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我が道を往く人々」(2008/03/05 (水) 17:46:10) の最新版変更点

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*&color(red){我が道を往く人々 ◆IA.LhiwF3A} 「……ったく、最後まで聴かずに行っちまうのかよ」  彼方へと飛び去っていく蒼き鷹の背中を眺めつつ、機械仕掛けの神を操る現奏者、熱気バサラは呟いた。  元よりレクイエムなど柄ではなかったが、歌の途中で観客に帰られてしまうというのは、やはり空しいものがある。  戦場であろうと、殺し合いの場であろうと、その深層心理が変わることはない。  熱いハートを叩きつける、それが歌だ。憎しみも、悲しみも、全てを取り払える力が、歌の中には存在する。そう信じるから、バサラは歌うのだ。  思い返すのは、先刻の、蒼い機体に乗っていた少年。  結局、バサラは彼の名前さえも知らないまま、別れることとなってしまった。  分かっていることは、彼にはニコルという名の親友がいて、その親友をキラという名の何者かに殺されてしまったという、酷く客観的な事実のみ。  復讐などという、いささか穏やかではない思考に囚われていた彼の心へと、果たして自分の歌は響いただろうか。  自分の歌は、自分のハートは、彼の心を覆い尽くしていた雲を、晴らすことが出来たのだろうか。 『この歌は……葬送曲?』  その呟きだけが、バサラにとっての判断材料。あの歌に籠められた意味を理解してくれただけでも良かったと、とりあえずはそう思うことにしよう。  ――焦んなよ、オレ。ライブはまだ始まったばかりだぜ。こっからだ、こっから。  気付けば、視線の先には虚空が広がるばかりで、バーニアを吹かして飛んで行ったファルゲンの姿はすっかり見えなくなっていた。  神秘的な印象を与えるラーゼフォンのコックピットの中、バサラは操縦桿へと手を伸ばし、機体を飛翔させる。  まだ見ぬ参加者達へと、己の歌声を届けるために。イカれた世界のイカれた争いごとを、終わらせるために。 --------------------------------------------------------------------------------  密集する木々の中、殆ど無理矢理と言った感じにボディを捻じ込み、マシンらしからぬ、  胡坐を組むという器用な体勢で座り込んでいる、漆黒の機体があった。最も、この機体にとっては容易い姿勢であるのだけれど。  動く気配は微塵もなく、その様子を人間に例えるならば、じっと息を潜め、外敵から身を隠しているとでも言うべきか。  事実、その通りだった。先刻の戦闘によって肉体へと蓄積した疲労は思いの他大きかったようで、  ベストのコンディションを取り戻すまでには、もう暫くの時間を要さなければならない。  忠実な競走馬は鞭さえ打てば駆けてくれるが、ゲームの開始早々からそうまでして己を苛め抜きたいとは、到底思わなかった。  ――何しろ、俺は根っからのサディストなんでねぇ。 「クク……ハハハハハ」  マスターガンダムのコックピットの中、機体と同じ格好で胡坐をかいて座り込み、大袈裟な笑い声を上げている男の名は、ガウルン。  三対一の劣勢からまんまと逃げおおせることが出来た今は、他から捕捉される可能性の少ない密林の奥へと機体を隠し、こうして休息を取っている。  機体は他者から見れば無防備極まりない姿をしているだろうが、当然警戒は微塵も怠っていない。万が一発見された場合も、  この機体の機動力があれば即座に離脱は可能だ。自身の体力がそこまで持てば、という仮定付きではあるが。  それにしても、面白い。最高だ。いやまったく、この状況で笑わずしていつ如何なる事態において笑えばいいというのだろう。  得体の知れない化物が、余命幾許もない自分をわざわざ呼び寄せ、何かと思えば『殺し合いをしろ』と来たものだ。  言わば、今の自分は死刑宣告を二度も言い渡されながら、監獄の中で自由の身を許された存在。不運なのか幸運なのか、さっぱり分からない。  まあ、人生最後の晴れ舞台には相応しいと言えよう。ASを遥かに上回るポテンシャルを持った玩具で、存分に暴れまわることが出来る世界。  惜しむらくは、呼び集められた最初の空間において、我が最愛のカシムの姿が見当たらなかった事だが――上質の餌は、幾らでもいる。  