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それでも一体この俺に何ができるっていうんだ - (2008/06/02 (月) 18:43:40) の最新版との変更点

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*&color(red){それでも一体この俺に何ができるっていうんだ} ――それでも一体この僕に何ができるっていうんだ。 ――窮屈な箱庭の現実を変えるために何ができるの? 東の空から朝日によって照らされている、巨大な橋。 その南端のたもとで、クォヴレーとイキマの二人は橋が伸びている先を見つめる。 「……五時三十分だ」 「そうか……」 もう幾度かこの会話を繰り返している。 違うのはイキマが報告する現在時刻だけ。 約束の時間を過ぎても、来るはずの仲間たちは一向に姿を見せない。 何かあったのかもしれない。 だが、もう少し待てばきっと来るさ。 リュウセイが力強い笑顔を見せて。 セレーナがふざけた冗談を言いながら。 ジョシュアとエルマが仕方ないなという感じでそれをたしなめて。 リョウトだって機体のトラブルか何かで来れなかっただけで、あちらの誰かに運んでもらっているかもしれない。 ガルドの言っていたチーフが合流していればいうことはなしだ。 ……そんなものが希望的観測でしかないことは、クォヴレー自身がよく分かっている。 誰かが欠けていたっておかしくはない――トウマのように。 それでも、それでもまだ、せめてあと三十分後の死の宣告までは。 「木原マサキのことは……あれでいいのか?」 突然、イキマが別の話題を振ってきた。 あの男は今、行動不能になった自分の機体のなかで、首輪の更なる解析作業に入っている。 ただ首輪を外すだけでなく、ユーゼスを欺く策のためだと言う。 ――五時を十分ほど過ぎてからのことだ。 マサキやガルドも交えた話し合いで、リュウセイたちを待つためにここにしばらく留まることは、割とすんなり決定した。 六時になれば、どうなったにしろ放送で死者がはっきりする。 仲間を探しにいくにしても、そうでないにしても、動くのはそれからだ。 あまり考えたくはないが彼らが死んだのなら、自分たちはその分の作業もこなさなくてはならない。 冷酷なようだが生きているならともかく、死人をわざわざ探しにいく余裕はどこにもないのだ。 だがそれはいいとしても、そこで問題が起こった。 ガルドがマサキに「ならば今のうちに首輪を外せ」と詰め寄ったのだ。 確かに、外せるものならさっさと外してしまうに越したことはない。 マサキが保身の為に勿体をつけているのだとしても、こちらにはそれを許す理由はないのだ。 するとあの男は人を苛つかせるあの笑みを浮かべて、盗聴を避けるための筆談でこう反論した。 『能天気な奴等だ。俺達だけが外したところで、ユーゼスが何かの気まぐれか何かで、貴様等の仲間を爆破したらどうする?』 これだけでは全く意味が分からなかった。 マサキが首輪を外しても、そしてユーゼスがそれを知っても、俺達の首が飛ぶことはなかったからだ。 ガルドも同じ考えに至ったらしく、そのように反論する。 『あくまでわずかな可能性としてだがな。あの男ならありえるとは思わんか?  貴様等がその賭けに、無駄に仲間の命を投げ込む気なら、俺は構わんがな』 ……奴が自分のことしか考えていないことは充分に分かっている。 だがこの男のいうとおり、可能性が低くともそのようなことに仲間の命は賭けられない。 つまり合流後、まとめて外したほうがいい。 そういうことなのだろう。 『まだ不十分だ。機体にも監視装置及び自爆装置が仕掛けられている可能性がある。  首輪を外してもユーゼスが余裕でいられるのも、これなら納得できる。  だがこれを外せれば、奴の目からひとまず逃れることが可能だ』 ――できるのか!? もし可能ならば、ユーゼスの寝首を掻くことができるかもしれない。 もちろん他にもやるべきことはあるだろうが――奴に行動の一挙一動を把握されたままでは、万に一つもそれは不可能だ。 『放送前までに解析して、できるかどうかくらいは分かる。他の奴等が来るまで貴様等は見張りでもしていろ』 ……結局、奴の言うとおりにすることになった。 今はガルドがマサキの機体を見張り、自分たちは橋の付近で見張りをしつつ、 仲間たちを待っている。 「……今はあれでいい。その後でまだごねるようなら容赦をする気はないが」 「……そうか」 ――そして時計は五時四十五分。 「クォヴレー、レーダーに二機!」 「あいつらか?いや――北じゃない、南だと!?」 リュウセイたちが来るのなら方角は逆のはずだ。 ならば別の連中か――敵か。 「イキマと俺で前に出る!ガルドはマサキをガードしろ!」    * ――ヒトは歩き続けて行く ――ただ生きていく為に ――不完全なデータを塗り替えながら進む クォヴレーとイキマが橋の向こうを睨む。 そこからやや離れた後方、自分を監視するガルドのエステバリスを傍らに置いて、自立行動不能のレイズナーは座り込むような体勢で待機。 木原マサキはそのレイズナーのコックピットの中で、解析装置の画面を睨みつつキーボードを叩く。 とりあえず首輪の解除を引き伸ばすことには成功した。 脱出のチャンスがまだ見えない以上、うかつに命綱を手放す真似は避けたい。 そしてユーゼスを欺く必要があるのもまた事実だ。 「さて……始めるか」 この広大なキリングフィールドにおいて、性能の差こそあれ支給されたロボットは必要不可欠だ。 だからこそ、そこに仕掛ければ絶大な意味を持つだろう。 そしてそれを調査するには、今のレイズナーは絶好のサンプルだ。 「……解析装置でレイをハッキング、レイズナーの機体構造を把握……よし……」 次々とスクロールするディスプレイのデータに目を走らせ、目にもとまらぬ速さでキーボードを叩き続ける。 「……エンジン付近に妙なものがあるな……爆弾ではない?……首輪のセンサーと同じ発信装置のようなものか」 首輪を解除する際、マサキにはひとつ引っかかることがあった。 それはこの生体反応センサーだ。 解除コードで機能は停止したものの、このレーダーが碌に利かないエリアでユーゼスだけは、首輪の盗聴や爆破をコントロールできる。 ということは、一体どんな原理で送受信を行っているのか? 「……ゲマトリア……カバラの数魔術か?念動力……人の念……」 ゼオライマー製造の為にマサキはあらゆる研究、科学とは無縁とも言える分野も調査した。 だがそんな彼にもこんなオカルトじみたものが、ここまでの性能を発揮しているとは信じ難かったのだ。 「……まあいい。つまりこの念動力でユーゼスは俺達の動きを把握している……。  ならば解析装置からレイを通じてコードを送信、機能を停止させる」 結果として、それは成功した。 あまりにもあっさりと。 ――妙だ。 この解析装置に内蔵されていたメッセージから、ユーゼスがどのような性格かは見て取れる。 必要最低限の種を蒔き、それによって人の運命を狂わせ……そんな哀れなピエロ達を利用し尽くす。 全てを見下し、嘲笑いながら己の目的を遂行する。 「ならばこれは本命ではない。おそらくダミーだ……ちっ」 マサキはシートに寄りかかり、大きく伸びをした。 突然、睡魔が襲い掛かる。 そろそろまた限界が来たようだ。 だが眠るには早い。まだ自分がやるべきことは残っている。 ――信じられるのは己のみ。 ――他の屑どもなど利用するか、そうでなければ存在する価値すらないゴミだ。 気を取り直し、今度は自分の荷物からサンプルの首輪を取り出した。 工具を使って分解し、内部コードに繋がれたままの生命反応センサーをずるりと引き出す。 そして解除したときとは逆に、今度は起動のためのコードを送信する。 すると首輪は一瞬だけ起動した。 だがすぐにそれは停止する。 センサーを自分の手で握り締めて、再び起動する。 今度は成功した。 しかし握った手を離せば、またすぐに停止することだろう。 そして手を離すと、案の定そのとおりになった。 これだけではユーゼスを騙すことはできない。 何か――何か他にも手は――。 「……ふん」 一旦、仕切り直しだ。 リラックスするために大きく息をつく。 その瞬間――視界がぼやけた。 意識が揺れる。 一気に頭が重くなる。 丸二日を過ぎてほぼ不眠不休。 この状態で数々の激闘や権謀術数の場をくぐり、マサキの体力はもはや限界に近かった。 ――まずい。 そう思い、何とか脳を覚醒させようとする間もなく、マサキの意識はあっという間に闇へと堕ちた。    * ――教えて"強さ"の定義 ――自分貫くことかな ――それとも自分捨ててまで守るべきもの守る事ですか 「イキマと俺で前に出る!ガルドはマサキをガードしろ!」 南から接近する謎の二機にクォヴレーたちが向かっていく。 目視できる距離までその二機が接近してくる。 ガルドにはその二機に見覚えがあった。 白い天使を連想させるその機体は、間違いなくユーゼスの手の者と思われる、あの機体だった。 そしてもう一方の青い機体は――見紛うはずもない、今は亡きプレシアに支給されたグランゾン。 「クォヴレー、イキマ!あの機体は――」 「……分かっている。任せろ」 クォヴレーの覚悟を覗かせる低い声を聞きながらも、ガルドは己の無力を呪い唇を噛む。 だがそんなことをしている暇はない。 すぐにマサキを連れて退避しなければ。せめて足手まといになってはならない。 その時だ。オープン回線から信じ難い声で、信じ難い発言が聞こえた。 「こちらラミア・ラヴレス。お前達に話がある、攻撃はしないで欲しい」 一瞬の沈黙。 そしてクォヴレーから放たれる寒気のするような声。 「……何のつもりだ。今までの罪を悔やんで償いたいというなら、今すぐ俺が地獄へ送ってやる。  そこで思う存分、懺悔するがいい」 「――待て、落ち着いて話を聞いてくれ。私はパプテマス・シロッコという。  リュウセイ・ダテからメッセージを預かっている。攻撃はしないでくれ。  機体を降りて話をしよう。勿論、私たちが先に降りる」 ――結局、あのラミア、シロッコと名乗る二人組と交渉の場を設けることになった。 ガルドはマサキの機体の傍で、やや遠間の距離から交渉を観察していた。 まず、ラミアと名乗る女が姿を見せる。 そして次にクォヴレー、それからシロッコと名乗る男。 イキマは機体に乗ったままで、この二人がおかしな真似をすればすぐに対処できるよう、警戒態勢をとっている。 何やら筆談がメインらしく、つまり通信で聞かれてはまずい内容。 そのためガルドやマサキには概要を掴むことすらできない。 そこでふと疑問が浮かんだ。 「貴様も交渉に参加したいんじゃないのか、マサキ?」 この男の性格ならまず間違いなく首を突っ込んでくるはずだ。 自分しか信用しないと言うことは、他人に大事な仕事を任せられないということ。 あのラミアと交渉するという重要局面で、今まで大人しいことがガルドには不思議だった。 通信からは沈黙しか返ってこない。 「……マサキ?」 レイズナーは座り込むような体勢で待機している。 そのためガルドの位置からだと上から覗き込むように、半透明のキャノピー越しにマサキを直視できる。 声をかけてもうつむいたままで反応しない。 また先刻のように眠っているのか。よっぽど寝不足だったらしい。 しかも呼びかけても反応しないところをみると、それは相当なもののようだ。 ――よほどのことがない限り、起きないくらいに。 「ガルド、マサキがどうかしたのか」 通信を聞いたイキマが問いかけてくる。 「――いや、眠っているだけのようだ。起こしても面倒になるだけだろう」 「……そうか、そうだな」 それだけで会話を終わらせ、通信を切ってから、ガルドはエステバリスのハッチを開けた。 そして静かに、レイズナーの頭部へ飛び移るように着地して、外部からキャノピーを開けるためのスイッチを探す。 最深鋭の戦闘機のテストパイロットであり、技術主任の肩書きを持つガルドには、それがあるという確信があった。 パイロットが意識を失った場合に外部から救出するためのことを考えて、それは必ず付いているはずなのだ。 ――あった。 そしてキャノピーが開いた。 目の前で一人の少年がくぅくぅと寝息を立てている。 だが無垢な少年に見えるこの男は、プレシアを殺して、そしてイサムを殺して生き延びた。 イサムの件に関して証拠はないが、そんなことはどうでもいい。 この男ならやりかねない――いや、間違いなくやる。 この男はプレシアを殺したのだ。 極めて利己的な理由で。 イサムの遺体を発見した時、ガルドは心に決めた。 木原マサキをこの手で殺す。 必ず殺す。 命に代えても殺す。 この男は生きていてはいけない男だ。 だから殺す。 その為だけに俺はまだ生きている。 そして――――その男が今、目の前で無防備な姿を晒している。 今なら解析装置を無傷で手に入れることができる。 やるならば今しかない。 いや、もはや何も、一切合切全て関係無い。 殺すと決めた人間が目の前にいる。 そして間違いなく殺せる状況。 ならば殺すしかないだろう。 動機も常識も良心もすでに彼岸へ消えて失せた。 ――もはや殺すしかないのだ!! 俺はコックピットの中へ一歩踏み出そうと――、 「ん………………ガルド?……っつ!」 気付いたか。 だが変わりは無い。何も変わりは無い。 真正面に立つ俺から逃げるために横から外へ出ようとする。 逃がさない。 後一歩。 後一歩でレイズナーから飛び降りることができる、コックピットの淵に足を掛けたその場所で。 ――俺は貴様を捕まえた。 「ぐ……あっ……」 醜い声だ。蛙を二、三匹まとめて潰した様な。 だがそれももう聞かずに済む。 その細い首をこの腕でへし折るだけだ。 絶対にこの腕は離さない。 俺の腕をいくら引っ掻こうとも無駄だ。 「は…………ぁ……」 目玉がひっくり返る。 顔面中に血管が浮いて、紫色のメロンのようだ。 死ね。 そのまま死ね。 そして――――、 「あの世でイサムに……お前が殺した人間に詫び続けろ……木原……マサキィィィィ……!」 最後だ――そう思った瞬間に顎に衝撃が走った。 二人の声は同時だった。 「が……っ!」 「げほっ……!がはあっ……がっあがっ……!」 ガルドは体勢を崩してレイズナーから危うく落下するところだったのを、必死でコックピットの淵にしがみついて防いでいる。 マサキは嘔吐にも似た声を出しながらも、悲鳴を上げ続けた肺に空気を送るだけで精一杯だ。 ――それははっきりいって偶然といっていい。 最後の最後での悪足掻き。 マサキがろくに目も見えず振り上げた足が、ガルドの顎にまともにヒットした。 ガルドは不安定な足場に立っていたことで、足を滑らせ落下しかけた。 そしてマサキから手を離した。 ガルドの足場が不安定でなかったら。 マサキの足が最高のタイミングでガルドの顎にクリーンヒットしなければ。 どちらの要素が欠けてもこうはならなかったろう。 「の……がさん!」 「ぐあっ……!」 ガルドが這い上がるのと、マサキが回復するのはほぼ同時だった。 ガルドの横から逃げようとするマサキの胸板に、右フックを叩きつけてコックピットの中へ押し込んだ。 パイロットシートに強烈な勢いで叩きつけられたマサキが呻いた。 それでも懸命に横へ逃れようとする。 だが、そこに覆いかぶさるようにガルドが乗り込んだ。 「今度こそ――殺してやる!」    * ――サバンナのガゼルが土煙を上げる ――風ん中あいつらは死ぬまで立ち続けなければいけないのさ ガルドが殺気をむき出しにしてマサキに迫る。 まともにぶつかれば体格差は圧倒的。 ついさっきまで首を絞められて、いや折られかけていた自分自身の身体がそれを思い知っている。 格闘技が何故、階級別に分かれているのか――その理由がよくわかる。 ならばそれを補う策が木原マサキには必要だ。 目的は解析装置に繋いだ首輪だった。 先程の分解で露出したセンサーを握り締め、その状態で首輪を起動させる。 すると、どうなるのか。 マサキが自分の首輪を解除した時点で、レイズナーのパイロットは存在しないことになる。 この時点では誰がレイズナーに乗っても問題はない。 だがマサキが首輪を起動させれば話は違ってくる。 この時点でマサキ以外の人間がシートに座れば、その人間の首輪が乗り換えルールによって爆発する。 ――マサキはそれを狙った。 シートに座るような体勢になったマサキに、馬乗りになる格好でガルドが覆いかぶさる。 そして上から振り上げた拳を容赦なく叩き込む。 首輪を持っていない方の左腕で、かろうじてガードするマサキ。 その腕は折れたかと思えるほどに軋み、しかも結局は拳の威力を殺しきれなかった。 貫通した衝撃が頭部を揺らして、マサキの意識がコンマ一秒ほど失われる。 「ぐ……!」 その隙にガルドの右腕が、ガードの隙間から首へと滑り込む。 あっという間にさっきの絶体絶命の状況が再現された。 しかも今度は上からのしかかられて、蹴りすらも出せない。 分かっていた。 当たり前だ。 大人と子供が素手でまともに戦えば、こうなることは火を見るより明らか。 だがそんなことはマサキには問題ではなかった。 ――何故、首輪が爆発しない!? マサキの作戦どおりなら、ガルドはとっくに爆死しているはずだ。 だがマサキは読み違えていた。 ユーゼスは『生きている者の機体を乗り換えれば爆発する』と言ったが、それは正確ではない。 『乗り換えて、操縦しようとすれば爆発する』と言ったほうが正しい。 だからこの場合は、操縦しようとして操縦桿やスイッチに触れない限り、爆発はしない。 何よりもマサキ殺害を優先する今のガルドに、そんなことをする理由はない。 (ユーゼス……嘘か……?……俺はこんな……クズに……) 脳に血液が届かなくなり薄れゆく意識の中で、マサキは己が死に近づいていくのを自覚する。 だがそれと同時に、マサキの意識のなかで猛烈な怒りの感情が沸き起こった。 「この冥王が……ふざ…………けるなぁぁああああぁぁぁぁああああ!!!!」 最後の力を振り絞って右腕を振り回した。 だが、首を締め上げられた体勢では、まともな打撃が打てるわけがない。 それでなくとも、ガルドとマサキでは腕のリーチの差がありすぎる。 その差を埋めるものがマサキには――あった。 マサキの右手に握り締められていた首輪のセンサー。 そこから伸びる露出したコード。 その先に繋がった爆弾内蔵の首輪。 振り上げたマサキの拳は、ガルドの顔面の30cmほど手前までしか届かない。 だがそこで手首のスナップを利かせると、その動きが回転の遠心力を生んで、拳から伸びるコードを伝わる。 そしてその先に存在する首輪の本体に、マサキの腕の振りとコードの遠心力が合わさったスピードが加わる。 そのまま首輪が、がつっという音を立ててガルドのこめかみに激突した。 ぱあん。 ――やった。 至近距離ゆえにやたらと耳に響く爆発音と衝撃。 その音を聞きながらマサキは勝利を確信した。 爆発しないのなら、強い衝撃を与えることで無理矢理爆発させてしまえばいい。 爆発に近距離で巻き込まれた右手に痛みが走ったが、どうやら火傷と多少の出血だけで済んだようだ。 「親指動く……小指、人差し指動くっ……よし、操縦に支障はない……!」 首輪には装着者の首を吹き飛ばすために、リングの内側への指向性の爆弾が内蔵されている。 そのため、外側へのダメージはさほどでもないのだ。 もっとも、いくらマサキといえど死の淵に追い詰められた状態でそこまで考えたわけではなかったが。 ガルドを見上げる。 そこには爆発の直撃によって顔の半分の皮膚と、片方の眼球が吹き飛んだ無残な姿があった。 顔面の半分もの面積にわたって骨が露出しているその姿は、一般人には正視に耐えないグロテスクなものだった。 「お……あが……」 爆発のショックでビクビクと痙攣しているガルドを見て、マサキは残忍な笑みを浮かべた。 すでに力が入っていないガルドの腕を振りほどき、マサキは首輪の分解に使ったドライバーを掴む。 「貴様のような無様なクズが……この俺に歯向かった罪は重いぞ……!」 襟首を掴んで頭部を引き寄せ、そして骨が露出した耳の穴にドライバーを根元まで差し込んだ。 「貴様は――屠殺場の豚のように死ぬのだ」 そしてかき回す。 めり、みぢっ、ぐちゅ――内耳をかき回す感触。 さらにかき回す。 みぎっ、ばり、ばきん――耳の穴の骨が割れる音。 そしてドライバーを引き抜いた時、ガルドはもはやぴくりとも動いていなかった。 それから数分たった後、木原マサキは血まみれの顔を拭こうともせずに、ただひたすら肺に空気を送りこんでいる。 「……はあっ……はっ……はあっ…………ぐうううっ」 ほんの少し回復したものの、まだ疲労の極致にある肉体に鞭打って、自分にのしかかるガルドの体を脇に押しのける。 よくも生き残れたものだ。マサキ自身、本当にそう思う。 ラッキーだった、というより差し引きゼロと言うのがふさわしい。 いや、マイナスのほうが多いかもしれない 屑どもに足を引っ張られ続けたあげくがこの死に様では、冗談抜きで死んでも死に切れないというものだ。 「通信は……切れているな。あいつらはまだ気付いていない」 奴等が気付いて止めに来てさえいれば――と心の中で毒づいてから思い直す。 ガルドを殺してしまったからには、もうここにはいられない。 離脱するのには気付かれていない方が都合がいいというわけだ。 奪う機体が非力なエステバリスというのが問題だが、飛べないレイズナーよりはましだろう。 「そうと決まればさっさと――ん?」 そこに見えたのはブライガーとグルンガスト以外の二体のロボット。 一体は白い翼の機体――そこそこ強力そうな機体ではある。 そしてもう一体は、以前マサキが奪おうとして失敗したプレシアの機体――グランゾン。 遠くからはよく見えないが、三人ほどが機体を降りて何やら話し合いをしているようだ。 「……クォヴレーたちを含めたあの機体の中で、パイロットが乗っていないのは誰だ」 しばらく思案した後、マサキは食料諸々を詰めた自分の荷物だけを持ってエステバリスへと乗り移った。 解析装置は惜しいが、これから実行する作戦で重荷になっては元も子もない。 クォヴレーとイキマ、他のユーゼス打倒を目指す連中がうまく使ってくれることを祈るのみだ。 「せいぜい有効に利用してほしいものだがな……」 独白してエステバリスをゆっくりと歩行させる。 四つの機体が集まる場所へ近づいていくと、グルンガストだけが向き直った。 「……おいガルド、どうした?」 イキマが通信で問いかけてきたが無視する。 残りの三体は動かない。 つまり今そこに降りて話し合っているのが、その三体のパイロットというわけだ。 「その機体、もらったぞ……!」 マサキの口の端が吊り上り、少年の顔に釣り合わない邪悪な笑みを浮かべた。    * ――遠い昔どこから来たの ――遠い未来にどこへ行くの ――知らないまま投げ出され気付くときに時は終わるの 「――と、いうわけだ。リュウセイ・ダテはE-2で君達を待っている。  私は元々G-6に向かうつもりだったが、そのことを君達に伝えてくれと、通りすがりに頼まれた」 「……分かった。これから迎えにいこう。で……お前達はどうするんだ?」 「G-6で改めて首輪の解析がしたいと思っていたんだが……その必要も無いようだな」 ラミアはクォヴレーとシロッコの会話を聞きながら、これからの行動について思案していた。 予想通り、シロッコのおかげでクォヴレーらと接触することには成功した。 自分がユーゼスを裏切るつもりであることや、自分しか知りえない様々な情報を提供するつもりであること。 クォヴレーは完全に信用してはいないようだが、その程度は承知の上だ。 話をする場が設けられたことだけでも上出来といえる。 シロッコには前もって、リュウセイが瀕死の重症を負っていることは伏せるよう言っておいた。 奴等の様な人種に仲間の死を告げなければならないだけでも面倒なのだ。 刺激するような要素はできる限り、取り除く。 後で幾らか落ち着いてからでも話せばよい。 そしてこいつらの間に疑心暗鬼を振りまき、殺し合いを煽る。 できれば機を見て木原マサキの解析装置を何とかしたいところだが――。 突如、なにかの振動を感じ、ラミアは思考をそこで中断して振り返る。 地を揺らす衝撃、そして機械の駆動音。 一体の、比較的小さめのロボットがこちらにゆっくりと歩いてきた。 「……ガルド?」 クォヴレーが訝しげに眉根を寄せる。 エステバリス改――ガルド・ゴア・ボーマンが搭乗しているはずだ。 会話に加わりたいのか?だがならば何故今更? ラミアがそう考えていると――いきなり空気が大きく震え、轟音が響く。 そしてエステバリスはラミアたちの頭上を越えてジャンプすると、グランゾンのすぐ目の前に着地。 コックピットのハッチが開いて、そこから現れたのはゼントラーディの血を引くという巨漢ではなく、十代の少年――。 「……木原マサキッッ!!」 ラミアはそう叫ぶやいなや、ラーゼフォンに向かって走り出した。 グランゾンに乗り移ったマサキの外部スピーカーからの声が聞こえる。 「この機体はいただいていく!解析装置は貴様等にくれてやるから、せいぜいユーゼスを倒す為にせいぜい足掻くがいい!! ――ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 グランゾンが、忌まわしき魔神が空へと昇っていく。 首輪を外した木原マサキと、特異点であるグランゾン。 ――考えうる限り最悪の組み合わせだ! 「ラァ――――ゼフォォォォォォォォン!!!!」 ラミアの叫びに答えるように白い神像から光が差し込む。 その光に身を包まれてラーゼフォンへと乗り込んだラミアは、魔神を追うべく空を睨む。 「私は奴を追う!あの男は――危険だ!」 「俺も行くぞ!