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*鋼の心 ~Eisen Herz~
**第26話:よつのは
「貴女には、フブキを倒し、土方真紀の計画を阻止してもらいます!!」
◆
「…………………………」
京子は答えない。
答えられない。
それが意味する所の残酷さを理解したが故に。
京子は答えることが出来なかった。
土方京子のたった一人の妹。
今はもう居ない、土方真紀。
MMSの製作者だとか、CSCの罹患者だとか。そんな事は関係なく、京子にとって最も大切だった肉親。
守ろうとして守りきれず。
その心に傷を残してしまった事を悔やみ。
今度こそはと思ったときには既に手遅れで……。
惨悔と遺恨を残したまま失ってしまった最後の家族。
彼女が死を賭して創り上げた物を掠め取られ。
最期の望みすら失われてしまったと思った時に知ったこの計画。
全ての神姫の死を以って行われる復讐劇。
もう居ない妹にしてやれる最後のナニカ。
それを。
それすらも捨てろ、と。
島田祐一は言い放った。
◆
「……その意味を、……分かっていてそう言っているのか……?」
泣きそうな声を搾り出す京子。
「はい」
少年はひと時の間も置かずに答えた。
「貴女の妹の最期の遺志を、貴女に止めて貰いたいんです。京子さん」
存在を抹消された事への復讐。
最期の願い。
それを、踏みにじれ、と。
残酷に言い放った祐一を、泣きそうな顔で京子は見る。
「……できない」
「やってもらいます。……そういう約束ですから」
「でも……!!」
「そのために、俺とアイゼンは貴女とカトレアを超えたんだ……。……その為だけに」
「……なんで、たかが……。たかが……」
たかが神姫の為に。
たかが人形の為に。
たかがオモチャの為に……。
そうは言えなかった。
「……」
不安そうにしているカトレアを見る。
「……」
腕組みしたまま背を向けているアルストロメリアを見る。
「……」
京子を守るように祐一との間に立つストレリチアを見る。
「……」
バイザーで表情を隠し無言で付き従うブーゲンビリアを見る。
たかが神姫ではない。
自分にとっても大切なモノなのだ。
だから、祐一が手段を選ばずフブキを倒そうとするのが理解できてしまった。
アイゼンを失わない為に。
冷酷に、取りうる手段の全てを吟味して。最適解を求める理由が理解できてしまった。
理解。
出来てしまったのだ……。
「……京子さん」
うつむく京子にかけられた祐一の声は、何故かとても優しく聞こえた。
「……京子さんが妹の為に幽霊、フブキを復活させたのだと今は分かっています……」
そうだ。
真紀の計画を完遂させる為に、京子は今までの時を生きてきた。
「……妹を大切に思って、神姫を殺すような計画に手を染めたのも知って居ます……」
それが完遂されれば、全ての神姫が死ぬと。
京子は確かに理解していた。
「……だったら……」
「でも、京子さん自身はどうしたいんですか?」
「え?」
一瞬何を言われたのか、理解できなかった。
「妹さんの遺志は分かりました。……妹を大切に思う京子さんがそれを叶えてあげたいと思うのも理解できます」
そう言って祐一は京子の肩を掴む。
「……それじゃあ、京子さん自身は如何したいんですか? ……本当に、京子さんも神姫を殺してしまいたいんですか?」
「え?」
それは。
如何なのだろう?
言われて初めて考える。
もしも。
もしも、真紀の件がなければ。
神姫を失うようなこの計画を如何思ったのだろうか?
「……わ、私は……。……私、は……」
最初から。
答えは出ていた。
結局の所。
土方京子は武装神姫が好きだったからだ。
◆
カトレアは思う。
土方京子は脆いのだと。
彼女のマスターは、一番大切なものの為に、それ以外の全てを捨ててしまえるほどに、強く。弱く。そして脆い。
不器用で、愚直で。
凡そ賢い生き方とは無縁の危うい存在が彼女の主だった。
だから思う。
守りたいと、強く思う。
それが三人の妹達も同じである事を、カトレアは知っている。
だから愚直に痛みを避けることをしない彼女の変わりに少しでもそれを引き受けようと、彼女の命令に忠実であり続けた。
でも。
カトレアは思う。
それで本当によかったのだろうか?
島田祐一。
彼の神姫であるストラーフに目を向ける。
彼女の覚悟は強く硬い。
あたかもその名の如く鋼の強さで……。
果たして、自分の覚悟はその域に達していただろうか?
アイゼン。
彼女ならきっと。主がそう望むのならば、主を不幸にする事すら厭わないだろう。
私はどうか?
それが出来るか?
