BAROQUE▲SYNDROME

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BAROQUE▲SYNDROME」を以下のとおり復元します。
<p><strong>BAROQUE▲SYNDROME</strong></p>
<p>part33-242~244 全編共通部分</p>
<p>part33-245~248,255~260,267~273 ルビ編</p>
<hr>
<dl>
<dt>242 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:08:38 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd>■世界観<br>
 このゲームは「バロック~歪んだ妄想~」で大熱波と呼ばれる災害が起こる前の世界が舞台となっている。<br>
<br>
 ある年、少年少女の自殺が多発した。彼らに共通するのは、いずれも強烈な歪んだ妄想を抱えていることだった。<br>
 こうした現象について、あるコメンテイターはこう答えた。<br>
<br>
 「彼ら自殺者の妄想は、荒唐無稽なようでいて、不気味なほど生理的で圧倒される説得力がある。バロックだ。」<br>
<br>
 このバロックという単語は人々の間で爆発的に広がっていった。<br>
 動機が意味不明の犯罪は、すべて「バロック型」として括られるようになった。<br>
<br>
 バロックを抱えたものが増えれば、それを商売に利用する者も現れる。それがバロック屋と呼ばれる者たちだった…<br>
<br>
<br>
■基本用語<br>
・バロック…はるか昔に流行した壮大で華麗な様式を、現代の自殺者の物語に見立てた言葉。<br>
  転じて、歪んだ妄想の虜となった者や、その妄想自体をさす言葉として使われている。<br>
  詳しくはwiki内の「バロック~歪んだ妄想~」の項を参照。<br>
<br>
・バロック屋…バロックに取り付かれた者に、有料で、彼らの望む妄想の物語を創ってあげる人たちのこと。<br>
  また、その内容を遺書にしたためてやることもある。そのため自殺幇助ではないかと世間に非難されている。<br>
  最近では政府も本物のバロックを使った囮捜査をするなど、積極的に取り締まりに乗り出している。<br>
<br>
・グログロ殺人事件…最近増加している猟奇殺人事件のこと。<br>
  被害者が肩から体をふたつに斬られたり、食いちぎられたような痕があったりと、<br>
  遺体に人以外の力で破壊された痕跡がある事件をこう呼んでいる。<br>
  バロックに囚われた人が起こす「バロックマーダー」とは区別される。<br>
<br>
・ゼロ地区…安全レベル0の地域であることからその名がついた地区。<br>
  非常に危険ということで通常地区から隔離されている。最近、グログロ殺人事件が発生した。<br>
<br>
・異形…明らかに人とも動物とも植物ともつかない異様な姿をしたモノ。とても凶暴。<br>
   グログロ殺人事件はこの異形の手によるものだと言われているが、物語序盤では政府にその存在が隠されている。<br>
<br>
・マルクト教団…最近活発に活動している新興宗教団体のこと。<br>
   彼らは自らを偽装天使と呼称しており、またその背に偽翼と呼ばれる偽者の翼を背負っている。<br>
   ちなみに偽翼が大きい天使ほど教団では高い階級にいる。<br>
   詳しくはwiki内の「バロック~歪んだ妄想~」の項を参照。<br>
<br></dd>
<dt>243 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:09:27 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd>■主な人物紹介<br>
・金沢キツネ<br>
 このゲームの主人公。バロック屋を営んでいる。<br>
<br>
・渡辺ルビ<br>
 生涯プーを自称する少女。ゼロ地区で起きた「グログロ殺人事件」の生存者。キツネと行動を共にすることになる。<br>
<br>
・鈴木スズメ<br>
 キツネの親友である音楽プロデューサー。凄腕のハッカーという顔も持つ。<br>
<br>
・宮坂文(フミ)<br>
 キツネも元に客としてやってきたバロックの少年。趣味は放火。彼がキツネに「タランテラのメロディ」を渡すところから物語は始まる。<br>
<br>
・高田タスク<br>
 スペシアル・ハンター(異形殺戮部隊)の一人。<br>
 異形を抹殺することが使命の特別公務員で、異形に襲われているキツネたちを助ける。<br>
<br></dd>
<dt>244 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:10:08 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd>■本編(共通部分)<br>
 キツネはバロック屋という非合法な商売をしている。<br>
 今日もキツネのもとにはバロックを抱えた一人の少年がやってきている。彼はフミというらしい。<br>
 フミは放火が趣味で、だから自分のバロックも燃えていると語っている。<br>
 こういうタイプには定番の滅亡のバロックがいいだろう。<br>
 キツネはいつものようにキーボードの上に指を走らせ、フミに合うような物語を創りだした。<br>
「するとこちらでしょうか。宮坂文は自分を神経質に決めようとする世界に復讐するため、自らとともに世界を焼く」<br>
 "復讐"はバロック達の大好きな言葉の一つだ。これならきっとこの少年も気に入るだろう。<br>
 だがフミはこの提案を却下した。どうも逆で、彼は「世界を燃やすことで、世界を救おう」としているらしい。<br>
 普通、フミのようにはっきりした妄想を持っている人間はバロック屋にはこない。バロック屋に来るのは漠然とした妄想しかもたない奴らだ。<br>
