよくするためのフッター改行(3行)です // &br()&br()&br() // //プレビューボタンで確認後、文字認証を経てページを保存してください //

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。