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マスター?

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「さーて、時間もあることだし、買い物買い物ー」
「今日は何処へ?」
「とりあえず、街へ! そして、服!」
「了解です」
と、いうわけで二人は街へ。

 街に出れば人・人・人形(ドール)・人。
 大通りに沿って、ウインドウショッピングを楽しみながら、歩く。
「流石は娯楽の街。人が歩けて、実物の商品を見て、触れられるなんて、とても贅沢よね」
「そうですね、マスター」
「しかも、人がその場に居合わせて会話できる、この空間!よそじゃあちょっと見られないよねぇ」
「そうですね、マスター」
 にこにこと、楽しそうにレイシャは答える。
「あ、これいい感じじゃない?」
「そうですね、マスター」
「……あ、これ貴方に合うと思わない?フリフリっていう死語が良く似合う上に、大きなリボンなんかついちゃってさ!」
「全く似合わないと思います、マスター」
 相変わらずニコニコと答えるレイシャと対照的に、シュリはまるで苦虫でも噛み潰したような顔で、後ろを歩く相方を振り向き、言う。
「その、『マスター』っての何とかならないの?」
 レイシャは声を潜めてそれに答える。
「一応人形の偽体を使っているので、それらしく振舞う必要があるのですよ」
「いや、分かっているけどさぁ。何度話しても違和感があるというか、いつも話している からこそ違和感があるというか……」
「あきらめてください。普通の人形らしく従順に振舞う必要があるのです」
「そか……じゃあ、これ私に似合うと思う?」
 そう言って自分の前に掲げたのは、さっきレイシャの前に勧めたリボンつき、フリフリの服。
 (名目上の)主人にレイシャはにっこりと笑って、答える。
「私に他人の振りをすることを許していただけるのであれば、『良くお似合いです』と答えるのもやぶさかではありません、マスター」
「なんでも『マスター』って答えてればいいと思わないでよ!!」
 毎回思うのだが、こいつには私に対する敬意というものが欠けているのでは無いだろうか……。
「欠ける以前にありませんから、マスター」
「人の考えを読んだ上に、全否定かよ!」
 と、まぁ、いつものやり取りを繰り広げられる。

 二時間ほど歩き、適度に商品を冷やかし、
「そろそろ小腹が空いてきたなぁ」
「もうですか?燃費が悪いですねぇ、マスター」
「燃費とか言うな!私はただ人よりちょっとお腹が空くのが早いだけ!」
「……」
「突っ込みはーー!?」
「はは。では、その辺でちょっと休憩しましょう。どこかお望みは、マスター?」
「ん、特になし。あぁ、甘いものが食べたいかな」
「また太るとは思いますが、了解です、マスター」
「……思うんだけど、そこまで嫌味を交える人形居ないよね? 明らかに『マスター』って言っている意味無いよね?」
「気分です、マスター」
「認めちゃったよ!」
と双方共に心温まる会話を楽しみ、オープンカフェのあるお店に到着。
「ほう、なかなか良さそうなお店ですね?」
「案内したほうが言う台詞じゃないよ、それ。しかも『マスター』って付け忘れてるし!」
「気分です、マスター」
「既に常套句!?」
流石に弁えているのか、小さな声でそんなやり取りをしつつ、店員案内されたパラソル付のテーブルに座る。レイシャは他のドールと同様、シュリの側に立っていた。
「ご注文は?」
「とりあえず、このお薦めティーセットを」
「かしこまりました。少々お待ちください」

厨房へ向かう店員を見ながら、
「いやー、まさか店員まで普通の人間とは……。贅沢だねぇ」
 半ばあきれたようにシュリはつぶやく。
「休暇のためのリゾート惑星ですから、マスター」
「なんか私たちがここにいるの、場違いのような気がしてきたよ……」
「さりげなく私を含めるのはやめて頂けませんか、マスター」
「……まるで、君は場違いじゃないとでも言いたげだね?」
「いえいえ、そんなことはありません。ただ、貴方が場違いというだけです、マスター」
「否定してない! というかさらに酷くなっているし!」
「気分です、マスター」
「流石に意味わか……いや、確かに気分で判断してるんだけども!」