「感覚球。天使。……異形。ねえ、本当にわかんないの!?」<br>
 どれも普段は聞きなれない言葉だ。キツネがすっかり困っていると、<br>
「なら、これ聴いてみて」<br>
 そういい、フミは一枚のディスクを差し出した。どうも聴くと「世界が違って見える」ようになるらしい。<br>
 フミはここには自分のバロックは無かったといい、ディスクを放置し立ち去ってしまった。<br>
「タランテラのメロディ…か」<br>
 キツネは普段ならバロックの話を真にうけるなんてことはしない。が、フミの言葉は何故か心に引っかかってしまっていた。<br>
 とりあえずディスクを再生しようと思い、プレイヤーに入れてみたが再生しない。パソコンでやってみてもプロテクトがかかっててやはり再生することは出来ない。<br>
 しかたがないので、キツネはこういうことに詳しい友人のスズメの元に向かうことにした。<br>
<br>
 キツネが街を歩いていると不意に二人組の女子高生の会話が耳に入った。<br>
 どうも知り合いがゼロ地区に出入りしているらしい。その話に前にキツネの顧客だったメグという少女の名がでてきたので、キツネは思わず女子高生達の前に出てきてしまった。<br>

 女子高生達は突然現れたキツネのことをストーカーだのバロックだの言い放題。<br>
 このままだと警察に突き出されそうになったので、キツネが反論しようとしたその時、<br>
「キャー!」<br>
 突然、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。<br>
(ここで逃げるとルビ編へ、悲鳴の聞こえた方へ向かうとリエ編へ分岐する)<br>
<br></dd>
<dd>
<hr></dd>
<dt>245 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:10:56 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd>■ルビ編・第1章<br>
 キツネは逃げ出すチャンスとばかりにスズメの家に向かった。<br>
 スズメの家は機材も家具も何もかも黒を基調としたもので溢れていた。<br>
「で、今日はなんの用だ?」<br>
 キツネはフミの残したディスクを取り出して、<br>
「フツウのやり方じゃ音がしないんだ。スズメなら、どうにか聴けるんじゃないか?」<br>
「プレイヤーが壊れてるんじゃね-の?」<br>
 キツネはとりあえずディスクを入手した経緯からスズメに説明することにした。<br>
 スズメはバロックの少年の言ったことを信じているキツネを軽く馬鹿にしたが、<br>
「でも妙にひっかかるんだ……感覚球……天使……異形……」<br>
 キツネがそういうと、キツネからディスクを受け取り、しばらく黙って手の中でもてあそんだ。<br>
 とりあえずスズメもディスクの再生に乗り気になったが、キツネにその前に見て欲しいものがあるらしい。<br>
 『BAROQUE』というファイルらしい。名前からして怪しい。<br>
 中にあるのは『知覚/感覚球調査中間報告』 と書かれた書類だった。政府スジの研究機関のシークレットらしい。<br>
 それに書かれたことをまとめると、<br>
 <br>
 感覚球と呼ばれる球体に接触したと思われる人間の多くが幻覚や妄想にとりつかれている。<br>
 我々の現在の技術では、感覚球の被害を阻止する方法はまだ発見されていない。<br>
 しかし、こちらからその存在を探知することは可能だ、という提案がある。<br>
<br>
と、いうことらしい。また、感覚球の探査システム「知覚」の発案者らしい偽者の翼を背負った若い男の画像がついていた。<br>
 フミが残した3つの単語、感覚球・天使・異形。このうちの2つがこのファイルと一致している。<br>
 フミはいったいどうやってそんなシークレットを入手したんだろう か?<br>
 もしかしたらディスクを聴けばその謎が解けるかもしれない。スズメはディスクをドライブに入れてみた。<br>
 スズメが推測するに、政府はわざと感覚球の情報を流している――暗に警告を発するためだ。<br>
 そしてもう1つ、今ネットで話題になっているゼロ地区の化け物。それが実在しているらしい。<br>
 政府ではその化け物を異形と呼び、その存在を公にするのを避けているのだ。<br>
 スズメがそこまで語った、その時、突然スズメはうめき声を上げ、そのまま意識を失ってしまった。<br>
 すると、部屋じゅうを飲み込むような深い息づかいの音がして、視界がぐにゃりとゆがみ、赤黒い球体が周りを埋め尽くした。<br>
 ――感覚球!?<br>
 ほんの一瞬で異変は収まった。が、以前スズメは倒れたままだ。キツネはすぐに救急車を呼んだ。<br>
 その後ディスクを調べてみたがフォーマットされたのか何も聴こえない。<br>
 変わりに醜悪な化け物、おそらく異形と呼ばれるものの画像を手に入れた。<br>
<br></dd>
<dt>246 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:11:51 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd> 9時間後、スズメは病院で目を開けた。しかしディスクの解析に成功したところで記憶が途切れているようだ。<br>
 ただし、ディスクから再生した音楽のことは覚えていた。<br>
 それは単純な音楽だった。……踊る病気を治療する音楽……タランテラのメロディ。<br>
「けど、音が聴こえたと思ったのは数秒だった。音といっしょにオレの体が溶けて広がった……オレは一瞬、あらゆる場所にいた」<br>
 ”あらゆる場所にいた”はバロックになりかけの人間がよく語る言葉だ。<br>
 スズメの精神状態は危ない。キツネは倒れた時に頭をぶつけたかも知れないから2、3日入院するよう言ってその場を去った。<br>
