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張り詰めすぎた少年」(2008/07/06 (日) 22:45:44) の最新版変更点

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*&color(red){張り詰めすぎた少年 ◆7vhi1CrLM6} まだ土中の湿り気を帯びた暗い土。それがその存在を主張していた。 一人の少年が呆けたように座り込んでいる。 頭で理解はしていても心の片隅では否定していたのだろう。 それが確たる証拠によって崩れ去り、一時的に感情が麻痺している。 真正面から受け止めるには少年はまだ幼く、心は未成熟だったのだ。 その悲しげで、触れば崩れ去ってしまいそうなほど寂しげな背中からロジャー=スミスは目を移すと、ソシエの肩を軽く叩いて艦内への移動を促した。 『暫く一人にさせてください……』それが消え入りそうな声で言った彼の願いだった。 一度振り返る。 その背中はそのまま消え去ってしまいそうなほど弱々しく見えた。 ゆっくりと視線を逸らす。そして、彼もまた艦内へとその足を向けた。 ロジャー=スミスが歩く。 ――私は何をしていた。 ロジャー=スミスが一人歩く。 ――ロジャー=スミス。お前は何をしていた。 ロジャー=スミスが拳を握り締め一人歩く。 ――パラダイムシティが誇るMr.ネゴシエイターよ。お前は何をしていたッ!!! 無造作に打ちつけられた拳が音を立て、Jアークの艦内に乾いた音が反響する。 それは、大きく小さく返す漣のように響き合い、やがて姿を消した。 答えは簡単だ。何もしていない。 殺し合いを止める。 説得する。 依頼主を守り抜く。 ガイが戻るまでその代わりを務める。 その何一つとして成すことは出来なかった。 ――何がMr.ネゴシエイターだ……笑わせる。 ロジャー=スミスは自らを嘲笑った。余りの無力さに嘲笑わずにはいられなかった。 そのとき、風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 突然ハリセンで叩かれた。それも首から上がなくなったかと思うほどの勢いで、だ。 コメカミに青筋を薄っすらと立てながら、それでも自制心を働かせたロジャーは抗議する。 「ソシエ嬢、いきなり何をするのかね」 「一人で悩みこんでいるからよ」 しかし、その程度では全く意に介さないのが、ソシエ=ハイムである。 実にあっさりと言い切った。 「私は別に悩みこんでなど」 「いたわよ」 ぴしゃりと言い切られると同時に、その視線に圧される。 「ロジャー=スミス、あなたは何のためにここに来たわけ?  一人で悩みこむため? キラと口喧嘩するため? 違うでしょ」 言葉に詰まった。確かにその通りなのだ。 ここには交渉をしにきた。リリーナ嬢の代理人として、一介のネゴシエイターとしてだ。 にも関わらず話が反れた。キラに矛盾を突かれ意固地になった。 ただ感情に身を任せただけの行為。交渉とは言い難い。 風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 再びハリセンで叩かれた。鼓膜がジンジンする。 「何をする」 「だから、一人で悩むなって言っているでしょ」 「私は別に悩んでなど」 「いたわよ。考え事があるのならアタシに言いなさい」 そうやって胸を張って言い切るソシエの姿に、何処か滑稽さを覚えて言葉を返す。 「君にか?」 「そうよ。一人であれこれ悩むより皆で考えたほうが絶対いい考えが浮かぶんだから」 苦笑いが浮かんだ。 余りにも単純明快な理屈。それゆえにひどく分かりやすい。 「そうだな。では交渉を再開しよう」 そう言い、話を進めようとしたそのときにロジャーの目にある光景が飛び込んできた。 それは―― 「……何故そこでハリセンを振りかぶる」 ハリセンを大上段に振り上げて構えるソシエの姿だ。 「交渉って何なのさ」 「交渉は交渉だ。私にはリリーナ嬢に代わってこの殺し合いを平和的に解決する義務がある」 「だから私たちと交渉するの? あなた、間違ってるわよ。これからするのは話し合い。  交渉じゃないわ」 強い視線が突きつけられている。 『交渉』と『話し合い』。実に些細な違いだが、彼女にとっては大事なことなのだろう。 だがその理由が分からない。だからロジャー=スミスは曖昧にか返すことが出来なかった。 「しかし、私は――」 「しかしもだってもないでしょ!」 反論を展開しようとした言葉はソシエの声に掻き消された。 「いい、ロジャー=スミス? 交渉って別の集団が別の集団に持ちかけるモノよ。  でも私たちは違う。一つの集団。仲間でしょ? だったらこれは話し合いよ」 思わず噴き出した。 ようやくソシエがこうまで必死にわめき立てる理由が分かった。 彼女は気に食わないのだ。 一つのことを一緒にやろうとして話を持ちかけてきた。そのときに『交渉』などという他人行儀な言葉を使ってきたことが、だ。 彼女はこう言いたいのだ。 