星座で801 @ wiki内検索 / 「ねのと参り2」で検索した結果

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  • ねのと参り2
    175 :やぎの夏休み(ねのと参り2):2008/09/14(日) 20 55 55 ID ???0  誰もいないしんとした拝殿の階段を、山羊と乙女が裸足で下りていく。一歩ごとに階段の 木が太く軋む音を立てている気がした。 「壁のどこかに神様の錠前がついてる。触れるといいことがあるっていう言い伝えもあるんだ」  乙女の言葉は山羊に半分ぐらい届いていなかった。階段を降りきった山羊は乙女と手を 繋いだまま廊下の壁を触り、まだ一メートルほど先が見えている廊下の暗さ加減にほっとした。 子供だましなのだ。お化け屋敷だって夜道だって押入れの中だって暗いけど本当は周りが 見える程度の暗さで、何も出ないとわかっていればそれほど怖くはない。こんなものにわざ わざ並んで通る大人たちはやっぱりちょっと迷信深い。  ……そう思っていたが、そんな強がりが通用したのは先に行った乙女に続いて廊下...
  • ねのと参り_03
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  • ねのと参り2_03
     乙女おじさんは山羊の頭を撫でると拝殿から山羊を連れて自分の家に帰る。その晩は二人で 同じ部屋に布団を並べて寝た。ひそかにいくじなしと馬鹿にされるかもしれないと思っていた 山羊だったが、乙女おじさんは”霊がかかわることはそれぐらいで別にいいんだ”と割り 切ってあっさりしたものだった。  次の日、山羊はねのと参りの話をしようと朝から蟹のそば屋に立ち寄った。蟹は山羊の話 を聞いて眉を八の字にしながら笑っていたが、朝はどうも忙しいらしく「また遊びにおいで」 といって従業員用のそば飴を二つ山羊に持たせてくれた。  人がたくさん居るように見える時期でも、この地方に定住している人間は少ない。  水瓶のところにもにょろの生態を報告しにいこうと思ったが、いかんせん移動青果店なので 朝方の水瓶の居場所は杳として掴めなかった。二人の話し相手のイベントが終了すると山羊は またし...
  • ねのと参り2_04
     藤かごを中心に店を開いている魚おじさんは、余裕があったのか山羊を店の縁側にあげて 色々な話を根掘り葉掘り聞いてきた。都会の事情に飢えていたらしい。「この時期にこんな にお客さんこなくて大丈夫なの?」と山羊が尋ねると、金持ちの道楽だからいいんだよという とんでもない答えが返ってきた。 「店先から見て中が暗く見えるのがよくないんだと思う。お金持ちならお店の中の電気を 増やしたほうがいいよ」 「竹が色あせるかと思ってやってなかったんだけど、考えてみたらそうかもね。もう少し 高級感を出した内装に改装したら売れるかもなあ」  でもそうしたら天秤さんに恨まれちゃうな、といって魚は笑っていた。近所で同じような 商売をしていると付き合いは何かと面倒らしい。 「天秤さんはね、この辺で一番売り上げのいいきれいなお土産屋さんだってことを誇りに してるんだ。過去にもいろいろお土産さんが新し...
  • ねのと参り_02
     二人の注文をうけた蟹が浮かれた調子でまた裏のほうへと戻っていく。山羊はそれを見送って からチラシを手に乙女に尋ねた。 「いつものって何?」 「天ざるそば」 「おじさんと蟹さんってお友達なの?」 「まあな。ご近所さんだし、町会の委員なんかでも一緒になる」  蟹の店のそばは観光地らしく満足のいく美味さ加減だった。お子様そばセットなどを メニューに入れるあたり格式よりも大衆性を好んで取り入れているらしい。お子様そばセット についてきた杏仁豆腐をつるつる口に入れる山羊の前で、乙女は旨そうな息をつきながら そば湯をすすっていた。 「このチラシ、ハイキングとかお祭りとかそばの花を見るツアーとか色々あるんだね」 「山羊も何か申し込んでみるか?」 「うーん、まだ決めてない。この湖のあるところ行ってみたいなあ」  山羊がチラシを前にいろいろ考えていると店の奥からまた蟹が出...
  • ねのと参り
    159 :やぎの夏休み(ねのと参り):2008/09/08(月) 22 45 29 ID ???0  夏も盛り、この時期の川田地方の店舗にはほぼ一ヶ月休みがない。乙女の神社もそのご多分 に漏れなかったが、乙女はある日同僚の神官に半日神社を任せると山羊を連れて近所のそば屋 を訪れた。 「山羊も遊びにきたときはよくここのそば屋で食べてただろう」 「うん。ここってそば屋さん何件ぐらいあるの」 「この辺一帯で言うと三十件ぐらいあるんじゃないか。遠くにも出てる店があるから」  早くも真っ黒に日焼けし始めている小さな山羊の身体に、店に入ると同時にクーラーの冷気 が当たった。いつもの作務衣で気軽に歩く乙女はすっかりこの店の顔なじみだ。席につくや いなやすぐに出された氷水のグラスに透明な結露が日光を含んでまとわりつく。  乙女がメニューも見ずに山羊の前で店内を眺め、山羊がちょこち...
  • やぎの夏休み0
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  • ねのと参り2_02
    「なんにもみえない」 「大丈夫だぞ。一本道だ」  壁を触る手が、ただ前に伸ばしていればいいのにメトロノームみたいに大幅に上下へと ふれて、なるべく大きい面積で壁を探ろうとした。見えない上に二人でいても静かずぎる。 足が思ったように進まない。自分が見えないのをいいことに、あの世の何かがすぐそばにまで 来ていたらどうしようと思った。  冷たい風に混じって、一陣のなまあたたかい風が手先から肩までをのぼった。  いま”にょろ”が触ったかもしれない。触ってても自分ではわからないんだ。 「おじさん、”にょろ”がさわった」 「にょろ? おじさんのとこには黒いのなんかいないよ」 「あとどれぐらい続くの」 「大丈夫だよそんなに長くないから」  乙女おじさんの口調がなだめるような調子に変わっているのを山羊は感じ取ってしまった。 そんなに長くないと言いながら結構長いに違いない。本当に一...