私は、主が、マスターが、土方京子が不幸せになると分かりきっている道のりを先んじて導くことが出来るのだろうか?
否。
できるはずが無い。
大切な主だ。
これまでにどれ程傷ついて来ているのかをよく知っている。
だがら願ってしまう。
(せめて、彼女が幸せになれますように)
と。
『……マスターが間違っていると思ったのなら正せたでしょう?』
アイゼンは言った。
『……私達武装神姫はそれが出来る……』
確かにそう言った。
『……傷ついていたのが分かっていて、何で今日まで何もしなかった!?』
カトレアに、そう言ったのだ。
(ああ、簡単な事でした……。要するに、私は……)
「私が傷つくのが恐かった、んですね……」
苦言を呈して主に嫌われるのが恐かった。
主の為を思いつつも、何処かで自らの保身を考えて……。
その結果がコレなのだろう。
だが。
「……まだ、遅くは無い筈です……」
◆
「まだ遅くは無い筈です!!」
カトレアは叫んだ。
「……カトレア?」
「マスター、オーダーを!! 貴女の本当の願いを命じて下さい!!」
「……!!」
京子が息を呑む。
「……貴女は本当に全ての神姫の死を願うのですか?」
「……それは……」
違う。
それは嫌だ。
「でも、……それじゃあ真紀は……」
誰からも忘れられて。
これで京子まで彼女の事を蔑ろにしてしまっては……。
「……真紀は、どうなるの……」
カトレアは、幼子のように泣きじゃくる主の頬に手を伸ばす。
「……それでも。……私はずっとマスターの傍に居たいんです……」
そっと零れ落ちる涙を受け止め、大切な主に囁く。
「……マスターに痛みを強いてでも、私は貴女と一緒に居たい……。……一緒に居たいんです……」
「カト、レア……?」
「マ、ソウ言ウコッタナ……」
アルストロメリアが。
「……私も、マスターと一緒に居たいのです。マスターの傍に居たいのです」
ストレリチアが。
「……同感。……主……」
ブーゲンビリアが。
「……マスター、お願いです。真紀様の遺志ではなく、……どうか、私達を選んでください!!」
カトレア達が。
それを願い。
「……………………………あはは。……そうだな、結局、私は……」
京子が。
「……お前達が好きなんだ……」
それを選択した。
◆
「それに、オレは……」
―――神姫が好きだから。
それは、奇しくも祐一自身が京子に言った言葉と同じ答え。
土方京子は、ようやくそれに辿り着いた。
◆
「……行くぞ」
言って京子は立ち上がる。
「はい」
「任セナ」
「やるのです、張り切るのですよ!!」
「御意」
姉妹達が後に続く。
「……敵は忍者型フブキ!! 私の最愛の妹が造りあげた最強の神姫だ!! 心してかかれ!!」
『了解!!』
その戦いが、ようやく今。
始まる。
◆
「……」
さすがのフブキも辟易してくる。
敵の強さにではない。
弱さに、だ。
「……そもそも、私に適う神姫が存在しないのは自明の理。……マスターのお考えの中でも此処だけはどうしても理解できない部分です……」
フブキの主、土方真紀の立てた計画はこの段階でのフブキの敗北を想定している。
つまりは、彼女はフブキを倒せる神姫の出現を確かなものとして予測しているという事だ。
「……私と妹達では文字通り規格が違う。……神姫が神姫である以上、私より強い神姫など存在しない筈なのに……」
一体誰が彼女を倒すというのだろうか?