仲間なのだからもっと気軽に話せ、と。 「何よ。何で笑うのさ」 一人笑うロジャーに少女が拗ねたような視線を向ける。それにロジャーは笑いつつも返した。 「いや、すまない。なるほど、分かった。話し合いだ。話し合いをしよう」 そう言って襟を正す。二度のハリセンで乱れた髪に櫛を通す。 「トモロ、少し憎まれ役を買ってくる。戻ってくるまでにこれまでの行動と接触した者をまとめておいてくれ。  ソシエ嬢、出来れば話し合いは四人揃ってからだ。出来れば熱いコーヒーか何かを頼む」 そして言葉を言い残し、ロジャー=スミスは四人目の元へと歩き出した。  ◆ 調べが風に乗り流れてくる。 懐かしい調べ。 何度も聞いたことがある調べ。 そして、もう聴くことが出来ない最後の調べ。 そんな調べを一人聴いていた。 ただじっと彼女が眠るそこを見つめている。表情もなくただ一心に、だ。 風か吹き抜ける。歌がかき消され、湿った土の匂いが流れ飛ぶ。 「ロジャーさん、ラクスが死にました」 視線が掘り返された土から逸らされる事は決してない。 そのままの姿勢、そのままの表情、何一つ変えることなく少年は、静かに歩み寄ってくる男に声を掛けた。 「死んだ。死んでしまった」 歌はただ物悲しくひっそりと響き続けている。 だが死んだ。死んでいる。土を、墓を掘り返すまでもなく確信している。 何故だか分からないが、そこにもしかしたらという僅かな希望を挟む余地は存在しなかった。 目を閉じれば思い出す、あの桜色の髪を、明るい笑顔を。 不意に胸の内から何かが込み上げてきて叫んだ。 「ラクスが死んだんだ!!」 目元が熱い。堪えようと必死になって食いしばった歯が音を立てる。 その様子に背中越しで視線を注ぎ続けるロジャー=スミスは、そこで初めて静かに口を開いた。 「そうだ。彼女は死んだ。リリーナ嬢――私の依頼主も、ユリカ嬢も、だ。  ならば残された者たちは、その遺志を汲みとってやらねばならない」 思わずカッと熱くなり、気づいたときには掴みかからんばかりの剣幕で捲くし立てていた。 「分かっていますよ、そんなことはッ!! だから僕は決めたんだ!  ラクスを生き返らせる道ではなく、あの化け物を倒す道を!!!」 「分かってないだろう、君はッ!!!」 一瞬、大気が震えたかと思うほどの強い声だった。反射的に黙り込む。 熱した熱が休息に冷めていく。目が泳ぎ、視線は隅へと追いやられる。 「分かって……いますよ」 「そこでそうやっていることが、君の言う分かっているということか?  彼女の遺志を汲みとるということか? 違うだろう? そんなことはありはしない」 追い詰められ、追い詰められ、張り詰めた糸が耐え切れなくなる。 「あなたはいいですよね。そうやっていつも冷静でいられて……。  ラクスが死んだことを知って、あの化け物を倒すと決めて、みんなを守ると誓って、僕は僕なりに精一杯やってきた。  でもその結果がこれです。やるべきことだと思ってやったことが間違っていて、同じ思いを持つ人を殺してしまった。  仲間に裏切られ、守るはずだった仲間も死なせてしまった。何が正しいのか分からない。自分のやっていることが合っているのかすら分からない。  もう頭の中がグチャグチャで……どうかなってしまいそうなんです」 口にしたのは弱音だった。放送後、誰にも見せる事のなく、また誰にも見せれなかった後ろ向きの姿だ。 こうしなければならない、こうあらねばならない、とそれまで必死になって作ってきた自分が壊れ、素の自分が顔を出したのだ。 その歳相応の、等身大の姿を確認してロジャー=スミスは気取られないようにホッと一息を吐く。 正直、この少年の気の張り詰め方には危うさを覚えていたのだ。 年齢以上に大人びて、背伸びというだけではとても足りない張り詰め方だった。 それは近くに頼れる大人が、感情的になれる相手が、弱音を受け止められるだけの存在がいなかったことに起因していたのだろう。 だから、その役を買って出たのだ。 「何も間違わない人間などいはしない。そんな者は人とは言えない。事実私も間違った。君達との争いを止めることさえ出来なかった。  人一人で出来ることなんて高が知れている。だから君はもっと人を頼っていいのだ。何でもかんでも自分一人でやろうとすることはない」 ロジャーが肩をポンポンと軽く叩き、優しく声をかける。そして、落ち着いたら戻ってくるようにと伝えて、その場を去って行く。 溜息と共に朝日の射し始めた空を見上げる。放送のときはもう直ぐそこまで迫っていた。 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)  パイロット状態:脱力、ジョナサンへの不信  機体状態:ジェイダーへの変形は可能?各部に損傷多数、EN・弾薬共に70%         反応弾を所持。  現在位置:E-3ラクスの墓  第一行動方針:?  