 別れぎわ、「オレはもう一度アレを再現する」といったスズメの目がバロックの目に見えたのはキツネの気のせいだったのだろうか…<br>
<br>
 事務所に戻ったのは夜になってからだった。<br>
 ドアを開けるとパソコンの前に一人の少女が座っていた。商売柄見られては困るデータが多い。<br>
 キツネは少女を刺激しないよう、客として扱い、油断させることにした。<br>
 少女は自分を宝さがしのバロックと偽ったが、結局キツネに取り押さえられることに。<br>
 少女の名は渡辺ルビ。異形の画像目当てに忍び込んだらしい。<br>
 彼女は昼間キツネをストーカー呼ばわりした二人組の女子高生の片割れで、メグの知り合いだという。キツネのこともメグから聴いたそうだ。<br>
 キツネがメグが元気にしているかと尋ねると、ルビはメグはグログロ殺人事件で死んだと語った。<br>
 ルビもその事件の際に現場にいたらしい。ルビは証拠として背中の傷痕をキツネに示した。<br>
 背中には生々しい傷が二つ刻まれていた。もしも天使が本当にいて、翼を引きちぎられたらこんな傷痕になるのではないだろうか。<br>
 フミの言葉にあった「異形」――それに遭遇したルビ。<br>
「画像データは持っていないが、異形の話は聞いたことがある。事件のあった場所へ連れていってくれるなら、情報提供してもいい」<br>
 ルビの話に興味を持ったキツネはそう嘘をついて(キツネは本当は画像を持っている)ルビに事件現場へ案内させることにした。<br>
<br></dd>
<dt>247 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/28(金)
22:13:06 ID:htjrOE8q0</dt>
<dd> 雨の中、二人はゼロ地区のとあるビルに入っていった。<br>
 そのまま薄暗い通路を進んでいくと防火扉があり、その先には地下へと続く狭い階段があった。そこを降りると大きな鉄の扉があった。事件がおきたのはこの先の部屋らしい。<br>

 その部屋には生々しい血痕が残されていた。ここでメグと他に3人が死んだらしい。<br>
 そう語るルビにいたたまれなくなったキツネはふと足元を見た。すると茶色いカマキリの卵状の物体が目に付いた。よく見ると部屋のあちこちに同じものが散らばっている。<br>

 おかしい、さっきまで何もなかった場所にまで、薄茶色の泡のかたまりがくっついている。…増えているのか?<br>
「行こう。ここを出るんだ、ルビ!」<br>
 妙な胸騒ぎに襲われたキツネは話を続けるルビを止め、部屋の出口に向かった。<br>
 扉の取っ手を泡がびっしり覆っている。今にも幼虫が出てきそうだ。キツネは近くにあった棒で泡を叩き落そうとしたが、その時――<br>
「うわ!」<br>
 キツネ達の前に巨大な何かが振ってきた。上半身は裸の女だが下半身は茶色の泡に覆われた化け物の姿――異形だ。<br>
 二人は異形の攻撃をよけながら部屋の奥へ逃げこんだ。しかし、もうこれ以上逃げれない。<br>
「殺せば!?もう、さっさと殺せばいい!」<br>
 そういいルビが異形の前に飛び出した。異形はルビに狙いを定めて攻撃した。<br>
 その時ルビの上にあったスプリンクラーから水が漏れてきた。水に弱いらしいこの異形は悲鳴を上げた。<br>
 キツネはこれを見逃さず、その場にあったもので即席火炎瓶を使い、センサーを反応させ、大量の水を異形に浴びせてやった。<br>
 そのまま二人は異形が再生する前に大急ぎで外へ出た。<br>
<br>
 外は雨。これなら異形も追ってこれないだろう。<br>
 どこからか聴きなれない警報が聞こえてきた。キツネは好奇心を抑えきれず、音が聞こえてくる方向へ近づいていった。<br>
 そのまましばらく進むと、目の前に奇妙な物体が現れた。血の涙を流した巨大な赤子姿の異形だ。<br>
 二人はゼロ地区の奥へ逃げだした。しかし、大きさの割りに素早い異形に追い詰められてしまう。<br>
 絶体絶命。だが、その時、何処からか放たれた銃弾により異形は倒されてしまった。<br>
 しばし呆然とする二人の元に、白い光といっしょに男が近づいてきた。<br>
「僕はスペシアル・ハンターの高田タスクっていいます。異形殺戮部隊って仰々しい言い方もありますけどね」<br>
 タスクはそういい笑顔を向けた。彼が言うにはスペシアル・ハンターとは警察より傭兵に近い非公認の部隊らしい。<br>
 しばらくすると、数人の男がやってきた。タスクと同じスペシアル・ハンター達だ。男達は異形の死体に近づくとそれを解体し始めた。<br>
 あらたか解体し終えると、男達のうち、リーダー格の者がキツネたちの元へやってきた。<br>
 男は自分のIDを示し、二人にもIDを提示するよう求めた。男のIDには特別公務員の印があった。どうやらタスクが言っていたことは本当らしい。<br>
 キツネは仕事柄用意している表向きのIDを示した。<br>
 男は磁気ホルダーにカードをすべらせ、キツネに今日あったことを他言しないよう求めた。<br>
 無理に存在を隠すより、異形を目撃した人間のIDをチェックして、今後の動向を監視するつもりらしい。<br>
 その時、ウッウッと、キツネの背後でルビが嗚咽をもらした。バラバラにされている異形のために泣くルビに、キツネはかける言葉が見つからなかった。<br>
<br>
 事務所に帰ってきたキツネは逃げ回る際、雨に濡れたせいで風邪を引いたらしいルビに風邪薬を飲ませた。<br>
 キツネは体を暖めてすぐに寝るよう告げると、そのままルビをタクシーで家に帰らせた。<br>
<br></dd>
<dt>248 :<a href="mailto:sage"><b>名無しさん@お腹いっぱい。</b></a>:2007/09/28(金) 22:24:32
ID:htjrOE8q0</dt>
<dd>長くなりそうな気がするので、とりあえず途中まで投下します。<br>
ルビ編の残り(第2章、第3章)は土日の間に投下できると思います。<br>
<br>
