Ⅲ.
感情に任せるまま足は動いた。
右左右左右左右。
可能な限りのスピードで、人目もはばからず廊下を全力疾走する。
酸素の交換が激しいが、不思議と苦しさはなかった。
なぜって、
他の事でそこまで頭が回らなかったのさ。
単純な運動はいい。頭を動かさなくていいからな。
ただ、目的地があるということを除けば。
俺が向かったのは、部室だった。
激しくドアを破ると、ハルヒと朝比奈さんが瞠目してこちらを見ていた。
「ちょっと、なによ……。」
「きょ、キョンくん、どうしたんですかぁ…、そんなに、急いで」
流石の朝比奈さんも今だけは眼中にない。
俺はハルヒに向かって直進する。
呆然と俺を見つめる、SOS団団長へと。
「っ、」
俺が勢いよく団長机に両手を叩きつけると、三角錐が飛び上がると共にハルヒも小さく動く。
「…キョン…?」
不安げにこちらを上目で窺うハルヒ。すまん、俺もわけがわからないんだ。
「なあ…、ハルヒ。お前は神様なんだよな?」
わけのわからぬことを言い出した俺に、ハルヒの顔は更に疑問を深めた。
「…な、なに…言ってんの…?」
「なあ!!」
いきなり叫んだ俺にハルヒの肩がすくむ。その肩を両手で掴んで俺は更に叫ぶ。
「お前ならできるんだろ?なにせ神様なんだからな、なあハルヒ、お前だってあいつが、古泉がいなくなるなんてこと望んじゃいないんだろ、そうだろ、だから、な、ハルヒ、元の世界に戻してくれよ。古泉のいる世界に、なあ、なあ、なあッ!!」
俺に肩を揺さぶられるハルヒは完璧に困惑していた。いつもは気丈なその瞳に明らかな動揺と怯えが宿っている。首をふりながらハルヒは俺から逃れようとする。
「…キョン…?古泉って…ねえ、あんた…」
どうかしちゃったの…?
そんなことはわかっている。
朝比奈さんが息を呑む音を聞いた。
打撃音、小さな悲鳴、嗚咽。
ハルヒが俺の名を小さく呼ぶ。
団長席につっぷせる。
鈍く痛むこぶし。
何の罪もない机を殴って、痛かったのは自分の両手だった。
古泉。古泉。
俺は成すすべもなく、ただ哭(な)いた。
ハルヒが、朝比奈さんが、もう一度俺の名を静かに呼ぶ。
その声に、どうしようもない感情にかられた。
だめだ、辛すぎる。
ここにいたら俺はきっともっと『おかしな事』を口走るだろう。
だからここにはいたくない、
感情に任せるままに足は動いた。
どこに行くかなんて、俺にはわからない。
わかりたくもない。
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最終更新:2007年03月16日 13:25