それら全てを食い尽くした上で、仮に元の世界へと帰ることが出来た時の最高の御馳走として、彼は取っておくことにしよう。 「愛してるぜぇ、カシム……おぉ?」  懐かしのアフガニスタン、愛するハニーがこんなことを言っていたのを思い出した。『獲物を前に舌なめずりなど、三流のすることだ』と。  余裕を見せ付ける暇があるなら、即座に敵を殲滅しろ。あの堅物はそう言いたかったのだろうが、そうやって頭の中身まで軍曹様でばかりいるから、  ラムダ・ドライバの一つもお前はまともに扱えないんだよ――話が逸れた。  とにかく、今のガウルンは、相良宗介軍曹に言わせれば『三流』の兵隊だった。  たった今視界に入った、獲物――熱気バサラの駆るラーゼフォンを目の当たりにして、歓喜の笑みを浮かべ、唇を確かに一舐めしていたのだから。  さて、向こうは今のところ、こちらの存在には気が付いていないらしい。緑の陰からひっそりと、対象が持つ戦力を見定めてみる。  携行火器は見る限り無し。しかし、機体のサイズがこちらと比べて二回りは違うことから、内蔵武器の存在は充分に想定すべきだろう。  気に掛かるのは、チェーン・ガンなどの機関砲を搭載しているのなら、当然その発射口が存在して然るべきなのだが、それが見受けられないことだ。  単なる図体のデカいパワー馬鹿の類なのか、或いはラムダ・ドライバのようなトンデモ兵器を隠し玉にしているのか。  メカの分際で天使の羽なんぞを頭に生やしている奇天烈なデザインが、何となく後者を連想させた。  殺し合いの舞台に、天使様が混ざり込んでいるとは、実にふざけた話だ。いっそそのまま天まで飛んでいって、勝手に召されてくれればいいと思う。  外観から想像出来るのは、この程度か。如何せん、ガウルンのいた世界のマシンとは雰囲気がまるで異なるため、判断材料が少なすぎるのが痛い。  対して、我らがマスターガンダム。接近戦を仕掛けることが大前提とはいえ、この機体は実に奇襲向けの運動性を持っている。  操縦方法からしてASの常識とはかけ離れているこのマシンの性能を、フルに引き出せているかどうかはガウルンの知ったところではない。  が、強力な機体である事は間違いない。ラムダ・ドライバとはまた別物の、感情を糧にするシステムも積んでいるという。使いこなす事が最低条件だが。  正直なところ、それらの情報を全て抜きにして、身体さえ本調子ならば即座にショータイムの始まりといきたいところなのだが、  大病に侵された影響が未だ残っている手足と、先刻の戦闘から微かに残っている懸念とが、その判断を鈍らせてしまっている。  戦場での躊躇は命取りとなる。そんな事は一々考えるまでもなく、常識を越えた領域でガウルンの中に根付いてはいたのだが――  ――それも、こいつの影響だってんなら、お手上げだな。  ガウルンの懸念。それは、カテジナ達から撤退し、この密林に潜り込んだ時に気が付いた、マスターガンダムに起こっている『異常』。  大した損傷ではなかったが、あの戦闘で確かに、この機体は幾多の銃弾を受け、装甲に傷を負っていた筈なのだ。  しかし、それがいつの間にか消えてなくなっていた。弾丸を打ち払った拳に、戦闘の痕は微塵も残っていなかったのだ。  この機体に乗り込んだ時、頭の中に流れ込んできた機体情報の中には、損傷の自動回復などという機能は備わっていなかったにも関わらず、である。  それを目の当たりにした途端、強烈に嫌な予感がしたのだ。いや、もはや予感というよりも、確信に近い思いがある。  このマスターガンダムには『何か』があり、これに乗り続けることは、危険を伴うことなのだという確信が。  余りにも非現実的な話になるが――マシンに取り込まれる、とでも言えばいいのか。我ながらイカレている。が、実際にイカレたマシンなのだ、これは。  まったく、あの<コダール>といい、最近は玩具の中に物騒な付属品を混ぜるのが流行っているのだろうか。  もう少し、扱う子供が遊びやすい造りにしてもらいたいものだ。  もしくは、設計者達から実際に子供扱いされているのかもしれないが。自分達、使い捨ての道具に過ぎない、パイロットなどという役職は。 「……クク」  また、セピア色の思い出が一つ、頭を過ぎった。 『はは……! 馬鹿げた戦いだよ。大の男二人が、ロクに使い方も知らないオモチャで殺しあってるんだぜぇ? なあ……!?』  世界が変わり、乗り物が変わったところで、結局こうして、訳の分からない力に振り回されている現状。そういう星の下に生まれてきたのだろうか。