残りのリエ編、アミ編1、アミ編2、レイカ編はもう少しかかりそうです。すみません。<br>
<br></dd>
<dt>255 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/29(土)
20:42:03 ID:Zzcuu3tX0</dt>
<dd>■ルビ編・第2章<br>
 あれから幾日が過ぎたのだろう?<br>
 ルビはあの事件以来、事務所に入り浸っている。今もテレビの前にかじりついているところだ。<br>
 テレビではスペシアル・ハンター結成のニュースが流れている。これは政府による異形の恐怖をごまかそうという戦略の一環だろうか。<br>
 だが、こんなニュースじゃバロックたちは騙せない。<br>
 異形の存在が公表されてからというもの、キツネの元にはすでに13人の来客があった。<br>
 そのほとんどが、死ぬこと、殺されることに関係するバロックだった。<br>
 キツネはそのたびに彼らはアンドロイドであり不死であるから、異形に殺されることはない、というバロックを与えていた。<br>
 似たようなバロックばかり与えているが、仕方が無い。客が多すぎて間に合わないのだ。それに今のところ苦情は来ていない。<br>
「ふーん、簡単なんだ。わたしもやってみようかな、バロック屋」<br>
 ルビは銃を教える代わりに、バロック屋の修行をさせるよう要求してきた。<br>
 キツネは、あの日異形のために泣いた少女と、今目の前にいる少女がほんとうに同一人物なのかと呆れた。<br>
「でも、銃は必要じゃない?いつ異形にやられるかわからないし。それに最近気になるウワサがあるの知ってる?」<br>
 どこから拾ってくるかわからないが、ルビの提供する情報は聞く価値がある。キツネは耳をかたむけた。<br>
 ルビがいうには『天使があちこちに出没している。天使を見た人はいくつかの試練を受け、それをパスすると自分も天使になれる』ということらしい。<br>
 ――まるでバロックだ。<br>
 しかし、この話をバロックの人にすると、みんな本気で怖がるそうだ。<br>
 バロックは人の話をほとんど聞かないはずなのに、だ。これはおかしい。<br>
 ルビはそこまで教えると情報料を要求してきた。キツネは戸棚にあったケーキでごまかした。――単純だ。<br>
 こうしてみると、ルビはどこにもいる普通の少女にしか見えない。<br>
 …コンコン。<br>
 来客だ。ルビはすばやく机の下に隠れた。<br>
 入ってきたのは、黒い喪服を着た少女だ。指先の震えからバロックだと想像はつくが、ヴェールのせいで表情が読み取れない。<br>
「このお店で、私のバロックを引き取ってもらえないかしら?」<br>
 彼女は不死のバロックを持っているらしい。<br>
 今は異形騒動のせいで不死のバロックが不足している。できることなら欲しい。<br>
 キツネはバロックの物々交換を申し出た。<br>
 少女はその申し出を了承すると、黒い封筒をキツネの前に差し出し、<br>
「明日、また来ます」<br>
最後まで名乗ることのないまま出て行った。<br>
<br></dd>
<dt>256 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/29(土)
20:43:21 ID:Zzcuu3tX0</dt>
<dd> キツネは封筒を開いた。<br>
<br>
 『私は不死の一族の末裔である。しるしはその名前の中にある。<br>
  1000人が乗る船が波に飲まれたとき、山が火を吹き街が炎に包まれたとき、そして魔物が人々を襲うとき、<br>
  いつも死なないのは同じ名だ。力を得て名を与えられた者は不死となる。ただし誤ってその名を呼ぶ口は封じられる……』<br>
<br>
 厄介なバロックだ。<br>
 不死の名前を名乗るには力、つまり何かの条件が必要だ。このバロックはいわば前編で、交換するなら、正しい名前と不死の条件を備えた後編しかない。<br>
 ただし、それがもし正しいものでないならば……不死の名前は呪いの呪文になって、誤った名を呼んだ者の口を封じる。つまり失敗すればキツネは死ぬことになるのだ。<br>

 これを解くには、まず、名前が不死だということが何をさすのか考えなければならない。<br>
 そもそも名前が死ぬとはつまり、『忘れ去られること』だ。ということは不死の名前とは『永遠に忘れ去られない名前』だ。<br>
 ――わからん。<br>
 そもそもあの少女はどうやって失敗したキツネを殺すつもりなのだろうか?<br>
「できれば、痛みの少ない方法にして欲しいもんだ。蜘蛛の毒なんかいいかもしれない。あれは神経性のもんだからきっと……」<br>
「もっとマジメに考えなさいよ!」<br>
 突然、ルビは立ち上がって叫んだ。<br>
「わたしはキツネのこと心配して…もう知らないッ!」<br>
 事務所を飛び出していったルビは、少し泣いているようにも見えた。<br>
<br></dd>
<dt>257 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/29(土)
20:44:16 ID:Zzcuu3tX0</dt>
<dd> 翌日は朝から雷が鳴る嫌な日だった。<br>
 少女は昨日と同じ姿でキツネの前に現れた。<br>
「さあ、私の名前を呼んでちょうだい」<br>
 しかし、キツネには答えがわからない。当てずっぽうで答えようとしたその時、<br>
「キツネ、言っちゃダメ!!」<br>
ルビが飛び込んできた。<br>
「ねえ、あなたが不死になる名前はミラルカね。必要な力は血と夜に咲くバラ」<br>
 そんな簡単な答えではないくらい、ルビだってわかるはずだ。<br>
 しかし少女は悔しそうに唇を噛んだ。<br>
 少女が手にしたハンカチから蜘蛛が落ちてきた。蜘蛛はルビのヒザの上に落ち、とたんにルビはその場に崩れる。毒蜘蛛だ。<br>
 倒れたルビに駆け寄ったキツネはその時、すべてを悟った。<br>