クォヴレーはガルドと一緒にその男を見張っていろ!」 イキマがグルンガストを飛行形態に変形させてラミアに続く。 クォヴレーが何か叫んでいるが聞き取れはしない。 そして鋼の魔神たちが踊るその大空に、軽快な音楽が鳴り響いた。 ――崖っぷちに立たされた時 ――苦難が僕の腕を掴み ――自分自身のありかが初めて見えたんだ ――もっと広いフィールドへもっと深い大きな何処かへ ――予測もつかない世界へ向かっていくだけ ――僕は僕のことが知りたい 【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)  パイロット状態:精神不安定。ユーゼス及びマーダーに対し憎悪。マサキを警戒。  機体状況:良好。ブライカノン装着。  現在位置:G-6  第一行動方針:E-5でシロッコを見張る。  第二行動指針:E-2へ向かい、リュウセイとマイを迎えにいく  第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す。ただし今後遭遇した相手には十分な警戒を持ってあたる。  第四行動方針:マーダー(特にトウマ殺害犯)に対しては一切容赦しない。  第五行動指針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)  最終行動方針:ユーゼスを倒す。これ以上、仲間を絶対に失わせない。  備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障  備考2:ブライシンクロンのタイムリミット、あと11時間前後  備考3:ブライスター及びブライガーは最高マッハ25で飛行可能。      ただしマッハ5以上で首輪に警告メッセージ。30秒後に爆発。スピードを落とせば元に戻ります】 【イキマ 搭乗機体:ウイングガスト(バンプレストオリジナル)  パイロット状況:強い決意。戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。マサキを警戒。  機体状況:小破、メインカメラ破損。コックピットの血は宗介のものです。  現在位置:E-5(南西へ移動中)  第一行動方針:ラミアと共にマサキを追う。マサキよりラミアを見張ることを重視。  第二行動方針:トウマに代わり、クォヴレーを支える  第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す  最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】 【反逆の牙組・共通思考】 ○剣鉄也、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒 ○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測 ○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測 ○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測 ○空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測 ○C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測 ○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識 ○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE-5橋付近 【エステバリス・C(劇場版ナデシコ) 】  パイロット状態:なし  現在位置:E-5  機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り。左腕欠損。 【レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)  パイロット状態:なし  現在位置:E-5  機体状態:左腕断裂。背面部スラスター大破。背面装甲にさらなるダメージ。       機体は機能停止中だがいつでも再起動可能。       コックピットにガルドの死体、解析装置あり。 【木原マサキ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)  機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常。照準のズレ大。右腕に損傷、左足の動きが悪い  パイロット状態:疲労、睡眠不足 、一時的な興奮状態、胸部と左腕打撲 、右腕出血(操縦には支障なし)  現在位置:E-5 (南西方面へ高速で移動中)  第一行動方針:どこかで休みたい。  第二行動方針:クォヴレーの記憶について考察。  第三行動方針:ユーゼスを欺きつつ、対抗手段を練る  最終行動方針:ユーゼスを殺す  備考:首輪を取り外しました。     首輪3つ保有。首輪100%解析済み。     スパイの存在を認識。ラミアであることは知りません。     イサムとガルドの関係を知りません。クォヴレーの失われた記憶に興味を抱いています。     機体と首輪のGPS機能が念動力によって作動していると知りました】 【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:なし パイロット状況:良好 現在位置:E-5 第1行動方針:どうするべきか……? 第2行動方針:首輪の解析及び解除 第3行動方針:ラミアやクォヴレーと脱出を目指す。できなければ臨機応変に動く。 最終行動方針:主催者の持つ力を得る 補足行動方針:十分な時間と余裕が取れた時、最高級紅茶を試したい(できればラミアと)。 備考:首輪を1つ、トロニウムエンジンを所持。    ラミアに疑念を持っています。    リュウセイのメモを入手。反逆の牙共通思考の情報を知っています。    ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉(1回分)を所持】 【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン) パイロット状態:良好 機体状態:良好 現在位置:E-5(南西へ高速で移動中) 第1行動方針:マサキを追ってグランゾンごと抹殺する。 第2行動方針:ユーゼスを裏切るふりをして、ゲームを進行させる。 第3行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる。ある程度直接的な行動もとる。 最終行動方針:ゲームを進行させる 備考:ユーゼスと通信を行い他の参加者の位置、状況などを把握しました。(三日目4:00時点)    首輪は持ち主の死後も位置が把握できるので、シロッコやマサキがサンプルを所持していることを知っています。    ユーゼスはラミアの裏切りのふりを黙認しています】 【ガルド・ゴア・ボーマン:死亡】 【三日目 6:00】 ---- | 前回| 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ」| 次回| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| 投下順| 第244話「[[放送(第四回)]]」| | 第237話「[[『鍵』]]」| 時系列順| 第244話「[[放送(第四回)]]」| | 前回| 登場人物追跡| 次回| | 第241話「[[追悼]]」| クォヴレー・ゴードン| 第247話「[[草は枯れ、花は散る>草は枯れ、花は散る(1)]]」| | 第241話「[[追悼]]」| イキマ| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第241話「[[追悼]]」| 木原マサキ| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| パプテマス・シロッコ| 第247話「[[草は枯れ、花は散る>草は枯れ、花は散る(1)]]」| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| ラミア・ラヴレス| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第241話「[[追悼]]」| ガルド・ゴア・ボーマン| -| ----