 そうこうしているうちに、注文したものが運ばれて来た。
 名前を言われても分からない、とりあえず高そうな紅茶とこちらも同様聞いたことが無いケーキのセット。一見すると何処にでもあるようなモノ。
だけど
「おいしい……。普通のものと何が違うのか、さっぱり分からないけど」
「貴方は分からなくても良いのですよ。只『おいしい』ということさえ分かれば、マスター」
「その子供に言い含めるときのような言葉はさて置としても、『ズー、ゴクン』マスターってつけるのが凄く辛そうなのはなんで!?」
「ふむ、茶葉はセイロンのセカンドフラッシュ。ケーキは……既製品のロールケーキに見せかけて、実はそれ一つをわざわざ作った一品モノ、ですか。ただのカフェといえども侮れませんね」
「さらっと無視されたー!?」
「さっきからうるさいですよ、マスター。ちょっと黙っててもらえませんか、ますたー」
「とうとう、マスターって言葉にもおざなりに!?よし、わかった。ここら辺でどっちがご主人様か、白黒つけようじゃない!」
「ご飯作らなくても良いんですか?」
「すみませんでした。貴方が『パク』ほふひんへふ」
「分かれば良いんです、マスター。というかちゃんと飲み込んでから喋ってください」
 なんのかんの言っているうちにお茶も終了。
 支払いも済ませて「さて、お次は本格的にご飯かなー」などというのを、笑顔と共に聞き流したレイシャが、ふとある一点を見つめる。
 シュリも、それに気がついた。
 そして、まるで、年老いた老人の様にため息と共に言葉を吐き出す。
「はぁ。馬鹿って言うのは何処の世界にも居るのねぇ」
「同感です、マスター」
 二人は『それ』に向かって歩いていった。

 そこでは一人の青年(?)が壁を背にして、数人の若者に囲まれていた。
 (?)にしたのは、その青年がレイシャに負けず劣らず綺麗な顔をしていたからだ。
 ことによるとレイシャよりも綺麗かもしれない。
そんな青年を囲んでいる若者たちは……それこそ何処にでもいそうな、ぼんくら。とりあえず、便宜上『茶髪』『ハゲ』『モヒカン』と呼ぶことにする。
 若者たちはどうも、青年にいちゃもんをつけて何かを買わせようとしている……いや、金を巻き上げようとしているだけのようだ。
 シュリは「はぁ」とため息をつく、それを見てレイシャは苦笑する。

 「はーい、君たちー。そこで何をしているのかなー?」
 シュリはそいつらに何の気負いもなく近づいていき、まるで今日の天気を聞くかのように声をかける。
 ああん?と振り向いた若者たちの顔がこちらを見た途端崩れた。
 そりゃそうだろう。
 長い黒髪に、ジーパンとシャツだけのラフな格好。体型も抜群で顔もいいと女となれば、若者たちにとってはただの『獲物』にしか見えない。
 しかも護衛(若者たちにはそう見えるし、人形にはそういう意味もある)に連れているのは顔の良いだけのやさ人形。外見からは人形の力は分からないとは言え、基本的に人に危害を加えることは出来ないのだから(人形原則3ヶ条の1)、警戒する必要が無い。若者たち(若者たちにとってはかわいそうなことに)はすぐにその存在を意識から締め出した。
 ハゲが、緩んだ顔のまま
「おねーさんには関係ないの。あ、それともこの後、俺たちと関係をもってくれるのかなー?ギャハハハハ!」
 耳障りな声をかける。
 とりあえず、下品な言葉は無視してシュリは言葉をつむぐ。
「んーさっきから見てるんだけど、その子なんか凄く怯えているようなんだけど?」
「はぁ?そんなこと無いって。ただ、俺たちが今、金に困っていると話したら、快く金を貸してくれるって言うから、ありがたく借りようとしてるだけなんですけどー?」
 と、今度は茶髪。
「ま、もうすぐしたら金が出来るからさ。そしたら俺らとどっか行こうぜ」
「そうそう、いいことしてやるからよ」
 茶髪とモヒカンがやはり、耳障りな声で言う。
『はぁ』とまたため息一つ。
 『ため息ばかりついていると、幸せが逃げていくよ。ため息つかずに深呼吸しなさい。』っておばあちゃんに言われてたんだけどなー。ごめん、おばあちゃん。その言葉守れそうに無いよ。
 そう、思いつつも体は勝手に動いていた。
 茶髪の前まで行くと左手の掌を相手の腰に当る。
 この時点で何を勘違いしたのか茶髪が『おぉ?』っと嬉しそうな声を上げていたが、それに構わず、開いた右手の人差し指で『ちょん』と茶髪の額を押す。
 すると、まるで『膝かっくん』をされたように茶髪はその場に尻を落としていた。
 きょとんとした茶髪を見て、ハゲやモヒカンは「なにやってんだよー」「なっさけねー」などと笑い声を上げる。
 その笑い声から、ようやく自分の今の状態を把握した茶髪は「てんめぇ、優しくしてれば付け上がりやがって!」とお決まりの台詞を吐いてつかみかかってきた。
 それを見て、今度は(存在を無視されていた)レイシャが横から茶髪の腕を取る。
 そのまま『ぐぃ』っと引っ張り、体勢が崩れた所にタイミングを合わせて、一本背負い。
 授業の柔道では無いので、襟を引っ張って勢いを殺してやることも無く、そのまま地面に叩きつける。最後に勢いを利用して肘を鳩尾に入れるのも忘れ無い。
 茶髪は白目を剥いて気絶。
 あっけにとれたハゲとモヒカンが何も出来ず突っ立ている。
 そりゃそうだろう。いきなり人形がなんも前触れも無く人に襲い掛かったのだから。
 普通の人形はそんなことはしない、出来ない。
 できるのは、軍に作られた特殊なものだけ。
 それだって、無警告でいきなりというのは、普通あり得ない。
 しかし、彼らが相手にしているモノはいろいろな意味で『普通』では無かった。
 混乱している隙に、二人にも鳩尾に一発ずつ入れて、三つの生塵の出来上がり。
 とりあえず、通行の邪魔になるといけないので、三人で手分けして人目につかない場所に移動させておく。数時間で目が覚めるだろうし、運がよければ誰かに見つけてもらえるだろう。