 名前が不死の力を持つ条件は誰かの犠牲だ。犠牲者の名前を奪うことで、命を継ぎ足していくのだ。<br>
「だから、ルビを殺したお前の名前はいまからルビだ」<br>
 ヴェールを脱いだ少女の目はバロックのモノではなかった。<br>
 キツネは失敗しなかった。だから殺すことは出来ない。少女は逃げ出した。<br>
 その背には、小さなフェイクの翼があった。<br>
「ルビ…」<br>
 キツネはただ、自分の身代わりに死んだルビの傍に立ち尽くした。ところが、<br>
「よかったね。うまくいって」<br>
 ルビはあっさりと起き上がった。<br>
「わたしはタランテラの毒じゃ死なないもん」<br>
 タランテラ、少女の背にあった天使の翼――。すると、これが"試練"なのだろうか。<br>
 キツネが考えているといきなり地震が起こった。<br>
 今年になってから、妙な揺れが頻繁に起こっている。原因は例によって調査中だ。<br>
 その時、誰かがドアをノックした。不気味な揺れはおさまった。<br>
 スルリとドアを抜けるようにして入ってきたのはフミだった。<br>
 キツネはじっとフミの様子をうかがう。バロック特有の目。泳いだ視線。初めてここにきた時と、何一つ変わっていない。<br>
「僕は世界に放火してしまった。僕の火で、バターみたいに世界が融けてる」<br>
「で、何がかわいそうなの?」<br>
 ルビがいきなりフミに言った。<br>
「鈴木スズメ。スズメはマルクトに選ばれてしまった」<br>
「マルクト、どういうことだ?」<br>
「…シ…シシ、神経塔」<br>
 シンケイトウ?聞き覚えがない言葉だ。<br>
 ふとキツネがみると、ルビとフミはよくわからないことを話していた。<br>
「あなたは、スズメを追いかけなければいけないよ。<br>
スズメはあなたのかわりにタランテラに噛まれて踊る病気になった。僕は蜘蛛の糸の先をあなたに預ける。糸をたどって、病気を癒すメロディを見つけてよ」<br>
フミはキツネに向かってそう言い放った。何故フミはスズメのことを知っている?<br>
「スズメより、あなたのことをよく知ってるよ。キツネ」<br>
 そう言い残し、フミは去っていった。<br>
 キツネは不安になったので、スズメのいる病院に電話をした。<br>
 しかしスズメはいなかった。スズメは失踪してしまったらしいのだ。<br>
 スズメが行きそうな場所――キツネには自宅しか思いつかない。<br>
 ということで二人はさっそくスズメの部屋に向かうことになった。<br>
<br></dd>
<dt>258 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/29(土)
20:45:06 ID:Zzcuu3tX0</dt>
<dd>「お前、まさか文を知っているのか?」<br>
「初対面」<br>
 エレベーターが止まった。もうスズメの部屋はすぐそこだ。<br>
 キツネは一応、ノックしてみたが返事はない。<br>
 当たり前だが、扉には鍵がかかっている。IDチェックのオートロックだ。<br>
「じゃ、私のIDであけてみようか」<br>
 ルビはスペシアル・ハンターにID見せた後、IDを捨てたんじゃ……<br>
 ルビはカードをキースペースに差し込んだ。…開いたようだ。<br>
 フミといいルビといい、いったい何者なんだろう?<br>
 部屋の中は無人だった。荒らされているようだ。<br>
 スズメの手がかりを探すべく、キツネは壊されていないパソコンを調べてみた。<br>
「このファイル『キツネへ』って書いてあるよ」<br>
 クリックするとパスワード入力画面が現れた。キツネは迷わず『BAROQUE』と打ち込んだ。<br>
<br>
 『キツネへ。オレは、あらゆる場所にいるためのメロディの再生に成功した。<br>
  キツネにも聴かせてやってもいい。けど、その前にオレが感覚球がらみで集めたネタを見せてやる』<br>
<br>
 最初のバロック・マーダーといわれる”放課後屋上殺人”を筆頭に、文書だの画像だのといったデータの博覧会が続いた。<br>
 キツネはその中から”マルクトという単語を見つける。<br>
<br>
  ――マルクト。現時点では小規模の宗教集団。信じることで神に救われるとするこれまでの宗教とは違い、<br>
 マルクトでは、神は我々が守らなければならない存在であり、守ることにより人は癒される、という教えを説く。守るべき力のある人間は限られている。<br>
 よって、マルクトは積極的な広報活動を行わず、教団内の特定の地位にある人間が、教団に加えたい人間を調査して選び、勧誘する方法をとっている・・・・・・。<br>
<br>
 画面の脇に、羽の絵の小さなアイコンがある。<br>
<br>
 『マルクトは怖い。マルクトに気をつけろ』<br>
<br>
 スズメは恐れて警戒していたマルクトという宗教団体に”選ばれて”しまったというのだろうか? いや、マルクトは教団というより秘密結社に近い。<br>
 その時、ルビがあるものを見つけた。<br>
 天使の…羽だ。よく見ると、部屋のあちこちに羽が散らばっている。<br>
 やはりスズメはマルクトの天使達にさらわれてしまったようだ。<br>
「んっ…!」<br>
 画面の下に『タランテラのメロディ』というファイルがある。キツネは念のため、それをディスクにコピーしておいた。<br>
<br></dd>
<dt>259 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/29(土)
20:45:54 ID:Zzcuu3tX0</dt>
<dd> 事務所へ戻ったキツネはさっそく裏ネットにアクセスした。<br>
 『マルクト』『天使』『異形』の3つについて調べてみたが、めぼしい情報は得られない。<br>
 キツネが大きなため息とともにパソコンの電源を落とそうとした、その時――<br>
「ん?」<br>
 1通のメールが届いたようだ。<br>
<br>
 件名:神経塔へのご案内。<br>