  • 地図をつくる5
    「とにかく中で電気つけちゃだめだからね。勝手にやったら僕、怒るからね」  となりで水瓶が肩をすくめているのがわかる。最終的にはいつも山羊の側が許されるのだ。 大人なんてたまにどうしようもなく馬鹿なのに、自分ばかりが許されている気がして、山羊は 自分の子供っぽさも時々いやだった。  川田での生活もだんだん慣れてきて、山羊は乙女の待つ家に帰ると夕食も風呂も早めに 済ませて布団に入った。明日のことを考えるとわくわくしてしばらく寝付けなかったものの、 派手に寝返りをうっているうちにうまく体が冷えたのかたくさんの夢にみまわれる。  夢の中ではバッタやキリギリスや蝶やクモが人間みたいに喋っていた。山羊自身も何かの 虫になって空を飛んだりする。いつのまにかあの暗い通路の中に迷い込んで、一生懸命出口 を探したまま夢が暗転していった。 * * * * * * * * * * *...
  • 地図をつくる3
     山羊は一通り準備を整えると、今度はメモを片手に持って外に飛び出し水瓶の移動青果店 まで歩いていった。水瓶は昼過ぎになるといつも最初に出会った場所でまったり車を止めて いるらしい。  忙しい伯父さん以外に話をしてくれる人がいるのが、今の山羊には嬉しい。水瓶の座って いる路地には森からの青葉の陰が複雑な模様をくっきりと作っていた。 「へえ。それじゃ山羊はことり池に一人でいくのか」 「はい」 「どうせならトラックに乗せてやろうか。僕もことり池方面に営業をかけると思えば、それ ほど面倒でもないんだけど」 「えっ……」  山羊は水瓶の言葉に迷った表情を見せたが、少し考え込むと膝に手を乗せ、これと決めた 顔で首を横に振った。 「いいです。ひとりで歩くって決めたし」 「いいのかい」 「いいです」 「そうか。……そのプラン表だけど、水筒の中身は水やお茶じゃなくてスポーツ飲料...
  • 夜の楽しみ3
     テレビの音のほかには虫の声しか聞こえない、閑散とした山の中の家だった。 「急に怖くなったのか。山羊は」 「怖いけど怖くないよ。おじさんもいるから」 「そうか」  乙女は畳の上に寝転がっていた身体を起こすと、硬くなっていた身体をまわしてテーブル においてあった麦茶をすすった。 「山羊のお父さんはこの辺の土地が苦手なんだよ」 「そうなの?」 「うん。山羊が今まで何回かここに来たときも、お父さんあんまり長居してなかっただろう。 ちょっとそわそわして」 「うん」 「この辺の地方にはいろいろなものが棲んでいるっていうが……おじさんもお父さんも何度 か、まれに見たことがあるが、山羊のお父さんは特にそういうのが苦手だった。中学に入った 頃にはもう山を避けるようになっていたな。あれでも小学生のころは木登りとか山遊びとか よくやってたんだが。  お父さんは暗闇や物の怪が怖いの...
  • 地図をつくる4
    「なんでにょろがいるのに観光名所って言ってみんなを通してるんだろ。あそこ」 「僕があそこを通ったときはにょろには会えなかったからなあ。人間が多いときには出て こないんじゃないだろうか。暗いにしても人が喋っててうるさいし」 「水瓶さんもあそこ通ったの? ……お客さんと一緒のときだったの?」 「うん。人気スポットだからね。一人や二人なんていう少人数で入れるのはよっぽど特別待遇 じゃないとなあ。乙女さんがよければ今度懐中電灯を持って一人で入ってみたいと思うんだが、 君もどうだい?」  山羊はあの場所にためらいもなく懐中電灯を持ち込もうとする水瓶の態度にやや眉をよせた。 そりゃ光があったらあの場所は怖くもなんともないのだろうが……抗議したくなったが自分が あの場所に入って、途中で引き返したことを知られるのはいやだった。 「にょろは明るいのが嫌いなんでしょ」 「多分ね。でも生活...
  • 地図をつくる2
     ふたたびどこへ行こうかと思案して、山羊は蟹のくれた観光チラシの湖を思い出した。 湖面が鏡のように周辺の森と、山脈と空を写しこむ神秘的な景色。 「おじさん、蟹おじさんのくれたチラシのあの湖って一人でいける?」 「御鏡池《みかがみいけ》か」 「うん」 「あれは川田山の中腹にある池だ。見に行こうとしたら車を使って、さらに一日登山になる。 山羊一人じゃちょっと行かせられないな」 「ツアーでもだめ?」 「子供は保護者がいないと参加できないよ。人様に迷惑はかけられん」  子供にやすやすと征服されるほど川田の自然は甘くないのだった。一筋縄でいかないん だなあ、と山羊が頬杖をついて空想の山を見上げていると、乙女おじさんは思い出したように 声を明るくして山羊にこう付け足した。 「御鏡池は無理だが、ことり池ならどうだ?」 「ことり池?」  山羊は頬杖をついた状態から黒目がちな目を...
  • 自由研究05
     話を聞きながら山羊は納得とともにさびしさを覚えた。見せたくない感情があるとつい 無口になってうつむく。水瓶は山羊の心を知ってか知らずか、構わぬ顔をして自分の手帳を パラパラとめくってみせる。中には山羊の見た黒いにょろ以外にも異形のものたちがたくさん 書かれていた。 「君もノートにつけたらどうだ。自由研究とか」 「幽霊はノートにつけても自由研究にならないよ」 「君はあれを幽霊だと思っているのか? 僕はあれがどう見ても新種の生物に見えるんだが」 「どっちにしても学校の先生にうそっこ書いてるって思われるのは一緒だよ」 「僕は君ぐらいのころ街中の農家を訪ね歩いて片っ端からすいかを叩き割ったことがある。 農家ごとのすいかの違いを研究するためだ。大きさ・甘さ・たねの数・日照具合・水遣りの 時間・土のペーハー値・肥料と農薬の使用量まで全部調べた。ちょっとばっかし割った量が 多かっ...