*&color(red){それでも一体この俺に何ができるっていうんだ} ――それでも一体この僕に何ができるっていうんだ。 ――窮屈な箱庭の現実を変えるために何ができるの? 東の空から朝日によって照らされている、巨大な橋。 その南端のたもとで、クォヴレーとイキマの二人は橋が伸びている先を見つめる。 「……五時三十分だ」 「そうか……」 もう幾度かこの会話を繰り返している。 違うのはイキマが報告する現在時刻だけ。 約束の時間を過ぎても、来るはずの仲間たちは一向に姿を見せない。 何かあったのかもしれない。 だが、もう少し待てばきっと来るさ。 リュウセイが力強い笑顔を見せて。 セレーナがふざけた冗談を言いながら。 ジョシュアとエルマが仕方ないなという感じでそれをたしなめて。 リョウトだって機体のトラブルか何かで来れなかっただけで、あちらの誰かに運んでもらっているかもしれない。 ガルドの言っていたチーフが合流していればいうことはなしだ。 ……そんなものが希望的観測でしかないことは、クォヴレー自身がよく分かっている。 誰かが欠けていたっておかしくはない――トウマのように。 それでも、それでもまだ、せめてあと三十分後の死の宣告までは。 「木原マサキのことは……あれでいいのか?」 突然、イキマが別の話題を振ってきた。 あの男は今、行動不能になった自分の機体のなかで、首輪の更なる解析作業に入っている。 ただ首輪を外すだけでなく、ユーゼスを欺く策のためだと言う。 ――五時を十分ほど過ぎてからのことだ。 マサキやガルドも交えた話し合いで、リュウセイたちを待つためにここにしばらく留まることは、割とすんなり決定した。 六時になれば、どうなったにしろ放送で死者がはっきりする。 仲間を探しにいくにしても、そうでないにしても、動くのはそれからだ。 あまり考えたくはないが彼らが死んだのなら、自分たちはその分の作業もこなさなくてはならない。 冷酷なようだが生きているならともかく、死人をわざわざ探しにいく余裕はどこにもないのだ。 だがそれはいいとしても、そこで問題が起こった。 ガルドがマサキに「ならば今のうちに首輪を外せ」と詰め寄ったのだ。 確かに、外せるものならさっさと外してしまうに越したことはない。 マサキが保身の為に勿体をつけているのだとしても、こちらにはそれを許す理由はないのだ。 するとあの男は人を苛つかせるあの笑みを浮かべて、盗聴を避けるための筆談でこう反論した。 『能天気な奴等だ。俺達だけが外したところで、ユーゼスが何かの気まぐれか何かで、貴様等の仲間を爆破したらどうする?』 これだけでは全く意味が分からなかった。 マサキが首輪を外しても、そしてユーゼスがそれを知っても、俺達の首が飛ぶことはなかったからだ。 ガルドも同じ考えに至ったらしく、そのように反論する。 『あくまでわずかな可能性としてだがな。あの男ならありえるとは思わんか?  貴様等がその賭けに、無駄に仲間の命を投げ込む気なら、俺は構わんがな』 ……奴が自分のことしか考えていないことは充分に分かっている。 だがこの男のいうとおり、可能性が低くともそのようなことに仲間の命は賭けられない。 つまり合流後、まとめて外したほうがいい。 そういうことなのだろう。 『まだ不十分だ。機体にも監視装置及び自爆装置が仕掛けられている可能性がある。  首輪を外してもユーゼスが余裕でいられるのも、これなら納得できる。  だがこれを外せれば、奴の目からひとまず逃れることが可能だ』 ――できるのか!? もし可能ならば、ユーゼスの寝首を掻くことができるかもしれない。 もちろん他にもやるべきことはあるだろうが――奴に行動の一挙一動を把握されたままでは、万に一つもそれは不可能だ。 『放送前までに解析して、できるかどうかくらいは分かる。他の奴等が来るまで貴様等は見張りでもしていろ』 ……結局、奴の言うとおりにすることになった。 今はガルドがマサキの機体を見張り、自分たちは橋の付近で見張りをしつつ、 仲間たちを待っている。 「……今はあれでいい。その後でまだごねるようなら容赦をする気はないが」 「……そうか」 ――そして時計は五時四十五分。 「クォヴレー、レーダーに二機!」 「あいつらか?いや――北じゃない、南だと!?」 リュウセイたちが来るのなら方角は逆のはずだ。 ならば別の連中か――敵か。 「イキマと俺で前に出る!ガルドはマサキをガードしろ!」    * ――ヒトは歩き続けて行く ――ただ生きていく為に ――不完全なデータを塗り替えながら進む クォヴレーとイキマが橋の向こうを睨む。 そこからやや離れた後方、自分を監視するガルドのエステバリスを傍らに置いて、自立行動不能のレイズナーは座り込むような体勢で待機。 木原マサキはそのレイズナーのコックピットの中で、解析装置の画面を睨みつつキーボードを叩く。 とりあえず首輪の解除を引き伸ばすことには成功した。 脱出のチャンスがまだ見えない以上、うかつに命綱を手放す真似は避けたい。 そしてユーゼスを欺く必要があるのもまた事実だ。 「さて……始めるか」 この広大なキリングフィールドにおいて、性能の差こそあれ支給されたロボットは必要不可欠だ。 だからこそ、そこに仕掛ければ絶大な意味を持つだろう。 そしてそれを調査するには、今のレイズナーは絶好のサンプルだ。 「……解析装置でレイをハッキング、レイズナーの機体構造を把握……よし……」 次々とスクロールするディスプレイのデータに目を走らせ、目にもとまらぬ速さでキーボードを叩き続ける。 「……エンジン付近に妙なものがあるな……爆弾ではない?……首輪のセンサーと同じ発信装置のようなものか」 首輪を解除する際、マサキにはひとつ引っかかることがあった。 それはこの生体反応センサーだ。 解除コードで機能は停止したものの、このレーダーが碌に利かないエリアでユーゼスだけは、首輪の盗聴や爆破をコントロールできる。 ということは、一体どんな原理で送受信を行っているのか? 「……ゲマトリア……カバラの数魔術か?念動力……人の念……」 ゼオライマー製造の為にマサキはあらゆる研究、科学とは無縁とも言える分野も調査した。 だがそんな彼にもこんなオカルトじみたものが、ここまでの性能を発揮しているとは信じ難かったのだ。 「……まあいい。つまりこの念動力でユーゼスは俺達の動きを把握している……。  ならば解析装置からレイを通じてコードを送信、機能を停止させる」 結果として、それは成功した。 あまりにもあっさりと。 ――妙だ。 この解析装置に内蔵されていたメッセージから、ユーゼスがどのような性格かは見て取れる。 必要最低限の種を蒔き、それによって人の運命を狂わせ……そんな哀れなピエロ達を利用し尽くす。 全てを見下し、嘲笑いながら己の目的を遂行する。 「ならばこれは本命ではない。おそらくダミーだ……ちっ」 マサキはシートに寄りかかり、大きく伸びをした。 突然、睡魔が襲い掛かる。 そろそろまた限界が来たようだ。 だが眠るには早い。まだ自分がやるべきことは残っている。 ――信じられるのは己のみ。 ――他の屑どもなど利用するか、そうでなければ存在する価値すらないゴミだ。 気を取り直し、今度は自分の荷物からサンプルの首輪を取り出した。 工具を使って分解し、内部コードに繋がれたままの生命反応センサーをずるりと引き出す。 そして解除したときとは逆に、今度は起動のためのコードを送信する。 すると首輪は一瞬だけ起動した。 だがすぐにそれは停止する。 センサーを自分の手で握り締めて、再び起動する。 今度は成功した。 しかし握った手を離せば、またすぐに停止することだろう。 そして手を離すと、案の定そのとおりになった。 これだけではユーゼスを騙すことはできない。 何か――何か他にも手は――。 「……ふん」 一旦、仕切り直しだ。 リラックスするために大きく息をつく。 その瞬間――視界がぼやけた。 意識が揺れる。 一気に頭が重くなる。 丸二日を過ぎてほぼ不眠不休。 この状態で数々の激闘や権謀術数の場をくぐり、マサキの体力はもはや限界に近かった。 ――まずい。 そう思い、何とか脳を覚醒させようとする間もなく、マサキの意識はあっという間に闇へと堕ちた。    * ――教えて"強さ"の定義 ――自分貫くことかな ――それとも自分捨ててまで守るべきもの守る事ですか 「イキマと俺で前に出る!ガルドはマサキをガードしろ!」 