星座で801 @ wiki内検索 / 「土2_02」で検索した結果

検索 :
  • 土2_02
     すげえを連発する俺に牡牛は言った。 「もうここは、俺の家じゃない」 「売っちまったの? もったいねーな」 「あまり好きじゃないんだ、この家。幽霊が出るから」  山羊は建築関係の仕事をしてるので、この家が面白いらしくって、あちこちに視線 を飛ばしていた。  その視線をすっと牡牛に向けた。 「その話は、買い主も知っているのか?」  牡牛はうなずく。 「知ってる。だから、安く買い叩かれた」  山羊は、なにかが気に入らなさそうな、納得できないような顔をしていた。  俺のほうは普通に、嫌だなあと思っていた。  だって幽霊って、サイコキネシスのプロだよな? 物を飛ばしたり壊したりする。 勝てるのかよ。  牡牛は、俺らの放つ雰囲気に戸惑っていた。 「俺も非科学的だとは思うけど、そういう話が出るだけの理由があるし……、そうい う話がある以上は、売り値が下がっても仕方が無い...
  • 土2_04
     牡牛は、嬉しそうだった。 「じいさんは絵が上手かったらしい」 「なるほど。ご祖父も出来に納得したような表情をしている。それからご祖父は、脇 から箱を取り出した。漆塗りの綺麗な箱だ。両手で捧げ持ち、ふたを開いた。箱の中 身は、……あ」  あ?  山羊は急に屏風から手を離して、虚脱した。  牡牛が動揺している。 「なんだ。なにがあった。何事だ」  牡牛は山羊をがくがくと揺すぶるが、山羊はボーっとしちまって答えない。  俺たちは待った。山羊が読み取りに使った5分ほどの時間が、山羊の腑抜け時間に なるはずだ。  そして5分後、山羊は腑抜けモードから回復し、大きく息を吐いた。 「ああ、驚いた。あれはいったい何だったんだろう」  牡牛が当然のことを尋ねる。 「何を見たんだ、山羊」 「いや、暗すぎてよく見えなかった。たぶん俺の勘違いだと思う」  なんだそりゃ。  牡...
  • 土2_09
     俺はこう尋ねた。 「なー乙女。あんたって潔癖だよな」 『は? なんだ突然』 「すごく良い道具があるんだ。けどケガレてるんだ。どうすりゃいいんだろ」  乙女はこう答えた。 『消毒して使えば良いんじゃないか』  そういうわけで、刀はあとでお払いすることにして、トラックに積んで持って帰っ た。 土ですが、前回かわいそうだった牡牛を、ちょっと幸せにしてみました。 もう最後まで突っ走ります。読んでくださって感謝です。 続き・3週目火星座編へ 超能力SSメニューへ
  • 土2_05
     俺は、いたたまれない気持ちで牡牛の背中を見つめた。  なにが悲しくて、自分のじいさんのオナニーのオカズを、その孫が知らされなきゃ ならないんだ。  牡牛は悲惨な顔をして屏風を見つめている。表面の天女の絵を。そして、その裏側 に貼り付けられているらしい何かを。  やがて山羊は回復し、真剣なまなざしを牡牛にそそいだ。 「牡牛、大丈夫だ。浮世絵の美術的価値はたいしたものだと聞く」  なにがどう大丈夫なんだ。  牡牛は目を泳がせながら、「次の場所に行こう」と言った。  俺たちは蔵を脱出し、牡牛の家の台所に向かった。  台所には比較的、ものが残っていた。大きな棚に沢山の食器がある。そして棚の中 央には、大きな皿が飾られていた。  牡牛はダメージから回復したらしく、ふつうの調子で説明しだした。 「この皿。母さんは陶芸の趣味があったんだが、この皿は母さんが、師匠にあたる人 ...
  • 土2_07
     牡牛の先祖は武士だった。たくさんの武功をたてて、褒美として、殿様に、この刀 を貰ったんだそうだ。  しかしその刀は、敵の武将の遺品でもあった。  刀は血を求め、牡牛の先祖にとり付き、牡牛の先祖を狂わせた。 「先祖はある日、この刀を持って、家中の人間を惨殺したのだという。それ以来、俺 の一族に武士はいなくなった。みな農民として暮らした。そうすると刀は一族を呪わ なくなった」  じゃあこの刀は、いま現在は、別に呪いグッズでもないわけだ。  俺がそう言うと、牡牛はうなずいた。 「今は武士の居ない世の中だし、刀が価値のある品物だということは間違いない。だ から鑑定はいらない」  しかし、山羊が言った。 「牡牛がこれから、一度も戦わないということは、あり得るんだろうか」  俺らは黙った。  武士ってのは、殿様のために戦う人だ。  うちには別に殿様はいねえけど、俺、戦い...
  • 土2_01
    117 :超能力SS8:2008/08/19(火) 19 39 15 ID ???0  夏休みに入る直前、学校に転校生が来た。  それは牡牛だった。友達とかは驚いていた。秀才北高から大馬鹿南高への転入って のが、ちょっと珍しいかんじだったからだ。  俺は知っていたから驚かなかったけど、もったいないな、とは思っていた。  休み時間、学校内を案内しながら、俺は牡牛に尋ねた。 「俺らの家からでも通えるだろ、北高。なんでわざわざこっちに来たんだ」 「みんなに薦められた。牡羊と一緒に行動したほうが、身を守るには便利だろうと」  それは初耳だ。 「俺のためかよ」 「いや、俺のほうのためだと思う。早く新しい家族に馴染むためにも、そっちのほう がいいという判断かな」  俺らの家族に加わる条件は、天涯孤独の身であること、だった。  牡牛は両親を失ってはいたが、遠い親戚がいて、...