第二行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める  最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】  備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し  パイロット状況:右足を骨折  機体状況:無し  現在位置:E-3  第一行動方針:ロジャー・キラ・トモロと話し合いを行なう  第二行動方針:新しい機体が欲しい  第三行動方針:仲間を集める  最終行動方針:主催者を倒す  備考:右足は応急手当済み】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)  パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数   機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)        側面モニターにヒビ、EN70%  現在位置:E-3(凰牙はJアーク甲板)  第一行動方針:ソシエ・キラ・トモロと話し合いを行なう  第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める  第三行動方針:首輪解除に対して動き始める  第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める  最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)  備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能  備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯  備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【二日目5:45】 ---- |BACK||NEXT| |[[夜明けの遠吠え]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[アキトとキョウスケ]]| |[[ヘヴンズゲート]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|| |BACK||NEXT| |[[何をもって力と成すのか]]|キラ|[[二つの依頼]]| |[[何をもって力と成すのか]]|ソシエ|[[二つの依頼]]| |[[何をもって力と成すのか]]|ロジャー|[[二つの依頼]]| ----
*&color(red){張り詰めすぎた少年 ◆7vhi1CrLM6} まだ土中の湿り気を帯びた暗い土。それがその存在を主張していた。 一人の少年が呆けたように座り込んでいる。 頭で理解はしていても心の片隅では否定していたのだろう。 それが確たる証拠によって崩れ去り、一時的に感情が麻痺している。 真正面から受け止めるには少年はまだ幼く、心は未成熟だったのだ。 その悲しげで、触れば崩れ去ってしまいそうなほど寂しげな背中からロジャー=スミスは目を移すと、ソシエの肩を軽く叩いて艦内への移動を促した。 『暫く一人にさせてください……』それが消え入りそうな声で言った彼の願いだった。 一度振り返る。 その背中はそのまま消え去ってしまいそうなほど弱々しく見えた。 ゆっくりと視線を逸らす。そして、彼もまた艦内へとその足を向けた。 ロジャー=スミスが歩く。 ――私は何をしていた。 ロジャー=スミスが一人歩く。 ――ロジャー=スミス。お前は何をしていた。 ロジャー=スミスが拳を握り締め一人歩く。 ――パラダイムシティが誇るMr.ネゴシエイターよ。お前は何をしていたッ!!! 無造作に打ちつけられた拳が音を立て、Jアークの艦内に乾いた音が反響する。 それは、大きく小さく返す漣のように響き合い、やがて姿を消した。 答えは簡単だ。何もしていない。 殺し合いを止める。 説得する。 依頼主を守り抜く。 ガイが戻るまでその代わりを務める。 その何一つとして成すことは出来なかった。 ――何がMr.ネゴシエイターだ……笑わせる。 ロジャー=スミスは自らを嘲笑った。余りの無力さに嘲笑わずにはいられなかった。 そのとき、風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 突然ハリセンで叩かれた。それも首から上がなくなったかと思うほどの勢いで、だ。 コメカミに青筋を薄っすらと立てながら、それでも自制心を働かせたロジャーは抗議する。 「ソシエ嬢、いきなり何をするのかね」 「一人で悩みこんでいるからよ」 しかし、その程度では全く意に介さないのが、ソシエ=ハイムである。 実にあっさりと言い切った。 「私は別に悩みこんでなど」 「いたわよ」 ぴしゃりと言い切られると同時に、その視線に圧される。 「ロジャー=スミス、あなたは何のためにここに来たわけ?  一人で悩みこむため? キラと口喧嘩するため? 