  • 『ようこそ星座の村』※蠍へび→牛
    星座村 ※蠍射手 1/3 2006/12/22(金)06 12 忘れた頃にさり気なく投下 注)・元が蛇な為、蠍の基本的なイメージより低能・短絡的   ・射手も医者ですが、設定通り言動が子供      ☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆ 木扉を開けて見れば、この付近で何度となく見掛ける謎の男、蠍が立って居た。 勝手知ったる牛宅でコトコト鍋を煮ている時だった。 「あ、蠍だ。」 オレは初対面も同然の相手に向かって、指を差して呼び捨てにした。 すると要領を得ない蠍は若干眉をひそめ、誰だ? ってな顔をした。 以前、通りすがりにこの男を見かけた時の第一印象は・悪者・だった。 スラッと着崩した黒衣の出で立ちは怪しく、切れ長の鋭い目つきと整った容姿。 自分とは対照的とも思えるミステリアスな雰囲気が、カッ...
  • ※蠍射手
    星座村 ※蠍射手 1/3 2006/12/22(金)06 12 忘れた頃にさり気なく投下 注)・元が蛇な為、蠍の基本的なイメージより低能・短絡的   ・射手も医者ですが、設定通り言動が子供      ☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆ 木扉を開けて見れば、この付近で何度となく見掛ける謎の男、蠍が立って居た。 勝手知ったる牛宅でコトコト鍋を煮ている時だった。 「あ、蠍だ。」 オレは初対面も同然の相手に向かって、指を差して呼び捨てにした。 すると要領を得ない蠍は若干眉をひそめ、誰だ? ってな顔をした。 以前、通りすがりにこの男を見かけた時の第一印象は・悪者・だった。 スラッと着崩した黒衣の出で立ちは怪しく、切れ長の鋭い目つきと整った容姿。 自分とは対照的とも思えるミステリアスな雰囲気が、カッ...
  • 大正浪漫 蟹×蠍2
    「お、おやめください! 私は、そんな…」 蟹は蠍の肩をつかみ、夢中で自分から引き離そうとした。 目が合った。愕然とした。 いつもうつろな無表情だった蠍が、婉然と微笑んでいる。淫らな気配が熱気に変わって、蠍から自分へと吹き付けてくるようだ。 いつか漏れ聞いた、侯爵と川田の密談が記憶に甦った。体に成分が蓄積されたせいで、近頃は投薬しなくても不定期に発作を起こすようだと、言っていた。今、それが起きたらしい。 「若様、いけませ…ううっ!」 再び唇が重なった。侵入してきた舌に口の中を探られた瞬間、蟹の体から力が抜けた。蠍の指が素早く動いて、蟹の襟元をくつろげ、帯を解いている。 (いけない…こんな、こんなことは…) 蠍をはねのけ、殴ってでもやめさせなければならない。このままでは自分は、あの川田という男と同じになってしまう。 そう思うのに、唇が離れても蟹は動けなかった。しっとり潤んだ蠍...
  • カジロワ23_67
    カジノ・ロワイヤル 乙女と天秤と牡牛 1/2 774チップ 2007/09/22(土)04 31 66の続きです。第四ターンに突入します。長々スレをお借りしてすみません。 ──長い夜の中で、乙女は強度の不眠に苛まれている。 すこしドアから物音が鳴ると心臓が跳ね上がり、うつらうつらしたらしたで 起きた瞬間にあの男が側にいるのではないかと鳥肌が立つのだ。 テーブルランプ以外の明かりを消した環境で、 もう闇があの男──山羊自身ではないかと錯覚してしまうほどだ。 「あの」と横から少年の声がして、そのときも乙女は心臓が恐怖に痛むのを感じた。 見返すと、そこには目にくまを作った天秤が立っていた。 天「(侘しげに微笑みながら)……ミルクティー、如何ですか。缶ですけど」 テーブルに座り、乙女と一緒にミルクティーを飲む天秤の目はやはり乙女と同じように、...
  • うーちゃんとさーちゃん5
    うーちゃんが好きだって言えなかった。僕の初恋は死に掛けていた。 うーちゃんが新幹線に乗る前に本当のことを言おうか言うまいか迷って、何日も眠れなかった。 僕はうーちゃんが引っ越す日に花束を買った。 何でそんな哀しい花束を買ったんだろうと思いながら。そうやって、会う気もないのにうーちゃんの旅立つ駅まで一人で行った。 うーちゃんはサッカー部の連中に改札のところまで見送られていた。 遠巻きに、見つからないようにそれを見つめていた僕を見つけたのはうーちゃんじゃなく羊のやつだった。 「なにやってんだよ蠍」 僕はうろたえながら半ば肝が据わっていた。サッカー部の連中がいたからやたら怖い顔をして、 そのままずんずんうーちゃんのところへ歩いていって無言で花束を押し付けた。乱暴で馬鹿だった。 花束を押し付けた瞬間泣き出しそうになってその場から逃げ出したいと真剣に思った。 「さーち...
  • 風3_05
     水瓶は、厳しい顔をしていた。 「久しぶりだな牡羊。きみにとっては10秒ぶりくらいか」  1秒ぶりくらいだよ。  いい加減、俺の唇を休ませてもらいてえ気もする。俺だってけっこう照れくさい んだ。  水瓶はしかし、照れなどみじんも感じさせない様子だった。  俺の両肩をつかみ、顔を見据えてきたのだ。 「確認する。きみにとって川田は悪か」  それについては、きっぱりと頷いた。 「ああ。俺の敵だ」 「こちらの僕は川田に背いた。そうだな?」 「そうだよ」  そのときだった。理科室のドアが開いた。  そして俺は、いま教室の真ん中で、目の前から聞いていた声を、ドアの方向からも 聞いた。 「きみはきみで、好きな運命を選べば良い」  俺のよく知っている、現在の水瓶がそこに居た。  むかしの水瓶は驚いていた。 「僕、か」 「ああ。僕だ」 「しかしこれは。僕が、僕に会って...
