嗚呼、儚き青春の日々
ふたりきりになってしまった。
はじめに朝比奈みくるが「用事」とやらで抜け、例の彼も妹の面倒ということで早々に引き上げてしまい、
長門有希は、
暫くそこにいたが、やがて無言退室していった。
気を使わせてしまったのだろうか。
そんなことを思いつつ、団長様を見る。
「…うーん、有希も帰っちゃったかあ…」
頬杖をついて、彼女は口を尖らせていた。アヒルのそれに似ている。勿論、言わなかったが。
「まあ、いいわ」
少し勢いをつけるように、涼宮ハルヒは立ち上がった。
「いい、古泉くん」
つられて立ち上がった俺に、彼女はひとさし指を突きつけている。思わず寄り目になりそうだった。危ない。
「一人や二人や三人いなくたって団長と団員さえいればそれは絶対不滅のSOS団なのよっ。」
そのセリフには、やや弾みが足りないと思った。
先を歩く彼女に、黙ってついて行く。
オレンジ色に染まる歩道。人の賑わいもあと少しという商店街。
ずかずかという擬音が一番似合う歩き方。ついて行くのが大変だ。
「涼宮さん、どこへ行かれるのです?」
「今、考えてるわ」
いかにも、「涼宮ハルヒ」らしい。肩をすくめる。すっかり癖となって、体に動作が馴染んでいることに喜んでいいのかどうかわからない。
ふと、彼女の足が止まる。俺も止まる。
バス停。
涼宮ハルヒは時刻表を確認している。
バスが来た。
彼女は時刻表とそれを照らし合わせ、
「丁度いいわ、」
目前に止まったドアに、
「行くわよ古泉君」
俺を伴って乗り込んだ。
たどり着いた場所は、
「ここ、あたしが通ってたの」
知ってますよ、とは言えない。
通称、東中。彼女の母校だ。
空のオレンジ色が暗い色に侵食されていき、生徒の大半は引き上げている。
彼女は校門の前で立ち止まる。細々と下校していく生徒たちが、奇異の視線で俺たちを舐めていった。
夕陽を受ける彼女の横顔は綺麗だった。黙っていれば相当の美少女であるのに。言わないが。
すっかり誰もいない。
昼と夜の境目のような時間の中で、涼宮ハルヒはただ静かに立っていた。
頭ひとつ分違う背丈。
今だけ、彼女が非常に小さな存在に思えた。
なにを考えているのか、長門有希並みに彼女は動かなかった。
「ねえ、三年前なんだけど」
因縁深いその言葉に、心臓が多少に飛び上がる。
「あたし、夜中にここに忍び込んで、校庭に白線ででっかく文字を書いたのよ。宇宙文字。」
数秒思案する。結果はいつもどおりだった。
「流石は涼宮さん」
そういって微笑する。我ながら芸がなかった。
「…でね――――、書いたのはあたしだけじゃなかったの。手伝ってくれたやつがいた」
ぼやき声が脳裏を掠めた。
「北校の生徒だったわ。男。女もいたけど、ずっと寝てた」
続いて、メイド服が脳裏を掠めた。
「そいつが手伝ってくれた。変なやつでしょ?名前聞いたら、ジョン・スミスとかって名乗ってたしね」
淡々とした語調の中に、確固たるものが含まれていた。
風が吹いた。
柔らかな風。黒髪をさらさらと揺らして、やがて落ち着く。
「あたしはこう書いた、」
わたしはここにいる。
バスを待っている。
すっかりと夜に染まりつつある夕暮れ。
「古泉くんを連れてきて正解だったわね」
涼宮ハルヒは、時刻表と時計と、交互ににらめっこをしていた。
「みくるちゃんはオロオロするんだろうし、有希は反応なさそうだし。キョンは――――、」
遠くにバスの姿を確認する。
「…まっ、いいわ。ねえ古泉君、時間ある?あたしお腹すいちゃった、このあとファミレスにでも行きましょ」
「ええ、是非ともおごらせてください」
「あらいいわよ。つき合ってもらったのはあたしだしね。なんでも好きなもん頼んでいいわよ」
そう言って笑って、先に行ってしまう。
微笑しつつ、一定の距離を保ってついていく。
彼の権利に、俺が触ることは未来永劫とない。
あとがき
ネーミングセンスのなさに泣きます…。
最終更新:2007年03月16日 13:15