  • 土2_08
     山羊は語り続ける。刀の体験した物語を。 「侍は怒っている。壷を割ったのは誰だと言っている。誰も返事をしない。侍は刀を 取り上げ、言った。どうしても言わぬというのなら、永遠に言わぬが良い。――侍が この刀を抜く。一人の首が刎ねられた」  本物だ。本当に本物だ。  わくわくする俺に、山羊は物語りを続ける。 「血しぶき。絶叫。みなが混乱を起こしている。出口を求めて殺到するが、それが仇 となった。混雑し、出られない。侍がまた一人の首を刎ねた。また一人。また一人刎 ねて、今度は別の一人の腹を刺す。また腹を刺す。また腹を刺して、首を切って、手 足を切って、腹を割って、内臓を引きずり出してぶちまけ、落ちていた首をつかんで、 別の一人に投げつけて気絶させ、手も投げて気絶させ、足も投げて気絶させ、腸でだ れかの足を引っかけて転ばし、逃げようとした別の人間に飛び蹴りをかまし、頭突き、 ...
  • 土2_06
     牡牛は照れくさそうに、指で頬を掻いていた。 「料理運びは、俺の仕事だったんだ」 「牡牛はおかずを運んだ。……ん、電話の鳴る音がしている。母親が台所を出て行っ て、いまここには誰も居ない。いや、牡牛が戻ってきた。牡牛は大皿に手を出し、両 手で持って運んでい……あ」  山羊は沈黙する。俺は叫んだ。 「腑抜けるな! 続けろ山羊! 気になるじゃねえか!」 「小さな牡牛の手には、皿が重すぎたんだ。落とされた。割れた。まっぷたつだ」 「……」  牡牛はたしかに災難に見舞われた男だ。両親を失っている。  それは不吉な皿を割っちまった呪いなのか。  青い顔をした牡牛を置いて、山羊は生真面目に語りを続ける。 「音に驚いてやってきた父親が呆然としている。牡牛は泣いている。母親が戻ってき た。牡牛、割ったのねと言った。泣かないで、たいしたものじゃないんだから。ニセ モノよそれ」 ...
  • 土2_03
     牡牛は俺らを別の場所に案内した。  そこは、蔵だった。中はほぼ空っぽで、あらかたの荷物は売られちまっていたが、 ただ一個、へんなものがあった。  屏風だ。天女の絵が描いてあった。  牡牛は説明する。 「幽霊だ。これを夜中に見に来ると、天女が絵から抜け出て動き出すらしい。そうい うものなので、売れなかった」  俺は、ビビってる俺を隠そうと必死だった。 「この女の人が踊ってくれるのか? だったら面白れえじゃん」 「踊ってくれるついでに、とり殺してもくれるから、夜中に見てはいけないと言われ た」  山羊は、首を横に振った。 「そんな理由で売られないなんて、そんな馬鹿な話があるものか」 「鑑定にも出してない。ていうか、鑑定の人もチラ見しただけで通り過ぎてた」 「鑑定か」  そこで山羊は、手袋を脱いだ。 「俺が鑑定する」  くそ真面目な男だなあと、俺は思っていた。...
  • 水2_02
     そうして最初に家族になったのが、魚と水瓶。ただしこの段階では、二人は互いを 家族ではなく、大切な友人だと考えていた。  次に家族になったのが射手と獅子。二人ともグループに属していない一匹狼の能力 者だったが、グループに追われて困っていたのを、魚が助けて仲間になった。四人に なって彼らは、互いをチームの一員だと考えるようになった。  それから蠍と蟹。二人とも、能力を隠してひっそりと生きていたのを、みなで見つ け出して仲間に誘った。家族という考え方が出てきたのはこのころだ。  天秤と双子は、二人とも川田のグループのメンバーだったが、水瓶の説得によって 引き抜くことができた。このころには、彼らは完全に家族になっていた。  乙女と山羊は、まだ能力に目覚めていない段階だったが、グループより先に見つけ 出して、仲間にすることができた。この二人は家族という考え方になかなか馴染めず ...
  • 風2_02
     俺は激しく食いながら、疑問に思っていたことを尋ねた。 「あんた仕事なにしてんの? けっこう金持ってるみたいだけど」 「なんだと思う?」 「俺が聞いてんだよ」 「ちょっと言いにくい職業なんだ。まあ、肉体労働かな」  意外だ。ツルハシで穴でも掘ってるんだろうか。  俺は野菜類には目もくれず、ひたすら肉を食い続けた。  やっと腹が満足したので、デザートでも食おうかな、と思ったところで、事件が起 こった。  俺らは四人がけのテーブルに二人で座っていたのだが、俺の横の椅子と、天秤の横 の椅子に、とつぜん、二人の男が座ったのだ。  二人とも手に皿を持っていて、そこにはケーキがぽつんと一個乗ってた。明らかに 食う気が無いような皿の様子だった。  天秤の横に座った、やたらと尖ったかんじの男が、天秤にこう言った。 「やっと見つけたぜ、天秤」  それから、俺のとなりの真面目そう...
  • 火2_02
     だから、射手を怒鳴りつけて部屋に駆け戻った俺は、たぶん最悪に失礼なやつだ。 最低だ。  だけど俺の中で、悲しいのとか悔しいのとか、いろんな感情がごたまぜになってて、 どうしようもなかった。  ずっと布団にもぐってた。ドアには鍵をかけてた。途中で蟹とか魚とかが、部屋の ドアをノックしてきたけど、無視した。  それで、夜中になって、さすがに腹が減って、そろそろ下に降りようかなあと思い だしたところで、気配がわいた。  射手が部屋の真ん中に立ってた。  俺を見ると、ぱっと笑顔を作って、手を差し出してきた。 「遊びに行こう」  ハイとかイイエとか、そんな言葉を思いつく暇もなかった。  射手の手が俺の腕に触れ、それと同時に俺は、知らない場所に居た。  視界いっぱいに広がる海と、ものすごい星空。耳には波音。鼻には潮の香り。  誰も居ない海辺は、ただそこに在った。砂浜に俺と...
