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 太陽が中天を過ぎ、西に傾き始めて早くも二時間。
 まだ高いその陽の光に晒された二つの機体が、対峙を続けていた。
 廃墟の街並みを眼下に、逼迫した面持ちで佇む大型機。朽ちて欠けたビルを足場に、ゆったりと構える小型機。
 数瞬前までは、忙しく間合いの取り合いを演じていた二機だが、今は共に動きがない。
 動けない者と、動かない者。両者の間を風が薙いで行った。
 
 「本妻が他の男と駆け落ち。追いかけたいところだが、浮気相手も他の男に取られやしないかと気になって、追うにも追えず。
  クク……いけねぇなぁ。いけねぇよなぁ。二股はよくない。
  選びな。どっちを取って、どっちを捨てるか。どっちつかずの態度は、失礼ってもんだぜ」
 
 問いかける者と、答えを探す者。
 実に愉しげに人の心を掻き乱してくるこの男――ガウルンを前に、シャギアの動きは完全に止まっていた。
 オルバの死を知った直後、シャギアは一人閉じこもり悩んだ。
 見つからない答えを棚上げにして、あの蒼い機体に乗るパイロットとフェステニア・ミューズを殺すことを決めた。
 暗い怨嗟の念を軸に自らを奮い立たせることで、どうにか動くことができた。
 それが今の自分の原動力。そこに変わりはない。
 では何故動けない? 追えばいい。ナデシコとは、袂を別つと決めたはずだ。
 
 「どうした? 選べねぇか? だったら仕方ないねぇ。俺が――」
 
 瞬動――足場にしていた瓦礫のビルが一拍遅れて崩れ落ちる。
 迅い、が思考の渦中であろうと警戒は怠っていない。どんな速度でも対応仕切れる。
 しかし、軌道が違う。距離を詰め、自身の有利なレンジに運ぼうと言うのではなく、奴は――
 
 「手伝ってやるよっ!!」
 「しまった!!」
 
 ――距離を広げた。向かってくるのではなく。逃げ出すのでもなく。奴はただ真っ直ぐにナデシコへと疾走する。
 だが、今、この場の距離は奴の距離ではない。離れて行く奴とのこの距離は、ヴァイクランの支配する距離。
 照準を敵機の背に演算を開始。ゲマトリア修正。ダークマターの精製を完了。
 赤黒い豪火球が、胸の前に灯る。
 後は引き金を引くのみ。さすれば暗黒物質の火球は解き放たれ、数価変換によって生じた特殊空間が奴を襲う。
 だがしかし、照準に捉えた奴の背のその先に、ナデシコが見える。
 撃つのか? かわされたら? 当らなかったら? どうなる? どんな事態を巻き起こす?
 
 ――直進するベリア・レディファーが、ナデシコを襲う。
 
 指先が震えた。汗が滲み出る。
 当れば何も問題はない。では当てられるのか? 奴は言った「手伝ってやる」と。
 ここでこの引き金を引かせることこそが、奴の狙いではないのか。
 だったらどうする? 奴を止めねば、奴はナデシコを襲う――撃つしかない。
 目を細め、穴が空くほど見据え、標的を凝視する。口中に渇きを覚え、唾を飲み込む。
 
 ――撃て。撃つのだ、シャギア・フロスト。外れはしない。絶対、絶対にだ。
 
 呼吸音が、やけに大きく耳に届く。
 狙い済まされた照準が敵機の動きを完璧に追跡し、レティクルの中央から逃すことはない。
 撃てば当る――本当にそうか?
 思い出してもみろ、シャギア・フロスト。
 お前がナデシコの中で放った一撃。あれも撃てば当るはずではなかったのか?
 フェステニア・ミューズを焼き尽くすはずの一撃。あの外しようもない一撃で、お前は何を仕出かした?
 宇都宮比瑪をこの世から掻き消したのではないか。絶対に当てられるなどとは、よくも言ったものだ。
 胃がキリキリと痛みを上げる。噛み締めた奥歯が、音を立てた。
 自信は揺らぎ、疑問は膨らむ。しかし、撃たねば奴を止められない。そして――
 
