退屈という口実
「天体観測に行きましょうっ!!」
まだしつこく熱気の残る九月。新学期も始まり皆夏休みボケを引きずりつつ学校生活に戻り始めていたある日――――、
部室のドアがやたら勢いよく開き、ああこりゃハルヒかと推測していたところやはりこいつで、そんでまた突拍子もないこと言い出してくれていた。
長門は我関せず、朝比奈さんはビックリ。そんでそういや仮面スマイルがいないと思えば――――、
ハルヒのうしろに居やがった。
「お前の差し金か?」
向かいでオセロを操るスマイルに問う。
記憶を手繰ると昔は天体観測が趣味だったといっていた気がする。
と、すれば十中八九こいつの差し金に違いないのだ。
「差し金、とは心外ですね」
苦笑しつつ古泉が黒を置く。おいそこに置いてどうする気だ。相も変わらず弱い。
「廊下で偶然涼宮さんと出くわしまして。七夕の話題がつい天の川にまで発展してしまいましてね」
初体験のタイムトラベルを思い出す。七夕といや、わりと最近の話だ。
「僕が星に詳しいことが知れてしまいまして、それで…ね」
困ったように頭を掻くがなぜか嬉しそうだ。
「あと、最近涼宮さんが退屈なさっているようでしたから」
取ってつけたように言った。
「いいじゃないの、皆で夜にピクニック。そういやなんかそういう本あったっけ?」
ハルヒが団長席から首を突っ込んできた。
「まあいいや、とりあえず今夜決行ね」
唐突過ぎる。
「来ないと、死刑だから」
出た。
それも、満面の笑みで。
集合は、なぜか学校だった。
俺が到着したときはもう校門が開いており、玄関前にハルヒたちが揃っていた。
夜中の学校とハルヒ、か。実に相性が悪い。例の図形と神人が、悪夢のように脳裏に蘇ってきた。
「おっそい。でもま、全員着たわねっ」
両手を腰に当て、ハルヒ。Tシャツにキュロットスカート、そしてニーハイソックスというラフな出で立ちの団長は実に満足げだ。
「…あ、こんばんわあ、キョンくん」
白い上品なワンピースにピンク色の薄手のカーディガンを羽織るはまさに天使。我らが朝比奈さんである。両手でかわいらしくバスケットを持っていらっしゃる。ハルヒの命令で手づから作ってくださったものがなにか入っているはずだ。急に腹が減ってくるね。
「………」
長門は通常営業。制服だ。学校だからまあ合っているかも知れない。
古泉は今日もなぜかネクタイ締めて、細長い筒状のバッグを携えていた。
「望遠鏡です」
聞かれても居ないのに答えるな。なぜかこいつまで上機嫌である。いつもの微笑より1.5ほど濃くなった気がする。
「突入!」
ハルヒが叫ぶ。ガチャリと玄関の扉が開いた。
「…またお前は」
「何よ、なんか文句あるっ?」
晴れバレしつつユカイげな笑顔で先頭のハルヒが振り返る。
「お前はまた鍵をくすねたのか?」
立ち止まる。
振り返る。
「また?」
ハルヒが怪訝そうな顔をする。
しまった、失言だ。
朝比奈さんがアワアワしている。
「…いや、これが最初だったか。お前はしょっちゅうこういうことをしていそうだからな」
「ふーん。勝手にレッテル貼らないで欲しいものだわ」
そういうと少しだけ不服そうにしたもののハルヒはまたスキップを始めた。
溜息。安堵を含めて。
それはほぼ朝比奈さんのものと重なっていて、ふたり顔を見合わせて苦笑する。
いいね、『ふたりだけの秘密』ってやつは。
「わあっ!」
屋上にたどり着き、ハルヒが両手を広げてはしゃいだ。
「見て見てキョン!ほらっ星!」
言われなくてもいやでも目に入る。
本日は晴天で、星と月が綺麗に夜空に浮かんでいた。
「寝っ転がって見ましょ」
ハルヒは俺に持たせていたレジャーシートを奪うとバサバサやりはじめた。
仕方なく、全員靴を脱いで寝転がる。
「綺麗ねー。古泉くん、説明頼むわ」
古泉は与えられた役割に満足そうに立ち上がって、懐中電灯を夜空に向ける。
それを指示棒代わりに夜空を指しながら、やたら嬉しそうに解説し始めた。
あれがなんたらこれがなんたら、興味のない話は眠くなる。
朝比奈さんは素直に関心、ハルヒはとにかく大はしゃぎ、長門は無表情に少し好奇を含めて、各々夜空を見つめていた。
「古泉くん、なんだかとっても嬉しそう」
朝比奈さん特製おにぎりを食しつつ彼女を見る。
驚きを含んだ俺の視線に、彼女はふふと笑う。
「気づいてたんですか?」
「うん。あたしが気づくくらいワクワクしてる気がしますよ?」
朝比奈さんがわんぱくな息子を見守る母親のような目つきで、古泉とハルヒを見る。
ハルヒがあの星なんなの名前あんのと聞き、古泉が詳細まで解説してみせる。ハルヒが納得し、また別の星を指す。それがさっきから続いていた。
長門は、というと俺たちの後方で黙々とサンドイッチやらなんやらを口に押し込んでいた。うまいらしい。
「…そうですかね」
「でも、キョンくんも気がついたんでしょう?」
ふわり、と朝比奈さんが微笑する。
「……まあ」
「みんなずっと、こういう風に……楽しいと、いいですよね…」
夜空を見ながら、朝比奈さん。
――――その心の半分は、どこかに旅立っているような目つきだ。
………。
「みっくるちゃーん!お茶ちょーだいっ」
腹が減ったのか、ハルヒが駆け寄ってくる。その後ろから古泉が歩いてやってくる。
「古泉」
ハルヒが長門と食べ比べをし始めて少し経ち、意味もなく並んでいた俺たちは何を話すでもなく黙っていたが、俺から口を開くことにする。
「なんでしょう?」
「あの星、なんていうんだ」
俺が指した星に嬉々として古泉は飛びついた。
「ああ、あれですか?あれは――――」
一通り終わると、俺は更に問う。
「みんなで星を見に行こうとハルヒを誘ったのはお前なんじゃないのか」
少し黙って、
苦笑。
「涼宮さんが退屈なさっているようでしたから」
嘘つけ。
正直、星のこととか詳しく調べず書きました…;
ちょっと勉強したら修正したいと思います。
最終更新:2007年01月21日 19:26