白い粒
雪が、降った。
しんしんと降る白い粒に、百鬼丸は思わずして足を止める。
手のひらを出すと、その粒がふわりと舞い降りて、ゆっくりと溶ける。
「綺麗だ」
前をずかずかと進んでいたどろろも足を止め、振り返る。
「なんでい。雪ぐらい見たことあんだろ」
「そうだが」
見上げた空から次々と舞う白い粒。なんとも幻想的な光景だと思ったのだろう。
足を止めずにいられなかったほどに。
半開きだった口にも雪が落ちてきて、百鬼丸は冷たい、と言葉を漏らす。舌の上の感覚は既に戻っていた。
その様子を見てどろろは噴き出す。まるで子供のようだと笑う。
雪、というものにどろろはあまり良い印象は持っていないのだが、それでもこの青年のしでかす事はいちいちおかしみを誘うようだった。
百鬼丸は、笑うどろろにつられて表情を緩めた。
「好きだ」
唐突に言われた言葉にどろろは軽くほほを染めかけたが、直ぐに今の天候であることに気づいて慌てて視線を逸らした。
「なんでい。ただ寒いだけじゃねーか」
こうして真っ白な粒を眺めていると、つい思い出してしまいそうになる。
母のこと。
そのときの気持ち。
だからどろろは進むことにした。思い出すときりがない。
「おらっ行くぞ!凍えちまうぜ」
「…、ああ」
少し名残惜しむようにして百鬼丸は答えた。
その夜は、廃墟となった寺院で寝ることにした。
そこら辺にあったぼろきれに包まって寒さをしのぐ。それでも、息は白いままだった。
「さみーなぁ…、」
どろろは、誰にともなく呟く。隣にいるものは起きているかどうか。
「そんならこっちに来たらどうだ?」
起きていたようだ。何の気なしというように百鬼丸が答える。
「……、ま、しょーがねえか。どうしてもってんなら行ってやる」
照れるような返答に、百鬼丸は邪気なく笑ってどろろを受け入れた。
潜り込むと、既にそこは人の体温で暖められていて、とても居心地が良い。どろろが安堵の息をつくと、百鬼丸は少し笑った。
あたたかい。
そう感じる。百鬼丸に触れていると、どうしようもなくこそばゆい気持ちになる。
「…、ったく、あにきは犬みてぇだ」
誤魔化すように言った。男として意識しているのを悟られたくなくて、安易に動物に置き換えてしまう。
「犬?俺がか」
「ああ、でけぇ犬だぜ」
そう言ってがしがしと頭髪をかきまぜる。柔らかい髪質。嫌いじゃない。
百鬼丸は不思議そうにしながらも、目を細めてされるがままになっていた。そんなところも犬らしいと思う。
そして、ふと。
少しだけ力強く、百鬼丸の腕に抱きすくめられる。
「ひゃっ」
小さく、らしくもない声を上げた。すると、百鬼丸も驚いて腕の力を弱める。
「な、なにすんでい」
そう言いながらも明確な拒絶は見せない。自分は嬉しいのかもしれないと思うとどろろは更に赤くなった。
「なにって…、寒いんならひっついてた方があったけぇだろ」
百鬼丸も少し照れたように呟く。
らしくない。
非常にらしくないのだが、
「………ちげえねえ」
たまになら、いい。
言い聞かせて、どろろは百鬼丸の胸に顔を埋めた。
次の日も雪は降り続けていた。
しかし、どろろは雪が嫌いではなくなった。
初の百どろ。色々おかしいところがあるかと…。
最終更新:2007年03月24日 14:43