  • 超能力12_05
    「知らなかった。言ってくれりゃ家に居たのに」 「いや言ったら監視にならないだろ。でもって探してるうちに真夜中になって、しよ うがないから家に帰ったら、俺が部屋につくと同時に、蠍が部屋に飛び込んできて、 容赦なく襲われて、俺は手も足も動かねーのに、それはもう、えげつない……」  蠍が射手に手を伸ばし、口を容赦なくふさいでいた。  ふうん。あの日、蠍の制限は、射手で解消されてたらしい。チンコが麻痺ってなく て良かったな。  蠍は射手の口をふさいだまま、少し顔を赤くしていた。 「正直に言うと、制限が出てて……。あの日、ちょっとした戦いはあった。やはり牡 羊は、巻き込まれた形だったと思う」  やはり双子が読んでいない未来においては、俺はなにかに巻き込まれる。  そしてやっと、話は今に至る。今日、水瓶が俺を助けに出かけたあと、双子は部屋 に閉じこもって予知をはじめた。  出...
  • 超能力12_02
     双子の話は過去から始まった。俺が家族に加わる前の話だ。  ある日、双子は、俺という能力者が、獅子にかつぎこまれる未来を読んだ。  予知の中で獅子は双子にこう語った。俺を発見したのは偶然だと。散歩の途中で俺 を見つけたのだと。  老朽化した橋をわたろうとして、割れた足板から落ちた俺は、能力を発動し、足元 に岩を積み上げて、落下距離を縮めて助かったのだと言う。  からだを強く打った俺は、あちこちを骨折していたらしい。  しかしその未来を双子に聞いた、現在の獅子は、散歩の予定を、意図的な探索に切 り替えた。俺を見つけるため、って目的の。  ついでに、俺を骨折させる運命を持った橋を、燃やしてしまった。  ここで、いま俺の横に居る獅子が、双子の話を保証した。 「歴史は少し変わったらしいが、結論は同じだろう。牡羊は俺たちの所に来た」  魚は、俺の骨折と疲労を治すべき運命を、俺...
  • ねのと参り2_02
    「なんにもみえない」 「大丈夫だぞ。一本道だ」  壁を触る手が、ただ前に伸ばしていればいいのにメトロノームみたいに大幅に上下へと ふれて、なるべく大きい面積で壁を探ろうとした。見えない上に二人でいても静かずぎる。 足が思ったように進まない。自分が見えないのをいいことに、あの世の何かがすぐそばにまで 来ていたらどうしようと思った。  冷たい風に混じって、一陣のなまあたたかい風が手先から肩までをのぼった。  いま”にょろ”が触ったかもしれない。触ってても自分ではわからないんだ。 「おじさん、”にょろ”がさわった」 「にょろ? おじさんのとこには黒いのなんかいないよ」 「あとどれぐらい続くの」 「大丈夫だよそんなに長くないから」  乙女おじさんの口調がなだめるような調子に変わっているのを山羊は感じ取ってしまった。 そんなに長くないと言いながら結構長いに違いない。本当に一...
  • 火2_01
    72 :超能力SS5:2008/07/30(水) 02 29 30 ID ???0  家が山奥にあるせいで、登校がものすごくめんどくせえ。  帰るのも遅くなる。クラブがあるからだ。  だけど頑張らないと、もうすぐ試合なんだと説明すると、射手は表情をくもらせた。  この人の、こんな表情は珍しいから、不思議に思って尋ねた。 「腹でも痛ぇの?」 「いや。胸が痛い」 「ええっ! 麻痺か!?」  たいへんだ。射手は、そういう危険があるから、気をつけなきゃならないんだ。  しかし射手は首を横に振ると、ふつうの顔でこう言った。 「なんでクラブ辞めないんだ?」  遅くなるのを心配されてるのかと思った。  しかしそういうことじゃなかった。射手は俺にこう聞いてきた。 「野球、遊びでやってるならいいけど、牡羊は本気でやってるんだろ?」 「ああ。2年になったらレギュラーになりたい...
  • 風2_04
    「いや、悪いよそれは」 「色々おごってもらったし。えーと、なんつーか、俺は「野菜をたっぷり食えて幸せ だから」、あんたは逃げてもいい」  見え見えの嘘を言ったのは、逃げるフリをしてくれって意味だった。このまま話し ててもラチあかねーし。  天秤は頷くと「悪いね」と言って、下に沈んだ。  俺と空気コンビは立ち上がり、天秤の椅子を見た。  椅子の上には、天秤の服が、つるしたあとに上から叩き潰されたみたいなかたちで 残っていた。  空気コンビは顔を見合わせると、俺を睨んできた。こえー目だった。  そして三角が、俺にむかって拳を突き出しつつ言う。 「いま、見えない刀が、テメエののどに向いてるよ」  それからレチクルが、便所の方向に移動して、俺に向かって指を突き出した。 「おまえの頭を狙っている。撃ち抜かれたくなければ、天秤を呼び戻せ」  俺はなにも知らない。こいつらと天...
  • 風2_09
    「肉体労働とか言ってたけど」 「肉体労働だろ。美術モデルなんて大変らしいぞ。ずーっとずーっと同じ姿勢を保ち 続けるんだ」 「ええと、空気椅子っぽいかんじで大変なのか」 「そ。空気椅子っぽいかんじで大変なんだけど、あいつの能力は、自分の体重を無意 味化できるからな。壁抜けするときに、やつに質量なんて無ぇだろうし」 「無限に空気椅子ができるんだな」 「そうそう。そういうわけで、天秤の能力はモデルに向いてる。けど暗殺にも向いて る。それが天秤の悲劇だったってわけだ」  それから双子は少しだけ、天秤の過去を語ってくれた。  天秤は、望むものを、なんでも手に入れることが出来た。知りたいことを、なんで も知ることが出来た。  戦ったら完ぺきに自分の身を守ることができて、相手がどこに逃げようが、完ぺき に追い詰めることが出来た。  そういう能力を持っていたので、グループでも重...
  • 水2_01
    82 :超能力SS6:2008/08/05(火) 11 45 32 ID PESIy+eo0  クラブ辞めて暇になった俺は、能力の特訓をするようになった。  なぜかというと、「敵」についての詳しい話を聞いたからだ。  教えてくれたのは魚だった。俺の催促に降参したみたいに、魚は弱りきった様子で 話してくれた。 「みな、あまり「敵」のことは語りたがらないと思うよ。辛いから。敵といってもそ の中には、かつての味方もいたのだし」  俺らみたいな能力者の集団があるらしい。  能力者のまとめ役は川田ってぇやつで、そいつ自体は能力者でもなんでもない、普 通の男なんだそうだ。  しかし回りにいる人間が厄介で、なんつーか、独特の思想を持っているらしい。魚 曰く、 「自分たちを、進化した存在だと考えてる」 「偉そうな連中なんだな」 「そう言えるのかもしれない。だけど僕には、あ...
