A「親分、開けましょうぜ」 B「早く、早くしましょう」 C「急くな急くな。どれどれ……」 (開ける) A「なっ…?!」 B「こりゃあ…」 C「なんと……」 D「すー…すぴー…」 C「おい仁吉」 A「へい」 C「こりゃあなんだ」 A「…宝物箱でげした」 C「そうだな。箱はそうだ。この中身はなんだ?」 B「親分、俺にゃ、これは人間の子供のように見えますよ」 C「ハチ、お前ェは黙っとれ!!」 B「だ、だって親分が聞きなさるから!」 A「かしら、こりゃなんの手違いなんでげしょう…」 C「こっちのセリフじゃ。いいかお前ら。我が兎丸一家の鉄の掟を言ってみろ」 A「お天道様に顔向けできない働きはしない…」 C「そう、あっしら世間様をお騒がせするが、それでも義賊よ。で、この子供だ」 B「それがどうかかわりあるんでさ?」 A「バカタレハチ、これじゃあ誘拐になるじゃねえか。 お前、何も知らない小さいガキをかどわかしてお天道様に顔向けできるか?」 B「なるほどぉ!さっすが兄貴」 C「仁吉!手前ェのやったことだろうが、何を他人ごとのように言ってやがる」 A「はっ、申し訳ねえことで…」 B「それにしちゃあ……」 D「うーん……ぐー……」 B「かわいい子ですねェ」 A「寝ている内に門前にでも返してきましょうか」 C「うむ……このご時世に往来に放り出すってのも気が引けるがな」 B「ねェ親分、この子飼いましょうよ、俺たちの一味にするんです」 C「(無視して)にしてもだ仁吉、お前ェどうしてまたこれと間違えたんだ」 A「はあ…唐文様の桐箱だったもんで、てっきり反物かと」 C「反物がこんな重さか、アホタレ」 A「申し訳ねえこって…」 B「ねェ兄貴、今から仕込んだらいい盗賊になれますって。ねェそうしましょう、それで万々歳」 A「うるせえ!!」 C「だまっとれ!!」 D「うるさい……」 A「あっ」 C「あっ」 B「あーあ、ほうら親分に兄貴が大声出しなさるから」 D「なに……ここどこ?おじちゃん達だぁれ?」 A「あ、う……」 A「(お、親分どうしましょう)」 B「(一味にしましょう)」 C「(…よし、この俺がなんとかしよう。お前ら、うまく帳尻合わせろ)」 D「ねえねえ、おじちゃん達だれなの?」 C「ああ…あっしらはな……天狗だ」 D「天狗様なの?」 B「ええ、そうだったんですかい?」 A「シッ!」 C「ああ天狗様だ。この山に古うくから住まう神様であるのだ」 D「でもお鼻が長くないな」 C「人間は何も知らんでいかん。いいか、天狗の鼻は伸び縮みするのだ」 D「へー…ねえ、どうしてここにいるの?ここは僕ん家だよ」 C「よく目を凝らして見渡して見るのだ、ここは山のてっぺんである」 D「……ほんとだ。あれ?でも僕どうしてここにいるんだろう」 C「…………」 C「(仁吉)」 A「(へっ……俺ですか!?)」 A「あーゴホン……我々天狗は悪辣なる人間に天罰を下すこともござる。 しかし善良なる人には手を差し伸べる。 貴様はこの山に人知れず迷い込んだのだ。だから助けてやろうと、この親……天狗の首領様は思い立たれたのだ」 D「よくわかんない…」 B「俺わかりましたよ兄貴!ちゃんと家に送り届けてやるから心配しなくていいぞってことなのだ!」 D「そう…なのだ…?」 C「……そうなのだ」 D「そっかあ」 C「しかし我々のほうでも準備が必要である。 貴様は暫しここでおとなしくしているのだ。 山に分け入ってはならぬぞ」 D「はーい」 C「うむ…では一度、失敬」 B「素直な子ですねえ俺気に入りました」 A「あんな言い訳で大丈夫なんでげしょうか」 C「アホタレ、半分はお前ェの創作だろうが。 しかし……考えなけりゃいけねェな」 B「考えることないじゃねえですか、一味、一味!」 A「バカハチ。俺ら働き終わったとき、いつもどうしてる」 B「ええ?そりゃあ頂いたものの山分け……」 A「その前」 B「その前?働きして……ああ、入った家に頂き状を置いてきますね!」 A「それだよバカタレハチ。 あの家に入ったのが俺たちだということは、向こうさんも気づいていなさるんだ」 C「だからお前がやったことだろうが、仁吉!すこしはすまなそうにしおらしくしたらどうだ!」 B「親分、じゃあ元の所に返してくればいいじゃないですか」 C「それでも子供をかどわかしたって汚名は消えねえ」 B「じゃあ盗んでないことにしたらいいんですよ!押入れにでも放りこんだらいいじゃないですか。 子供は盗まれたんじゃない、隠れてたんだってことにして」 A「バカハチ、そんなうまく行くか」 C「いや……いや、いいぞハチ、それいい」 B「そうでっか?」 A「お、親分!俺ら、今日の夜に働きに入ったんですぜ。 今はもう明け方近くだ、屋敷じゃ皆起きだして、凄い騒ぎになっていやがるでしょう。 その中で押入れまで忍び込んであのガキ置いてまた帰ってくるんでげすか?」 C「ほかに方法がねえ。いいか仁吉、八兵衛太。名声というものはな、地に落ちればもう容易にあがるこたぁない。 たとえまた日の目を見ることがあろうとも、一遍地についた汚れは変わらねえ あっしら代々の頭目がついできた、この兎丸一家に泥を塗るとあっては、失態どころじゃすまされねえ」 A「はい!」 B「ねェ親分、それでうまくいったらあの子も一味に」 A「だまってろ!」 C「だまっとれ!」 お題:明日 山賊 ハズレ