 一息ついたところで、今度は青年に声を掛ける。
「さて、あなたのほうは大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
 青年はまだ、微妙におびえているようだが、こちらの目をしっかりと見つつ答えた。
「いいよ、いいよ。私が気に入らなかったからしただけだし。でもねぇ、男だったら、もう少ししっかり……しっかり……」
 青年を見つめながら、シュリの言葉が詰まる。
「……?何か?」
「あんた、男だよね?」
「え?えぇ、一応」
「あ、そうだよね。ごめんごめん。……まぁ、女の子のような顔しているから見くびられても仕方ないかもしれないけど、もっとシャキッとしなさいよ?」
「は、はい、頑張ります」
「うむ、よろしい。さて、そろそろ私たちは行くけど……」
「あ、あの……」
「ん?」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あーここは『名乗るほどのものじゃあない少年よさらばだ!』とか言って、立ち去るのがカッコいいんだろうけど……」
「何時の時代の話ですか、マスター。かっこ悪すぎです、マスター」
「あぁ、そう言ってくれると思っていたよ!」
「でしたら、まず、貴方の言動を改めたほうが良いかと思います、マスター。というわけでこの、色々直したほうが良い、私のマスターの名前はシュリ=クロイツェルと言います」
「ちょっと!なんで私の自己紹介を貴方がするのよ!」
「主人のお手を煩わせるほどのことでも無いと思いましたので、マスター」
「そりゃ、要らんお節介って言うんだよ!」
「あの、こちらの方は・・・?」
 遠慮がちに彼が会話に入ってきた。
「ん?こちらのって……この人形?」
 こくん、とうなずく『彼』
「人形の名前を聞いてくるなんて変わっているね?ま、いいか、こいつの名前は」
「レイシャと申します。」
「途中で人の台詞を途中から奪わないでよ」
「私の紹介なのですから良いじゃないですか、マスター。あんまり怒ると血圧上がりますよ、マスター」
「うっさいわ!」
 そこまで聞いて、『彼』は
「あはははっ!」
 大笑いした。
「ほらあ笑われちゃったじゃない!」
「私の責任では無いと推察いたします、マスター」
「じゃあ私の責任だって言うの!?」
「そこまで分かるようになったとは……私の教育の賜物ですね、マスター」
「一方的に私を貶めて、しかも自分を持ち上げていることの同意を私に求めた!?」
「あはははははっ。面白い!本当にレイシャさんは人形ですか?」
「人形だよー。ちょっと性格設定を間違っちゃったみたいだけどねー」
 シュリがどこか投げやりに答える。
「へえ……設定でこんなにも良い人になるんですねー。勉強になります」
「いや、この性格を良いと表現するにはいささか異論があるんだけれど……?」
「何を仰います。私は良く「いい性格しているね」と言われるんですよ?」
「たぶんそれ、言葉は一緒でも、意味が違う!?」
「ははは……ってあ、僕そろそろ行かないと……。それでは本当にありがとうございました。お礼はまたいつか」
 そういって頭を下げると、彼は走り去っ……
「あ、ちょっと、あなたの名前はーー!!?」
 とシュリがその後ろ姿に向かって叫ぶ。
 すると、彼も後ろを見ながら叫んだようだった。
「僕の名前は―-―‐ー――――」
 しかし、シュリが名前を聞き取ることはできなかった。
 なぜなら、丁度緊急呼び出しの無線が入り、面白くも無い機械的な声で現場に急行するように告げていたから。


 向かうように指示されたのは、名高い忘却の星「ジュミニα‐4」
 全ての幸福を満たせしユートピア。
 今はその名残……機械の残響、満つる星。

そこで待つは只の木霊か、はたまた廃墟の亡霊か。


「さてー。ご飯食べてから行きますかー」
「私が作りますので、船内で食べましょうね。マスター」
「んーちょっと惜しいけど、休暇はここまでだねー」
「貴方の頭の中はいつでも春休みだと思っていたのですが、どうやら違っていたらしいという事実に私は驚きを隠せません、マスター」
「あ、うん。取りえず、もうマスターは止めて。今言えるのはそれだけ……」
「了解です、シュリ。では行きましょうか」
「行かれますか」


私は二人で一つのスペースガーディアンの一人、レイシャ。
何が待とうと、二人で居るかぎり何の心配も無い。
とは言うものの、この後の出来事はそれはそれで大変であったのだが……。
今はこれで筆を置くとしよう。
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