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ねここの飼い方・光と影 ~十章~ - (2007/03/27 (火) 21:53:19) のソース
「私の愛機、"ネオボードバイザー・ガンシンガー”この力で貴方に……貴方に!」 それは本心、それとも虚心? 「そして……この力も、使わせて貰います!」 同時にガンシンガーの後部より射出煙が舞い上がる。失われた左腕を、新たな姿へと変貌させる為に。 「それ、ねここのっ!?」 彼女からは悲鳴にも似た、驚愕の音律が発せられる。 「そう。貴方から得たデータを元に、私が再構成した貴方の牙、"ヤンチャオ”……いえ、ねここフィンガーと言ったほうが、宜しいでしょうかね」 ねここにより、切断された腕。 それを補うのは、ねここより奪った腕。 但しその色は、私と同じ漆黒と血のような鮮やかな紅に彩られていて。 ***ねここの飼い方 光と影 ~十章~ ハイパーチャージャーが唸りを上げ、鋭く煌びやかな放電現象が、闇の世界に映え渡る。 「コレで貴方を仕留めて差し上げます。それは貴方……ねここにとって最大の屈辱、いや本望ではないのですか」 ねここの顔が酷く歪む。当然だろう、私もそのように反応するだろうから。 「余計なお喋りは、嫌いなの」 強烈な殺気と共に、再びファイティングポーズを取るねここ。 「奇遇ですね。私もですよ」 此方もヤンチャオを突き出し、対峙するように間合いを取る。 同時にジクリ、と左腕が痛む。 切り離されたのを放置したまま、無理やり腕を接続したからだろう。絶え間ない苦痛と肉体が奏でる悲鳴が私の中を駆け巡る。 「一気に……行きますっ!」 悲鳴を殺し、自分の全てをその心で捻じ伏せ、私は跳ぶ。 「ねここも……行くのぉっ!」 彼女も真っ直ぐに、まるで自らが弾丸と化したかの如く向かってくる。 「「ひぃっさぁつ、ねここぉフィンガー!!!」」 獅子の咆哮ののような雷が轟き、唸りを上げ、2人の牙が激しく激突する。 「こっのぉぉぉぉ!」 エネルギーの奔流が暴風雨のように迸り吹き荒れ、周囲の外灯がその高圧電流の煽りを喰らいオーバーフローを起こして弾け飛ぶ。 「私は、負けなぁぃっ!」 一瞬、お互いの視線が交わりあう。私を真っ直ぐに射抜くように見つめてくる、その瞳と。 その瞬間、まるで示し合わせたかのように、お互いのチャージャーユニットがピタリと動作を停止する。 「……チィ」 どちらともなくお互い一旦距離を空け、間合いを取り直す。 私の左腕から、そして周囲からはブスブスというショート音と、焼け焦げた臭いが充満している。膨大な電流は周囲の空気をも侵食したらしい。 固められた土が剥き出しの地面は黒く焼け焦げ、秘められていた力の凄まじさを実感させる。 「ねここフィンガーは一回しか使えないの。もうネメシスちゃんは無理、おしまいにするの」 己の優位を誇る事も、私を卑下することも無く、唯真っ直ぐに、私を心配しているのかと瞬間思える程の音色。 だが…… 「甘ちゃんですね、ねここは。ぬくぬくと甘やかされて育った貴方には、そんなセリフがお似合い」 「だって、ねここはネメシスちゃんをっ」 「その優しさが、命取り」 私は眼を閉じ、念じる。 それに呼応し足元のガンシンガーからは無数のチューブが這い出す。 そのチューブの中身は赤黒く、時々怪しげで不気味な発光を不規則に行う。のたくるチューブはまるで意志を持ち、蹂躙するかのように私の人工皮膚の柔肌を這いずり回り、全身を犯し尽くすかの如く強制リンクを決行してゆく。 先端が胸の装甲カバーを引き剥がして自ら潜り込み、中の胸が無理に押し出され抉られ酷く不快に歪ませられ、全身のパーツの隙間からは何本も深くねじ込まれていく。残りのチューブも、繋がることのできる箇所を求めて、私の手足や腹部を這いずり侵食し、包み込むかの如く絡み付き締め上げてくる。 そして、鼓動が一際多く高鳴る、その瞬間 「……ぅふふふふふふふふフフフフ」 全身に奔流のように流れ込む力。