  • 風2_05
     俺はさっと路地に飛び込んだ。飛び込むと同時に、反対側の建物の壁に穴があき、コ ンクリートのかけらが散るのが見えた。  俺はそのまま路地を走る。角をいくつも曲がり、駅を目指す。  真っ昼間から、人の多いところで力を使うのはヤバいと思ったのだ。なるべく戦い は避けたい。  しばらく路地を走って立ち止まった。  俺の目の前に現れたのは、三角。先回りしたらしい。  背後を振り返った。  俺の後ろに現れたのは、レチクル。近道して追ってきたらしい。  逃げ切れれば良かったんだが、無理だったか。  とりあえず文句を言った。 「俺はあんたらを、なるべく傷つけないようにしてやってんだぞ」  これが獅子あたりだったら、こいつらとっくに焼死してる。  俺は色々経験したにもかかわらず、まだそこまで思い切りよくはなれずにいたのだ。  三角が、目じりを吊り上げた。 「ふざけんなこのクソ...
  • 水2_09
     魚が溜息をついて言う。 「愛情を屈折させる必要なんて無いんだ。きみの行動は間違っている。いますぐ牡羊 を返してくれないか。でないと」  カジキは無言で手を振る。魚の肩の釘が、さらに深く刺さる。  魚はただ、悲しそうな顔をした。  俺は自分の状態をさぐった。俺の力は残ってるか? 少しでいい。ほんの少しでい いから、魚を助けるための力を。  魚は歩き出す。俺に手をさしのべて。その手のひらに釘が刺さる。  俺は意識を集中する。しかし駄目だった。力が発動する感覚がわいてこない。  魚はカジキを通り過ぎ、俺のそばにたどりついた。身をかがめ、俺を抱いてくる。 「大丈夫だよ。もう大丈夫だから」  優しい声に安堵しそうになるのを、俺は必死でこらえた。言わなきゃならないこと がある。 「使うな。力を」  子供に戻っちまったら逃げられなくなる。  魚は微笑んだ。 「うん。だか...
  • 火2_06
     射手は欠落していると誰かが言ったらしい。  欠落の意味はわからない。けどなんとなく、ぼんやりとした意味が、感じられるよ うな気がした。 「止まった心臓は魚が動かしたの?」 「いや、俺が痛みを気力でねじ伏せて、人口呼吸と心臓マッサージで動かした」 「よく復活したなあ。あぶねぇ」 「ああ危ない。あのとき思ったんだ。射手の欠落というやつを埋められる人間が必要 だと」 「どういうやつ?」 「わからん。だか俺でないことは確かだ。だから、おまえかもしれない」  俺?  それは……違うんじゃないか? 「俺どっちかというと、あんたがピンチだったら、射手と似たような行動取ると思う ぞ」  死んでも助けなきゃならねぇヤツだったら、死んだって助けるだろ普通。  獅子は、眉をしかめた。 「大きな世話だ。あのときは特別だ。おまえに助けられる俺じゃない」 「うるせー。ぜったい助ける...
  • 風2_03
    「報酬は希望どうり。地位も望みどうりだ」 「望みの場所に、望みの住家を用意する。仕事もおまえの好きなようにすればいい」  なんか、すげえ話になってないか。  天秤はしかし、今度は露骨に眉をしかめていた。 「困ったね。僕の望みはそういうものじゃないんだよ。何度言えばわかってもらえる んだろう」  それから俺を見た。困ったみたいな顔だった。 「僕一人ならさっさと逃げちゃうんだけど、きみがいるからなあ」  たしかにそうだろう。俺を連れて壁抜けはできないんだ、天秤は。  なんか俺、天秤に迷惑かけてるみたいだ。  申し訳なかったので、まず三角に言った。 「よくわかんねーけど、天秤いやがってるし。諦めたらどうだ?」  三角は、尖った目で俺を睨んだ。 「テメエ天秤とこの新入りらしいな。調子に乗んな。刺すぞ」  こいつは刺す力のある能力者らしい。  俺は次に、レチクルに聞いた...
  • 火2_03
     獅子はぐるっと振り返って俺を見ると、当たりを見回してから、射手に文句を言っ た。 「人の返事を聞いてから行動しろおまえは」 「急いでたんだ。あっ麻痺が来た」  射手の左手から袋が落ちて、缶やら何やらが散らばった。  俺はそれらを拾い集めながら尋ねた。 「俺の靴は?」 「忘れてた」  それが目的で戻ってたんじゃねーのかよ!  獅子がびしっと俺を指さした。 「貴様、この俺の、この姿を見たあとだというのに、まだ靴ごときにこだわるのか」  それもそうか。  俺は納得した。けど獅子は、あたりまえだが不満そうだった。 「戻せ射手」 「なんで」 「体を流したいからだ! 海に飛び込めとでもいうのか!? そのあと服を着たいか らだ!」 「もー獅子はわがままだなぁ」  言いながら射手は、自分の服を脱ぎ始めた。  俺が思うに、獅子はワガママは言ってない。けど射手の中では、...
  • 水2_04
     話が完全にそれたことが有り難くて、俺は気軽に了解した。  河原を歩き回った。ボールはすぐに見つかった。川の中の、流れのよどんだところ に引っかかってる。  俺は靴と靴下を脱いで、ズボンのすそをまくりあげて、川の中に入り、ボールに近 づいていった。  つめてー。なんか足元ぬるぬるするし。あと一歩で手が届くと思った。そのときだ った。  なにかが俺の足を引っ張り、コケた。  あわてて足元を見たけれど、なにもなかった。  最初、俺は、ドジをやったんだと思っていた。川底の石に足をすべらせたか、つま づいたかしたんだろうと。  しかし違った。俺の足首に感触がある。俺は足首を掴まれている。見えない何かに。  俺は先輩を振り返った。  先輩は、両手でなにかを掴むポーズを取っていた。その姿のままこう言った。 「戻って来いよ牡羊。試合に使えばいいじゃねえか、力を」  水が冷た...
