「キョン、また同じミスをしているよ。そろそろ学習してもいい頃だと思うのだが…」「悪いな佐々木、俺の頭はWindows95並に使い勝手が悪いんだ」ここは俺の部屋。塾が無い日だというのに、何故わざわざ佐々木と一緒に勉強しているのかというと……。まぁ、そんな大層な理由じゃない。ただ単に期末考査が近づいているから、というだけだ。「まったく…、君はやれば出来る子なんだから、もう少し気合を入れてだね…」そんな小学校の先生みたいなこと言わないでくれ。「あ、ここも間違っている。仕方がないなぁ…。おっと、インクが…」佐々木は何やら赤ペンを弄りだした。どうやらインクが切れたようだ。「キョン、君の赤ペンを貸してくれないか」「ああ、一番上の引き出しに入ってるから、適当に使ってくれ」俺がそう言うと、佐々木は引き出しに手をかけながら、「開けた途端に、見てはいけない物と御対面…なんて事はないだろうね?」そう言って、くつくつを笑い声を上げる。見てはいけない物?ああ、エロ本とかか。「大丈夫だ。うちには他人の部屋に無断で入って色々と物色しまくる妹がいるからな。何か隠すにしても、かなり分かりづらい所にしてる」「そうか。それなら遠慮なく…」佐々木は引き出しを開け、ペンを探し出した。「ええっと…、赤ペン…赤ペン…っと。しかし汚いなぁ、これじゃ何処に何があるか分かったもんじゃない」「ところがどっこい、俺には不思議と分かるんだ」「…そうか。ある意味で羨ましいよ」佐々木はしばらく引き出しを引っ掻き回していたが、ふと手を止めて俺の方を向いた。「キョン。君はドライなのかい?」「は?」相変わらずだが、こいつの言う事は分かりづらい。「いや耳垢の話だよ。引き出しの中に耳かきがあったからね。ちなみに僕はウェット。だから、耳かきよりも綿棒派なんだ」「へぇ。俺はそんなに湿ってないからドライかな」佐々木は耳かきを指でぐるぐる回している。「そうだ、キョン。耳掃除をしてあげようか」「なんだいきなり」「そろそろ勉強にも疲れてきただろうから息抜きにね。僕は小さい頃、耳掃除が上手だってよく褒められてたんだ」「そうなのか。じゃあ一つお願いしようかな」「OK。それじゃ、ここに頭を乗せてくれ」俺は、ベッドに座る佐々木の膝に頭を乗せ、横になった。
「多分大丈夫だとは思うが、万が一痛かったら遠慮せず言ってくれよ」そう言うと、佐々木は俺の耳掃除を始めた。なるほど、確かに上手い。これは癖になりそうだ。「そもそも耳垢のタイプは、ウェットの方が優性遺伝のはずなんだ。しかし日本人は8割以上がドライらしい。」「へぇ」佐々木は得意の薀蓄を始める。「耳掃除しすぎると、鼓膜を傷つけてしまったり、耳せつや外耳道炎になったり、下手をすると炎症が悪化して癌になったりもするんだ」「それは怖いな」「しかし、かといって耳掃除を殆どしないと耳垢栓塞になってしまう。耳垢の溜まり過ぎで難聴になってしまうんだ」「それはまた極端だな」佐々木はそれから、耳かきの種類の話やら、耳かきの歴史やらを得意げに語った。「よし、終わり。大分綺麗になったよ、キョン」「おう、サンキュ」俺は、佐々木のプロ級のテクニックと太ももの柔らかい感触を名残惜しく思いつつ、頭を上げた。「そういえばキョン、君は誰かに耳掃除してもらった事があるかい?」「いや、お前が初めてじゃないかな」俺がそう言うと、佐々木は、「それじゃあ、僕が君の耳のヴァージンを頂いてしまったというわけだ」そう言ってくっくっと笑った。いきなり何を言い出すんだ。でもまあ、ここは同意しておくか。「そういうことになるな」佐々木は勝ち誇ったように笑っている。「でも、僕だけが一方的に貰ってしまっては不公平かな」そう言うと、佐々木は急に俺に擦り寄ってきた。「だから…ねぇ…キョン。僕のヴァージンを君にあげるよ」佐々木が言った事の意味が分からず、俺はしばらく黙っていた。15秒ほどの沈黙の後、俺はようやくその言葉の意味を理解する事が出来た。「ああ、分かった」「え…?じゃあ…」佐々木が俺の顔を見つめる。分かってるさ、佐々木。俺はベッドに座り、佐々木の目を見てこう言った。「どっちの耳からがいい?」
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