  • 水5
     なんで出会うやつ出会うやつ、初対面なのに、俺の名前を知ってるんだろう?  疑問には思ったけど、相手は年上っぽかったので、またちょっと頭を下げた。  すると男は目を細めて、なんか怪しい雰囲気を出しながら、唇を開いて、俺に……、 「おいで」  俺に、俺は、俺はこの男のところへ行かなければならない。  手招きに従って俺は歩く。この知らない男のところへ。  男は俺を部屋に招きいれた。部屋の内装はなんか、石油の出る国っぽいかんじで、線香みたいなモンの匂いがした。  俺は来た。来たけれど、どうすればいい?  声が俺に囁く。 「俺は蠍。呼んで」 「……蠍」 「もっと」 「蠍。蠍。蠍」 「おまえは俺が好きだ」 「俺、あんたが好きみたいだ」 「抱け」  俺は蠍をギュウ抱きした。なんで? なんでって、俺はこいつが好きだから……。  頭の中で警報が鳴る。でもなぜだかわからない...
  • 超能力14_06
    「僕は獅子の過去をすこし知ってる。なぜ獅子がむかし何故、自分がリーダーだった グループを抜けたのか知ってるかい?」  俺は首を横に振った。本当に知らなかったからだ。  天秤は裸のからだを、俺のほうに向けた。 「裏切り者が出たからだ。メンバーの誰かが獅子を裏切った。そして裏切り者の正体 は不明なままだ。獅子としては誰も疑いたくなかったんだろうね。狙いが自分なのは 明らかだったから、グループを解散するしかなかったんだよ」 「その裏切り者が、孔雀かもしれねえって?」 「あるいは。だから彼を家族に会わせるのは反対だ。仲間を裏切るような人間は、危 険だ」  天秤の言葉が、自嘲に聞こえたのは、俺の気のせいだろうか。  俺は天秤を説得することをあきらめた。そもそも向いてねえ。俺は俺の言葉でしか 語れねえ。 「天秤! 頼むからやめてくれ。この通りだ。天秤が正しいのかもしれねえが、...
  • 火2_06
     射手は欠落していると誰かが言ったらしい。  欠落の意味はわからない。けどなんとなく、ぼんやりとした意味が、感じられるよ うな気がした。 「止まった心臓は魚が動かしたの?」 「いや、俺が痛みを気力でねじ伏せて、人口呼吸と心臓マッサージで動かした」 「よく復活したなあ。あぶねぇ」 「ああ危ない。あのとき思ったんだ。射手の欠落というやつを埋められる人間が必要 だと」 「どういうやつ?」 「わからん。だか俺でないことは確かだ。だから、おまえかもしれない」  俺?  それは……違うんじゃないか? 「俺どっちかというと、あんたがピンチだったら、射手と似たような行動取ると思う ぞ」  死んでも助けなきゃならねぇヤツだったら、死んだって助けるだろ普通。  獅子は、眉をしかめた。 「大きな世話だ。あのときは特別だ。おまえに助けられる俺じゃない」 「うるせー。ぜったい助ける...
  • 火2_02
     だから、射手を怒鳴りつけて部屋に駆け戻った俺は、たぶん最悪に失礼なやつだ。 最低だ。  だけど俺の中で、悲しいのとか悔しいのとか、いろんな感情がごたまぜになってて、 どうしようもなかった。  ずっと布団にもぐってた。ドアには鍵をかけてた。途中で蟹とか魚とかが、部屋の ドアをノックしてきたけど、無視した。  それで、夜中になって、さすがに腹が減って、そろそろ下に降りようかなあと思い だしたところで、気配がわいた。  射手が部屋の真ん中に立ってた。  俺を見ると、ぱっと笑顔を作って、手を差し出してきた。 「遊びに行こう」  ハイとかイイエとか、そんな言葉を思いつく暇もなかった。  射手の手が俺の腕に触れ、それと同時に俺は、知らない場所に居た。  視界いっぱいに広がる海と、ものすごい星空。耳には波音。鼻には潮の香り。  誰も居ない海辺は、ただそこに在った。砂浜に俺と...
  • 土8
    「血の海だ。大きな家の玄関に、中年男性が倒れている。腹部から血を吹き出していて、あきらかに死んでいる。この彼が今「おやじ」とつぶやいた。彼は走る。家の廊下を走ってあちこちの扉を開いている。誰も居ないのを確認してから2階に移動した。またひとつのドアを開いた。その部屋に二人の人物の姿を確認。男と女。男は若い。女は中年女性。彼は、中年女性に対して、おふくろと叫んでいる。女はぐったりしていて反応しない。若い男が彼に言う。おまえの能力を知っている。今すぐその力を利用して、とある人物を殺してこい。でなければこの女の命は無い」  つまり山羊は、この男の体験した、過去の出来事を読んでいるのだ。  俺は思わず言った。 「脅されてんじゃねーか!」 「ああ。彼も、この脅しに逆らうことはできないと判断している。そして自分の能力を思い返している。なにかを取り寄せる力のようだ。食事や、美術品や、楽器を」  ...
  • 風2_10
     こいつに理屈をこねられると、俺はなにも言えなくなる。  双子はやっぱり素早くなにかを悟ったようで、俺の頭をくしゃくしゃに撫でてきた。 「要するに、おまえ、天秤に気に入られたんだよ。愛されてんの」 「好かれるようなこと言ってねーぞ今日の俺は。グサっと言っちまった」 「グサっと言っちまったのは敵のせいだろ。最近は、おまえばっか危険な目にあわせ てるな。悪いな」 「それはいいんだよ。けどさ」 「良くねーって。これからはもう、そんな目にはあわせねえから。大丈夫だから」  言いながら双子は俺のあたまをグシャグシャにする。  水瓶と目が合った。水瓶は、なんか変な目で双子を見ていた。  そのときの俺には、水瓶がそんな目をしたことの意味が、まだわかっていなかった。  風の中でも天秤に焦点を。まいど読んでくださって有難うです。 続き・土星座編へ 超能力SSメニューへ
  • カジロワ37_81
    カジノ・ロワイヤル 乙女と射手(+牛) 774チップ 2007/09/27(木)19 14 80の続きです。 それぞれがそれぞれの行動をとる中、 射手は油性マジックを片手に片耳でラジオを聞いていた。乙女の部屋だ。 目の前には眠っている牡牛がいる。危機を察知したのかうなされているようだ。 ぐずぐずしてはいられない。勝負は一瞬で決する。 一番大事なのは額に「肉」と書くべきか「オー○ービーフ」と書くべきかそこのところだ。 乙「おい」 後ろから乙女のツっこむ声がしてひゃっと身体が跳ねた。 乙「お前何か書こうとしてたろ」 射「ち、チガウヨー。ほら、手にオッズ書こうとシテタンダヨー」 乙「そんなあからさまなポジションに座って言い訳がきくかっ! お前本当に目が離せん奴だな!」 射「ダッテ、ダッテヒマナンダヨー(涙)」 乙「そのカタコト言葉やめ...