  • 風2_01
    97 :超能力SS7:2008/08/12(火) 11 46 27 ID tdNbtX160  蟹は読心のほかに、つくろい物というスキルを持っていた。  そのスキルはたいしたもんで、すぐに破れたがる俺の制服を、ケガを治す魚以上の 力で、完璧に癒してれた。  しかし蟹ばかりに負担をかけるわけにはいかないと、天秤が言い出したのだ。 「新しい制服を買っておいた方が早いんじゃないかな。あと普段着も足りないだろう。 靴も」 「金ねえもん」 「学生がお金の心配なんてしなくていいんだよ。僕がおごるから」 「いいよ。悪いし」 「あのね。きみのために言ってるんじゃなくて、きみの服を縫う蟹や、きみの毎日の 泥だらけっぷりに苛々している乙女や、きみの清貧さに心を痛めている魚のために言 ってるんだ」  そして俺の身なりのかまわなさが気に食わない天秤のためだろうか。  すげえ面倒く...
  • 水2_07
     カジキが空中で拳を振る。見えない力が俺を殴る。口の中が切れた。  殴打ののち、その見えない拳でもって、シャツの襟元をつかまれた。  また首絞められるのかと思ったが、違った。俺のシャツは首元から腹まで裂かれて いた。  カジキを見る。妙な目をしている。冷たいのに熱っぽいような、おもてに表せない 感情を押さえ込んでいるような。  カジキの手が、ゆるっと宙を撫でた。  俺の胸から腹、股間までに、撫でられる感覚が走った。  俺は驚愕する。なに考えてんだこいつ。 「て……め……」 「牡羊。ズルがきらいなおまえには、わかんないだろ」  カジキの手が宙を揉み、俺のからだも揉まれる。  気色の悪さに身もだえする俺に、カジキは言う。 「わかんないだろ。ズルい人間の気持ちなんて」  俺は、気絶しておくべきだった。眠っておくべきだった。  なんの抵抗もできない俺の体をカジキはもて...
  • 水2_05
     だいいち、考え方の違いはあるみたいだけど、ハッキリと悪意をぶつけられたわけ でもない。  俺は祈るような気持ちになった。敵であってくれるなと。 「足から手ぇ離してくれ先輩。怖いんだ」  俺の祈りは届かなかった。  俺は、引きずられた。俺のからだは川底に擦れつつ移動した。足首を掴んでいた手 の感触は、そのまま俺を、川の深みに引きずりこんだ。  水の中で俺は、手を動かした。しかし俺が水をかいて浮こうとする力よりも、先輩 の引っ張る力のほうが強いらしく、俺の足は川底に固定されてしまった。  足元を見る。能力を使って脱出できるか? しかし俺を引っ張る力は目に見えない もので、能力をぶつけることができない。  パニックの感覚が来る。少し水を飲んだ。  俺には判断できない。どうすればいい。このままコンクリ漬けの拷問死体みたいに なっちまうのか。どうやって脱出すればいい。 ...
  • 風2_08
     水瓶は手に新聞を持っていた。それを俺に向かって突き出してくる。 「読め」  今日の事件が記事にでもなってるのかと思った。あわてて新聞をひらいて読み上げ る。 「えーっと、ゾディアック社にインサイダー疑惑……」 「ちがう。日付だ。日付を読め」  日付くらい覚えてるんだが、俺は素直に読んだ。  水瓶は深く頷き、ひとりで納得していた。 「間違いない。今日だ。今日が記念日なんだ」  俺は脳みそと口のあいだにモノが挟まったような気分になり、うまく喋れなかった。  かわりに双子がつっこんだ。 「水瓶。あんたは賢いくせに馬鹿だから、ちゃんと順番に説明する癖をつけなきゃ駄 目だぜ」 「失礼な。僕は馬鹿じゃない馬鹿にするな」 「今日がどうかしたのか?」 「むかし、未来の天秤に聞いたんだ。今日は記念日だと。牡羊のことで決断をした最 初の日だと彼は言っていた」  むかし、未来...
  • 火2_07
    「全裸で行ってきたのか!?」 「大丈夫。ちゃんと金は払った」  俺は思う。俺はたしかに馬鹿だ。間違いなく馬鹿だ。  だけど射手ほどじゃねー。さすがの俺も裸でコンビニには行けねぇ。そんな行動は 取れねー。  三人でアイス食って帰った。無茶な夜遊びは楽しかった。  けど家では乙女が待ち受けてて、俺ら滅茶苦茶に怒られた。 続きです。毎回、感想有難うございます。 続き・水星座編へ 超能力SSメニューへ
  • 風2_06
     首を絞められたレチクルは、ピンで留められた虫みたいにもがく。  じたばたした動き。痙攣。やがて停止。  どさりと落ちたレチクルを見ながら、俺はいやな感じを味わっていた。  どうも、慣れない。仕方の無いことだとわかってはいても。  壁に生えていた腕は、そのまますうっと一階まで移動した。  そして壁から抜け出てきた裸の天秤に、俺は尋ねた。 「ここまでやる必要あんのかな。俺らどう見ても楽勝だったじゃん」  三角はすでに気絶している。天秤は三角に向かってかがみこみ、ただ、手を振った。  天秤の手の先が三角の頭部をすり抜けた。同時に三角は頭の中をつぶされた。鼻か ら血を垂らしつつ三角は死んだ。  俺はまた尋ねた。 「たとえば牡牛のときみたいに、生かして連れて帰って、いろいろ聞き出すとかでき たんじゃねえの?」  天秤は手をぬぐっている。死体の服で。  俺は尋ねた。叫ぶみ...