 「くそおおぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
 
 ――火球は霧散した。同時にシャギアの意を受け取り、二機のガン・スレイヴが両肩から飛び出していく。
 膝に滴り落ちる汗を眺め、肩で吐く荒い息が整うのを待つ。そして、震える指先を発射管から引き剥がした。
 撃てなかった。
 痛烈な後悔の念を噛み締めながら、ヴァイクランを前へ。
 相手は、間接的とは言え、オルバの死を招いた怨敵。テニア程ではないとは言え、許されざる存在。
 いや、軽重の問題ではない。
 撃つべきだったのだ。オルバの無念を思えば、撃たねばならなかったのだ。
 なのに――撃てなかった。
 
  ◇
 
 針のように細く鋭い牡丹色の閃光が、足元に撃ち込まれた。アスファルトの足場が一瞬で融解し、穴か空く。
 一射。二射。三射。縦に、横に、と避けた端から撃ち込まれてくる砲撃に辟易して、路地裏に飛び込んだ。
 ジグザグに廃墟の路地裏を駆け抜けるも、意に介さず。蝙蝠のように変幻自在に飛翔する移動砲台は、俊敏に追跡してくる。
 
 「やれやれ、撃ってもらいたかったのはこれじゃないんだがねぇ」
 
 先の戦闘で把握した武装と接近戦の嫌い様、あの機体は恐らく中・遠距離を得意としている。
 とすればあの堅牢さと巨体だ。戦車に砲塔が付いてないという間の抜けた話はないだろう。
 高火力の武装の一つや二つあったとて、何ら不思議はない。
 それを撃たせたかった。
 その為にあえて敵が得意と思われるレンジに、身を晒した。ただし、射線はあの戦艦に重ねてだ。
 何故か――極めて単純で、簡単で、明確な理由。
 庇い続けている戦艦を自身の手で傷つけることになれば、どんな面を拝ませてくれるのか。
 奴は、矛盾を孕んでいる。見つけた頃のアキトと同じだ。
 一貫性がたりない。人間の弱さを捨てきれずにいる。弱い奴にたかられ、ぬるま湯につかって迷っている者。
 そんな奴を鎖から解き放ってやるには、どうすればいい?
 簡単さ。殺せばいい。奴を堕落させている者をな。それも出来れば奴自身の手で。
 守りたい者が一人もいなくなったとき、奴がどうなるのか――思い浮かべただけで頬が吊り上がり、首筋がゾクゾクしてくる。
 身悶えする程、楽しみだ。
 ただそれだけの理由が、ガウルンに命を賭けさせた。命を惜しんで後悔を残すなど、馬鹿のすることだ。
 恐らく当れば致命傷となりかねない一撃。だが、避けられるだけの自負はある。そして、かわせば――
 
 「ま、そうそう思い通りにはいかねぇってことか」
 
 少々精神的に追い詰めたぐらいでは、冷静さを失わなかったということか。あるいはただの腰抜けか。
 残念だとは思うが、過ぎたことはもういい。奴が守りたがっている戦艦を落すのは、別に自身でも構わない。
 しかし――視線を周囲に奔らせる――流石にこの移動砲台の火線を潜り抜けて、一直線に戦艦へ向かうことは難しい。
 その数は四。火力はさして高くないものの、小回りに優れ、即射性も高い。
 そして何よりも、一対一をそうでなくし、思いがけない角度から射撃を加えてくる兵器。
 