ハッ。  死期も近く、五体満足ですらない男をこうまで甚振ってくれるとは。あのお天道様の向こう側におられる神とやらは、きっと極上のサディストに違いない。  まったく……お寒いねえ。 「…………」  モビルトレースシステムをカット。そのまま横になる。これでいちいち、一挙一動を真似していらぬ物音を立てるマシンに気を遣う必要はなくなる。  代償としては、敵に発見された時、迅速な撤退が出来なくなるということだが――急に、それらのことが、どうでも良くなった。  余計なことに、思考を回し過ぎた。お蔭様で、せっかく高揚したテンションが、すっかり萎えきってしまっている。  そもそも、客観的な視点で状況を見てみれば、元よりここは仕掛ける場面ではないのだ。  自分は不調、相手の戦力も曖昧で、おまけに存在を気付かれていない。ならばベストの行動は何か? 何もしない。大変結構、大正解ではないか。  そうと決まれば一眠りといこう。燦々と降り注ぐ陽射しの下、束の間の休息をとくと味わうのだ。3,2,1。おやすみ。  ……まったく、我ながら、お寒いねえ。  ライブと殺戮。双方の目的には途轍もない開きがあるが、とにかく――  一人は舞台を求めて翔ける。  一人は疲れを消そうと眠る。  思い通りにならない世界で振り回される男達のニアミスは、こうした形で終わった。 【熱気バサラ 搭乗機体 ラーゼフォン:(ラーゼフォン)  パイロット状況:俺の歌を聴けぇぇぇッ!!  機体状況:損傷無し  現在位置:B-5  第一行動方針:新たなライブの開催地を探す  最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)  パイロット状況:全身持病の癌の激痛。無理すれば戦闘可能だが、現在は休息のため一眠り中。  機体状況:"損傷無し"。  現在位置:B-5密林  第一行動方針:物陰で休む  第二行動方針:近くにいる敵機を攻撃  最終行動方針:皆殺し】 【初日 16:00】 ----
*&color(red){我が道を往く人々 ◆IA.LhiwF3A} 「……ったく、最後まで聴かずに行っちまうのかよ」  彼方へと飛び去っていく蒼き鷹の背中を眺めつつ、機械仕掛けの神を操る現奏者、熱気バサラは呟いた。  元よりレクイエムなど柄ではなかったが、歌の途中で観客に帰られてしまうというのは、やはり空しいものがある。  戦場であろうと、殺し合いの場であろうと、その深層心理が変わることはない。  熱いハートを叩きつける、それが歌だ。憎しみも、悲しみも、全てを取り払える力が、歌の中には存在する。そう信じるから、バサラは歌うのだ。  思い返すのは、先刻の、蒼い機体に乗っていた少年。  結局、バサラは彼の名前さえも知らないまま、別れることとなってしまった。  分かっていることは、彼にはニコルという名の親友がいて、その親友をキラという名の何者かに殺されてしまったという、酷く客観的な事実のみ。  復讐などという、いささか穏やかではない思考に囚われていた彼の心へと、果たして自分の歌は響いただろうか。  自分の歌は、自分のハートは、彼の心を覆い尽くしていた雲を、晴らすことが出来たのだろうか。 『この歌は……葬送曲?』  その呟きだけが、バサラにとっての判断材料。あの歌に籠められた意味を理解してくれただけでも良かったと、とりあえずはそう思うことにしよう。  ――焦んなよ、オレ。ライブはまだ始まったばかりだぜ。こっからだ、こっから。  気付けば、視線の先には虚空が広がるばかりで、バーニアを吹かして飛んで行ったファルゲンの姿はすっかり見えなくなっていた。  神秘的な印象を与えるラーゼフォンのコックピットの中、バサラは操縦桿へと手を伸ばし、機体を飛翔させる。  まだ見ぬ参加者達へと、己の歌声を届けるために。イカれた世界のイカれた争いごとを、終わらせるために。 --------------------------------------------------------------------------------  密集する木々の中、殆ど無理矢理と言った感じにボディを捻じ込み、マシンらしからぬ、  胡坐を組むという器用な体勢で座り込んでいる、漆黒の機体があった。最も、この機体にとっては容易い姿勢であるのだけれど。  動く気配は微塵もなく、その様子を人間に例えるならば、じっと息を潜め、外敵から身を隠しているとでも言うべきか。  事実、その通りだった。