  • 水2_06
     足に激痛が走った。見ると、太ももに釘が刺さっていた。  抜いて投げ捨てた。その腕に、ぐさりと釘が刺さった。  蜂にまとわりつかれるみたいに、俺は次々に釘に刺された。  きりがねえ。俺は視線をめぐらせる。目についた障害物を次々と除けていく。燃え 残りの橋の残骸を吹き飛ばし、河原の流木をへし折り、あの大岩まで持ち上げて、カ ジキをさがした。  そうこうするうちに、息が苦しくなった。  俺は両手でのどをかばった。しかし意味が無かった。目に見えない力は俺の手ごと、 喉に圧迫をくわえている。  とことん窒息目当てらしい。卑怯なやつだ。どこだ。どこに隠れた?  河原のあらゆるものを除け終え、俺はやっと悟った。  今出てきた水の中、か。  のろのろと頭をまわす。カジキが川から上がってくるところだった。  喉の拘束がゆるんだ。俺は息を吸い、吐いて、そのまま倒れた。  制限によ...
  • 火2_04
     ふざけた論に対して、獅子はまっとうなことを言った。 「ふざけるな」 「俺は真剣だ」 「真剣ならなおさらふざけるな。俺はどう考えたってMじゃない。Sだ」  そっちが問題なのかよ。  射手は真剣な顔で足元を見つめた。 「いいアイデアだと思ったけれど、根本的に無理があったか」 「おまえこそMになれば良いんじゃないか? 動けなくなっても落ち込まずに済む」 「それじゃ俺の問題は解決しねぇ。俺さ、手や足が動かないのも嫌だけど、いちばん 嫌なのはチンコだと思うんだ」 「……」 「好きな子のところに飛んで行って、いざ本番って時にチンコが役に立たなかったら、 俺のプライドはズタズタだ」 「たしかに、それは恐怖だな」 「だろ? だから俺はふだんから自分に言い聞かせてる。夜這いだけは歩いて行くよ うにしようって」  馬鹿だ。こいつら、馬鹿だ。  大笑いしながら俺は、今まで悩ん...
  • 水2_08
     弱りきった俺の態度はしかし、カジキの気持ちを煽ってしまったようで、苦痛が強 まっただけだった。  けどこの苦痛のおかげで、そろそろ意識を手放せそうだ。  そのとき、俺は、声を聞いた。 「牡羊!」  いやな感触がすっと抜ける。俺は声の主を判断し、あせる。  必死で叫んだ。 「来るな魚、逃げろ!」  また俺を呼ぶ声。カジキの背後の遠くの方から、魚が走ってくる。手に傘を二本持 ってる。俺を迎えに着たのか。  魚に戦う力は無い。俺は焦ってまた逃げろと叫ぶ。しかし魚は足を止めない。  カジキが手のひらをむこうに向けた。  魚の肩に太い釘が刺さり、やっと魚は足を止めた。  息を荒く吐きながら、魚は自分の肩を見た。それから呆然と俺を見た。それからカ ジキを見て、悲しい目をした。 「きみはなぜ、こんなことをするんだ。いったいなぜ」  カジキは、肩をすくめた。 「不公平だ...
  • 火2_05
     しばらく二人で、まったりと沈黙した。心地よい時間だった。  俺は獅子に聞いた。 「射手、俺を慰めようとしてくれてんだよな?」  やり方は無茶苦茶だが、そういうことなんじゃないかと思った。  獅子は考え、首を横に振った。 「違うだろう。あいつは単におまえに興味があって、一緒に遊びたかったんだ」 「そっか。でもまあいいや。スッキリした」  言いながら笑ってみせると、獅子は複雑そうな顔をした。そういう顔をすると、な んか怒ってるみたいに見えた。  でも、そうじゃないんだってことを俺はもう知ってる。獅子はそっぽを向いて、そ っけない口調で語りだした。 「射手に、悪気は無い。おまえを傷つけたのも、わざとじゃない」 「わかってるよ」 「わかってはいないだろう。……いつだったか。双子だったと思うが、あいつが言っ ていた。射手は欠落していると」  それはわからない。どういう...
  • 風2_07
     矛盾していると思う。  だから俺は、思ったままのことを言った。 「嫌なことを、無理にやるこたねーだろ」 「……」 「嫌だったから川田ん所を抜けてきたんだろ。嫌ならもうやるなよ。あんた本当は優 しいんだから、向いてないことするなよ」  天秤は服を着おえて、しばらく黙っていた。  それから、ふいに俺を抱きしめてきた。  天秤の動きはそつがなく、手の動きは優しかった。続いて聞こえてきた声も、本当 に優しかった。 「優しいのはきみだ。きみが家族になってくれてよかった。本当に」  天秤の声は震えている。その震えを隠すために、天秤は俺を抱き続けた。  俺は天秤を抱き返した。天秤とはぜんぜん違う、強い力で。  ※※※  家に帰りついたとき、双子は驚いていた。天秤を見てこう言った。 「おまえ、どういう心境の変化だよ」  俺のために買われた、動きやすくて、シンプ...
  • 水2_03
    「よー牡羊。どうした、こんなところで」 「先輩こそどうしたんすか。今日はクラブは?」 「部員のほとんどが腹痛で倒れてな。休みになった」  大丈夫かよ! 試合はあさってだぞ!?  俺がそのことを尋ねると、先輩は暗い顔になった。 「まあ負けるだろうなあ。向こうの野球部、強ぇしなあ」 「弱気っすね」 「おまえ助っ人で試合出ねぇ? おまえが居りゃ勝てると思うんだが」 「あー……、無理っす」 「なんで」  俺は嘘ってやつが苦手だし嫌いだ。けど今は嘘をつかなきゃならない。 「よ、用事があって」 「そもそもおまえ、なんでクラブ辞めたんだよ。期待してたのに」  つらい。俺だって辞めたくなかったんだ。けどそれは言えない。 「なんか俺、病気らしくって。野球やめなきゃ死ぬらしいんで」 「どんな病気だそりゃ。どう見たって元気じゃねえかおまえ」 「いやもう駄目です。毎日ボロボロです。...