南から接近する謎の二機にクォヴレーたちが向かっていく。 目視できる距離までその二機が接近してくる。 ガルドにはその二機に見覚えがあった。 白い天使を連想させるその機体は、間違いなくユーゼスの手の者と思われる、あの機体だった。 そしてもう一方の青い機体は――見紛うはずもない、今は亡きプレシアに支給されたグランゾン。 「クォヴレー、イキマ!あの機体は――」 「……分かっている。任せろ」 クォヴレーの覚悟を覗かせる低い声を聞きながらも、ガルドは己の無力を呪い唇を噛む。 だがそんなことをしている暇はない。 すぐにマサキを連れて退避しなければ。せめて足手まといになってはならない。 その時だ。オープン回線から信じ難い声で、信じ難い発言が聞こえた。 「こちらラミア・ラヴレス。お前達に話がある、攻撃はしないで欲しい」 一瞬の沈黙。 そしてクォヴレーから放たれる寒気のするような声。 「……何のつもりだ。今までの罪を悔やんで償いたいというなら、今すぐ俺が地獄へ送ってやる。  そこで思う存分、懺悔するがいい」 「――待て、落ち着いて話を聞いてくれ。私はパプテマス・シロッコという。  リュウセイ・ダテからメッセージを預かっている。攻撃はしないでくれ。  機体を降りて話をしよう。勿論、私たちが先に降りる」 ――結局、あのラミア、シロッコと名乗る二人組と交渉の場を設けることになった。 ガルドはマサキの機体の傍で、やや遠間の距離から交渉を観察していた。 まず、ラミアと名乗る女が姿を見せる。 そして次にクォヴレー、それからシロッコと名乗る男。 イキマは機体に乗ったままで、この二人がおかしな真似をすればすぐに対処できるよう、警戒態勢をとっている。 何やら筆談がメインらしく、つまり通信で聞かれてはまずい内容。 そのためガルドやマサキには概要を掴むことすらできない。 そこでふと疑問が浮かんだ。 「貴様も交渉に参加したいんじゃないのか、マサキ?」 この男の性格ならまず間違いなく首を突っ込んでくるはずだ。 自分しか信用しないと言うことは、他人に大事な仕事を任せられないということ。 あのラミアと交渉するという重要局面で、今まで大人しいことがガルドには不思議だった。 通信からは沈黙しか返ってこない。 「……マサキ?」 レイズナーは座り込むような体勢で待機している。 そのためガルドの位置からだと上から覗き込むように、半透明のキャノピー越しにマサキを直視できる。 声をかけてもうつむいたままで反応しない。 また先刻のように眠っているのか。よっぽど寝不足だったらしい。 しかも呼びかけても反応しないところをみると、それは相当なもののようだ。 ――よほどのことがない限り、起きないくらいに。 「ガルド、マサキがどうかしたのか」 通信を聞いたイキマが問いかけてくる。 「――いや、眠っているだけのようだ。起こしても面倒になるだけだろう」 「……そうか、そうだな」 それだけで会話を終わらせ、通信を切ってから、ガルドはエステバリスのハッチを開けた。 そして静かに、レイズナーの頭部へ飛び移るように着地して、外部からキャノピーを開けるためのスイッチを探す。 最深鋭の戦闘機のテストパイロットであり、技術主任の肩書きを持つガルドには、それがあるという確信があった。 パイロットが意識を失った場合に外部から救出するためのことを考えて、それは必ず付いているはずなのだ。 ――あった。 そしてキャノピーが開いた。 目の前で一人の少年がくぅくぅと寝息を立てている。 だが無垢な少年に見えるこの男は、プレシアを殺して、そしてイサムを殺して生き延びた。 イサムの件に関して証拠はないが、そんなことはどうでもいい。 この男ならやりかねない――いや、間違いなくやる。 この男はプレシアを殺したのだ。 極めて利己的な理由で。 イサムの遺体を発見した時、ガルドは心に決めた。 木原マサキをこの手で殺す。 必ず殺す。 命に代えても殺す。 この男は生きていてはいけない男だ。 だから殺す。 その為だけに俺はまだ生きている。 そして――――その男が今、目の前で無防備な姿を晒している。 今なら解析装置を無傷で手に入れることができる。 やるならば今しかない。 いや、もはや何も、一切合切全て関係無い。 殺すと決めた人間が目の前にいる。 そして間違いなく殺せる状況。 ならば殺すしかないだろう。 動機も常識も良心もすでに彼岸へ消えて失せた。 ――もはや殺すしかないのだ!! 俺はコックピットの中へ一歩踏み出そうと――、 「ん………………ガルド?……っつ!」 気付いたか。 だが変わりは無い。何も変わりは無い。 真正面に立つ俺から逃げるために横から外へ出ようとする。 逃がさない。 後一歩。 後一歩でレイズナーから飛び降りることができる、コックピットの淵に足を掛けたその場所で。 ――俺は貴様を捕まえた。 「ぐ……あっ……」 醜い声だ。蛙を二、三匹まとめて潰した様な。 だがそれももう聞かずに済む。 その細い首をこの腕でへし折るだけだ。 絶対にこの腕は離さない。 俺の腕をいくら引っ掻こうとも無駄だ。 「は…………ぁ……」 目玉がひっくり返る。 顔面中に血管が浮いて、紫色のメロンのようだ。 死ね。 そのまま死ね。 そして――――、 「あの世でイサムに……お前が殺した人間に詫び続けろ……木原……マサキィィィィ……!」 最後だ――そう思った瞬間に顎に衝撃が走った。 二人の声は同時だった。 「が……っ!」 「げほっ……!がはあっ……がっあがっ……!」 ガルドは体勢を崩してレイズナーから危うく落下するところだったのを、必死でコックピットの淵にしがみついて防いでいる。 マサキは嘔吐にも似た声を出しながらも、悲鳴を上げ続けた肺に空気を送るだけで精一杯だ。 ――それははっきりいって偶然といっていい。 最後の最後での悪足掻き。 マサキがろくに目も見えず振り上げた足が、ガルドの顎にまともにヒットした。 ガルドは不安定な足場に立っていたことで、足を滑らせ落下しかけた。 そしてマサキから手を離した。 ガルドの足場が不安定でなかったら。 マサキの足が最高のタイミングでガルドの顎にクリーンヒットしなければ。 どちらの要素が欠けてもこうはならなかったろう。 「の……がさん!」 「ぐあっ……!」 ガルドが這い上がるのと、マサキが回復するのはほぼ同時だった。 ガルドの横から逃げようとするマサキの胸板に、右フックを叩きつけてコックピットの中へ押し込んだ。 パイロットシートに強烈な勢いで叩きつけられたマサキが呻いた。 それでも懸命に横へ逃れようとする。 だが、そこに覆いかぶさるようにガルドが乗り込んだ。 「今度こそ――殺してやる!」    * ――サバンナのガゼルが土煙を上げる ――風ん中あいつらは死ぬまで立ち続けなければいけないのさ ガルドが殺気をむき出しにしてマサキに迫る。 まともにぶつかれば体格差は圧倒的。 ついさっきまで首を絞められて、いや折られかけていた自分自身の身体がそれを思い知っている。 格闘技が何故、階級別に分かれているのか――その理由がよくわかる。 ならばそれを補う策が木原マサキには必要だ。 目的は解析装置に繋いだ首輪だった。 先程の分解で露出したセンサーを握り締め、その状態で首輪を起動させる。 すると、どうなるのか。 マサキが自分の首輪を解除した時点で、レイズナーのパイロットは存在しないことになる。 この時点では誰がレイズナーに乗っても問題はない。 だがマサキが首輪を起動させれば話は違ってくる。 この時点でマサキ以外の人間がシートに座れば、その人間の首輪が乗り換えルールによって爆発する。 ――マサキはそれを狙った。 シートに座るような体勢になったマサキに、馬乗りになる格好でガルドが覆いかぶさる。 そして上から振り上げた拳を容赦なく叩き込む。 首輪を持っていない方の左腕で、かろうじてガードするマサキ。 その腕は折れたかと思えるほどに軋み、しかも結局は拳の威力を殺しきれなかった。 貫通した衝撃が頭部を揺らして、マサキの意識がコンマ一秒ほど失われる。 「ぐ……!」 その隙にガルドの右腕が、ガードの隙間から首へと滑り込む。 あっという間にさっきの絶体絶命の状況が再現された。 しかも今度は上からのしかかられて、蹴りすらも出せない。 分かっていた。 当たり前だ。 大人と子供が素手でまともに戦えば、こうなることは火を見るより明らか。 だがそんなことはマサキには問題ではなかった。 ――何故、首輪が爆発しない!? マサキの作戦どおりなら、ガルドはとっくに爆死しているはずだ。 だがマサキは読み違えていた。 ユーゼスは『生きている者の機体を乗り換えれば爆発する』と言ったが、それは正確ではない。 