先刻の戦闘によって肉体へと蓄積した疲労は思いの他大きかったようで、  ベストのコンディションを取り戻すまでには、もう暫くの時間を要さなければならない。  忠実な競走馬は鞭さえ打てば駆けてくれるが、ゲームの開始早々からそうまでして己を苛め抜きたいとは、到底思わなかった。  ――何しろ、俺は根っからのサディストなんでねぇ。 「クク……ハハハハハ」  マスターガンダムのコックピットの中、機体と同じ格好で胡坐をかいて座り込み、大袈裟な笑い声を上げている男の名は、ガウルン。  三対一の劣勢からまんまと逃げおおせることが出来た今は、他から捕捉される可能性の少ない密林の奥へと機体を隠し、こうして休息を取っている。  機体は他者から見れば無防備極まりない姿をしているだろうが、当然警戒は微塵も怠っていない。万が一発見された場合も、  この機体の機動力があれば即座に離脱は可能だ。自身の体力がそこまで持てば、という仮定付きではあるが。  それにしても、面白い。最高だ。いやまったく、この状況で笑わずしていつ如何なる事態において笑えばいいというのだろう。  得体の知れない化物が、余命幾許もない自分をわざわざ呼び寄せ、何かと思えば『殺し合いをしろ』と来たものだ。  言わば、今の自分は死刑宣告を二度も言い渡されながら、監獄の中で自由の身を許された存在。不運なのか幸運なのか、さっぱり分からない。  まあ、人生最後の晴れ舞台には相応しいと言えよう。ASを遥かに上回るポテンシャルを持った玩具で、存分に暴れまわることが出来る世界。  惜しむらくは、呼び集められた最初の空間において、我が最愛のカシムの姿が見当たらなかった事だが――上質の餌は、幾らでもいる。  それら全てを食い尽くした上で、仮に元の世界へと帰ることが出来た時の最高の御馳走として、彼は取っておくことにしよう。 「愛してるぜぇ、カシム……おぉ?」  懐かしのアフガニスタン、愛するハニーがこんなことを言っていたのを思い出した。『獲物を前に舌なめずりなど、三流のすることだ』と。  余裕を見せ付ける暇があるなら、即座に敵を殲滅しろ。あの堅物はそう言いたかったのだろうが、そうやって頭の中身まで軍曹様でばかりいるから、  ラムダ・ドライバの一つもお前はまともに扱えないんだよ――話が逸れた。  とにかく、今のガウルンは、相良宗介軍曹に言わせれば『三流』の兵隊だった。  たった今視界に入った、獲物――熱気バサラの駆るラーゼフォンを目の当たりにして、歓喜の笑みを浮かべ、唇を確かに一舐めしていたのだから。  さて、向こうは今のところ、こちらの存在には気が付いていないらしい。緑の陰からひっそりと、対象が持つ戦力を見定めてみる。  携行火器は見る限り無し。しかし、機体のサイズがこちらと比べて二回りは違うことから、内蔵武器の存在は充分に想定すべきだろう。  気に掛かるのは、チェーン・ガンなどの機関砲を搭載しているのなら、当然その発射口が存在して然るべきなのだが、それが見受けられないことだ。  単なる図体のデカいパワー馬鹿の類なのか、或いはラムダ・ドライバのようなトンデモ兵器を隠し玉にしているのか。  メカの分際で天使の羽なんぞを頭に生やしている奇天烈なデザインが、何となく後者を連想させた。  殺し合いの舞台に、天使様が混ざり込んでいるとは、実にふざけた話だ。いっそそのまま天まで飛んでいって、勝手に召されてくれればいいと思う。  外観から想像出来るのは、この程度か。如何せん、ガウルンのいた世界のマシンとは雰囲気がまるで異なるため、判断材料が少なすぎるのが痛い。  対して、我らがマスターガンダム。接近戦を仕掛けることが大前提とはいえ、この機体は実に奇襲向けの運動性を持っている。  操縦方法からしてASの常識とはかけ離れているこのマシンの性能を、フルに引き出せているかどうかはガウルンの知ったところではない。  が、強力な機体である事は間違いない。ラムダ・ドライバとはまた別物の、感情を糧にするシステムも積んでいるという。使いこなす事が最低条件だが。  正直なところ、それらの情報を全て抜きにして、身体さえ本調子ならば即座にショータイムの始まりといきたいところなのだが、  大病に侵された影響が未だ残っている手足と、先刻の戦闘から微かに残っている懸念とが、その判断を鈍らせてしまっている。  戦場での躊躇は命取りとなる。そんな事は一々考えるまでもなく、常識を越えた領域でガウルンの中に根付いてはいたのだが――  ――それも、こいつの影響だってんなら、お手上げだな。  ガウルンの懸念。