  • 土3_02
     見ていた山羊が、それで良いというふうに頷いた。 「不安神経症、パニック障害。過呼吸症候群。制限によるものだ」  山羊の説明によると、本人は死ぬほど苦しいらしいが、どこが悪いというわけでも ないんだそうだ。過度の不安が神経を狂わせているだけらしい。  辛い制限だなと言うと、山羊は悩ましげに眉を寄せた。 「からだの問題は、癒えさえすれば問題ないが、心の問題は尾を引く。俺も制限のあ いだは心を失っているが、正直、怖いよ。究極に無防備な自分をさらすわけだから」 「なにかされても、どうしようもないわけだ」 「ああ。まわりの人間を疑ってしまう自分が嫌になる」  心を縛る制限。だから魚よりも、蠍の領域なのだが、どちらも外出している。  薬箱をあさろうかと言うと、山羊は考えるようにうつむいたあと、やはり首を横に 振って、俺の耳元に口を寄せた。 「それよりもむしろ、心配なのはこのあ...
  • 水3_02
    「金はねーし、芸もねーし。肩でも揉めっつーんならできるけど」 「時間をくれ。あしたつきあえ。出かける。ついでに書店にも寄って、牡羊に本を買 ってやる」 「いいよそんなの。貸してくれればそれで」 「駄目だ。まっさらな本を手に入れて、自分で読みながらラインを引いて、書き込み をして、折り目をつけて、手垢で汚して、そうしていけば、その本は自分だけのもの になるんだ。そういう習慣をつけるといい」 「夏休み終わるまでに間に合うかな」 「おまえがその本を気に入れば」  というわけで次の日、蠍と出かけた。  蠍は俺を先に本屋に連れて行って、分厚い新書を買ってくれた。  で、本を抱えて次に行ったのは、喫茶店だった。  地味で古い店だ。すみの席に俺が座ると、蠍は俺の隣りに座った。  なんでカップル座りなんだよと俺が文句を言うと、蠍はあっさりと答えた。 「対面に、知り合いが来るから...
  • 風3_02
    「まあ気にすんなよ。俺でよければ、帰りのキスぐらいしてやるから」 「奇妙な能力だ。それで、この時代のぼくは、きみの弟なのか?」 「いや。今の水瓶は俺より年上だから、俺のほうが弟だよ」 「ぼくはずいぶん未来に来たんだな。当然、きみも何かの能力を使えるわけだね」 「おう。ものを動かせるんだ」 「それは普通だよ。……ああ、ぼくは川田くんのキスでここに来たんだけど、彼にも 事情を説明するべきだろうか。きっと、とつぜん消えて驚いている」  俺は驚いた。 「川田ぁ!?」 「知ってるのか。それでは彼は、ひょっとして、家族……」 「んなわけあるか! 川田は敵だ! 俺らあいつにひどい目に会わされてるんだよ!」  それから今までのことを話した。俺が体験したことや、俺が聞いた話を。  水瓶は戸惑っていた。 「どうも、信じられない。彼はそんな人間じゃない。ぼくの友人なんだ」  それから...
  • 火3_02
     射手はふたたび俺を連れてジャンプし、獅子のかたわらに立った。 「獅子。邪魔しに来た」  射手が言うと、獅子は横目で俺らを見た後、ふたたび数本の炎を湖面に走らせた。  たしかに綺麗だった。青い湖の上に描かれる、放射線状の火模様。続いてわきあが る水蒸気の雲。  なるほど、水に火を放てば、簡単に消火できるから、残り火のことを考えずにすむ んだ。  獅子はやっと俺たちを正面から見た。 「邪魔だ」 「だから邪魔しにきたんだって。はい忘れ物」  射手は鎮痛剤のビンを差し出した。  獅子は無言で受け取ると、中身を手のひらにあけて飲んでいた。  俺は湖面を見た。水蒸気が晴れて、水面には空が映りこんでいる。  そしてその水面の、雲の影のあたりに、なにかが浮かんでいる。  念じて持ち上げ、手元に引き寄せてみると、それは魚のマスだった。 「みごとに茹で上がってるぜ」  そう言...
  • 超能力12_07
     そして双子は、もう俺たちが変えちまうことを決定している未来を、俺たちに話し 始めたのだった。 全員集合で、今までのまとめです。 次は土です。次々回からは属性関係なくなります。もうちょっとだけお付き合いくださいませ…。 続き・土星座編へ 超能力SSメニューへ
  • 超能力12_03
     それで双子は、しばらく騒動は無いと踏んだのだが、実際にはすぐに事件は起きた わけで。  俺と乙女が、牡牛と戦うことを、双子は知らなかった。 「知ってりゃ忠告したさ。牡牛の親も死なずに済んだかもしれねえ」  双子の言葉に、牡牛は目を伏せた。 「ああすれば良かったとか、こうすれば良かったとかいうのは、あまり考えても意味 が無い気がする。俺が乙女を殺そうとする前に、双子が未来を読まなかったのも、運 命なのだと思う」  それでも双子は説明した。水瓶の力を使えば、牡牛の両親は帰ってくると。  きっと牡牛だってそうしたいに違いない。しかしそれをやれば、そのかわりに、死 の運命の荷重はどこかに移動する。  牡牛は黙って首を横に振り、すべてを受け入れていることを伝えてくれた。強いや つだなと俺は思う。  双子のほうは、牡牛の様子に対して、不思議がるようなかんじを見せていた。 ...
  • 超能力12_06
     山羊が、むっとしていた。 「……駄目だろう、それは。完全に」 「分かってるよ」 「俺はおまえの犠牲になった姿なんて見たくないし、そんなおまえに能力を使いたく なんか無い」 「分かってるって。今のは照れ隠しだから」 「それは自己犠牲ではなく、自虐というんだ」  地味に痛い言葉の攻撃を受けて、双子はヘコんでいた。  俺は双子をかばった。 「あのさ。してもいないことで双子を怒ったって、双子が可哀想じゃねえか」  それで双子は立ち直った。 「こっちの俺は、天秤が俺を助けてくれるトコまで読んでたんだよ。だからそんな、 無茶やってたわけじゃねーって」  すると乙女が、双子を怒鳴りつけた。 「ふざけるな! 天秤を助けに寄越したのは水瓶だ!」 「あー……、そうだった」 「なぜみずから周りを頼らない。それに俺と違っておまえは、自分の制限をコントロ ールできるんだ。にもかか...