「……主よ、何をお考えだったのですか?」
祈るようにそう呟くフブキ。
真紀の計画の完遂には、どうしても彼女を倒せる神姫が現れねばならないのだ……。
最強の神姫であるフブキを倒せる神姫が……。
「……。新たなイントルーダー(挑戦者)ですか……。さて、少しは出来る神姫だと良いのですが……」
そう言って、フブキはデータベースに検索をかける。
「……!?」
ヒット。
戦場に侵入してきた4騎の神姫の全てが1stナンバー。
ナンバー0であるフブキに続く試作型神姫の証だ。
「……試作型は『Group K2』所有の筈……。『Group K2』が解体された今、所有するのは『FrontLine』か『Kemotech』か……」
そう言っていぶかしむフブキ。
「……企業が動いたにしては早過ぎる気もしますが……。確かに私に対抗できそうな神姫ではありますね……」
それでも。
敵う筈が無いのだ。
元々、神姫とはフブキより弱いものなのだから……。
◆
「お久しぶりです、フブキ姉さま」
「……貴女は……確か、カトレア?」
天使型試作機の一つ、レーザーブレードの運用試験を担当していたアーンヴァルタイプの一人だった筈だ。
「ええ、姿こそ変わりましたが……」
かつて天使(アーンヴァル)型であった彼女は、今は花(ジルダリア)型のフレームとしてそこに居た。
「なるほど、企業の差し金ですか?」
「いえ」
微かに笑いながらそれを否定するカトレア。
「……私の主は只一人!! あなたの主の姉君、土方京子さまです!!」
そして、誇らしげにその名を口にした。
◆
「あ、呆れた……」
呆然と呟くリーナ。
「……まさか、土方京子の神姫をぶつけるなんて……」
「うん。……多分俺達全員で掛かれば倒せるとは思うけど……。どうしても、ね」
「?」
首を傾げるリーナに祐一が問う。
「……リーナさ。フブキのデータ取りしてるでしょ?」
「え、ええ……」
確かにリーナはノートパソコンを使用し、フブキと呼ばれる黒衣の神姫のデータを纏めている。
「……それじゃあ、端的に言って如何? フブキは……」
「……ん」
データに目を落し、言いよどむリーナ。
「……強いわ。……馬鹿みたいに強いわね……」
腕力、脚力、反応速度。
攻撃に防御。
何れを取っても規格外の一級品。
イリーガルにだって、これほど高パラメータの神姫は存在しないだろう。
「……それに、何か変なの……」
フブキの見せる不可解な性能。
「……さっきからいくら使っても尽きない羽根手裏剣や、被弾しても傷もつかない防具。……一度なんて折れた刀が治ったりしてるのよ?」
「そりゃまた。……えらく規格外な神姫な事で……」
さすがに苦笑する祐一。
「それだけじゃないわ。……アイツ如何見ても死角が無い。……真後ろからの攻撃でも平気で避けるし反撃するし……」
「なるほど……」
要するに、答えは簡単。
「つまり、最初から対多数が前提の神姫なんだ……」
「……え?」
それを聞き、暫し考え込むリーナ。
「……って事は……。もしかして……」
そして、その解に到る。
◆
飛び込んできたカトレアのレイブレードが一閃。
それを紙一重で避わし、反撃として忍者刀での刺突。
「サセルカ!!」
「……っ!!」
横合いからの銃撃を防ぐ僅かな隙で忍者刀を避したカトレアが離脱。
間髪居れずにストレリチアの突進が来る。
「吹っ飛べなのです!! 打っ飛べなのです!!」
「ええい、鬱陶しい!!」
一瞬、跳び上がって距離を離したくなる衝動に駆られるが、寸での所で思い止まりギリギリの間合いで何とか回避。
駆け抜けてゆくストレリチアに反撃するより速く、体勢を立て直したカトレアが再度飛び込んでくる。
「……っ。この子達、戦い慣れている!?」
迂闊に距離を離せば、控えているブーゲンビリアのレーザーが打ち込まれるだろう。
この状況では、フブキは身を摩り合わせるような近接距離から離脱する事はできない。
カトレアの斬撃とストレリチアの刺突。
共に一撃必殺の威力を持つそれらに対処しながらも、ブーゲンビリアのレーザーの存在により安全距離への離脱が出来ないもどかしさ。
更には此方のリアクションの尽くを潰しに来るアルストロメリアの反応速度。
既に少なくない数のかすり傷を負い、自己修復もそろそろ限界だった。
「モレキュラーマシン(分子機械)の残りも僅か……。よもや此処までか……」
(……主はこの展開を読んでいた? 京子さまが“敵”に回る可能性を読んでいたと?)