  • 風4
     ……そのとき俺の脳裏に、ある光景が浮かび上がった。  ガキのころ。暑い夏の昼下がり。公園。ベンチに腰かけてアイス食ってる兄ちゃん。 「僕はこの双子や天秤と違って、誘惑のための交渉というやつが苦手で……」  兄ちゃんが羨ましかった。なにせ暑かった。それに、うすいビスケットにアイスを挟んだそれは、高級品だった。 「成人女子にキスをねだるのは問題だが、まあ子供だし、男の子だから良いかと。そしてふだん魚を見ているから、子供にはおやつが……」  ――にーちゃんいいな。それうまそうだな。  ――いいよ、あげるよ。……ぼくが口にくわえてるやつなら。  俺はコノヤローとわめきつつ水瓶に殴りかかった。俺にはその権利があった。俺の人生最初のキスは、文字通り大人の都合で奪われていたわけだ。俺には怒る権利があった。周囲の家具も俺に答えてくれた。  舞い飛ぶ家具の中を、天秤がすいすいと移動していく...
  • 水3_05
     俺の疑問をカラスの笑顔がとろかしてしまう。すっげぇ格好いいなと思う。  俺もカラスが好きだ。ああ、こんなやつになら、何をされてもいいような……。  蠍が言った。 「牡羊。嘘だ。気づけ」  すっと頭が冷えた。  俺は気づいた。俺はカラスに嘘をつかれた! 当たり前だっ、なんで俺がカラスに 惚れられなきゃならねえんだ!  戸惑う俺にカラスが言う。 「でもぼくは牡羊を愛してるし、牡羊もぼくが好きだろう?」  ああ好きだ。なんでかわかんねーけど、今このときから、俺はカラスのものだ。  蠍が言う。 「嘘だ。魅了の能力だ。牡羊はカラスが好きじゃない」  そうだ俺はカラスが好きじゃない。なんだと能力だと。みりょーって何だ畜生。  しかしカラスがまた、 「能力でもいいじゃない。ぼくはきみを愛してるんだから」  と言ったので、なんか能力でもいいような気がしてきた。  この気持...
  • 土3_04
    「蠍と魚もついて行ったから、買い物そのものは楽なんじゃねえの」 「しかし食事の支度が出来ないからと、俺が頼まれていたんだった」  ベッドを降りようとする乙女を、俺は全力で押し留めた。 「なんで大人しく寝てられないんだよ!」 「病気でもないのに寝てられるか! 離せ!」  仕方が無いので、俺は能力を放った。  ベッドに固定された乙女は、俺に向かって、こんなやり方はずるいとかぬかしやが った。  俺は言い返した。 「メシくらい誰でも作れるだろ」 「誰もが忙しくて作る暇が無いから、俺が頼まれたんだろうが。ええい、離せという んだ」 「いやだっ」  乙女は刺すような目で俺を見た。  それから、ふっと息を吐いて、すごく落ち着いた声音でこう言った。 「牡羊。俺は大丈夫だ。いくらなんでも料理くらいはできる」  作戦を変えて、俺を説得することにしたらしい。  俺は考えた。 ...
  • うーちゃんとさーちゃん6
    ホームまで上るエスカレーターの中も、ホームも、人でいっぱいだった。 「さーちゃん」 「何」 「小学校のときさ、僕が校庭で泣いてたときにさーちゃん手繋いでてくれたじゃん。 あれ、振り払ってごめんね」 僕はあの日のことを昨日のように思い出せた。うーちゃんの声の優しさに言葉が詰まった。 「……そんなの、覚えてなくてもいいのに。僕じゃあるまいし」 「うん。でも、ごめんね。 僕、さーちゃんに嫌われたのかと思って、何でだかずっと考えてた」 「嫌ってなんかいないよ」 「……そうだったの? じゃあ、僕がずっと勘違いしてたのかな」 「うーちゃん」 「何」 「僕がうーちゃんのこと好きだって言っても、嫌いにならないでいてくれる?」 「うん」 「すごい特別な意味で言ってるんだよ」 うーちゃんは僕の気持ちを正確に知っていた。それは、返事をするときのちょっとためらう息遣いで知れた。 ...
  • 火3_07
     獅子は考えると、首を横に振った。 「それは違う。あんなものと、それを同じにするな」 「ってことは、おまえも好きだったのか」 「ああ」  獅子は当然、水面に突き出た竹筒に火をつけた。  孔雀はもがきながら浮上し、げほげほ言ってた。  俺はもう孔雀が哀れになってきたので、孔雀の姿を空中に固定し、俺たちの手前ま で引き寄せると、手足を大の字に引き伸ばした。  俺は獅子をみつめた。視線には、もうラクにしてやれ、という意味を込めたつもり だ。  そして、獅子の全身全霊を込めたアッパーパンチをアゴに受けて、孔雀は泡をふい て気絶した。  射手が拍手した。 「すげえ。いいコンビだなーおまえら。格好いいなあ」  俺は悲しい気持ちで射手に問い返した。 「おまえ何も感じねえ? こいつを見て」 「哀れなくらい馬鹿で、可愛いと思うぜ。悪いやつじゃないんだろ?」  最後の問いは、...
