『いらっしゃ~い・ませ』
AM 9:30。
アリーナはまだ寝惚けてんのかなぁ、と思って自分の両目を擦った。
『お客様?眼を洗われます・か?』
でも、自分の目が少し痛くなっただけだった。
そこには変わらず愛くるしい容姿の火の玉&水の玉が・・・。
「何、これぇ・・?」
アリーナは呆けた声を出してレオンを振り返った。
「迷魂[火]・赤丸と迷魂[水]・青丸だが。」
「いや、その説明じゃわかんないし。」
アリーナはそう言ってレオンの後ろに隠れているファリエルに目を移した。
「私は、何も存じませんからっ!」
ファリエルはいつもより強い口調でそう言って、もっとレオンの後ろに隠れてしまった。
ちなみに、レオンはファリエルよりふたまわりほど大きいので、真後ろに行ってしまうとファリエルは完全に見えなくなる。
「ファーリーエールー?」
ケイトはしつこくレオンの後ろからファリエルを引っ張り出そうとした。そして、アリーナの位置からは残念なことに見えなかったが、ファリエルは対抗策として迷わず魔法をぶっ放したようだ。
「~──、dsyhf;vr・dkj・p&;hd!雷光電・・!」
「ままっ、魔法を使うなよ!?」
ケイトは目の前に手をかざして、魔法が当たる時を待ったが・・
その、ファリエルが喚んだ雷が ケイトに当たる事はなかった。
「レジスト・マジック」
東洋のドレス(アリーナは初めて見たのでわからなかったが)を着た二十歳前ぐらいの女性が、いつの間にかケイトの前に立っていたから。
その人が、持っていた扇子でファリエルの魔法を防いでいたから。
ファリエルがその人を見た途端、魔法が乱れたから。
とまぁ、そんな風に理由はいろいろあったが、とにかくケイトは無事だった。
──別に当たってもよかったのに。
とかいう言葉はアリーナの心の内だけに留めておいた。 チッ
「はぁ~い初めまして、万屋『ちずるん』店長の千鶴でぇす!ファル(←ファリエルの事らしい)ったら相も変わらず顔色悪い小心者ねぇ。店内で魔法使っちゃダメって何回言ってもその頭じゃわかんないかしら?」
「ううぅ、顔色悪いのはほっといてください!」
「あら、そこだけしか否定しないって事は、後は全部当たってるって事かしら?うんうん、覚えとくわね」
あー・・。
確かにファリエルがこの人・・じゃなくて千鶴さんが苦手な理由がわかった気がする。
「えーっとぉ、あなたがケイト君であなたがアリーナちゃんね?レオンから聞いてるわ、2人ともいらっしゃい!」
すると千鶴が突然くるっと振り返ってファリエルの時とはぜんぜん違う態度でニコッと笑いながらケイト→アリーナの順に指差して聞いた。
「そう、俺がケイト・フェラード。初めてお目にかかりますが・・・可憐な千鶴さん、ギルド白亜に入団する気はない!?」
ケイトが目をキラキラさせながらそう言ったので、アリーナとファリエルが違う目的で同じところに突きを見舞っておいた。ちなみにケイトは2人から攻撃が案外効いたようでその場に伏している。
「えー・・あ、私がアリーナ・フォースで銃剣士。よろしくおね・・」
とアリーナが自己紹介して右手を差し出すと、いきなり千鶴が
「カワイイッ!」
と言ってガバァッ!!と抱きついて来ようとして、その前に何かに跳ね返された。
最初は立ち直ったケイトかな、と思ったけどそいつが着ていたのはフリフリの・・・・。
「アリーナ様、ご無事で御座いましょうかっ!?無礼な輩から貴方様を守るのは私の役目っ、あのケイトとか言う輩も成敗しておきました!」
「シャル・・何時から 何所から・・・・・」
アリーナはなんだか頭が痛くて深ぁーいため息をついた。
「アリーナ様の危機とあらば、私は何時でも何所からでも駆け付けますとお約束したでしょう!それがアリーナ様への私の愛の証っ!!」
「あ・・・そう。」
アリーナがもういいやぁ・・と言うふうに相槌を打つと、横から千鶴がほえた。
「何よぉ!勝手に人の店に入って来て勝手な事して!khsbfw(72wbjdfw!風薙爆!」
「あの・・・。店の中では魔法を使うなと先ほどあなたが・・」
「私は店長だから何してもい・い・の!」
ファリエルのささやかな抗議を千鶴はさらっと受け流してシャルトスに魔法を放った。
「愚かな人・・木よ阻め!返せ風は汝の属、息絶えよっ!」
シャルトスも負けじと自前の契約魔法とやらを放った。
「だっからこの店じゃあたし意外魔法使ったらダメだって!」
「そんな事私の知った事ではありませんわ」
「あたしは店長だぞっ!?」
「私は蟻妖王ですわ!」
ギャアギャアと2人共一歩も譲らず、魔法も小競合いをしていた頃・・