それは、カテジナ達から撤退し、この密林に潜り込んだ時に気が付いた、マスターガンダムに起こっている『異常』。  大した損傷ではなかったが、あの戦闘で確かに、この機体は幾多の銃弾を受け、装甲に傷を負っていた筈なのだ。  しかし、それがいつの間にか消えてなくなっていた。弾丸を打ち払った拳に、戦闘の痕は微塵も残っていなかったのだ。  この機体に乗り込んだ時、頭の中に流れ込んできた機体情報の中には、損傷の自動回復などという機能は備わっていなかったにも関わらず、である。  それを目の当たりにした途端、強烈に嫌な予感がしたのだ。いや、もはや予感というよりも、確信に近い思いがある。  このマスターガンダムには『何か』があり、これに乗り続けることは、危険を伴うことなのだという確信が。  余りにも非現実的な話になるが――マシンに取り込まれる、とでも言えばいいのか。我ながらイカレている。が、実際にイカレたマシンなのだ、これは。  まったく、あの<コダール>といい、最近は玩具の中に物騒な付属品を混ぜるのが流行っているのだろうか。  もう少し、扱う子供が遊びやすい造りにしてもらいたいものだ。  もしくは、設計者達から実際に子供扱いされているのかもしれないが。自分達、使い捨ての道具に過ぎない、パイロットなどという役職は。 「……クク」  また、セピア色の思い出が一つ、頭を過ぎった。 『はは……! 馬鹿げた戦いだよ。大の男二人が、ロクに使い方も知らないオモチャで殺しあってるんだぜぇ? なあ……!?』  世界が変わり、乗り物が変わったところで、結局こうして、訳の分からない力に振り回されている現状。そういう星の下に生まれてきたのだろうか。ハッ。  死期も近く、五体満足ですらない男をこうまで甚振ってくれるとは。あのお天道様の向こう側におられる神とやらは、きっと極上のサディストに違いない。  まったく……お寒いねえ。 「…………」  モビルトレースシステムをカット。そのまま横になる。これでいちいち、一挙一動を真似していらぬ物音を立てるマシンに気を遣う必要はなくなる。  代償としては、敵に発見された時、迅速な撤退が出来なくなるということだが――急に、それらのことが、どうでも良くなった。  余計なことに、思考を回し過ぎた。お蔭様で、せっかく高揚したテンションが、すっかり萎えきってしまっている。  そもそも、客観的な視点で状況を見てみれば、元よりここは仕掛ける場面ではないのだ。  自分は不調、相手の戦力も曖昧で、おまけに存在を気付かれていない。ならばベストの行動は何か? 何もしない。大変結構、大正解ではないか。  そうと決まれば一眠りといこう。燦々と降り注ぐ陽射しの下、束の間の休息をとくと味わうのだ。3,2,1。おやすみ。  ……まったく、我ながら、お寒いねえ。  ライブと殺戮。双方の目的には途轍もない開きがあるが、とにかく――  一人は舞台を求めて翔ける。  一人は疲れを消そうと眠る。  思い通りにならない世界で振り回される男達のニアミスは、こうした形で終わった。 【熱気バサラ 搭乗機体 ラーゼフォン:(ラーゼフォン)  パイロット状況:俺の歌を聴けぇぇぇッ!!  機体状況:損傷無し  現在位置:B-5  第一行動方針:新たなライブの開催地を探す  最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)  パイロット状況:全身持病の癌の激痛。無理すれば戦闘可能だが、現在は休息のため一眠り中。  機体状況:"損傷無し"。  現在位置:B-5密林  第一行動方針:物陰で休む  第二行動方針:近くにいる敵機を攻撃  最終行動方針:皆殺し】 【初日 16:00】 ---- |BACK||NEXT| |[[気になる、あの子]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[薄氷の同盟]]| |[[はじめてのしゃいにんぐふぃんがー]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[薄氷の同盟]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[始まりの葬送曲]]|バサラ|[[『歌』に振り回される人達]]| |[[金髪お嬢とテロリスト]]|ガウルン|[[『歌』に振り回される人達]]| ----

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