  • 水2_04
     話が完全にそれたことが有り難くて、俺は気軽に了解した。  河原を歩き回った。ボールはすぐに見つかった。川の中の、流れのよどんだところ に引っかかってる。  俺は靴と靴下を脱いで、ズボンのすそをまくりあげて、川の中に入り、ボールに近 づいていった。  つめてー。なんか足元ぬるぬるするし。あと一歩で手が届くと思った。そのときだ った。  なにかが俺の足を引っ張り、コケた。  あわてて足元を見たけれど、なにもなかった。  最初、俺は、ドジをやったんだと思っていた。川底の石に足をすべらせたか、つま づいたかしたんだろうと。  しかし違った。俺の足首に感触がある。俺は足首を掴まれている。見えない何かに。  俺は先輩を振り返った。  先輩は、両手でなにかを掴むポーズを取っていた。その姿のままこう言った。 「戻って来いよ牡羊。試合に使えばいいじゃねえか、力を」  水が冷た...
  • 土3_02
     見ていた山羊が、それで良いというふうに頷いた。 「不安神経症、パニック障害。過呼吸症候群。制限によるものだ」  山羊の説明によると、本人は死ぬほど苦しいらしいが、どこが悪いというわけでも ないんだそうだ。過度の不安が神経を狂わせているだけらしい。  辛い制限だなと言うと、山羊は悩ましげに眉を寄せた。 「からだの問題は、癒えさえすれば問題ないが、心の問題は尾を引く。俺も制限のあ いだは心を失っているが、正直、怖いよ。究極に無防備な自分をさらすわけだから」 「なにかされても、どうしようもないわけだ」 「ああ。まわりの人間を疑ってしまう自分が嫌になる」  心を縛る制限。だから魚よりも、蠍の領域なのだが、どちらも外出している。  薬箱をあさろうかと言うと、山羊は考えるようにうつむいたあと、やはり首を横に 振って、俺の耳元に口を寄せた。 「それよりもむしろ、心配なのはこのあ...
  • 風2_07
     矛盾していると思う。  だから俺は、思ったままのことを言った。 「嫌なことを、無理にやるこたねーだろ」 「……」 「嫌だったから川田ん所を抜けてきたんだろ。嫌ならもうやるなよ。あんた本当は優 しいんだから、向いてないことするなよ」  天秤は服を着おえて、しばらく黙っていた。  それから、ふいに俺を抱きしめてきた。  天秤の動きはそつがなく、手の動きは優しかった。続いて聞こえてきた声も、本当 に優しかった。 「優しいのはきみだ。きみが家族になってくれてよかった。本当に」  天秤の声は震えている。その震えを隠すために、天秤は俺を抱き続けた。  俺は天秤を抱き返した。天秤とはぜんぜん違う、強い力で。  ※※※  家に帰りついたとき、双子は驚いていた。天秤を見てこう言った。 「おまえ、どういう心境の変化だよ」  俺のために買われた、動きやすくて、シンプ...
  • カジロワ28_72
    カジノ・ロワイヤル 水瓶vs蠍、蟹vs魚 774チップ 2007/09/24(月)18 33 71の続きです。ボツになった一行↓ 水「ああ。余談だが、ベートーベン自身は射手座だ」 射手とのまな板ショーを終えた後、双子は観衆に挨拶だけを済ませて自室へと戻ってしまった。 一段落つくとプレイヤーたちは再び戦いの場に戻る。 射手に精神的ダメージを被った(?)魚も、涙目になりながら蟹とのゲームに戻ったようだ。 水(双子は部屋に戻ったか。彼らしい。双子はメンタル面の調整に気を遣うたちだからな……。   ……一方で蠍は。こいつは弱者から徹底的にむしり取っていくタイプだ。   戦力的にはこちらが2、あちらが3ぐらいか。少しシビアにいかなければ) 水瓶はポーカー卓の正面に残った蠍を見据えた。 暗闇の中を走る鉈、いや毒針のような目つきがこちらを静かに観察してい...
  • 風2_02
     俺は激しく食いながら、疑問に思っていたことを尋ねた。 「あんた仕事なにしてんの? けっこう金持ってるみたいだけど」 「なんだと思う?」 「俺が聞いてんだよ」 「ちょっと言いにくい職業なんだ。まあ、肉体労働かな」  意外だ。ツルハシで穴でも掘ってるんだろうか。  俺は野菜類には目もくれず、ひたすら肉を食い続けた。  やっと腹が満足したので、デザートでも食おうかな、と思ったところで、事件が起 こった。  俺らは四人がけのテーブルに二人で座っていたのだが、俺の横の椅子と、天秤の横 の椅子に、とつぜん、二人の男が座ったのだ。  二人とも手に皿を持っていて、そこにはケーキがぽつんと一個乗ってた。明らかに 食う気が無いような皿の様子だった。  天秤の横に座った、やたらと尖ったかんじの男が、天秤にこう言った。 「やっと見つけたぜ、天秤」  それから、俺のとなりの真面目そう...
  • 十二国王子 獅子王子×山羊王子
    お借りします 名無しのとも 2005/10/19(水)18 59 12の王国とその王子に萌えたので、地味な獅子王子×山羊王子で投下。 (とは言っても山羊王子のみスマソ)  またか。  山羊王子は自室で獅子王子からの書面を読み終えて思った。 「若。東の果てとはいえ、十二国の中でも歴史と伝統、そして文化を誇るわが国に、同盟を結ぶか、それとも戦うかとまだ獅子国の王子は言うのですか」 その入口で座っている家臣は王子に聞いた。 「そうだ。獅子国から我が国は蟹国と並んで遠く、獅子国がわが国と同盟を結ぼうが、攻め入ろうが余りメリットが無いのにも関わらず、何度もこのような書面を送ってくるのだ」  眉間に皺を寄せ、王子は返事をした。 「王は、こうなった以上は戦うしかないと言っておりますが」 「そうか。そうするよりないだろうな、そなたははるかなる昔あった『カミカゼ』を信じるか」  王子の呟きを聞いた家...