『乗り換えて、操縦しようとすれば爆発する』と言ったほうが正しい。 だからこの場合は、操縦しようとして操縦桿やスイッチに触れない限り、爆発はしない。 何よりもマサキ殺害を優先する今のガルドに、そんなことをする理由はない。 (ユーゼス……嘘か……?……俺はこんな……クズに……) 脳に血液が届かなくなり薄れゆく意識の中で、マサキは己が死に近づいていくのを自覚する。 だがそれと同時に、マサキの意識のなかで猛烈な怒りの感情が沸き起こった。 「この冥王が……ふざ…………けるなぁぁああああぁぁぁぁああああ!!!!」 最後の力を振り絞って右腕を振り回した。 だが、首を締め上げられた体勢では、まともな打撃が打てるわけがない。 それでなくとも、ガルドとマサキでは腕のリーチの差がありすぎる。 その差を埋めるものがマサキには――あった。 マサキの右手に握り締められていた首輪のセンサー。 そこから伸びる露出したコード。 その先に繋がった爆弾内蔵の首輪。 振り上げたマサキの拳は、ガルドの顔面の30cmほど手前までしか届かない。 だがそこで手首のスナップを利かせると、その動きが回転の遠心力を生んで、拳から伸びるコードを伝わる。 そしてその先に存在する首輪の本体に、マサキの腕の振りとコードの遠心力が合わさったスピードが加わる。 そのまま首輪が、がつっという音を立ててガルドのこめかみに激突した。 ぱあん。 ――やった。 至近距離ゆえにやたらと耳に響く爆発音と衝撃。 その音を聞きながらマサキは勝利を確信した。 爆発しないのなら、強い衝撃を与えることで無理矢理爆発させてしまえばいい。 爆発に近距離で巻き込まれた右手に痛みが走ったが、どうやら火傷と多少の出血だけで済んだようだ。 「親指動く……小指、人差し指動くっ……よし、操縦に支障はない……!」 首輪には装着者の首を吹き飛ばすために、リングの内側への指向性の爆弾が内蔵されている。 そのため、外側へのダメージはさほどでもないのだ。 もっとも、いくらマサキといえど死の淵に追い詰められた状態でそこまで考えたわけではなかったが。 ガルドを見上げる。 そこには爆発の直撃によって顔の半分の皮膚と、片方の眼球が吹き飛んだ無残な姿があった。 顔面の半分もの面積にわたって骨が露出しているその姿は、一般人には正視に耐えないグロテスクなものだった。 「お……あが……」 爆発のショックでビクビクと痙攣しているガルドを見て、マサキは残忍な笑みを浮かべた。 すでに力が入っていないガルドの腕を振りほどき、マサキは首輪の分解に使ったドライバーを掴む。 「貴様のような無様なクズが……この俺に歯向かった罪は重いぞ……!」 襟首を掴んで頭部を引き寄せ、そして骨が露出した耳の穴にドライバーを根元まで差し込んだ。 「貴様は――屠殺場の豚のように死ぬのだ」 そしてかき回す。 めり、みぢっ、ぐちゅ――内耳をかき回す感触。 さらにかき回す。 みぎっ、ばり、ばきん――耳の穴の骨が割れる音。 そしてドライバーを引き抜いた時、ガルドはもはやぴくりとも動いていなかった。 それから数分たった後、木原マサキは血まみれの顔を拭こうともせずに、ただひたすら肺に空気を送りこんでいる。 「……はあっ……はっ……はあっ…………ぐうううっ」 ほんの少し回復したものの、まだ疲労の極致にある肉体に鞭打って、自分にのしかかるガルドの体を脇に押しのける。 よくも生き残れたものだ。マサキ自身、本当にそう思う。 ラッキーだった、というより差し引きゼロと言うのがふさわしい。 いや、マイナスのほうが多いかもしれない 屑どもに足を引っ張られ続けたあげくがこの死に様では、冗談抜きで死んでも死に切れないというものだ。 「通信は……切れているな。あいつらはまだ気付いていない」 奴等が気付いて止めに来てさえいれば――と心の中で毒づいてから思い直す。 ガルドを殺してしまったからには、もうここにはいられない。 離脱するのには気付かれていない方が都合がいいというわけだ。 奪う機体が非力なエステバリスというのが問題だが、飛べないレイズナーよりはましだろう。 「そうと決まればさっさと――ん?」 そこに見えたのはブライガーとグルンガスト以外の二体のロボット。 一体は白い翼の機体――そこそこ強力そうな機体ではある。 そしてもう一体は、以前マサキが奪おうとして失敗したプレシアの機体――グランゾン。 遠くからはよく見えないが、三人ほどが機体を降りて何やら話し合いをしているようだ。 「……クォヴレーたちを含めたあの機体の中で、パイロットが乗っていないのは誰だ」 しばらく思案した後、マサキは食料諸々を詰めた自分の荷物だけを持ってエステバリスへと乗り移った。 解析装置は惜しいが、これから実行する作戦で重荷になっては元も子もない。 クォヴレーとイキマ、他のユーゼス打倒を目指す連中がうまく使ってくれることを祈るのみだ。 「せいぜい有効に利用してほしいものだがな……」 独白してエステバリスをゆっくりと歩行させる。 四つの機体が集まる場所へ近づいていくと、グルンガストだけが向き直った。 「……おいガルド、どうした?」 イキマが通信で問いかけてきたが無視する。 残りの三体は動かない。 つまり今そこに降りて話し合っているのが、その三体のパイロットというわけだ。 「その機体、もらったぞ……!」 マサキの口の端が吊り上り、少年の顔に釣り合わない邪悪な笑みを浮かべた。    * ――遠い昔どこから来たの ――遠い未来にどこへ行くの ――知らないまま投げ出され気付くときに時は終わるの 「――と、いうわけだ。リュウセイ・ダテはE-2で君達を待っている。  私は元々G-6に向かうつもりだったが、そのことを君達に伝えてくれと、通りすがりに頼まれた」 「……分かった。これから迎えにいこう。で……お前達はどうするんだ?」 「G-6で改めて首輪の解析がしたいと思っていたんだが……その必要も無いようだな」 ラミアはクォヴレーとシロッコの会話を聞きながら、これからの行動について思案していた。 予想通り、シロッコのおかげでクォヴレーらと接触することには成功した。 自分がユーゼスを裏切るつもりであることや、自分しか知りえない様々な情報を提供するつもりであること。 クォヴレーは完全に信用してはいないようだが、その程度は承知の上だ。 話をする場が設けられたことだけでも上出来といえる。 シロッコには前もって、リュウセイが瀕死の重症を負っていることは伏せるよう言っておいた。 奴等の様な人種に仲間の死を告げなければならないだけでも面倒なのだ。 刺激するような要素はできる限り、取り除く。 後で幾らか落ち着いてからでも話せばよい。 そしてこいつらの間に疑心暗鬼を振りまき、殺し合いを煽る。 できれば機を見て木原マサキの解析装置を何とかしたいところだが――。 突如、なにかの振動を感じ、ラミアは思考をそこで中断して振り返る。 地を揺らす衝撃、そして機械の駆動音。 一体の、比較的小さめのロボットがこちらにゆっくりと歩いてきた。 「……ガルド?」 クォヴレーが訝しげに眉根を寄せる。 エステバリス改――ガルド・ゴア・ボーマンが搭乗しているはずだ。 会話に加わりたいのか?だがならば何故今更? ラミアがそう考えていると――いきなり空気が大きく震え、轟音が響く。 そしてエステバリスはラミアたちの頭上を越えてジャンプすると、グランゾンのすぐ目の前に着地。 コックピットのハッチが開いて、そこから現れたのはゼントラーディの血を引くという巨漢ではなく、十代の少年――。 「……木原マサキッッ!!」 ラミアはそう叫ぶやいなや、ラーゼフォンに向かって走り出した。 グランゾンに乗り移ったマサキの外部スピーカーからの声が聞こえる。 「この機体はいただいていく!解析装置は貴様等にくれてやるから、せいぜいユーゼスを倒す為に足掻くがいい!! ――ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 グランゾンが、忌まわしき魔神が空へと昇っていく。 首輪を外した木原マサキと、特異点であるグランゾン。 ――考えうる限り最悪の組み合わせだ! 「ラァ――――ゼフォォォォォォォォン!!!!」 ラミアの叫びに答えるように白い神像から光が差し込む。 その光に身を包まれてラーゼフォンへと乗り込んだラミアは、魔神を追うべく空を睨む。 「私は奴を追う!あの男は――危険だ!」 「俺も行くぞ!クォヴレーはガルドと一緒にその男を見張っていろ!」 イキマがグルンガストを飛行形態に変形させてラミアに続く。 クォヴレーが何か叫んでいるが聞き取れはしない。 