 ――全くどこのどいつがこんな面白そうなオモチャを考え付いたのやら。
 
 右拳を握り、開いて、また握り締めて、感触を確かめる。そこは欠損部分を除けば、一際損傷の激しかった部分。
 だが負わされて既に、六時間以上が経過している。
 全身の弾痕に、装甲に蓄積されたダメージ、頭部と胸部の破損。そして、右腕。損傷の修復は、ほぼ完了した。
 残されているのは欠損部分。流石に復元は容易ではないらしい。
 左腕は愚か、18時間も前に欠落したマントの復元さえ、遅々として進まない。
 全くの不可能ではないが、欠損部分を補うにはまだまだ時間が必要、ということだろう。
 
 「さてと、お行儀良く控えめに過ごしてきた分、鬱屈が堪ってんだ。クク……思いっきり暴れさせて貰うとするか」
 
 言うな否や、四基の移動砲台を置き去りに大きく跳ねて上空に躍り出る。
 視界に四基全てを納め、位置を把握。同時に本体の確認も怠らない。
 下方四箇所から撃ち出される四条の閃光。
 姿勢制御用のヴァーニアを噴かして皮一枚でかわす。
 そのまま火線を避けつつビルの頂上に着地。同時に蹴った。
 瞬動――足場にしていた瓦礫のビルが一拍遅れて崩れ落ちる。
 ビルの谷間へ滑り込む。
 風を切る音。急速に接近する地面。
 大地に足を。
 轟音を立てて踏み込み、一拍後には前へ。
 背後で吹き上がる土煙。巻き上げられるビル、車。
 両側に迫るビルの壁面。その先に一基目の移動砲台――見つけた。
 軽く唇に舌を這わせて、笑う。
 細く鋭い牡丹色の閃光が連続して、一、二、六条。
 構うことはない。
 エンジンが爆発的に吹き上がり、すり抜ける。
 どんどん加速する。
 勢いを殺さずに拳を――振るう。
 舞い散る破片。
 まず一基目。
 視界の隅に閃光。十字路の右と、空。
 体ごとぶつけるようにビルの中へ。
 飛び込む。
 そして転がり、突き抜けて反対側の大通りへ。
 轟音と共に降り注ぐガラスと瓦礫の雨。
 視線の先には二基目の背中。
 反応。方向転換。だが――
 
 「遅いねぇ」
 
 ダークネスショット、紫電一閃。爆発。
 これで二基。
 足は止めず。跳び下がる。
 足元に着弾。
 一、二、三、四、徐々に間が詰まる。
 眼前の廃墟を盾に。互いの死角へ。
 廃墟を抜ける。待ち構える三基目。
 火線が閃き、遂に被弾。
 
 「チッ!!」
 
 舌打ち一つ。
 大地を蹴り、ビルを蹴り、軌道を変化。
 二基を眼下に置き去りに、空へ。配置を再確認。
 不意に射す黒い影。見上げればそれは――
 
 「私の勝ちのようだな! オルバの仇、取らせてもらう!!」
 
 ――撃ち出された暗黒物質の塊。天から地へ。
 
 「ハッ!! やってみな!!」
 
 思わず笑みが漏れる。そして着弾の瞬間、空間が歪みを起こした。
 空が、雲が、大気が、光が、闇が円を描いて曲がる。今ある空間を引き千切る様にして、新たな空間が創出される。
 偏平な球を為すその小さな空間は、空間の中に生じた空間。不安定なこの空間よりも遥かに不安定な空間。
 その寿命は、涅槃寂静にも満たないほど短く儚いもの。生まれたときから既に崩壊は、始まっている。
 そんな存在が極近距離に二つ。
 それぞれがそれぞれに己を安定させようと、引力に似た力を用いて挟まれた空間を奪い合い、喰らい合い、引き千切る。
 やがて互いの引力の干渉を受けて不安定な空間二つは合わさり、磁気嵐を巻き起こしながら爆ぜるように消滅していった。
 