 いつもマルクトをご愛顧いただきましてありがとうございます。<br>
 つきましては、ささやかなお礼としてキツネ様をマルクトの本部へご招待したく思っておりますので、 お早めに下記アドレスへお越しください。<br>
 なお、ゲートの通過に必要なコードナンバーは108B49Zとなっております。<br>
<br>
 あまりに怪しい。しかしこれ以外に手がかりがないのも事実だ。今のところ、イニシアチブを握っているのはマルクトの方なのだから。<br>
「いくしかない…か」<br>
「そうこなくちゃ。スズメさんを助けなくちゃね!」<br>
 ルビはにっこりと微笑みかけた。<br>
 キツネはルビの存在に自分が救われているということを、ふと、思った。――その時だ。<br>
 ドドドドドドド…ゴオオオオオオ!<br>
「なんなのよ!」<br>
「しゃべるな、舌をかむぞ!」<br>
 激しい揺れで部屋中のものが散乱していく。<br>
「もう、ヤダ!さっさと終わらせてよ!」<br>
 ルビが悲鳴にも似た叫び声を上げると、揺れはウソのようにおさまった。<br>
「あーあ、メチャクチャ…」<br>
 後で片付けることを考えると…キツネはめまいに襲われた。<br>
 二人は地震の被害状況を確認するべく、テレビをつけた。<br>
<br></dd>
<dt>267 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
20:56:50 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd>■ルビ編・第3章<br>
『先ほどの地震の震度は…』<br>
 派手な揺れからをしたわりには、国内の被害はたいしたことなかったらしい。だが、どうやら海外では大きな被害が出たようだ。<br>
「あそこに住んでた人にとっては世界の終わりだね」<br>
 キツネは銃をベルトにはさみ、ナイフと小型の火炎放射器をバッグに入れた。<br>
 そして、スズメが残した切り札――タランテラのメロディが入ったディスクプレイヤーをポケットに入れた。<br>
「行くぞ、ルビ」<br>
"都合によりしばらくの間休業します"<br>
 メッセージをドアにかけ、二人は神経塔に出発した。<br>
<br>
 夜の街の光景は変わっていた。<br>
 バロックがあちこちに出没し、フェイクの翼を背負った男女がごく普通に通りを歩いている。<br>
 マルクトは目に見えて存在を大きくしていた。教団としての活動はほとんど公開していないにもかかわらず、信者になりたがる人間は多いらしい。<br>
「スズメがマルクトに殺されている可能性はないのか?」<br>
「うーん、それは無いと思う。だって、天使の仲間にするためにさらったんでしょ?殺したらイミないよ」<br>
 すると、ありえるのは洗脳か。<br>
「急ごう、ルビ」<br>
 二人はタクシーに乗り特別地区に急いだ。<br>
<br></dd>
<dt>268 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
20:58:00 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd> 特別地区はゼロ地区地は別の方向にある、国の中枢機関がすべて集中している場所だ。<br>
「あれじゃない?メールに書いてあったゲートって」<br>
 特別地区へは島から放射状に伸びている橋を使うことになっており、その橋はゲートをくぐらないと渡れない仕組みだ。<br>
 その時、堤防の上にフミが現れた。<br>
 あのメールを出したのはフミだったのか?だがフミは違うといった。<br>
「キツネが試練をクリアできるかどうかは、見ておきたいんだ」<br>
「キツネ、囲まれてる!」<br>
 いつの間にか二人は、金属の槍を構えた信者達に囲まれていた。<br>
 キツネは信者の後ろに異形の姿を見つける。<br>
 ――何故、マルクトとともに異形が!?<br>
 異形の後ろにいた格上の天使の青年の合図で信者がいっせいに槍を振り上げる。<br>
 キツネは銃を構えようとしたが、異形につかまれて身動きできなかった。<br>
「ぐあああぁっ!!!」<br>
 今にも握りつぶされそうなキツネ。ルビはとっさに手に持ったナイフを異形に投げつけ、キツネを助け出した。<br>
「頼む、レイカ、暴れないでくれ…しかたがない…」<br>
 レイカ?あの異形には名前があるのか?<br>
 青年はフェンスの上に飛び移った。それからフミとしばらく会話した後、奇妙な銃を異形に撃つ。弾は異形の後頭部に当たった。<br>
 すると、異形が激しく暴れ、火球を吐き出した。それにより、信者の一人が炎につつまれる。<br>
 火球は放置していたキツネの荷物にも当たった。中身は小型の火炎放射器だ。<br>
 もう一人の信者を巻き込んで火はさらに広がっていく。<br>
 キツネは異形を狙って銃を撃ったが当たらない。しかたがないので、火の中なおも狙ってくる信者達に狙いを切り替えた。<br>
 あっという間に弾が切れてしまうが、補充する時間はない。<br>
 その時、遠くからヒュルルという音がした。キツネはとっさにルビを抱えて地面に伏せた。<br>
 空から降ってくる異形と巻き込まれた不運な信者の肉片と血の雨で火の勢いが弱まる。<br>
 どうもスペシアル・ハンターがきたようだ。翼の青年とフミは何処かへ消えていった。<br>
 ハンターたち道路に散らばる肉片の後片付けを始めた。<br>
 キツネの元にタスクが歩いてくる。<br>
「あの連中は助けなくていいのか?」<br>
「そのうち、マルクトから引き取りにくるでしょう」<br>
 タスクがいうには、ハンターはマルクトに不干渉であり、入信が報告された時点で、ベーシックIDが削除されるから、助ける必要がないそうだ。<br>
 常識では本人が望んでも死亡以外ではIDは削除されない。<br>
 ということは、国が徹底的にマルクトに関知しないようにしているか、マルクトが国上層部にまで影響力を持っているかのどちらかだが…<br>