そして鋼の魔神たちが踊るその大空に、軽快な音楽が鳴り響いた。 ――崖っぷちに立たされた時 ――苦難が僕の腕を掴み ――自分自身のありかが初めて見えたんだ ――もっと広いフィールドへもっと深い大きな何処かへ ――予測もつかない世界へ向かっていくだけ ――僕は僕のことが知りたい 【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)  パイロット状態:精神不安定。ユーゼス及びマーダーに対し憎悪。マサキを警戒。  機体状況:良好。ブライカノン装着。  現在位置:G-6  第一行動方針:E-5でシロッコを見張る。  第二行動指針:E-2へ向かい、リュウセイとマイを迎えにいく  第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す。ただし今後遭遇した相手には十分な警戒を持ってあたる。  第四行動方針:マーダー(特にトウマ殺害犯)に対しては一切容赦しない。  第五行動指針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)  最終行動方針:ユーゼスを倒す。これ以上、仲間を絶対に失わせない。  備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障  備考2:ブライシンクロンのタイムリミット、あと11時間前後  備考3:ブライスター及びブライガーは最高マッハ25で飛行可能。      ただしマッハ5以上で首輪に警告メッセージ。30秒後に爆発。スピードを落とせば元に戻ります】 【イキマ 搭乗機体:ウイングガスト(バンプレストオリジナル)  パイロット状況:強い決意。戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。マサキを警戒。  機体状況:小破、メインカメラ破損。コックピットの血は宗介のものです。  現在位置:E-5(南西へ移動中)  第一行動方針:ラミアと共にマサキを追う。マサキよりラミアを見張ることを重視。  第二行動方針:トウマに代わり、クォヴレーを支える  第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す  最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】 【反逆の牙組・共通思考】 ○剣鉄也、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒 ○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測 ○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測 ○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測 ○空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測 ○C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測 ○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識 ○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE-5橋付近 【エステバリス・C(劇場版ナデシコ) 】  パイロット状態:なし  現在位置:E-5  機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り。左腕欠損。 【レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)  パイロット状態:なし  現在位置:E-5  機体状態:左腕断裂。背面部スラスター大破。背面装甲にさらなるダメージ。       機体は機能停止中だがいつでも再起動可能。       コックピットにガルドの死体、解析装置あり。 【木原マサキ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)  機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常。照準のズレ大。右腕に損傷、左足の動きが悪い  パイロット状態:疲労、睡眠不足 、一時的な興奮状態、胸部と左腕打撲 、右腕出血(操縦には支障なし)  現在位置:E-5 (南西方面へ高速で移動中)  第一行動方針:どこかで休みたい。  第二行動方針:クォヴレーの記憶について考察。  第三行動方針:ユーゼスを欺きつつ、対抗手段を練る  最終行動方針:ユーゼスを殺す  備考:首輪を取り外しました。     首輪3つ保有。首輪100%解析済み。     スパイの存在を認識。ラミアであることは知りません。     イサムとガルドの関係を知りません。クォヴレーの失われた記憶に興味を抱いています。     機体と首輪のGPS機能が念動力によって作動していると知りました】 【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:なし パイロット状況:良好 現在位置:E-5 第1行動方針:どうするべきか……? 第2行動方針:首輪の解析及び解除 第3行動方針:ラミアやクォヴレーと脱出を目指す。できなければ臨機応変に動く。 最終行動方針:主催者の持つ力を得る 補足行動方針:十分な時間と余裕が取れた時、最高級紅茶を試したい(できればラミアと)。 備考:首輪を1つ、トロニウムエンジンを所持。    ラミアに疑念を持っています。    リュウセイのメモを入手。反逆の牙共通思考の情報を知っています。    ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉(1回分)を所持】 【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン) パイロット状態:良好 機体状態:良好 現在位置:E-5(南西へ高速で移動中) 第1行動方針:マサキを追ってグランゾンごと抹殺する。 第2行動方針:ユーゼスを裏切るふりをして、ゲームを進行させる。 第3行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる。ある程度直接的な行動もとる。 最終行動方針:ゲームを進行させる 備考:ユーゼスと通信を行い他の参加者の位置、状況などを把握しました。(三日目4:00時点)    首輪は持ち主の死後も位置が把握できるので、シロッコやマサキがサンプルを所持していることを知っています。    ユーゼスはラミアの裏切りのふりを黙認しています】 【ガルド・ゴア・ボーマン:死亡】 【三日目 6:00】 ---- | 前回| 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ」| 次回| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| 投下順| 第244話「[[放送(第四回)]]」| | 第237話「[[『鍵』]]」| 時系列順| 第244話「[[放送(第四回)]]」| | 前回| 登場人物追跡| 次回| | 第241話「[[追悼]]」| クォヴレー・ゴードン| 第247話「[[草は枯れ、花は散る>草は枯れ、花は散る(1)]]」| | 第241話「[[追悼]]」| イキマ| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第241話「[[追悼]]」| 木原マサキ| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| パプテマス・シロッコ| 第247話「[[草は枯れ、花は散る>草は枯れ、花は散る(1)]]」| | 第242話「[[ライアーゲーム]]」| ラミア・ラヴレス| 第246話「[[超重次元戦奏曲]]」| | 第241話「[[追悼]]」| ガルド・ゴア・ボーマン| -| ----

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