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ハッピーバレンタイン 穏やかな晴天 格好の飛び下り日和だ。 よし、飛ぼう! 男「きみきみ、飛び下りかね。くだらない」 助走をつけようとした俺に小汚いおやっさんが話しかけてきた。 やれやれ。説教でもする気か。 おやっさんは、俺が飛ぼうとしていたビルの1階にあった喫茶店に、俺を連れて行った。 男「生きていれば、辛い事も悔しい事も沢山ある。それはもうな、しかたねえんだ。   死んだほうがましなような事もたくさんあらぁなあ。   仕事も辛い、家族も冷たい、金もない、なんにもいい事なんかねえわなぁ。   俺もおまえくらいの内、死ぬまで思いつめたこともある。   そんなとき……ふと、この店で飲んだコーシーの味を思い出したのよ。   ああ、死ぬ前に飲みてえなぁって。   だから俺は、今度この店のコーシーをまた飲みにいくまで生きていよう、生きていようと、   そう思って、ここまで死ななかったんだよ。   なぁ、生きていても悪いことしかねえが、   死んだらもう、うまいもんも食えないからなぁ、がはは」 渋いマスターがしぶそうなカフェラテを運んできた。 小汚いおやっさんは旨そうにそれをすすっていた。 確かに、その香りは、また飲んでもいいような……そんな気を起こさせた。 あくる日、新聞の隅に、廃ビルから飛び降りた男の記事が出ていた。
ハッピーバレンタイン 穏やかな晴天 格好の飛び下り日和だ。 よし、飛ぼう! 男「きみきみ、飛び下りかね。くだらない」 助走をつけようとした俺に小汚いおやっさんが話しかけてきた。 やれやれ。説教でもする気か。 おやっさんは、俺が飛ぼうとしていたビルの1階にあった喫茶店に、俺を連れて行った。 男「生きていれば、辛い事も悔しい事も沢山ある。それはもうな、しかたねえんだ。   死んだほうがましなような事もたくさんあらぁなあ。   仕事も辛い、家族も冷たい、金もない、なんにもいい事なんかねえわなぁ。   俺もおまえくらいの内、死ぬまで思いつめたこともある。   そんなとき……ふと、この店で飲んだコーシーの味を思い出したのよ。   ああ、死ぬ前に飲みてえなぁって。   だから俺は、今度この店のコーシーをまた飲みにいくまで生きていよう、生きていようと、   そう思って、ここまで死ななかったんだよ。   なぁ、生きていても悪いことしかねえが、   死んだらもう、うまいもんも食えないからなぁ、がはは」 渋いマスターがしぶそうなカフェラテを運んできた。 小汚いおやっさんは旨そうにそれをすすっていた。 確かに、その香りは、また飲んでもいいような……そんな気を起こさせた。 あくる日、新聞の隅に、廃ビルから飛び降りた男の記事が出ていた。

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