「僕はあなたが異形に襲われた事情を上に報告しなければなりません。以前申告されたIDによればあなたは――あ!」<br>
 二重IDがバレるとまずい。<br>
「悪いな、タスク」<br>
 二人は大急ぎでその場から逃げ出した。ゲートまで後すこしだ。<br>
<br></dd>
<dt>269 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
20:58:37 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd> 『コードナンバーを入力してください』<br>
<br>
 キツネは[108B49Z]と入力した。ゲートが開く。<br>
「ハンターが来たわ!」<br>
 特殊車両からタスクが銃でこちらを狙っている。<br>
 キツネはいそいで走り出したが、ルビはゲートのボタンを押している。コードの変更だ。<br>
 ハンターたちはキツネたちを追おうとしたがゲートが閉じてしまう。<br>
 タスクが本当にキツネたちを殺そうとしたのかはわからないけど、キツネにはタスクが困ったような顔をしているように見えた。<br>
<br>
「もう聞いていいか?おまえがただのプーのわけはないな。何のために私に近づいた?何故、ここまで一緒に来たんだ?」<br>
「…それはアイツに聞いてくれる?」<br>
 フミだ。ヘッドホンのようなものを耳にはめている。<br>
「ここへ入るなら、これをつけないと危険だ。…そのままだと、神の悲鳴でたちまちバロックにされるけどいいの?」<br>
 キツネとルビは忠告に従い、ヘッドホンをつけた。<br>
「ここは神が近いせいで歪みも大きい」<br>
 フミは語る。この国はマルクトがどうにか守っているから、歪みが比較的少ない。多少地面が揺れる程度だ。<br>
 天使は神を守る存在。異形は神に見放された者たち。<br>
「ルビとフミはやっぱり知り合いだったんだな。あの時は初対面だと言っていたが」<br>
「会ったことのない知り合いもいるでしょ」<br>
 つまり、フミに例のディスクを渡されてから起こった全てがマルクトの試練だったのだ。<br>
「それで、とうとう最後の試練。スズメはこの奥でキツネを待っている」<br>
 三人は巨大な建物の前にやってきた。神経塔だ。<br>
 そして、地下深くへと続く巨大な螺旋階段をおりていった。<br>
<br>
 フミは翼こそないがこれでも偉い天使らしい。<br>
「ルビと僕は夢と理性を二人で一つ分しか持っていないからさ」<br>
 階段はとても長かった。キツネが例のディスクを聴かなかったからルビがキツネの元へやってきたらしい。<br>
 ルビがIDがなくても生活できたのはそのせいか…<br>
「背中の傷もウソだったのか?」<br>
「傷?…その夢は共有していないな」<br>
 フミはルビの傷のことを知らないようだ。<br>
「だって、あれは私とキツネだけのバロックだもの」<br>
 階段はまだ続いていたが、フミは途中の扉を開けた。<br>
<br></dd>
<dt>270 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
20:59:32 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd> そこにいたのはスズメだった。スズメは医者の着るような白衣を着ていた。目つきも話し方もしっかりしていて、バロックのそれとは明らかに違う。<br>
「私はお前を助けるために…」<br>
「助ける?俺が人に助けられなきゃいけないハメに陥ると思うのか?<br>
 …俺はタランテラのメロディを探るうち、神と天使の存在を知った。そして俺には、天使以上に重大な役目があることを知った」<br>
 ――スズメは洗脳されてしまったのか?<br>
「行こうか?」<br>
「どこへ?」<br>
「決まっているだろう。神の所だ」<br>
 キツネが振り返ると、フミの姿はなく、ルビが倒れていた。スズメがいうには”先にいった”らしい。<br>
「先に行った…?魂が肉体を抜け出して?」<br>
「それはタランテラのメロディに導かれてくる者なら、知らない言葉だ」<br>
 キツネがもう一度”魂”というとスズメが取り乱した。<br>
「駄目だ!やはり試練は中止だ!」<br>
 キツネが声が聞こえるほうを振り向くと、人間が二人降りてきたのが見えた。<br>
 一人はさっき会った翼の青年。もう一人はさらに大きな翼を背負った神経質そうな金髪の男――上級天使だ。<br>
「やはり、この男は規格外の失敗作だ…選ぶなら、なんで最初からこっちが選ばれなかったんだ?」<br>
「さあ。僕と同じで、誤差の範囲ではないでしょうか」<br>
「偽物の神なら誤差も出るだろうな」<br>
 キツネがそういうと青年は少し顔色を変えたが、上級天使は眉ひとつ動かさなかった。<br>
「誤差なら、修正すればいい」<br>
 上級天使はそういい、銃口をキツネに向けた。<br>
 スズメは上級天使に詰め寄ったが、相手にされず、上級天使の命令で青年に何処かへ連れて行かれた。<br>
<br></dd>
<dt>271 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
21:02:07 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd>「祈らないのか?…さっきの青年が私を殺そうとしたときは、ちゃんと祈ってくれたぞ」<br>
「祈り?くだらないな」<br>
 さっきまで眉ひとつ動かさなかった上級天使の表情が曇る。<br>
 ――上級信者のくせに自分たちの教えを否定するのか?<br>
 上級天使がキツネを撃とうとした、その時、さっきまで倒れていたルビが身をのりだした。<br>
 ルビを撃った上級天使は続けてキツネを撃とうとしている。キツネはとっさに銃を取り出して撃とうとしたが、弾が入っていない。<br>