  • 超能力12_01
    181 :超能力SS12:2008/09/18(木) 18 37 24 ID Pl6OomEg0  窓際のベッドの脇には、みなが集合している。  そしてベッドの上には双子と、馬乗りになった魚の姿がある。  双子は魚の治療を受けつつ、俺たち全員の姿を確かめると、青ざめた笑顔を見せた。 「あーあ。なんか大騒動になっちまって」  魚が怒って、双子の頭をポカっとぶった。 「びょうきのひとは、しゃべっちゃだめー」 「いったー。てめ、力は大人なんだから加減しろよ」  すると蟹が、魚をベッドから抱き下ろし、そのあと双子の頭を撫でた。 「僕はきみに、すまないと思う」  いたわるように、慈しむように、蟹は双子を撫でる。 「だれが未来と引きかえに、きみに傷ついてほしいと思うものか。天秤が間に合わな かったらきみは、この世でいちばん僕を傷つける死に方をするところだった。だけど そ...
  • ねのと参り2_03
     乙女おじさんは山羊の頭を撫でると拝殿から山羊を連れて自分の家に帰る。その晩は二人で 同じ部屋に布団を並べて寝た。ひそかにいくじなしと馬鹿にされるかもしれないと思っていた 山羊だったが、乙女おじさんは”霊がかかわることはそれぐらいで別にいいんだ”と割り 切ってあっさりしたものだった。  次の日、山羊はねのと参りの話をしようと朝から蟹のそば屋に立ち寄った。蟹は山羊の話 を聞いて眉を八の字にしながら笑っていたが、朝はどうも忙しいらしく「また遊びにおいで」 といって従業員用のそば飴を二つ山羊に持たせてくれた。  人がたくさん居るように見える時期でも、この地方に定住している人間は少ない。  水瓶のところにもにょろの生態を報告しにいこうと思ったが、いかんせん移動青果店なので 朝方の水瓶の居場所は杳として掴めなかった。二人の話し相手のイベントが終了すると山羊は またし...
  • ねのと参り2_04
     藤かごを中心に店を開いている魚おじさんは、余裕があったのか山羊を店の縁側にあげて 色々な話を根掘り葉掘り聞いてきた。都会の事情に飢えていたらしい。「この時期にこんな にお客さんこなくて大丈夫なの?」と山羊が尋ねると、金持ちの道楽だからいいんだよという とんでもない答えが返ってきた。 「店先から見て中が暗く見えるのがよくないんだと思う。お金持ちならお店の中の電気を 増やしたほうがいいよ」 「竹が色あせるかと思ってやってなかったんだけど、考えてみたらそうかもね。もう少し 高級感を出した内装に改装したら売れるかもなあ」  でもそうしたら天秤さんに恨まれちゃうな、といって魚は笑っていた。近所で同じような 商売をしていると付き合いは何かと面倒らしい。 「天秤さんはね、この辺で一番売り上げのいいきれいなお土産屋さんだってことを誇りに してるんだ。過去にもいろいろお土産さんが新し...
  • カジロワ62_07
    カジノ・ロワイヤル 牡牛と羊と魚 774チップ 2007/10/04(木)05 31 続きです。 射手、水瓶、羊のいずれを最初に訪ねるかと考え込んで牛が真っ先に目指したのは羊の部屋であった。 射手と水瓶はこの船内ではしょっちゅうつるんでいる上、射手に対しては一連の勝負で負けた気負いがある。 射手がもうすっかり忘れてしまっているのは見てもわかるのだが、 それでも乙女や天秤の仲立ちなしに一人で行くとなると多少の奮起が要る。 牛(今回のカジノ・ゲーム、おそらくは羊が優勝の最有力候補だろう。資産で一番遅れをとって   いるのはいただけないが、あの判断の早さは他の奴には真似できない。   蟹や山羊といったか。あの辺は不気味ではあるな。   ……双子はあの傷で本当にゲームに出る気だろうか。高額賭けで短期決戦に持ち込めば   勝機もあるだろうが、逆にこれまでよ...
  • ねのと参り_02
     二人の注文をうけた蟹が浮かれた調子でまた裏のほうへと戻っていく。山羊はそれを見送って からチラシを手に乙女に尋ねた。 「いつものって何?」 「天ざるそば」 「おじさんと蟹さんってお友達なの?」 「まあな。ご近所さんだし、町会の委員なんかでも一緒になる」  蟹の店のそばは観光地らしく満足のいく美味さ加減だった。お子様そばセットなどを メニューに入れるあたり格式よりも大衆性を好んで取り入れているらしい。お子様そばセット についてきた杏仁豆腐をつるつる口に入れる山羊の前で、乙女は旨そうな息をつきながら そば湯をすすっていた。 「このチラシ、ハイキングとかお祭りとかそばの花を見るツアーとか色々あるんだね」 「山羊も何か申し込んでみるか?」 「うーん、まだ決めてない。この湖のあるところ行ってみたいなあ」  山羊がチラシを前にいろいろ考えていると店の奥からまた蟹が出...
  • 超能力14_02
     そして未来の予定が書き込まれたタイムテーブルの紙を、山羊が確認する。 「次の出来事が起きるまでは、しばらく間がある。いちど天秤を引き上げたほうが良 いんじゃないか?」  暇そうにしてた射手が、さっと手をあげた。 「じゃ、行ってくる」  待てと、獅子が止めた。 「射手、牡羊を連れて行け」  俺?  水瓶が反論した。 「それはよせ。牡羊は今回の出来事のキーだ。なるべく家に置いて守ったほうがいい」  正論だとは思う。しかし俺には、獅子の考えもわかる。  そして俺の予想通りの戦法を、獅子が語った。 「無駄だ。敵も未来を変える能力を持っているのだろう。なら、どう守っても意味が 無い。だったら攻めろ」  あえて敵前に俺をぶら下げて、ゆさぶってやりゃあいいんだ。敵の目的が見えるか もしれねー。  あと単純に、獅子は射手を心配してるってのもあるだろう。  そして俺のほう...
  • @wiki全体から「土2_02」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索