ソレは私の血肉となり、圧倒的なチカラを与えてくれる。 左腕のハイパーチャージャーは再びその鼓動を轟かせ始め、先程とは比べ物にならないほどのエネルギーが蓄えられてゆく。 同時にそのチカラが全身を犯してゆく。カラダに深く捻じ込まれ、私の新たな血管となったチューブが膨大過ぎるエネルギーを全身に送り続け、その代償として私の肉体、神経、ココロ、全てを貪欲に飲み込み、押し流してゆく。 肉体が大量の不純物とイレギュラーにより通常であれば指一本動けなくなるほどの負荷を受け、神経が最大ボリュームで激痛と言う名の悲鳴をあげ続け、耐え切れないココロがボロボロと剥がれ落ちる。 (ソレデモ、カマワナイ……) 狂い切ってしまえれば、どんなに楽だろう。 事実私は悦楽の中にいた。その痛みも憎しみも全て、狂い捻じ切れる程の、狂気という名の喜びへと昇華させてゆくのだから。 「ねここぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!」 そのチカラをぶつける。無造作に、力任せに、本能のままに。 一振りごとにねここは傷つき、砕け、その可憐な姿が、私の血肉によって穢れてゆく。右腕のヤンチャオは完全に粉砕し、素体の腕が完全に露出する。 私の腕にも痛みが走っている、らしい。今のアタマではソレすらも快楽。犯され続けて常に絶頂を迎えているようなこの感覚は、私の思考を秒刻みで奪ってゆく。 「……倒れろ、早く倒れろぉぉぉぉ!!!」 鎧が打ち砕かれ、無残な姿へと瞬く間に変貌を遂げていくねここ。 私の頭を壊しきれない、その理由。 どんなに痛めつけ、無様な姿になろうとも、逃げることなく向かってくる、その……瞳。 「ネメシスちゃんの為にも……倒れないのっ!」 その一言に、一瞬動作が止まる、そして 「フハ……ふふフフはははははハハハハハハ!!!」 止め処なく溢れる笑い、そして涙。わからない、コイツの思考はワカラナイ。 「コレで……全て終わりにしましょう」 左腕がアツイ、焼けて融け落ちそうな程に熱い。左腕に全てのチカラを集約させる。 明らかに過剰過ぎる出力。漆黒の世界に舞う閃光、ソレは私のカラダをも突き抜け破壊しようとしてくれる程に。 「ねここぉ・フィンガァァァァー!!!」 巨大な落雷となり、唯1人の神姫を完膚なきまでに破壊するため、一直線に突き抜ける。 「負けないのっ!!!」 再度激突する、手負いの獣の牙。 「フフフ……出力不足です……その程度ですか!!!」 辛うじて残された左腕で、最後のねここフィンガーを繰り出してくるねここ。 圧倒的な出力差。ねここの鎧には亀裂が次々と走り、防ぎきれない電撃が彼女の視覚、聴覚、肉体機能を徐々にナイフで削るように奪ってゆく。 「ねここは……ねここは……みさにゃんを、信じるの!!!」 「戯言を言うなぁ!!!」 この腕など、いや私など消えてなくなって構わない。全てのチカラを注いで踏み潰しに掛かる。 「……な!?」 が、その腕が言う事を聞かない。まるで注ぎ込まれるチカラが、全て外部に吸い取られているよう。 「まさか、貴様ぁ!」 ねここは何も言わない、唯眼を閉じ、瞑想するかのように沈黙するのみ。 そしてその言葉に対する返答のように、ねここの左腕は神秘的なまでに眩く金色の輝きを放ち始め、私の腕は皺枯れたように急速にチカラを失ってゆく。 「この力……受けてみるの」 ゆっくりと、閉じていた瞼を開くねここ。 「はいぱぁ……ねここぉ・フィンガー!!!!!」 既に悲鳴の限界を極めていたと思っていたカラダが、まだどこかに隠し持っていたらしいわずかな理性によって断末魔の絶叫をあげる。 肉体全てが真っ白になると錯覚する程の、いや実際そうなのかもしれない。 少なくとも彼女の爪と突き合わせていた眼前のヤンチャオは瞬時に蒸発し、左腕が完全に融解した。 そして……静寂。 私の中をあれ程駆け巡り、犯し抜いたチカラは為りを潜め、ねここも動く気配がない。 