違うでしょ」 言葉に詰まった。確かにその通りなのだ。 ここには交渉をしにきた。リリーナ嬢の代理人として、一介のネゴシエイターとしてだ。 にも関わらず話が反れた。キラに矛盾を突かれ意固地になった。 ただ感情に身を任せただけの行為。交渉とは言い難い。 風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 再びハリセンで叩かれた。鼓膜がジンジンする。 「何をする」 「だから、一人で悩むなって言っているでしょ」 「私は別に悩んでなど」 「いたわよ。考え事があるのならアタシに言いなさい」 そうやって胸を張って言い切るソシエの姿に、何処か滑稽さを覚えて言葉を返す。 「君にか?」 「そうよ。一人であれこれ悩むより皆で考えたほうが絶対いい考えが浮かぶんだから」 苦笑いが浮かんだ。 余りにも単純明快な理屈。それゆえにひどく分かりやすい。 「そうだな。では交渉を再開しよう」 そう言い、話を進めようとしたそのときにロジャーの目にある光景が飛び込んできた。 それは―― 「……何故そこでハリセンを振りかぶる」 ハリセンを大上段に振り上げて構えるソシエの姿だ。 「交渉って何なのさ」 「交渉は交渉だ。私にはリリーナ嬢に代わってこの殺し合いを平和的に解決する義務がある」 「だから私たちと交渉するの? あなた、間違ってるわよ。これからするのは話し合い。  交渉じゃないわ」 強い視線が突きつけられている。 『交渉』と『話し合い』。実に些細な違いだが、彼女にとっては大事なことなのだろう。 だがその理由が分からない。だからロジャー=スミスは曖昧にか返すことが出来なかった。 「しかし、私は――」 「しかしもだってもないでしょ!」 反論を展開しようとした言葉はソシエの声に掻き消された。 「いい、ロジャー=スミス? 交渉って別の集団が別の集団に持ちかけるモノよ。  でも私たちは違う。一つの集団。仲間でしょ? だったらこれは話し合いよ」 思わず噴き出した。 ようやくソシエがこうまで必死にわめき立てる理由が分かった。 彼女は気に食わないのだ。 一つのことを一緒にやろうとして話を持ちかけてきた。そのときに『交渉』などという他人行儀な言葉を使ってきたことが、だ。 彼女はこう言いたいのだ。 仲間なのだからもっと気軽に話せ、と。 「何よ。何で笑うのさ」 一人笑うロジャーに少女が拗ねたような視線を向ける。それにロジャーは笑いつつも返した。 「いや、すまない。なるほど、分かった。話し合いだ。話し合いをしよう」 そう言って襟を正す。二度のハリセンで乱れた髪に櫛を通す。 「トモロ、少し憎まれ役を買ってくる。戻ってくるまでにこれまでの行動と接触した者をまとめておいてくれ。  ソシエ嬢、出来れば話し合いは四人揃ってからだ。出来れば熱いコーヒーか何かを頼む」 そして言葉を言い残し、ロジャー=スミスは四人目の元へと歩き出した。  ◆ 調べが風に乗り流れてくる。 懐かしい調べ。 何度も聞いたことがある調べ。 そして、もう聴くことが出来ない最後の調べ。 そんな調べを一人聴いていた。 ただじっと彼女が眠るそこを見つめている。表情もなくただ一心に、だ。 風か吹き抜ける。歌がかき消され、湿った土の匂いが流れ飛ぶ。 「ロジャーさん、ラクスが死にました」 視線が掘り返された土から逸らされる事は決してない。 そのままの姿勢、そのままの表情、何一つ変えることなく少年は、静かに歩み寄ってくる男に声を掛けた。 「死んだ。死んでしまった」 歌はただ物悲しくひっそりと響き続けている。 だが死んだ。死んでいる。土を、墓を掘り返すまでもなく確信している。 何故だか分からないが、そこにもしかしたらという僅かな希望を挟む余地は存在しなかった。 目を閉じれば思い出す、あの桜色の髪を、明るい笑顔を。 不意に胸の内から何かが込み上げてきて叫んだ。 「ラクスが死んだんだ!!」 目元が熱い。堪えようと必死になって食いしばった歯が音を立てる。 その様子に背中越しで視線を注ぎ続けるロジャー=スミスは、そこで初めて静かに口を開いた。 「そうだ。彼女は死んだ。リリーナ嬢――私の依頼主も、ユリカ嬢も、だ。  ならば残された者たちは、その遺志を汲みとってやらねばならない」 思わずカッと熱くなり、気づいたときには掴みかからんばかりの剣幕で捲くし立てていた。 「分かっていますよ、そんなことはッ!! だから僕は決めたんだ!  ラクスを生き返らせる道ではなく、あの化け物を倒す道を!!!」 「分かってないだろう、君はッ!!!」 一瞬、大気が震えたかと思うほどの強い声だった。反射的に黙り込む。 熱した熱が休息に冷めていく。目が泳ぎ、視線は隅へと追いやられる。 「分かって……いますよ」 「そこでそうやっていることが、君の言う分かっているということか?  彼女の遺志を汲みとるということか? 違うだろう? そんなことはありはしない」 追い詰められ、追い詰められ、張り詰めた糸が耐え切れなくなる。 「あなたはいいですよね。そうやっていつも冷静でいられて……。  