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Scapegoat

こどな

こどな




 廊下でふと、三谷とすれ違う。放課後のことだった。
 通常ならばこのまま、なにごともなく只すれ違って終わるはずなんだが、何を思ったか、二、三歩進んでから三谷は唐突に振り返って、ミツル、と俺の名を呼んだのだった。
 苦々しげに振り返ると、三谷はたまたまそこに美鶴が居たから声をかけたんだよ、というような表情でいやにニヤニヤしてそこに立っていた。
 小さくため息をつくと、短く用件を聞いた。
「…あのさ、今日、わからないこと……があって…それで…だから…その…」
 口調からして回りくどくなることは明白だ。いらつく。言いたいことがあるならはっきり言えよ。もじもじと指で遊ぶ三谷を見ていると無性に腹が立つ。憎らしい。
「だから?」
 短く、つんと冷たさを込める。鈍いこいつが気づくはずもないが、嫌がってるんだぞ。
「…うん、その…だから…ミツルの家、行ってもいいかなって……」
「なんで?」
「……人に言えないような、そんなはなし」
 どんなはなしだよ。
「だったら最初からそう言えよ」
 まだるっこしい奴だな、と吐き捨てて俺は三谷に背を向けた。そのまま早足で進んでいくと、後ろからせかせかと三谷がひっついてくる。俺が速度を速めると三谷も速くなり、俺が歩を止めると三谷も急ブレーキ、なのだった。
「あの、おばさん、いないよね?」
「いない」
「…そ、そっか…よかった」
「(誰もいいなんて言ってないんだがな)」
 内心追い返したかったが、振り返るとなぜかニカニカ笑う三谷を追い払うのは面倒だった。なぜとかどうしてとか泣きそうになりながら付きまとうので迷惑極まりない。そしてもっと面倒なことになるのだが。
「(……ガキめ)」
 めげない三谷に冷たい一瞥をくれてやった。

「話って何だよ」
 整然としたリビングをきょろきょろ見回していた奴は、俺の言葉にわかりやすく反応した。
「あ……うん。そうだね…」
「さっさと話して帰れ」
「…や…でも」
「女々しい奴だな!言いたいことがあるなら思い切ってはっきりと言えよ!」
 俺がテーブルを強く叩くと、三谷は少し俯いて、振り切れたようにまた顔を上げた。
「…ああ、うん。それじゃあ言うんだけど」
 三谷は出されたカルピスソーダを一口飲むと、思い切ってはっきりと言ってしまった。

「セイキョウイクって、最近習ったよね?」

カルピスソーダを吹いた。

暫くむせて、三谷が優しく背を叩くのがまた癪だった。
「……で…、それが…?」
 少しでも自身を落ち着けようとカルピスソーダを一口含んだ。照れ隠しの意もあった。

「男同士でセックスってできないのかなあ?」

 カルピスソーダを吹いた。

 暫くむせて、三谷が不安げに背を叩くのがまた癪だった。
 一通り落ち着いて、口元を袖で拭った。照れ隠しの意もあった。
「おまえ…一体…ナニを―――」

「僕、ミツルが好きなんだ。知ってるでしょ。セックスって大好きだからするんでしょ。だからミツルとしたくて」
 だからだよ。で、亘の告白は終わった。

 卒倒しかけた。

 が、亘は許してくれなかった。
「で、どうすればいいんだろ?知ってる?」
「知るわけないだろっ」
「そう?」
「そう!」

「じゃあ、試してみようよ。」

 いっそ泣きたくなった。

「……おまえ、おまえ……いったい……いったい…」
「だめなの?」
「だめに決まってるだろ!!!」
「なんで?」
「……だって…男同士でできるわけないし、それにまだ早いだろ?!」
「関係ないよ。キスはさせてくれたでしょ」
「それとこれとじゃ違いすぎるだろ!!!!」
 違わないよ―――。
 そう言う亘はあまりに無邪気だった。無邪気な笑顔を見せながらじりじりと寄ってくる。俺もまたまたじりじりと逃げるのだが、逃げおおせるわけもなく、やがて壁に背中がこんにちは。
「いいでしょ」
 亘はすぐそこだ。
 亘は、すぐ、そこだ。
 そして――――。
















 現在に、至る。
 いっそ寝てしまいたかったが、おばさんの帰宅時刻をふと思い出して、だるく痛む身体を無理やり起こした。
 事後処理をやりおおせると、亘が床で幸福そうに寝ていた。軋む身体を思うと、無性に
「(殴ってやろーか)」
 …と思い、拳を固くするのだった。
 しかし唐突に自分の名が呼ばれ、(寝言なのだが)そしてまた唐突に愛の告白がはじまると、(それもまた寝言なのだが)俺はなぜだか、渋面を柔くするしかないのだった。
 タオルケットを持ってきて、亘に被せる。そして俺もそこにもぐりこむと、亘の間抜け面(失礼)をよくよく観察することが出来た。
 そしてまた、亘は小さく呻いて俺の名を呼んだ。

 らしくもなく、
 ふ、と微笑して、小さくワタル、と呟いた。

 そして眼を閉じると、急速に睡魔が襲っ…て………。…………………………。


「ただいま、美鶴………ん、あら…美鶴と三谷君は本当に仲良しなのね。一緒にお昼寝なんて……かわいい」














こどな…シラタキが勝手につくった造語。おとな+こどもでこどな。

最終更新:2007年01月07日 15:14