当たり前だ。そうしなきゃ、カラスが危ないじゃないか。
 俺が降下を念じると、牡牛はなんか格好よい形にカラスを抱いたまま、地に降り立
った。
 カラスも驚いていた。不思議がるように牡牛に尋ねる。
「聞いてもいいかな。どういうことか」
 牡牛はうなずいた。
「たぶん俺にとっては、あなたの魅了は意味が無いんだ。もともと俺はあなたが好き
だったから。あとは俺が、スピーカー越しの声だけでなく、あなたの実際の姿を知る
ことさえできれば良かった。あなたは自動的に俺の能力下に入る」
 手に入れたい、自分のものにしたい、食いたい触りたい感じたいという思いが、牡
牛の能力であると同時に、制限。
 もともとカラスの声に魅了されていた牡牛にとっては、さらなる魅了は意味が無い。
 むしろその魅了の力は、牡牛の欲望を深めるだけだ。
 だから牡牛が選ばれたんだ。牡牛は対カラスの戦いにおいて、かならず負けない資
質を持っていたから。
 牡牛はカラスを傷つけはしないだろうが、もうぜったいに、自分のものだっていう
思いは消さないだろう。
 俺は叫んだ。
「ずりーぞ、牡牛!」
「役得」
 牡牛はここぞとばかりに、カラスをギュウ抱きしている。
 愛情という感情を理解しないカラスには、まだ状況が飲み込めてねえみたいだ。不
思議そうな顔をしている。
「ええと、参ったな。残念ながらぼくは制限のために、きみの思いには答えられない
んだが」
 牡牛はあっさりと言った。
「関係ない。俺が好きだから」
 この野郎。
 俺は念を放って二人を引き剥がそうとしたが、牡牛はものすごい腕力で抵抗した。
 カラスが痛がったのでやめた。どうすりゃいい。この強敵からカラスを奪うにはど
うすればっ。

最終更新:2008年11月04日 23:06