ラクスが死んだことを知って、あの化け物を倒すと決めて、みんなを守ると誓って、僕は僕なりに精一杯やってきた。  でもその結果がこれです。やるべきことだと思ってやったことが間違っていて、同じ思いを持つ人を殺してしまった。  仲間に裏切られ、守るはずだった仲間も死なせてしまった。何が正しいのか分からない。自分のやっていることが合っているのかすら分からない。  もう頭の中がグチャグチャで……どうかなってしまいそうなんです」 口にしたのは弱音だった。放送後、誰にも見せる事のなく、また誰にも見せれなかった後ろ向きの姿だ。 こうしなければならない、こうあらねばならない、とそれまで必死になって作ってきた自分が壊れ、素の自分が顔を出したのだ。 その歳相応の、等身大の姿を確認してロジャー=スミスは気取られないようにホッと一息を吐く。 正直、この少年の気の張り詰め方には危うさを覚えていたのだ。 年齢以上に大人びて、背伸びというだけではとても足りない張り詰め方だった。 それは近くに頼れる大人が、感情的になれる相手が、弱音を受け止められるだけの存在がいなかったことに起因していたのだろう。 だから、その役を買って出たのだ。 「何も間違わない人間などいはしない。そんな者は人とは言えない。事実私も間違った。君達との争いを止めることさえ出来なかった。  人一人で出来ることなんて高が知れている。だから君はもっと人を頼っていいのだ。何でもかんでも自分一人でやろうとすることはない」 ロジャーが肩をポンポンと軽く叩き、優しく声をかける。そして、落ち着いたら戻ってくるようにと伝えて、その場を去って行く。 溜息と共に朝日の射し始めた空を見上げる。放送のときはもう直ぐそこまで迫っていた。 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)  パイロット状態:脱力、ジョナサンへの不信  機体状態:ジェイダーへの変形は可能?各部に損傷多数、EN・弾薬共に70%         反応弾を所持。  現在位置:E-3ラクスの墓  第一行動方針:?  第二行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める  最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】  備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し  パイロット状況:右足を骨折  機体状況:無し  現在位置:E-3  第一行動方針:ロジャー・キラ・トモロと話し合いを行なう  第二行動方針:新しい機体が欲しい  第三行動方針:仲間を集める  最終行動方針:主催者を倒す  備考:右足は応急手当済み】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)  パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数   機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)        側面モニターにヒビ、EN70%  現在位置:E-3(凰牙はJアーク甲板)  第一行動方針:ソシエ・キラ・トモロと話し合いを行なう  第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める  第三行動方針:首輪解除に対して動き始める  第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める  最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)  備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能  備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯  備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【二日目5:45】 ---- |BACK||NEXT| |[[夜明けの遠吠え]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[アキトとキョウスケ]]| |[[ヘヴンズゲート]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[穴が空く>穴が空く(1)]]| |BACK||NEXT| |[[何をもって力と成すのか]]|キラ|[[二つの依頼]]| |[[何をもって力と成すのか]]|ソシエ|[[二つの依頼]]| |[[何をもって力と成すのか]]|ロジャー|[[二つの依頼]]| ----

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