「2人とも、女の子なのだから怪我をしたら大変だし・・千鶴も、店を壊さないようにほどほどにね?」
その声を聞いただけで穏やかな気持ちになれるような、優しげ声が上から降ってきた。
「はお姉っ・・店は、ちゃんと壊さないようにするから!」
「誰だか存じませんが、大丈夫ですわ!壊したら弁償致しますからっ・・この方が!!」
1階をのぞけるように、宙に浮かぶ体で建て付けられている場所にいつの間にか立っていた女性に向かって、千鶴が弁解し、シャルトスも千鶴をビシッと指差しながら主張する。
『って言ってるけど、どうする、はお?あ、レオンとファリエルさん、それとケイトさんとアリーナちゃん、だよね?万屋『ちづるん』にいらっしゃ~い♪』
・・・やっぱり、私まだ寝惚けているらしい。
千鶴とシャルトスに静止の声をかけた女性の後ろに、妙に色素が薄くて、後ろの物が見えるぐらい透けてる10歳くらいのかわいらしい少女が浮いているように見える。
しかも、その少女の足が膝の少し下から無いように見える。
──やばい、重症かもしれない・・
『あれれ?どうしたんですか?やっぱり赤丸達の言ったように、目を洗いますか?』
その子は心配そうな声でそう言って、一階にいるアリーナ達の所までフワフワと降りて来た。
『水神、力を貸せ!』
そして今までの雰囲気と一変して鋭い声でそう言うと、洗面器一杯分位の水をアリーナの目の前に出現させた。
「え、えぇ!?水が浮いて・・魔法!?しかも、ホントに透けてるしっ!!」
アリーナはまず突然現れた水が浮いている事に驚き、それが精神集中せずに使った魔法だと気付いて驚き、その魔法を事も無く使った少女が本当に浮いていている事に驚き、触ってみようとして触れずに貫き本当に透けている事に驚いた。
全部合わせて不思議の四連続攻撃だ。
当然アリーナの脳が処理しきれる訳が無く、アリーナの頭の上にはシャルトスと出会った時と同じく「くえすちょんまぁく」が数えきれないほど浮かびまくっていた。
『水神様に出してもらった聖水ですから、とっても綺麗で冷たいですよ。飲んだら万病に効くって云いますし、とっても有り難いお水です。』
それは本当に有り難い。
さっさとこれを飲んで、目を覚まさないと。
しかしその聖水とやらをグッと一気に飲み干しても、少女の姿は変わらずそこに在ったし、後ろを見れば火の玉と水の玉がフヨフヨと浮いていた。
アリーナは一つため息をついて、効果が出るのにはまだ時間が掛かる・・とかという考えはもう捨て、きちんと諦めて現実を見据えてみる事にした。
いや、しようとしたのだが、何だか視界が霞む・・
「あ、れぇ?」
それに頭がボゥ──ッとするよぅ・・
「アリーナ?」
ケイトが最初にアリーナの異変に気がついて、寄って来てくれた。
「・・ん?どうかしたの?」
次に千鶴が気づいて声をかけてくれた。
「アリーナ様・・?」
シャルトスも、次々みんなも、アリーナの方へと寄ってくる。
「顔が、赤いです・・」
『体温計を・持って来ますぅ~』
「おいシュリエ、水神・・って、どこのヤツだ?」
そう透けてる少女・シュリエに聞いたのはレオン。
『え・・、一番近くのアルテス様だけど・・。』
「・・アルテスって、確かイタズラ好きの子供の水神じゃなかったか?」
『・・もしかして?』
その2人の顔見知りっぽい会話の中で、アルテスとか近くとかってゆうのはよくわからなかったけど、「イタズラ好きの子供」ってとこが重要だ。
『水神アルテス、貴方もしや───っ』
シュリエが怒ってもかわいい顔で何かテレパシーっぽいのをした。
すると案の定、
『フン、我にそんな事要求するのが悪いのだ。神をそんな下らん事にちょくちょく使われてたまるか!』
とゆう高慢ちきな子供の声が返ってきた。
『わ、わかったわよ・・今度から気をつけるわよ・・それで、聖水の代わりに何を出したの?』
シュリエが不貞腐れてもやっぱりかわいい顔で聞き返した。
『え~と確か・・あぁそうだ。あれだ、あれ。』
「だから何なんだ」
レオンがアルテスのもったいぶった言葉に催促をする。
『社に供えられていた、清酒だったか。ま、後の事なんて我は知らんぞ。我に頼んだ主が悪いのだからな。せいぜい困る主等を見て楽しむとするか・・』
『あ!?何て事をっ・・アルテス待ちなさいっ!』
しかしシュリエの声は虚しく空に木霊し、
酒・・、御神酒を洗面器一杯分一気飲みしてしまった13歳のアリーナは、
「ぅ・・ん・・くぅー・・」
ケイトの胸に身体を任せて呑気に寝息をたてていた。
最終更新:2010年06月05日 23:42