 そのまま銃を上級天使目がけて投げつけた。<br>
「チッ…!」<br>
 銃は上級天使の翼を突き破った。上級天使が舞い散る羽に気を取られている隙に、キツネは銃を奪い取ることに成功した。<br>
 そして、上級天使が態勢を立て直すより先にその銃を構える。<br>
「ルビ…」<br>
 だが、答えはない。ルビはもう息たえていた。<br>
”おまえがマルクトの手先だとしても、けっこう楽しませてもらったよ”<br>
 キツネは心の中でそうルビに語りかけると、ルビの亡骸をその場に寝かせて背を向けた。<br>
 胸ポケットの感触を確かめた。ディスクはしっかり入っている。キツネはそれを取り出した。<br>
「タランテラのメロディだ。おまえたちマルクトが信者達を洗脳するためにこれを使ったのはわかっている。<br>
 …でも、私は知っている。踊る病気の治療法は死ぬまで踊り続けることなんだ。つまり、このメロディを聞き続ける事で洗脳から醒めることも出来る。違うか?」<br>
 上級天使はわずかに片眉を上げた。<br>
「…洗脳だと?まだ我々がそんなことをしていると思うのか?」<br>
 キツネがプレイヤーの再生ボタンを押そうとした、その時、上級天使は駆け出し、突き当たりの壁に手を触れた。<br>
「バカめっ!」<br>
 頭上から上級天使の声が聞こえた。照明が落ちた。<br>
 武器を構えた信者達がやってくる音が聞こえる。<br>
『そのまま、右へ26歩走って。手を伸ばせば、螺旋階段の入り口が開くわ。それから、31回まわって下りたところの扉を開けて』<br>
「ルビか!?」<br>
『急いで!』<br>
 キツネはルビの言葉に従い、右へ26歩走り、螺旋階段へ飛び出した。信者達が迫ってくる。キツネは急いでルビの言っていた部屋へ駆け込んだ。<br>
<br>
 その部屋は壁にも天井にも機械が埋め込まれいた。中央には、フミと、キツネに銃を向ける翼の青年がいた。<br>
 やはり、試練だったのか?ルビの声とフミの意識を使い騙していたのか?<br>
 青年はキツネにディスクを再生してみるよう言った。キツネの説が正しいなら、青年の洗脳がとけて、キツネは殺されずにすむと。<br>
「キツネ…この人は、わたしやキツネの仲間よ。わたしたちはマルクトの失敗作で、この人は…」<br>
「黙れ。それ以上言えば世界が燃える」<br>
 意識の共有。キツネは少しゾッとしたが、かまわず、ディスクをセットした。<br>
 音楽が流れるや否や青年は耳をふさいで、その場に崩れた。<br>
<br>
 『緊急事態。最深部のシステムに異常発生。循環液が流出します』<br>
<br></dd>
<dt>272 :<a href="mailto:sage"><b>BAROQUE▲SYNDROME</b></a>:2007/09/30(日)
21:02:39 ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd>「逃げて、キツネ。塔の中が洪水になる」<br>
 螺旋階段のはるか下から水が迫ってくる。<br>
 キツネが一度だけ後ろを振り返ると、フミがばいばいと手を振っているのが見えた。<br>
「キツネが失敗作でよかった」<br>
 それがルビの言葉かフミの言葉か、もうわからない。<br>
<br>
 階段の途中にスズメがいる。<br>
 キツネはスズメに一緒に逃げるよう言うが、スズメはやるべきことがあるからいけないという。<br>
「やるべきこととは何かを、いつか、聞かせてもらうからな」<br>
「ああ、上の世界でな」<br>
 キツネはもう振り返らず、ひたすら上を目指した。<br>
 階段も一階あがるごとにメロディに崩されていくようで、ついに音と水とにのみこまれる。<br>
 水の中、キツネは幻を見た。<br>
 水は神の涙で、死んだはずのルビが水の中を漂っている。そのうち背中の傷から本物の翼が生え、ルビは翼を広げて、光る世界へのぼっていくのだ。<br>
 神のことも世界のことも、なにひとつ知てることはできなかったが、あの少女を少しの間楽しませ、帰るべき場所へ解放することの成功した。<br>
 ――これが私のバロックだ。人にバロックを売ってきた私が、やっと自分のバロックを手に入れることができたのだ。<br>
 キツネは意識がタランテラのメロディと混じり合い、水に溶けかされていくのを感じた…<br>
<br>
 キツネがタスクたちに発見された時、見知らぬ青年に抱えられていたという。その青年は「羽は捨てた」とだけ答えたそうだ。<br>
 回復後、キツネは色々と取調べを受けたが、マルクト不介入の規律に従い、青年のことは追求されなかった。<br>
 マルクトは滅びず、むしろ前より勢力を増していた。<br>
 キツネには、マルクトの翼は不安な現実という地面から逃れるための翼に思えた。<br>
 スズメからは今のところ連絡はない。<br>
 しかし、キツネには厳しい監視がついているため、もう神経塔へは行けない。できるのは無事を願うことだけだ。<br>
 キツネはタランテラのメロディを聴いてしまったため、語るべきバロックが終わっている。<br>
 もしも、あの青年に再び会うことが出来たら、あらゆる場所や世界について、答えを聞かせて欲しい。<br>
<br>
 願わくば、世界が燃えてしまう前に。<br>
<br>
<br>
   ルビ編(終)<br>
<br></dd>
<dt>273 :<a href="mailto:sage"><b>名無しさん@お腹いっぱい。</b></a>:2007/09/30(日) 21:06:42
ID:CnqLFeWM0</dt>
<dd>ルビ編は以上です。<br>
一応本筋とはあまり関係ないやり取りなんかは飛ばしました。<br>
<br>
次はリエ編を投下したいと思いますが、それまで結構間が開くかもしれません。<br>
ルビ編以外を期待している方はもう少々待ってください。すみません。<br>
<br></dd>
</dl>

復元してよろしいですか?