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ショーケースの中の君 - (2009/10/31 (土) 22:29:22) のソース
*ショーケースの中の君 「いらっしゃいませ~」 とある場所に一軒、時代錯誤な建物があった。 瓦張りの屋根に、どこか古きよく時代の香りを感じさせる、一風変わった店。ここの看板には『真神よろず本舗』と大きく書かれていた。 「こんにちは真野さん、今日はどんなパーツが入ってるかな」 この日の夕方、高校生くらいの少年が店内に入ってきた。 「やあ翔くん、昨日こんなものが入ってきたんだけど、どうかな?」 この店の店長である真野が翔に一押しの商品を見せる。それは大型のパワーアップパーツだった。 「これ、けっこう高いんじゃないの?高校生の小遣いじゃ難しいよ」 「変形するからね、それなりの値は張るけど、極上の技術を使用しているから、スムーズな変形をするよ」 ごらんの通り、ここでは神姫をはじめ、様々なロボットキットを販売している。その中には比較的安いパーツやもちろん、普通のルートでは手に入りにくい高級モデル、オーダーメイドキットなども扱っているのだ。 「ところで翔くん、リリィは元気でいるかい?起動してからもう半年以上経つんじゃない?」 ここは翔がリリィのオーナーになるきっかけとなった場所でもある。ある日、この店のショーケースで飾られていたフェレットタイプを見たとき、彼は決心したのだ。 「そうだね、あの時のこと、今でも忘れないよ。あの寂しそうな顔は…」 翔は半年前のことを思い出していた。ショーケースで飾られていたフェレットタイプの寂しげな表情…。起動していない状態で飾られていたので、余計に寂しそうに見えたのだ。 (何とかして買うことが出来ないものか…) そのときから翔はお金を貯める為に短期のバイトを始めた。ケースに飾ってあるあの子を迎え入れるために。 それから一ヶ月が過ぎた。給料をもらった翔は、フェレットタイプを買うためによろず本舗にやってきた。しかし、ショーケースを見た翔は、愕然とした。 ショーケースに飾ってあるはずのフェレットが消えているのだ。 「…間に合わなかったか」 翔は悔しい思いをかみ殺し、そのまま店を出ようとした。しかしそのとき、誰かが翔を引きとめた。 「君、ちょっと待って」 振り向いたその先には、この店の店長らしき人物がいた。 「君はいつもショーケースを眺めている男の子だね。君が探している子は、ここにいるよ」 店長=真野は戸棚にある箱を取り出し、過去のふたをゆっくりと開けた。 「…これは…」 「君がこの子を迎えにきてくれると信じていたから、大切に保管していたんだ。もちろん、メンテナンス済みだよ。あと、武装やオリジナルのクレイドル、予備の燃料電池も入ってるから、確認してみて」 真野は翔にフェレットタイプが入った箱を渡した。 「お金、そんなに持っていないのですが…」 「それはおまけさ。展示品だし、少しはサービスしないと」 翔は給料からお金を出すと、お礼を言った。 「ありがとうございます、このご恩、絶対に忘れません」 「おいおい、そんなにかしこまってどうしたんだよ。僕は当たり前のことをしただけだから。それに、ここでは敬語使うの禁止。堅苦しいのって、僕は好きじゃないんでね。だから、僕のことは友達と思っていいんだ。これも何かの縁だし」 真野は翔に手を差し伸べる。翔もそれに答え、手を握り返した。 こうして、翔はリリィのオーナーになり、真神よろず本舗の常連になったのだ。 「そういえばそうだったね。あのときから君が積極的にここに来ることになったのは。店に来るといつもリリィのことを話てたね」 「おかげでリリィもここまで育ったよ。これも真野さんのおかげだよ」 昔話に二人の話が弾んでいく。そのうちに日は暮れ、時計も7時を過ぎた。 「店長、そろそろ閉店の準備始めていいですか」 店先から店員の声がこだまする。 「お、もうこんな時間か。すまないね翔くん、遅くまでつき合わせてしまって」 「真野さんこそ、いつもより楽しそうだったよ。じゃ、また今度」 店の出口に出ようとする翔。しかし、真野は思い出したかのように引き止めた。 「翔くん、頼みがあるんだけれど、今度の土曜日あいてるかな?」 「リリィの練習に付き合うくらいかな」 「そうか、だったらついでに頼まれてくれないかな」 真野は翔にあるものを渡した。それは地図と手紙、それと電車代が入ったバインダーだった。 「ここって…真野さんの知り合いの店?」 「まあ、そんなところかな。ここは神姫ショップの中でも有名な場所でね、神姫のオーナーでも知る人がいないといわれている場所なんだ」 翔はそれを聞いて、少し興味を持った。しかし、渡された手紙を見て、不思議そうな表情になった。 「でも、どうして手紙を…。真野さんが直接持っていけばいいじゃないか」 「いや、この日は用事があってね、行くことが出来ないんだ。それに、この店は君が行かないと意味がない。一度ここの店長に会ってみるといい。気さくな人だから、なんでも聞いてみるといいよ」 真野は翔に言い聞かせると、そそくさと店の中に戻っていった。 「この店の店長って…、どんな人なんだろう」 翔はバインダーを覗き込んだが、すぐに閉じた。リリィが寂しそうな顔で帰りを待っているからだ。 「おおっと、こうしちゃいられない」 翔はリリィが待つ我が家へと足を急がせる。夜空は雲ひとつない星空が広がっていた。 [[もどる>おまかせ♪ホーリーベル]] [[第三話へいくの!>幻の黒い鉄騎兵]]