  ◇
 
 ――何が起こった。
 
 べディア・レディファーによって生じた一連の事象は、人の知覚が及ばぬ微少な時間での出来事。
 原理を知らぬシャギアに理解する術はなかった。
 ただ分かっているのは、大火力の兵器によって爆発が起こったことと副産物として磁気嵐が生じていること。
 その程度である。そして、この状況はまずい。
 磁気の影響でレーダーが使い物にならない。ガン・スレイヴの動きにも影響が出ているのかやや鈍い。
 その状況下で奴に廃墟に潜られたことが、何にも増してまずい。
 爆発の中心地。たった今、自分で吹き飛ばしたそこに降り立ち、注意深く周囲を観察する。
 ここから何所へ逃げたのか。
 爆心地こそ何も残ってはいないものの、すり鉢状に抉られたその縁には、変わらず瓦礫の街並みが広がっている。
 距離はほぼ等間隔。近いも遠いもない。痕跡すら何もない。
 
 「オルバよ……不甲斐ない兄だな、私は」
 
 閑散とした光景の中、シャギアは思う。
 死んだオルバの為に万分一でも出来ることがあれば、してやりたい。それが、仇を討つということだった。
 けれども現実の自分はどうだ?
 仇を追う事も出来ず、片棒を担いだ男には逃げられ、あまつさえ比瑪を――
 
 「ハッ……ハハハハハハハハハハハハハハ」
 
 ナデシコを同列に並べようとしている。渇いた笑い声だった。
 平気な振りを演じ続けてみても、少し余裕ができればこの有様だ。
 基準が、軸が二つある。それが心を惑わせ、掻き乱している。
 それまで自分という存在を作り上げていた軸がぶれ、シャギア・フロストという個が酷く曖昧で不安定なものになっている気がした。
 自分が壊れていく。自分が変わっていく。自分が分からなくなる。それでも今やらねばならないことはわかっていた。
 不意に、僅かな音すら立てずに紫電の閃光が背後の街並みから放たれる。
 それを念動フィールドで掻き消すと同時に、残った二機のガン・スレイヴを解き放つ。
 
 「……もう逃がさん」
 
 今逃せば、ナデシコが危うくなる。電磁波の影響が収まらない限り、目視以外での捕捉は不可能。
 廃墟に紛れての接近を許すわけにはいかない。
 ガン・スレイヴの後を追うように追撃に移ろうとしたその瞬間、別方向から迫る黒い体躯が視界を掠めた。
 
 「バーカ、こっちだよぉッ!!」
 
 射撃は囮。向き直る間に、間合いは詰まる。ガン・スレイヴを呼び戻す。
 しかし、間に合わない。蹴り倒され、そして、駆け抜けた黒い体躯が再び廃墟に紛れて消える。
 
 ――好都合だ。
 
 そう思った。これでナデシコに被害が及ぶことはない。
 そして、ここでこの男を逃がせば、次いつめぐり合えるか分からない。
 オルバの死に間接的とはいえ関わったこの男を倒すのならば、それは今を置いて他にはない。
 二つの基準に、軸に、矛盾しない結論。行為。
 ならば後は頭を冷静に、乱れた心は捨てろ。あの男がゲリラ的に攻めてくるのであれば、迎え撃つだけ。
 考える時間は終わった。一撃離脱を計る相手の先手を取る。
 オルバのことも、ナデシコのことも、今このときだけは忘却の彼方に。目先に集中し、神経を尖らせ、没頭していく。
 ベディア・レディファーによって出来た小さなクレーターのその中心で、シャギアはただ先手をとることのみを考えていた。
 
  ◆
 
 位置的な関係と、戦艦であるがゆえの高性能。ベディア・レディファーの巻き起こした磁気嵐の影響もナデシコには少なかった。
 そのレーダーに灯りが灯る。暗緑色の画面に映し出されたのは新たな光点。
 そこに添えられている文字は、未確認であることを示すUNKNOWN。
 