  • 土2
     駐車場までの道を歩きながら、俺は言った。 「あんた、嘘、うまいな」  乙女は太陽光に眼鏡を光らせながら、じろっと俺を見下ろした。 「今さら後悔か?」 「いいや。ただ、あんたのその嘘の上手さが、あんたの能力なのかなあって思って」 「ぜんぜん違う」 「じゃあ、なんだよ」 「そのうちわかる」  なんで隠すんだ。  駐車場までは遠かった。田舎なんだから、車ならそこらへんの空き地にでも停めればいいのに、乙女は頑としてそれを嫌がったのだ。どーも頑固なひとらしい。  やっと車が見えてきた。ほっとした。  そのときだった。なにか、乾いた音が響いたのだ。爆竹の音に似ていた。  乙女のからだがぐらっと揺れた。その肩に、赤い染みがついていた。  どんどんと広がる赤い染みを見ながら俺は、なにが起こったのかわからなくて、ただ呆然としていた。  乙女が無事なほうの腕で、俺を突き倒した。俺...
  • 水2_10
     だから俺は、さっき魚が抱いてくれたときに復活した体力のうち、ほんの少しを、 ただ一箇所の一点に向けて、放ったのだった。  カジキの胸に刺さっていた釘は、俺の念に従ってさらに突き刺さり、深く深く突き 刺さり、カジキの心臓を貫いて背中に抜けた。  魚は攻撃のために傘を拾いあげていたのだが、俺のやった行為に気づくと、驚いて 俺を振り返った。  俺は、ほっとしていた。この優しい男に、残酷なことをさせずにすんだことを。  魚は倒れたカジキを見て、それから俺を見ると、ぼろっと涙をこぼした。 「なんでこんなことになってしまうのかな。ぼくもあなたも、こんなことは望んでい ないはずです。なのに」  口調が変わってるってことは、すこし年齢が下がってるのか。  魚は俺を抱きしめて泣いた。泣きながら子供に戻っていった。同じ言葉をくり返し ながら。 「大丈夫ですか。痛くないですか? ……...
  • 超能力14_03
     射手は辺りを見回すと、大声で叫んだ。 「天秤ー。どこだー!」  がさがさと足音がした。  俺は警戒して身構えた。距離を取って、目前に意識を集中する。  しかし表れたのは天秤だった。どこかに置いてあったらしい服のボタンを止めつつ、 こちらに歩いてくる。  そして天秤は、首をかしげた。 「まあ大声でぼくを呼んでしまった時点で、これを言っても意味が無いんだけど。大 きな音を出すのは、やめたほうがいいんじゃないかな」  射手は、肩をすくめた。 「わざとやってるんだ。予定に無い行動」 「なぜ?」 「作戦らしいぜ。俺らがこうして、相手の行動を読んで行動しても、相手はさらにそ れを読んでるから、その予定をさらに……。わけわかんないな」 「うん。わからない」 「井戸マークに○×書いて遊ぶゲームに、勝手に△をつけてみよう、みたいな……」 「うん。やっぱりわからないから、早く...
  • 土3_08
     乙女と呼びかける俺の声を、乙女は無視した。 「これは能力なのだと聞いて安堵した。俺は頭がおかしいわけじゃなかったんだ」 「ええと、よくわからねえが、だから納得したって話なのか?」 「納得は……、実は今でもできない。はっきりと思い出せるからだ。あのとき幻覚だ と思っていたものを」 「……乙女?」 「トラックが横転する。その横腹に突っ込んでいく乗用車。ぶつかって潰れてゆく車。 ガラスが割れる。座席にある二つの体が、揺れる。ぶつかる。不自然に首が折れる。 侵入してくるトラックの荷物。鉄骨だ。それがあっという間に、からだを貫いて……」  俺は乙女の肩を掴んで揺さぶっていた。  乙女はいま、能力を使っているわけじゃない。しかし、なにかの映像に捕らわれて いる。  山羊の言っていた通りだった。乙女は、自分で自分を傷つけ始めている。体をとい う意味でではなく。  どうしよう...
  • 七夕獅子蟹6
     怖かった。ドアの向こうの人々に答えることが。  またすぐに、気持ちがこみ上げて醜態を晒してしまいそうで。 「蟹! もしかしてさ、蟹は女の人を連れた獅子を見なかった!? 長い髪の。  そのせいだったら絶対勘違いしてるから! 開けて」 「そ、そうだ! 俺のせいじゃないぞ」  なにが獅子のせいじゃないって? 「どうしてうちにまで来るんだよ……」  怒りに震えた声が思ったよりも小さくて、急に腹が立ってくる。なにが獅子のせいじゃない って? こんなに、こんなに酷い思いで一日動けなかったのに。  蟹は泣きながら怒りにかられてゆっくりと立ち上がった。ものものしい足取りで、玄関に 立ってドアを開ける。音だけで不穏な感情が溢れ出ているのを知らしめながら。  来客は三人いた。一人は魚。そしてもう一人は獅子。それから長い髪でスカートを履いた男。  なんとな...
  • 火2_04
     ふざけた論に対して、獅子はまっとうなことを言った。 「ふざけるな」 「俺は真剣だ」 「真剣ならなおさらふざけるな。俺はどう考えたってMじゃない。Sだ」  そっちが問題なのかよ。  射手は真剣な顔で足元を見つめた。 「いいアイデアだと思ったけれど、根本的に無理があったか」 「おまえこそMになれば良いんじゃないか? 動けなくなっても落ち込まずに済む」 「それじゃ俺の問題は解決しねぇ。俺さ、手や足が動かないのも嫌だけど、いちばん 嫌なのはチンコだと思うんだ」 「……」 「好きな子のところに飛んで行って、いざ本番って時にチンコが役に立たなかったら、 俺のプライドはズタズタだ」 「たしかに、それは恐怖だな」 「だろ? だから俺はふだんから自分に言い聞かせてる。夜這いだけは歩いて行くよ うにしようって」  馬鹿だ。こいつら、馬鹿だ。  大笑いしながら俺は、今まで悩ん...
