3-879氏 無題

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(明日は二人で紅葉狩り。楽しみだね、和ちゃん) 期待に胸を膨らませながら布団に入ったのだけれど、 その前に降り続いた雨によって、翌日訪れたハイキングコースは 一足早く冬枯れしてしまっていた。 「残念ですね。この季節にあんなに雨が降るなんて、そうそうないのに…」 悄然とした様子で呟いた和ちゃんを笑顔にしたくて 「せっかくだから、最後まで回ろうよ。もしかしたら、 まだ紅葉が残っているかも知れないし」 私はそう声を掛けた。 苦し紛れの提案ではあったけれど、嫌な顔をせずに和ちゃんが頷いてくれたから、 その手を取って歩き出す。 ハイキングコースは起伏のある中級者向けで、 文化部に所属する私達は進み始めて直ぐに息が上がった。 それに加えて見所である筈の紅葉が散ってしまっていたから、 変化の無い景色が尚のこと心身にこたえる。 (折角の紅葉狩りなのに、和ちゃん嫌になっていないかな…) 心配になって、私は何か話の種になるものは無いかと頭を巡らせた。 「あ、あのさ。どうして紅葉狩りって言うか、知ってる」 目を向けると、和ちゃんは息を弾ませながら、その問いに首を振った。 「昔の人は、どうして紅葉があんなに綺麗な色に染まるのか、 不思議に感じていたんだって」 「はい」 「その理由をみんなで色々と考えたんだけど、 結局納得出来るようなものが見つからなくて、最終的に 『きっと植物には特別な力があるからだ』 っていう結論に落ち着いたみたいなんだ」 「そうなんですか」 「うん。植物の持つその不思議な力に憧れた昔の人達は、 出来ればそれを自分にも取り込みたいと思って、 それで『紅葉』を『狩る』、という言葉が生まれたの。 今はお花見って言うけれど、伊勢物語では『桜狩り』って書かれているんだよ。 他にも蛍狩りなんて言うでしょ? 潮干狩りはちょっと違うんだけど」 長々と続いた私の話を聞き終えてから、和ちゃんは 「知りませんでした。咲さんはやっぱり文学少女なんですね」 と微笑んでくれた。 嬉しくなって彼女の手を握り締め、再び前を向いたその時、 紅葉の一群が赤々と山の端に残っているのが目に入った。 「和ちゃん見て、あそこ。まだ紅葉が残ってる。 きっと山の陰になって雨に打たれなかったんだね」 「本当。素敵な偶然ですね、咲さん」 それから一頻り私達は微笑みあった。 その後で少し沈黙に包まれてから、それを破るように和ちゃんが口を開いた。 「咲さんは不思議ですね」 「え?どうして」 そう尋ねた私に向かって彼女は嫣然と微笑んだ。 「咲さんと一緒にいるだけで、嬉しくなるんです。 咲さんのその不思議な力を自分のものにしたいです」 言い終わるのと同時に唇を奪われる。 「んん(和ちゃん)??」 見ると彼女の頬は赤く火照っていて、目元もとろけたように緩んでいて」 (こういう時の和ちゃんは本当に凄いんだ……) 私は最後に残っていた意識でそんなことを思い出した。

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