 「またかよ!!」
 『どうなってやがる』
 
 先に一瞬だけ捕捉した二機とは別の反応。別の方角。
 東から何かが高速で迫って来る。テニアではない。テニアと逃げたあの機体でもない。
 どうして殺し合いなんてくだらねぇことに、こうまで人が集まりやがる。
 こんなくだらねぇこと、どうにかならねぇのか。心底そう思う。
 どうにかしたい、この状況を。止めたい、この争いを。そう――俺の歌で。
 そんな想いで格納庫を見渡したとき、一つ目に付くものがあった。
 それは、愛機ファイアーヴァルキリーと同じ真紅の色をした戦闘機――真・イーグル号。
 大きさは大分違う。だが、それが呼んでいる気がした。理屈ではなく胸が熱い。胸が高鳴る。
 誘われるようにそこへ。
 手を触れる。冷たい金属のさわり心地。
 だがその奥底で、何か熱い魂が脈動しているような気がした。それをバサラはこう解釈する。
 
 『お前も俺と歌いたいんだな。へへ……一緒に行くか』
 
 だが、スピーカーから発せられる自身の声に、気づく。
 今のこの声は借り物の声。IFSからナデシコのシステムを通じて再生されているもの。
 それは取りも直さずIFSの受信が可能なナデシコの中でしか、声が再生されないことを意味している。
 乗ればあの戦場に出られる。だが、歌は届かない。声は響かない。それでは意味がない。
 悔しさを滲ませて、拳を握り締める。
 
 『やっぱ駄目だ。今はまだお前と飛べねぇ』
 
 呟き、その瞬間に閃いた。
 ナデシコから出れば、声は出ない。ナデシコの中ならば、声は出る。
 ならナデシコの中で歌えばいい。
 ナデシコの中で歌い、IFSとナデシコの通信機能をフルに発揮して流す。
 可能かどうかは分からない。でもこのまま指を咥えて見ているのよりもずっといい。
 そう思えば居ても立ってもいられずに、バサラはナデシコの格納庫を飛び出し、一人ブリッジへと駆け出した。
 
 『待ってろよ。今、俺の歌を聴かせてやるぜッ!!』
 
  ◇
 
 そのままではナデシコに収まらない真ゲッターは、三機のゲットマシンに分けられて格納庫に収まっていた。
 その内の一機――ベアー号の脇をすり抜けて、ガロードはパイルダーに飛び乗った。
 新たにナデシコのレーダーに引っ掛ったUNKNOWN。その動きが早い。
 真っ直ぐ。迷いなく接近してくるその軌道は、もしかするとナデシコを捉えている可能性が高かった。
 最低でも臨戦態勢を整えておく必要がある。
 パイルダーを発進。マジンガーの頭部に収まり、マジンガーを起動。
 こちらのレーダーにまだ反応はない。
 そう思った瞬間、灯りが灯る。
 暗緑色の画面に映し出された光点は、真っ直ぐにシャギアの戦場へと向かっていた。
 
 「どうなってんだよ!!」
 
 だが、肝心のシャギアに通信が繋がらない。
 レーダー上でもシャギアのいる付近は霞がかかったように捉えられない。
 
 ――どうする?
 
 東から一機が接近中。これは真っ直ぐにシャギアの戦場に向かっている。
 接触まで時間もそうない。
 そして、別方向から更に二機。こちらは一瞬だけナデシコのレーダーが感知した。
 距離はまだ遠く。動きも不明。
 両者共に敵味方は不明。出方がまるで読めない。
 その状況下でどうすべきか。前者を警戒するならば、シャギアの加勢に出るべきだろう。
 だが、後者を気にするのならば、ナデシコ周辺で警戒態勢に当るべきだ。
 判断材料が少なすぎる。どちらも正しいようで、どちらも間違っているような気がする。
 悩み迷った挙句、こういうときは直感に身を任せるのがベストだと結論付ける。そして、その選択は――
 
