登場人物 隊長[S20]…部隊長。歴戦の英雄 兵士[S24]…若い兵士。(40歳以下は皆若造だってばっちゃが言ってた) 医師[S22]…野戦医。 詩人[S03]…ナレーション。ストーリーテラー。 詩人01「今より語りし舞台はある小国。歴史に埋もれた名も伝わらぬ小国の話。 遠く忘れられた歌を、お聞かせしましょう。 かの恐ろしきあの悪魔が、あの兵器が、彼の世に現れしその時の為。遥か未来に捧げる古き歌を」 詩人02「――暦(れき)にして百〇六、暦(こよみ)にして初春。小国は二つの都を有し、二人の王を有した。 細めき国土をさらに北南に分け、戦乱の世へと迷い込んでいた。」 兵士01「失礼!申し上げます!」(兵士入場) 医師01「治療中」 兵士02「はっ!失礼致しました!」(兵士退場) 隊長01「……良い、入れ」 兵士03「は……宜しいのでありますか」 医師02「長の決定は絶対さ。どうぞ」 隊長02「危急か」 兵士04「先刻、都から書簡が届きました。こちらです」 隊長03「読め」 兵士05「しかし宮(きゅう)からの直命であります」 隊長04「この状態で開けると思うか。読め」 医師03「君、英雄殿からの御命だよ」 隊長05「口を挟むな……うっ」 医師04「なら大人しくされてなさんな」 兵士06「では拝読致します。『謹啓、かく親愛なる……』」 隊長06「祝辞は飛ばせ」 兵士07「……『明朝、0500時、総攻撃の命を拝する』と。 いよいよ決着の時と相成るのでありましょうか」 隊長07「違いない。兵力の差も、国土の差も、民の心も、全て我が軍が勝った。 向かい風たなびき、彼奴らは風前の灯し火。だからこそ最期は強く燃え上がる。 が、将さえ叩けば、烏合の衆はそれで終いよ」 兵士08「彼奴らの将は、隊長殿のご旧友とか……」 隊長08「……。……痛っ!」 医師05「よしよし。さて、中休みにして小用でも済まさせてもらいますかね」 隊長09「おい!まだ縫合は……終わったのか?」 医師06「後は若い者同士、どうぞごゆっくり」(医師退場) 隊長10「おい、近く寄れ。実は先刻から、少し声が遠い」 兵士09「は……はっ!?」 隊長11「静かに……良いか、秘匿だぞ」 兵士10「隊長、まさか……」 隊長12「隠し通すのに苦労している。 全く、あの医者は小さな怪我にも小煩くてな。道理でボロ儲けできる筈だ。 あやつの事が聞きたいのであったな。誰から聞き及んだ?」 兵士11「はっ!申し訳ありません!自分が無理やりに……」 隊長13「早合点するな、責めてはいない。紛争直後から共に肩を並べた者達は皆、存知ている事だ」 兵士12「……隊長殿の軍学校での同期生であると」 隊長14「ああ……夢を語りあった友であった。随分と昔の話だがな」 兵士13「どうして、どうして袂を分かれてしまわれたのでありますか」 隊長15「……ふふ。聞きたいか、その理由が。あまり良い話ではない。 だが私の胸のうちだけにしまっておくには、今も鮮明すぎている。 あれの言葉は今でも私の……」 医師05「あら、話は終わったか。……おーい、無視して行くなよー」 兵士14「すみません、今は……」 医師06「老体を寒空に立たせといて、それはないんじゃないかね?」 兵士15「あ……も、申し訳ありません!」 医師07「うむ、素直で宜しい。ま、モクも吸いたかったから」 兵士16「あ、灰皿を……」 医師08「いい、まだいい。これで最後、大事にしないと……何、言われた?」 兵士17「言いません。いえ、言えません。あんな……あんな事」 医師09「……そう」 兵士18「軍医殿は、隊に所属はされないのでありますか。ならば、なぜ我が軍で戦っておられるのです」 医師10「なんだ、あれが用済んだら次は私に訊くのかね」 兵士19「すいません、そういう訳では」 医師11「いいさ。所属したがらない訳だったね。 今こそ独り身だが、昔は所属していて、看護兵も一人つけてもらっていた。 そいつ、前に務めてた病院が重篤患者向けでね。 『皆が暗い顔してくるからこっちまで沈んじまう』って 配属願い出したら、軍事病院だったっていう馬鹿だった。 私とは随分前に、喧嘩別れしてね。それで、もうこりごりになってね」 兵士20「その方は、別の部隊に配属されているのですか」 医師13「うん、そう……それで余所に行く日に、BANG!(ばーん)と踏みつけて、おしまった」 兵士21「……その、喧嘩の理由は」 医師14「……今考えれば、ね。配給にもあれが含まれてた。日増しに多くなっていった。 けど、もう遅い。あれしか残ってなかった。彼を……自分を、過信していた」 兵士22「嫌な事を、思い出させてしまいました」 医師15「うん、高くつく。お詫びに、我が軍顔面部門筆頭、隊長閣下の個人情報をゲロってもらうか」 兵士23「は?」 医師16「第一問、好きな食べ物は?第二問、兄弟は何人いますか?第三問、将来の夢は? 医療班のかわいこちゃんに頼まれちゃってねえ。教えてくれないか?」 隊長24「……。」 医師17「よう。続き、始めようか」 隊長16「長い小用だったな」 医師18「セクハラ、セクハラ。……ちょっと若いあんちゃんとランデブーさ。 どっかの誰かにヘコまされちゃって随分気落ちしてたみたいだ」 隊長17「……。あれは、まだ若い」 医師19「だからこそ、年寄りが夢ヘコませちゃいけませんのさ。 どれどれ……ふうむ、隊長様の回復力は神様も驚くな」 隊長18「明日で、終わりか」 医師20「終わらせてくださるんでしょう、英雄殿」 隊長19「当然だ」 医師21「頼もしい限り。じゃあ、ちょっと我慢してもらおう、染みるよ」 隊長20「くっ……ぐぅぅっ」 医師22「がんばれよ、英雄殿。……がんばれ」 詩人03「いがみあいし二つの小国、砂塵も残さず消えた国。 ただ歌の一節が、そのありかを示すのみ。 古き歌よ、せめて登場者達に 安らかな眠りを与え給え」 ---------------------------------------------------------------------------- お題:ペヤングだばぁする台本