思いがけない展開に、フブキは唇の端を吊り上げる。
「……良いでしょう、妹達……。Mマシンも残り3割……」
広げた黒い翼が周囲の靄を吸い込みその密度を増す。
「……此処から先は全力です。……しっかりと、その目に焼き付けなさい!!」
吠えて。
フブキは突進した。
◆
「モレキュラーマシン?」
「ええ、分子機械と呼ばれる極小サイズの機械です」
雅の問に村上が答える。
「……ナノマシンと言う言葉ならば聞いた事もあるでしょう? ……モレキュラーマシンは、それよりも随分大きな単位で構成される言わば雛形といった所でしょうか?」
「……それが、フブキの強さの秘密なの?」
「ええ、そして同時に、存在の秘密でもあります」
◆
「真っ二つにされたマヤアもちゃんと生きてるし、フブキに挑んで返り討ちになった神姫だって、実際には誰も傷一つ負っていない……」
「……って事は」
祐一の言に首を傾げる美空にリーナが続ける。
「って事は、フブキは“存在していない”って事ね?」
「うん、少なくともこの場には、ね……」
「え? どういう事?」
場内モニターと祐一たちを交互に見ながら美空は言外にフブキの存在を主張する。
「……アレは幻って事だ。……フブキの人格プログラムと極小サイズの分子機械が神姫を相手にヴァーチャルリアリティを見せているって感じかな?」
「流石は開発者の一人、上手いわね。……バトルロイヤルのシステムを逆用して幻の神姫を実体として扱うなんて……」
「ゴメン、よく分からない……」
お手上げとばかりに手を挙げる美空にリーナが説明を始めた。
◆
「バトルロイヤルでは中枢に及ぶ破損を受けた神姫は、強制的にスリープモードに移行させられます。……同時に他の神姫はその神姫に対する攻撃をロックされる。……神姫が致命的なダメージを負わない様に考案された方式ですが、フブキはそれを利用して、あたかも自身がその場に存在しているかのように見せかけて居るんですよ……」
「……つまり、そのナノマシンモドキが大量に集まって神姫の形になっているって事?」
「相手に与えるダメージはデータに過ぎない、ハリボテのような物ですがね……」
「……それって、完全にズルじゃん?」
眉を寄せる雅に村上が微笑む。
「そうですね。確かにズルです……。ですが、恐らくこれは試験なのでしょう」
「?」
◆
「要するに、ウイルス入りのコンピュータを何処かで守っているフブキへ挑む為のテスト、よ」
「つまり、このナノマシンモドキで出来たニセモノを倒せない限り、フブキも倒せないって事?」
「そうね、美空。……その通りよ」
四姉妹と激戦を繰り広げるフブキを見上げ、リーナが表情を硬くする。
「多分、このフブキ。……本物と同じか、より低いレベルで設定してあるんでしょうね……」
「逆に言えば、もしこのフブキが本物だった場合、マヤアも他の神姫たちも本当に死んじゃう可能性があるって事だ……」
実際には殺傷力の無い、霞のような存在であるこのフブキ。
だが、もしもこの場に居るのが本物の神姫であるフブキだった場合……。
真っ二つにされたり、頭を穿たれたりした神姫の中には死に到る者も少なくないだろう。
「……つまり、これはテスト」
「この偽フブキを倒して開示されるウイルスの在り処には、少なくともこの偽フブキに対抗できると思う奴だけ来い、と言うことね……?」
「そうよ。……そして、その何処か、で本物のフブキを倒せたらウイルスも止められる。そういう仕組みなんでしょうね……」
「ん?」
ふと、美空は首を捻る。
「……あれ? でも、それって……?」
美空の気付いた違和感。
それこそが祐一が到った解答。
京子が到れなかった解答。
そして恐らく。
土方真紀の用意した真実だった。
◆
(やはり、実体の無い幻だけの存在……)
間合いを離す為に繰り出した蹴りの違和感から、カトレアはその結論に至る。
(蹴っていると言うよりも、脚の関節にロックが掛かっていると言うような感覚……)
それが意味する所は一つ。
(確か、真紀様の研究内容の一つが分子機械……)
神姫の自己診断、修復を最終目標に研究されていた内容の筈だが、応用次第では再生を行わせることも不可能ではない筈だ。
「やはり、マスターのお考えの通り……」
『……つまり、最終的にはやはり打撃ではなく熱攻撃……。 ブーゲンビリアのレーザーで根こそぎ分子機械を焼き払うしかない訳だ……』
100分の1ミリ程の小さな分子機械を、斬ったり突いたりでは倒しきれない。
大口径かつ大出力のレーザー砲で途上にある全てを焼き払うしかない……。
「ですが、そう易々と撃てる様な相手ではありませんが……」
『フォーメーションD2だ。……吹き散らして焼き尽くす……』
事前に考案されているフォーメーションの一つに加え、データ化された細かな修正プランが4人のAIに転送されてくる。
(……なるほど、確かにこれしか無いようですね……)
決断すれば後は早い。
「3人とも!! ……フォーメーションD2行きますよ!!」
カトレアは妹達に檄を飛ばす。
「……ヤレヤレ。マタ博打ミタイナ大技ヲ……」
「アレは恐いのでドキドキなのです、ガクブルなのです……」
「文句を言わない!! ……ブーゲンビリア、準備はいいわね?」
離れた場所でレーザーを構えるブーゲンビリアが微かに頷く。
「……了承。……出力第二段階突破。……準備好」
「上等です。相手はあのフブキ様、死力を以って掛かります!!」
「来るか……」
機動性に長けたアルストロメリアの突進から攻撃が始まった。
死角から放たれるアルヴォ2丁の同時攻撃をフブキはギリギリの間合いでかわしてゆく。
(威力は並だが速すぎて、反撃は狙えない……)
僅かにタイミングを遅らせて一撃必殺の威力を持つカトレアのレイブレード。
「…っ!!」
身を捻って交わした直後。
「……発射!!」
ソレが来た。
超高出力の化学レーザー砲ユピテルの“class2”モード。
レライナとの戦いでは、岩塊すら易々と貫通する威力を見せたそれが戦場を奔った。
「まさか!? 味方ごと!?」
射線上にはフブキだけではない。
カトレアとアルストロメリアもレーザーのダメージ圏内だ。
「……くっ!? 回避は……間に合わない……!!」
そう判断するや否、残存分子機械を集中し翼を展開。
広げて殻の様に身を包んで防御姿勢を取る。
無傷とは行かないが、防御してしまいさえすれば分子機械も2割ほど残る。
(この攻撃でカトレアとアルストロメリアを失えばブーゲンビリアは最早無防備……。2割あればストレリチアもあわせて楽に倒せる筈……)
そこまで思考し。
ふとストレリチアの行方を気にかけた。
(ストレリチア? 彼女は何処に?)