  ◆
 
 呼吸の音が、やけに大きく聞こえていた。心臓の鼓動も耳のすぐ傍で聞こえる。
 視線が常に周囲を覗っていたが、実のところ何も見ていないのと同じだった。
 足元からすり鉢状に広がる抉れた大地も、その縁に聳え立つ廃墟も、空も、雲も、太陽も見てはない。
 いや、視覚だけでなく、聴覚も同じことだ。
 不要なモノは全て排除すれば、最後に残るのは唯二つ――自分と相手、ただそれだけである。
 漆黒の体躯を持った人型兵器、それだけを五感の内に。
 演算も、ゲマトリアの修正も終わり、ダークマターの精製は完了している。
 後は、胸の前に灯るこの赤黒い豪火球を最高のタイミングでぶつけるだけ。時を待つ。
 既に四度ぶつかり、一撃離脱していく奴を捉える事が出来なかった。
 針の先程に尖らした神経の先。耳に届く呼吸音は自分のものか、それとも奴のものなのか。
 それが息を継ぐ。一、二、三、そして気息を整え、今!
 カルケリア・パルス・ティルゲムと呼ばれる念動力感知増幅装置によって、研ぎ澄まされた神経がガウルンを捉えた。
 場は左後方。鋭敏過ぎるほど鋭敏な反応に対して、僅かに遅れる機体の動きがもどかしい。
 
 ――何故だ! 何故、こんなにもこの機体は遅い。とろい!!
 
 旋回が間に合わない。射角を確保する。ただそれだけの動きが、追いつかない。
 見えている。動きも読めている。外す事などありえない。
 それでも、ただ機体の動きが追いつかない。ガン・スレイヴでさえも間に合わない。
 研ぎ澄まされた意識の中で、ガウルンの駆る黒い機体の右腕に紫電の光が灯る。ゆっくりと時間は流れる。
 
 「ひゃぁぁぁっはぁぁぁ!! ダァァアクネスッ!!」
 
 意思に反して鈍行を辿る機体は、まだ射角を確保できない。既に眼前にまで迫った腕が伸びる。
 そして、知覚の外から何かが突然撃ち込まれた。
 ヴァイクランとマスターガンダムの間で爆発が起こる。その衝撃に迫るガウルンの勢いは削がれ、時間が埋まった。
 照準は、黒い体躯のど真ん中。ベディア・レディファーが、今放たれる。
 高速で撃ち出された火球が、阻むもの全てを呑み込み直進する。
 一撃で片を付けるべく最大火力で撃ち出されたそれは、クレーター縁を抉り、瓦礫のビルを意にも介さず真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに突き進む。
 そして、その終着で二つの亜空間を作り出し、消滅した。
 おびただしい光量の白い閃光と、黒い閃光が入り混じり、爆ぜ、その衝撃に雲が吹き飛ぶ。
 青い空の下、廃墟の街並みは瓦礫の街並みへと変貌を遂げ、その爪跡を立ち込める粉塵が僅かばかり覆い隠していた。
 
 「ククク……まいったね。こうも思い通りにことが運ぶとは」
 
 一人男の悦に入った声が響く。
 割り込みの一撃はシャギアに時間を与えると同時に、ガウルンにも回避の時間を与えていた。
 渾身の一撃は、かわされた。
 だが、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも今、シャギアの胸の内を占めているのは――
 
 「どうした? もっと良く見てみろよ。立派な戦果だぜ。お前の手柄だ」
 
 ベディア・レディファーの一撃によって、視界を遮る廃墟が吹き飛ばされた。その開けた視界の先で、ナデシコが黒煙を上げている。
 状況が理解できなかった。五秒。十秒、呆けたままの時間が過ぎる。
 直進した最大出力のベディア・レディファーが、ナデシコを襲った。その程度のことを理解するのに、数分を要した。
 理解して、また頭が真っ白になる。
 虚脱した顔を見て、男が噴出した。
 その笑い声は間もなく高笑いに変わる。どこまでも、どこまでも楽しそうな笑い声。
 
