鬼ごっこ(続・[[鬼さん、こちら。]]) 鬼:鬼のおにーさん 子:村のよい子たち 母:よい子のおかーさん 男:流しの琵琶引き ナレーター:ナレの仮面を被るのです! 嘘です、お好きにどうぞ 子01「鬼やーらい!! 鬼やらいっ!!」 男01「これこれお子ども 今時分、鬼やらいは古し古し」 子02「えー」 ナ01「初夏を乗り越えた すすきの原のそよぐ中。 日は天にあり、優雅たる人は空寝にて、しのぐ時節 そして鬼も人にならい、境内の床敷にいつものようにぐでりと転がってあった」 男02「今生の流行りは”鬼は外!福は内!”ぞ、言うてみなされ」 子03「鬼はそとー……ふくはうちー?」 男03「さようさよう、ほほ、利発なお子どもじゃ」 子04「鬼は外ー! 鬼は外ー!」 ナ02「男が促してやれば、子どもは跳ね回り その境内にいつしか住みたりし赤鬼に煎り豆をぶつけはじめる。 破れ寺とも崩れ神社とも見えるそこは、どんな神がおわり申されたかももう誰ぞ知らぬ。 さて、子どもは豆も投げつくし、首なし魚まで放り投げたが 流石に、子どもの手とあってか、鬼はなにも存ぜず寝転がったままであった」 鬼01「ぐぉぉ~がぉぉ~……」(あくび) 男04「ほうれほれ、効いとらんなあ」 子05「むう。この鬼さんはふてぶてし!」 男05「さよさよ、ふてぶてしいの。さすれば、ほれ、兄者を見ておれ。 横からふりかぶっての、肘を引きためて……ほい!」(投げて) 鬼02「……ッデ!? ああ! なんじゃあ!!」 子06「起きたぞ! 強し強し!」 男06「ほほほ、その昔の杵柄よ」 鬼03「何ぞ貴様らあ!! ここは神域なる社務所じゃ、立ち去れい、立ち去れい!!」 子07「ひええ、鬼さんが怒うた、赤くなったーーー!!」 鬼04「ハン……元から赤鬼や」 男07「あれあれ。逃げてしもうたぞ。鬼のおにーさんはどうにもせっかちでいかぬ」 鬼05「あんのガキども、放っておくのをいいことにやることが進んできがやる おお、いてえ。どのクソガキだ、ツノめがけてぶち込みやがったのは」 男08「ほほほ、そりゃ災難、災難じゃ」 ナ03「お多福顔の男はしばらく分 かかと笑うていた。鬼はだるそうにまた寝そべり、あくびをひとつ。 男もそ知らぬ顔で境内の日陰に潜り込むと、ひょいと俳紙を取り出しはじめた」 鬼06「ん……なんだ貴様、詩もやりよるのか」 男09「いやいや、歌ぞ。近頃 興をそそられての。女というは、どうにも色っぽいものも書き申される」 鬼07「げっ こんなとこで書いたものをおなごにやるか」 男10「うむうむ、作り手心に場はやむなし」 鬼08「ふぁ~あ……どうでも構わんが、貴様の歌は鬼ばかりじゃ」 男11「さようさよう、渡す相手も鬼ぞ。鬼のように美しく。おにーさんなど仰天するなあ」 鬼09「どんな鬼嫁だ、そりゃ」 男12「ほほほ、お聞きなさるか、そうさな、さしずめ、山姥と雪女よ」 鬼10「ババァに氷嫁か、趣味のお悪ィことで」 男13「あっはっは……ところでおにーさんや。お前、子どもは食べないのだね」 鬼11「あ?」 男14「子どもじゃ、お子ども。 毎回あんなにお越しいただいとるのに、鬼のおにーさんは、一人も食べていないでないかい」 鬼12「はあ? なんで俺様が子どもなんて食らわなきゃならん」 男15「食わぬのか? なんじゃ、鬼のくせに、ちとがっかりじゃ」 鬼13「食うぞ貴様!」 ナ04「怒号とともにぐいらと起きあがりた鬼であったが、男の代わらぬ様子に興を削がれたか 幾度か数えるのも忘れたため息をこぼし、とてとてと境内の内に向かうて歩みだす」 男16「なにか、なにか。なんぞ見させてくれるかのかい。おもしろいものかえ?」 鬼14「はしゃぐな、うっとうしい。……字は読めンか」 男17「そりゃ一端に書けるからの」 鬼15「ほれ」 ナ05「鬼は、雑物がうず高くつまれた中から、ひょいと小さな石を取りいだし、男の足元に放り投げた そこには、かくして文字が刻まれていた……が」 男18「……うむ? かすれて読めんなあ。薄くなってしもうておるの」 鬼16「あ? あー……そうか、読めんのか」 男19「ふむ。なんと書いてあったのだ? 石に字が刻んであるの、塔婆か、それとも納言か、なあなあ」 鬼17「知らん、俺のほうは字はやぶさかでな……はあ、ばかばかしい。もう一眠りしよ」 ナ06「鬼は醜い口をガアと大きく開きあくびをし、またごろりと転がった。男は珍しくも、慌てた様子でとりすがる」 男20「鬼のおにーさんや、それは生殺しというものぞ。 口で言うてくれればすむものじゃないか、私かて、気になり申して眠れなくなってしまうじゃあないか なあなあなあ……」 鬼18「知るか! 2度も起こしてみろ、今度こそ承知しやしねえぞ!!」 男21「あ~……いけず」 ナ07「――さて、場面は変わりて」 子08「あれ、かかさま!」 母01「お前! どこに行っておったのだい」 子09「山の境内! あのね、かかさま、あそこにね、」 母02「はあ……また遊びほうけて。いいかね、一人で山を遊びまわっちゃいけぬと言っておるでしょう? 境内は大神さまが見守ってらっしゃるから良いものを」 子10「おーかみさま?」 母03「そうよ。かかさまも、かかさまのかかさまも生まれる前じゃ。 ここにはずっと子どもを守る神様がおわしなさるのじゃ」 子11「そうなん!? 境内におわしゃるのか、呼んだら会える!?」 母04「ほ、ほ、ほ。神様はね、人には見えないのじゃよ。 だけれどね、お前がいい子なら、姿を変えて見守ってくだしゃっておるかも知れぬ お前も感謝しなくてはなりませぬぞ」 子12「あい!」 ナ08「親子は手を引いて村への道を帰りゆく。子が野に遊びたりし村へ。 ――その昔、人がまだ、異形なるものをあがめ、恐れていた時代 破れ寺とも崩れ神社とも見えるそこは、どんな神がおわり申されたかももう誰ぞ知らぬ。 ただ石の守り彫りと、伝え語られし言霊が その御名をいまだ 忘れずにいた」 終