「それを待って居たのです、その防御モードを待って居たのです!!」
ストレリチアは上に居た。
フブキの直上、20mから真下の地面に向けてオーバーブースト!!
衝撃波すら伴いながら、レーザーの奔流の中、身を硬くするフブキへ向けてランスを突き立てる。
「トドメなのです!! ドラゴニック……、メテオぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「しまった!?」
避わせない。
平素なら、目を瞑っていても避せるような大仰な一撃も、防御姿勢のフブキには回避できない。
防御を解けば周囲を満たすレーザーに焼かれ、解かなければ…………。
◆
どん。
と言う冗談みたいな爆音と共に、神姫センター全体に軽い振動が奔る。
その中心地であるバトルロイヤルフィールドで起こった破壊の規模は、推して知るべし。
結果だけを書くのならば。
フブキのコピーは跡形も無く消滅した。
◆
「―――全く。心臓に悪い技なのです……」
言葉少なく心境を語るストレリチア。
「イヤ、心臓無イシあたしラ……」
「……全員、無事?」
「ええ、なんとか全員無事です……」
ブーゲンビリアのレーザーに曝されながらも、3人はしっかりと生存していた。
理屈は簡単。
カトレアのバリアならば“class2”までのユピテルは防ぐことが出来る。
故に、全員でバリアの陰に隠れただけだ。
ただし、途中からレーザーの中に突入してきたストレリチアはそうも行かない。
故に、カトレアはタイミングを合わせてバリアを解除。
その電磁フィールドをストレリチアに向けて照射し、そのまま拘束。
彼女の絶対防壁であるイージスの盾を応用したメドウサーシステムを使用したのだ。
これは、電磁バリアで相手を拘束する技だが、別の言い方をすれば“電磁バリアで敵を包む”と言う事も出来る。
この場合はストレリチアをバリアで包みアルストロメリア共々ユピテルから身を守る盾にしたと言う訳だ。
「要求タイミングの誤差はコンマ2秒以内。……確かに心臓には悪いのです」
「……イヤ、ダカラあたしラ心臓無イシ……」
「マスター、心臓保有」
ブーゲンビリアの指摘に通信機越しに京子が答える。
『確かに、一歩間違えれば酷い事になるフォーメーションだったな……。……皆、良くやってくれた……』
色々と吹っ切れたのか、微かに微笑む京子。
「まあ、マスターの考案なされた戦法です。不安はあっても躊躇いは有りませんでしたが……」
『そうか』
ひとしきり笑った後、京子は戦場を移すモニターに目を戻す。
『だが、恐らく本番は此処からだ……』
その言に違わず。
再び戦場に土方真紀の立体映像が浮かび上がった。
[[第27話:この晴れた空の下で]]につづく
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半月サボって白アーク&白イーダを愛でてたぜ!!(←挨拶)
良い出来ですねぇ、実に良い出来ですねぇ……。
思わずバイク(トライクじゃないのがミソ)とか作ったり。
次があるなら主役神姫はトライクのお二人かもしれない。
……とか言いつつ、実は説教臭い話が苦手で書けなかっただけとも言う……。
でもっていよいよ鋼の心も佳境。
でもきっとここからが長いんだ。
伏線回収しきれるかどうか……。
P.S.(←誰に?)
っとまあ何はともあれ、フミカネさんの画集がありません。
秋葉のソフマップにも無いとは思わなんだ……(号泣)。
一体何時になったら手に入るんでしょうか?
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