 「そうだ。その顔さ。そいつを拝みたくて、いやぁ苦労したぜ」
 
 一頻り笑い、そして男が問いかける。
 
 「クク……ところで、あんたは何でそんな顔をしているんだろうな」
 
 ――?
 何を聞きたがっているのか、問いの意味が読めない。まともに思考が働かない。
 ただ、白痴となった頭に男の声はよく染み込んでくる。そこに納まるのが当然、とでも言うように、妙に体に馴染む。 
 
 「わからねぇか? よく考えてもみろ。あんたがしたいことは何だ? 何をしなければならない?」
 
 ――私のしたいこと……しなければならないこと。
 
 「おいおい、忘れちまったのか? 最後の一人を狙って、オルバって奴を生き返らせる、だろ?」
 
 ――ああ、そうだ。そうだった。私は、私の半身を失ったままにしておきたくないのだ。
 
 「そんなあんたが、何でそんな顔をする? そんな顔をしなければならない? 滑稽な話だ。
  違うだろ? そうじゃない。笑うんだよ。ここは笑うところだ」
 
 ――笑う? 笑えばいいのか? そうか、ここは笑うところなのか。
 
 「ハハハ……いい顔だ。そう、笑えばいい。
  なんたってお前は、お前の心の邪魔するモノを打倒したんだからなぁ」
 
 ――ああ、だから笑えばいいのか。それなら確かにここは、気分良く笑うところだ。
 
 「だがなぁ。何とも残念なことに、クク……まだお前の邪魔をする者がいる」
  酷い。全く酷い話だ。弟を生き返らせようとするお兄ちゃんの邪魔をするなんてな。酷い連中だよ。
  さて、そんな奴らのお迎えだ。どうするかはあんたの自由だが、精々頑張りな。
  何やら面白くなりそうな気配なんでな。俺はまた潜ませてもらうぜ」
 
 そういい残して、その男は再び瓦礫の海に紛れていく。何をするでもなくただ呆然と見送った。
 一拍置いて男の言葉に疑問を抱く。既に言葉の意味を、表層的にも捉えられなくなってきている。
 
 ――お迎え?
 
 「シャギアアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」
 
 ガロードの叫び声。
 ああ、お前か。お前が割り込みの一撃を放った者の正体か。
 視線を落とす。とても顔など合わせられない。
 そんな声で私を呼ぶな。私はもう、お前に名を呼んでもらうに値しない男だ。
 口元が引き攣り、正体なく笑う。
 私は本当に何なのだろうな。やることなすこと全てが裏目に出て。
 いっそ私などという存在は、この世に存在しないほうがマシなのかもしれない。
 マジンガーの足が、俯く視界の先に映る。空気を裂く鋭い音と黒い旋風が、目の端を掠める。
 それが何かと思考する気力は、なかった。
 ただ思ったのは、ガロードは怒っているのだろうな、ということ。比瑪も、甲児もだ。
 もういい。終わりにしてくれ。お前に引導を渡されるのなら、それも悪くない。
 マジンガーの足が動く。揺れ、重音を残して崩れる。そして、力なく倒れたその体には、首がない。
 
 「なっ!!」
 
 驚き、顔を上げたその先には、黒い一匹の悪鬼。
 巨大な戦斧を左肩に担ぎ、だらんとぶら下げた右腕に掴んでいるは、マジンガーの生首。
 瞬間、絶叫が辺りに響き渡った。 
 