ねここ自身も酷く焼け焦げ、その全身を覆っている鎧は暖かみのある橙色から一変し、錆付いた金属のような薄汚い赤茶色へと変貌を遂げていた。 「……私は……まだ、立っています……」 そう、立っている。膝を折ることなく。楽になりたいのに、なれないままで。 「ねここも、まだ……いけるの」 まるで古い銅像のようだったねここが、ゆらりと歩み始める。 それは覚束無い足取り。だがその姿は、未だ衰えを見せない精気を感じさせる。 「上等です……それでこそ……」 それでこそ、私の最後の相手に相応しい。 「最後の勝負……です。ガンシンガー、チェンジ・ブリガンディモードっ!」 キーワードと共に私の愛機が、その姿を異形のモノへと変貌させてゆく。鋭利な長槍のようなシルエットは消え去り、骨格が剥き出しの鉄の巨人へと。 全身に張り巡らされたチャージングチューブにより既に半ば一体化していた私。それが今度こそ完全に吸収され、まるで胎内に収まるかのようにその身を一つにする。 「ロンゴミニアド・フルチャージ。跡形も残しません……」 鉄の巨人よりも更に長大な、かの偉大な騎士王が使ったとされる名前を冠した、王の槍。そこに私の全てが流れ込む。強大な破壊の槌となり、全てを滅ぼす為に。 全身を引き裂き、臓物まで焼き尽くすような地獄の灼熱が襲う。 目の前の相手に照準を付ける事すら、今の私には全身全霊を傾けて行わなければならない。 銃口の先には、歩みを止めない、ねここ。ともすれば、その瞳に気圧されそうになる。 「消し飛べ……」 …何もかも… そして私は、引き金を、引いた。 放たれた灼熱の閃光が闇夜を切り裂き、進行線上に在る物全てを、まるで草でも刈り取るかのように薙ぎ払う。 一瞬だけ太陽のような輝きが生まれ、そして、消える。 「こんな結末……でしたか」 不本意な結末……なのだろうか。其れともこれが、本当に望んでいた結末? 「おしまいにするのは、まだ早いの」 「!?」 上空から聞こえてくる、その声。 渾身の力を込め、身体を騙しダマシ動かし、空を見上げる。 そこには、空を駆ける、ひとすじの流れ星…… シューティングスターにその身を包んだねここが、月明かりに祝福を受けるかのように照らし出され、その存在を誇示していた。 「全く、心配掛けたくないから勝手に出て行くなんて。そっちの方が心配しちゃうわよ」 「うん……ごめんなの」 それは私でも、ねここでも無い第3の声。その声には聞き覚えが……いや、私が発し続けていた、あの…声。 「風見……美砂……」 苦虫を噛み潰し歯軋りする勢いで、たったそれだけの想いを吐き出す。 ねここには彼女がいた。何も言わなくても解ってくれる無二の存在。 私には……ない。 「ならば……貴様の主人の眼前で終わりにしてやる!」 再び王の槍を掲げる、今度は虚無の虚空を切り裂き、その墓標とする為に。 その時、破滅の鐘が、鳴り響く。 「……ぁぁぁ、ひゃアアアァアアアアッ!?」 理性を失った叫びが、他人事のように感じられるほど非現実的な音色で自分の口から発せられる。 痛覚だけでなく、あらゆる感覚がその圧倒的なエネルギーの濁流によって押し流され、全てが混沌に還元されてしまう。 全身の神経が、パルスが、駆動系が、許容量を遥かに超えたその力についに耐え切れなくなり、圧倒的な速度と密度で崩壊してゆく。 だが、最後の一撃を放つという意志だけは、変わらない。 "自殺”というロジックを選べない私の"自殺” 『ねここっ!』 『わかってるのぉっ!』 視覚がその認識能力を失い、聴覚が何を聞いたのか判別出来なくなる。 そして、快楽も、憎しみも、喜びも、怒りも、全てが1つに……虚無へと還ってゆく。 『ネメシスっ!?』 閃光の瞬間、暖かな感触に包まれ、私の意識は……閉じた。 「 ア キ ラ 」 それが、私の最後の、記憶。 [[続く>ねここの飼い方・光と影 ~エピローグ~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]