**免許のある未来 作者:wikiの人◆SlKc0xXkyI 私:14歳の大人。 ヒデキ:27歳の子供。 ヒ01「――よう、おめでとう。試験に受かったんだろ? 親から聞いたよ」 私01「イトコのヒデキは、いつものように。 シニカルな笑顔を浮かべて、そう言った」 ヒ02「あとは病院で検査するだけだな。 ま、お前はもう14歳だし、たぶんと大丈夫だと思うぜ」 私02「何が大丈夫なのだろう。大丈夫と言い切れるわけがないのに。 他の人はともかく、ヒデキだけは言い切れる筈がないのに」 ヒ03「つーか、ふらふら出歩いていいのか? 俺なんかと違って、お前は期待されてるんだ――しっかりしろよ」 私03「期待して欲しいと思った事は、一度もない。 そんなものは、いつだって重くてうっとうしいのに」 ヒ04「おいおい、なんだよ暗い顔して黙り込んでよ。 お前はもうすぐ、大人になるんだから――もう、子供じゃないんだから」 私04「――なりたくて、大人になるわけじゃないよ」 私05「そう答える事しか、できなくて。 ヒデキは困ったように笑うと、タバコをくわえて空を仰いだ。 私が子供として見るのは、最後になるだろう茜空を」 (間) 私06「――私が生まれるずっと前の話だ。 いつだったかは知らないけど、大人の社会責任を問われた時代があった。 未成年者の凶悪犯罪が増加して、大人に責任があるんじゃないのかって言われた。 その議論は段々と暴走して、最後にはこうなった。 大人になるための試験を用意して、合格した人にだけ大人免許を発行する。 大人免許を持たない人は、いつまでも子供のままで。 逆に免許さえ持っていれば、何歳でも大人になる事ができるようになった」 ヒ05「なあ。俺はこの歳でも無免許でさ――正直、ずっと子供のままだと思う。 親戚連中からも嫌われまくってるの、知ってるだろ?」 私07「そうだね――ヒデキは、子供だから嫌われてる」 ヒ06「あの試験――大人試験は、公序良俗に反する奴は合格しない。 精神年齢がガキ過ぎる奴も、合格させてもらえない。 ……ついでに言うと、ガキを作れない奴も永遠に不合格だ」 私08「ヒデキは――大人になりたいの?」 ヒ07「さぁてな。俺は永遠に不合格だからよ、はなから考えてないんだ。そういうの。 だけどお前は大人になる――大人になれるんだから、しっかりしてくれよ。 子供のままだったら、俺みたいに嫌われちまうぜ?」 私09「親戚が集まるたびに、ヒデキは陰口を叩かれてきた。 彼自身には責任なんて少しもないけれど、彼は大人になれないから。 もう、大人になってしまった人達が、蔑むように馬鹿にした。 私には――どっちが子供なのか、よく分からなかった」 ヒ08「あ、もしかしてナイーブになってんのか? そりゃそうだよな、いよいよ大人になるんだ、色々不安もあるだろうさ。 そこんところ、分かってやれなくて悪かったな」 私10「私を気遣ってくれるヒデキ。年老いて、お爺さんになっても、ずっと子供のヒデキ。 だけどその中身は、たとえ無免許でも、親戚の中では一番大人だと思う。 公序良俗に、反しないだけの大人よりも――ずっと、ずっと」 ヒ09「でもさ――いくら不安になっても、子供でいたい、なんて言うなよ? そんな事を言ったが最後、お前はずっと不合格だぞ」 私11「……大丈夫。ちゃんと、大人になりたいとは思ってるよ」 ヒ10「そうか? それならいいんだが」 私12「そう、私は大人になりたいと思っている。 公序良俗に反しないだけの大人ではなく、ちゃんとした大人に。 たとえ無免許だとしても、本当の大人になりたいと思っている――――」 (間) ヒ11「……で? どうしてお前は、試験で満点出しながら不合格になったんだ?」 私13「あれから数日。私が不合格になったと聞いて、家にヒデキがやって来た。 だから私は、彼に胸を張って答えた」 私14「病院でね、尊敬する大人は誰かって訊かれたから、ヒデキだって答えた。 そしたら不合格だって言われた――頭おかしいよね、大人って」 ヒ12「…………ああ、いや、たぶん頭おかしいのはお前だ。 俺はちっともそうだとは思わないが――社会的には、お前の頭がおかしいんだろうな」 私15「そうだろうね――だけど、これでいいんだよ。 子供は子供らしく、自分に正直じゃないとね」 ヒ13「ヒネたガキだなオイ……まったく、誰に似たのやら」 私16「誰だろうねー? あ、そうだヒデキ。私が高校卒業したら、一緒に暮らそうよ」 ヒ14「は?」 私17「私達はもう、ずっと子供だから。 大人が許してくれるように、おままごとをしよう」 ヒ15「ホント、お前って奴はよぅ……」 私18「きっと、これでいいのだと思う。 大人は正しいけれど、いつだって正しいわけじゃない。 間違えられた私達は、何かが間違った社会で、正しく生きていけばいい。 いつか間違いが正される、その日まで」 終わり