「夜の酒場」 おやじ01「えぇらっしゃい!!」 若い男01「……」 おやじ02「……どうしました?」 若い男02「あの……どこに座ってもいいんですか?」 おやじ03「ええ、どうぞどうぞ」 若い男03「失礼します……」 常連客01「ヒック……なんだぁ、お兄ちゃん。ここ、初めてだな?」 若い男04「はぁ」 常連客02「ファミレスじゃねえんだから、案内のお姉さんはいねぇぞお? ごま塩ハゲのおやじだけだ」 おやじ04「はっはっはっ、違いない」 若い男05「あの……」 おやじ05「はい?」 若い男06「メニューはどちらに?」 おやじ06「ああ、うちはメニューおいてないの。兄さん、とりあえずビールにする? それとも酒?」 若い男07「あ、その……」 おやじ07「ん?」 若い男08「……すみません、お茶ありますか?」 おやじ08「お茶ね。了解了解」 常連客03「お兄ちゃん、若いなぁ、いくつ?」 若い男09「あ、22です」 常連客04「社会人?」 若い男10「学生です」 常連客05「ふぅん」 おやじ09「はい、お茶。それと付け合せに、これ」 若い男11「どうも……」 おやじ10「マサさん、最近どう?」 常連客06「ダメダメ、最近はどこもチェーン店ばっかり流行ってさ。あんな2000円で頭刈る床屋なんてのはね……」 おやじ11「そうかい」 若い男12「……」 おやじ12「兄さん、漬物、食べないのかい?」 若い男13「あ、すみません……苦手でして」 おやじ13「そう、なら下げようか」 若い男14「すみません」 常連客07「……ヒック、おい兄ちゃん。飲み屋に来て、酒もいらない、漬物もいらない、そりゃいくらなんでも失礼だよ」 おやじ14「マサさん」 常連客08「私らが若い頃は、なんでも食べたよねえ、食べられることが珍しかった」 おやじ15「まあねぇ」 常連客09「なのにさぁ、今は恵まれすぎちゃったんだよ」 おやじ16「今の小学生は魚も食べないそうだからねえ」 常連客10「ねぇ、母親からしてそうなんだから」 若い男15「あの」 おやじ17「はい?」 若い男16「帰ります。お邪魔してすみません」 おやじ18「ああ、そう?」 若い男17「お勘定は……」 おやじ19「いいよいいよ、お茶一杯だけでお金は取れないよ」 若い男18「すみません」 おやじ20「まいど」 若い男19「あの……」 常連客11「ん?」 若い男20「教えていただいてありがとうございました。大人になったら、また来ます」 おやじ21「……やれやれ、変わった人だったねぇ」 常連客12「あの兄ちゃん、家、飛び出して来たんじゃないか」 おやじ22「どうして?」 常連客13「足。裸足に、サンダル履きだった」 おやじ23「そりゃ気付かなかった。この寒いのにねぇ」 常連客14「……また来るかな」 おやじ24「あの人? さあ、どうだろうねぇ」 常連客15「余計なことしたかな?」 おやじ25「いやいや。そうだ、いい魚が入ったんだよ、刺身にする?」 常連客16「おッいいねえ……」