  • 水2_08
     弱りきった俺の態度はしかし、カジキの気持ちを煽ってしまったようで、苦痛が強 まっただけだった。  けどこの苦痛のおかげで、そろそろ意識を手放せそうだ。  そのとき、俺は、声を聞いた。 「牡羊!」  いやな感触がすっと抜ける。俺は声の主を判断し、あせる。  必死で叫んだ。 「来るな魚、逃げろ!」  また俺を呼ぶ声。カジキの背後の遠くの方から、魚が走ってくる。手に傘を二本持 ってる。俺を迎えに着たのか。  魚に戦う力は無い。俺は焦ってまた逃げろと叫ぶ。しかし魚は足を止めない。  カジキが手のひらをむこうに向けた。  魚の肩に太い釘が刺さり、やっと魚は足を止めた。  息を荒く吐きながら、魚は自分の肩を見た。それから呆然と俺を見た。それからカ ジキを見て、悲しい目をした。 「きみはなぜ、こんなことをするんだ。いったいなぜ」  カジキは、肩をすくめた。 「不公平だ...
  • 双子誕生日ネタ3
    「ごめん。大声出して」 蠍は突然俺に謝ると、左手で両目を覆った。あれ?こいつ何かヘンじゃない? 「蠍?どした?」 「なんでもない」 「なんだよ気になるじゃん。あ、もしかして改めて俺に告白しちゃうとか?わか ってるって、お前の気持ちくらい…」 「わかってない」 「え?」 「俺が、ほんとに好きだったらどうする?たぶんお前が言うのとは違う意味で」 「…え?」 「俺は……俺は、本気で双子が好きだ」 蠍の絞り出すような声が聞こえて、俺は頭が真っ白になった。「好き」って、そ ういう「好き」って意味?マジで?マジで?俺の気持ち、報われるの? 偶然同じ講義に出ることが多かった俺と蠍は、いつのまにか世間話をするように なった。最初はマジメで無愛想なつまんないヤツだと思ったけど、いつもクール ぶってるあいつの口から、ある時ふと方言が飛び出したことをきっかけ...
  • 風3_06
     俺の上に乗ったまま、現在の水瓶は言った。 「結論から言うと、川田の放った刺客が、いま牡羊を狙っている。光線をあやつる能 力者だ」  過去の水瓶がつぶやくように言った。 「すべて、本当なのか」  現在の水瓶が答える。 「本当だよ。きみが、今よりもさらに未来のぼくからの伝言を受け、調べあげた不幸 な事実は、すべて本当だ」  言いながら水瓶はふところに手を入れた。なにか丸いものを取り出す。 「光線をあやつる能力者の存在を知ってから、彼に対抗する術を考えていた。まあ簡 単だった。こうすればいい」  言いながら水瓶は、その丸い鏡をかかげた。  窓から飛んできた光は、入ってきたのときっちり同じ角度で、鏡に反射した。  光線の狙っている位置を知らなければ、できない行動だった。  水瓶は面白がるような目を窓に向けた。 「ちなみに能力者は向かいの校舎に居るんだ。光線は眉間から...
  • カジロワ32_76
    続きです。ちょっと余計に語らせすぎて長くなりました。水瓶がトンデモですいません。 絵板[113]姐さん、その他読んでくださっている皆様、ありがとうございます。 戦いが始まる。羊は黙って獅子の前に座ると場に参加料のチップを投げ、 じっと獅子の顔を見据えながらカードを手にする。 魚が脱落するまでの戦いで相手のプレースタイルは飲み込めたつもりだ。 この男は思い切り良くカードを追加し、必要があれば豪胆にチップのせり上げに応じる。 先にどちらが音を上げるか度胸試しを楽しんでいる節すらある。 いずれにも羊は正面から戦いを挑む。自分に対し勝負で一歩も引かない羊の気迫を 獅子はひどく気に入ったようだった。 獅「そうだよなあ。こうでなければ面白くない」 羊「随分と腹ペコだったみたいだな。あんた」 獅「ん?」 羊「賭けにさ。腹が減って、腹が減って仕方なかったみたいだ」 ...
  • 水月
    水月 ななし 2007/10/13(土)21 21 以前双蠍に対する10星座の反応を投下したものです。 双子を掘り下げてみました。暗いのでご注意ください。 暗い部屋。椅子に身を預けてテレビを睨み、膝を抱えて朝を待つ。 頭痛が止まない。ここのところずっと。携帯の電源はもう二週間入れていない。 ずくずくと疼くような不快感が纏わり付いている。左手で額を抑えると、皮膚の下で脈がのたうつ。 目を閉じると、乾いた眼球が急に水分を得て疼いた。 キッチンの冷蔵庫が低く唸る。右手で自分の肩を強く抱く。 身体が収まるこの椅子が好きだ。細く息を吐くと、寒くもないのに咽喉が震える。 もう誰とも会いたくない。笑いたくない。声を出すのも億劫だ。 皆死ねばいいのに。 爆弾が落ちて、全部灰になって、誰もいない世界で寂しさに泣きたい。 そうすればきっと素直に涙の海で溺れられる...
  • 双子誕生日ネタ
    9 :双子誕生日ネタ 1:2008/06/10(火) 18 03 20 ID ???0 相手は蠍。甘い感じにしました。 俺は、無料のスポーツニュースサイトに今日3回目のアクセスをした。さっきと 同じ新着ニュースのスクロールを見ながらも、意識はまったく別のところにあっ た。 時計は午後10時25分。 寝返りをうってベッドから起き上がると、ペットボトルの水を少しだけ口にする。 22時間ほど前に起こったことを何度も思い出してはジタバタしていたからか、 それとも今日これからのスケジュールを意識しているからか、俺の神経はたかぶっている。 一息ついて冷静になろうとしたが、俺はまたあの場面を思い出して自然と顔がほころんだ。 昨日、大学の友達5人で飲みにいった帰り、俺は蠍と一緒に駅から歩いてきた。 あいつも俺も少しばかり酔ってはいたけれど、ハメをはずすほどではなく、ちょ...
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