  ◇
 
 その手に掴んだ生首を、腹立たしげに投げ捨てる。
 音を立てて二三度弾んだそれは、転がってどこかに消えて行った。
 邪魔をされた。
 この戦場に駆けつけたアキトが最初に目にした光景は、何かを撃ち出す大型機とそれをかわすガウルンの姿であった。
 だが次の瞬間、巻き起こった爆発とその膨大な光量に目が眩み、見失う。
 気づけば、戦場に既にガウルンの姿はなく、残されていたのは沈み行くナデシコとその一撃を放った元凶のみ。
 理性が飛んだのが、自分でもわかった。
 理由は二つ。ナデシコに危害を加えられたことと、自分の獲物に手を出されたこと。
 薬を飲み。戦斧を構えて、一陣の旋風のように飛び込んだ。
 そこに割って入られた。
 男の名を叫びながら割って入ったそれは、身を挺して大型機を庇った。
 その結果が、あの生首である。それはもういい。気も今は少し落ち着いた。
 これ以上邪魔をしないのであれば、目の前の大型機に何の興味もない。
 それよりも自分には優先すべきことがある。何よりも優先すべきことがある。
 レーダーを睨む。反応が悪い。
 苛立ち。そして男は、声に臓腑の底でじっくりと熟成された憎悪を塗りこめ、咆哮した。
 
  ◇
 
 ナデシコが徐々に高度を下げている。推進機能の一部が破損しバランスを崩したのか、傾き始めていた。
 その右舷には、ベディア・レディファーの一撃を受けて大穴がぽっかりと空いている。
 そこに、身を硬直させている者が一人いた。肩までの赤い髪を風に棚引かせて、その女性は呟く。
 
 「……ガロード?」
 
 ぽつりと漏らしたその声に、実感はない。揺れに目を覚ました直後、夢と現実の境目すらまだはっきりしていない。
 ただ視界の遥か先に見えた光景――マジンガーの頭蓋を掴んだ黒いゲッターを見て、そう思っただけだった。
 
 
 
 【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α) 
  パイロット状態:憎悪 戸惑い 
  機体状態:EN20%、各部に損傷、ガン・スレイヴ残り二基 
  現在位置:F-1市街地 
  第一行動方針:ガロード
  第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害 
  第三行動方針:首輪の解析を試みる 
  第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める 
  第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除 
  最終行動方針:??? 
  備考1:首輪を所持】 
 
 【ガロード・ラン 搭乗機体:マジンガーZ(マジンガーZ) 
  パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。 
  機体状況:頭部切断(パイルダーは無事) 
  現在位置:F-1
  第一行動方針:戦況を確認し、とにかく動く 
  第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索 
  最終行動方針:ティファの元に生還】 
 
 【熱気バサラ 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
  パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。 
       ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。 
  機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。
       右舷に破損大(装甲に大穴)、推進部異常、EN100%、ミサイル90%消耗 
  現在位置:F-1市街地 
  第一行動方針:俺の歌を聴けぇ!!
  最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる 
  備考1:自分の声が出なくなったことに気付きました
  備考2:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容 
  備考3:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッターを係留中】 
 
 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) 
  パイロット状態:健康 
  機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中 
  現在位置:F-1市街地(ナデシコ内部) 
  第一行動方針:勇の捜索と撃破 
  第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す 
  最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 
 
 【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード) 
  パイロット状態:パイロットなし 
  機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中 
  現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】 
 
 【旧ザク(機動戦士ガンダム) 
  パイロット状態:パイロットなし 
  機体状態:良好 
  現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】 
 
 【プロトガーランド(メガゾーン23)
  機体状況:MS形態 
       落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
  現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】
 
 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム) 
  パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染 
  機体状況:左腕消失、マント消失、自動修復中 
       DG細胞感染、ヒートアックスを装備 、EN60% 
  現在位置:F-1 市街地 
  第一行動方針:存分に楽しむ。
  第二行動方針:統夜&テニアの今からに興味深々。テンションあがってきた。 
  第三行動方針:アキト、ブンドルを殺す 
  最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す 
  備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 
 
 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター 
  パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態
  機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可) 
  現在位置:F-1市街地 
  第一行動方針:ガウルンの首を取る
  第二行動方針:ナデシコの捜索とユーゼスとの合流
  第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す 
  最終行動方針:ユリカを生き返らせる 
  備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。 
  備考2:謎の薬を2錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
  備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可 
  備考4:ゲッタートマホークを所持
  備考5:謎の薬を一錠使用。残り28分】
 
 【二日目14:40】
 
 
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