「今の世のサイダーはうまいのう。みんなにも飲ませてやりたかったのう」
 粗野にも思える少年が路上で炭酸飲料を飲んでいた。ボロボロの学生帽に、まくられた腕。冬だと言うのに、路上に腰を下ろして気にも留めない。
 まばらに路上を通る人はいぶかしむが、やはり少年はその視線を気にするでなく、サイダーを飲んでいる。
 いたたまれないのは、少年のマスターとも言える男の方だった。

 ある種の助手とも言える、ある見知った女性のバックアップも得られず、この少年……サーヴァント、サバイバーとただふたりで怪しげな異界とも呼べるこの東京を戦い抜かなくてはならない。
 しかも、召喚して以来このサーヴァントは一切の命令を聞かないのだ。おかげで主従そろって住所不定の無職に近い立場と来た。
 準備もおじゃんで、足並みもそろわない。

 だいたいが自分は第四次聖杯戦争に居たはずだ。
 それがなぜこんな意味不明な場所に呼ばれ、こうも凄まじいサーヴァントを相棒とせねばならないのか。
 衛宮切嗣は少年に戸惑いの目を向けた。本来なら怒鳴ってやりたいところだが、このサーヴァントが相手ではそうもいかなかった。

 だが、手札がこの少年である以上、彼は目的のために聖杯戦争を遂行せねばならない。サイダーの瓶を逆さにして、底からしずくを一滴も逃さんとしているサーヴァントに向かい、切嗣は命じた。いや……命じようとして、口を開いた。
「サ、サバイバー」
 その声はどこか上ずっていた。
「僕たちもやるべきことをやらなくてはならない」
「ほうか」
 サバイバーの視線に射すくめられ、切嗣は言葉に詰まる。
「戦争か」
「あ……ああ」
「戦争か。アホなことしちょるのぅ……戦争なんぞ、ワシは許せん」
 衛宮切嗣はそのセリフに返す言葉を持たない。そのフレーズ自体は、単体なら同意すらできる。

 ただ生き延びた者。生き抜いただけの者。間違いなく聖杯戦争におけるサーヴァントとしては「ハズレ」に該当する。
 しかし、どのような華美な英霊、最強の英雄よりも、このみすぼらしい学生帽を被った禿頭の少年こそが、切嗣にとっては畏怖に値する存在だった。
 その名は元。中岡、元。

「人の住む土地で戦争ごっこするばかたれどもがっ!!! こんなことしとる暇があるかっ!」
 まだ成人にもならん若者だと言うのに、その言葉にはおそろしい凄みがあった。
 完全なる一般人でありながら、核攻撃から生き延びた経験者。
 この少年に自分が戦争の醜さを吐き捨てるなどと、釈迦に説法であろう。

「だが……この世界は恐らく魔術的に作られた異空間で、周囲の人間も偽の」
「なにがマジュツじゃっシゴウたるぞっ」
 一喝される。微妙に耳慣れない広島弁が切嗣からすると余計に困惑するものがあった。だが、自分とて聖杯戦争に賭けているのだ。退くわけにはいかない。
「しかし、聖杯さえあれば世界が平和に……戦争を根絶することも不可能では」
 同じく戦乱の被害者と言う属性を持つ相手からか、咄嗟に切嗣の目的が口に出た。決して嘘やごまかしではない、必死で追い求める目的が。
 が、その言葉もサバイバーにとってはただの妄言と変わりない。

「こんな胡散臭い場所でしょうもない人殺しをやって世界が平和になるかっばかたれっ、とんでもないインチキにすがるなっ! 戦争が終わった頃にはのう、突拍子もないものに頼る人間なんぞ山ほど見てきた。それを利用してだます人間も山ほどおったわ!!」

 根拠は無いが、しかし何か核心を突いたような言葉だった。
 張り詰めたように間が空く。ちょうど路上に人は居ないタイミングだったが、居たところで重苦しい空気にショックで棒立ちとなっていただろう。
 ひとしきり怒鳴って落ち着いたのか、元もいくらか声のトーンを落とす。
「わしだけがつらかったとは言わんけぇの」
 それは、断片的に感じられた切嗣の過去を鑑みた言葉であろう。

「難しいことはわからんが、おどれにもつらいことがあったこと程度はわかる。じゃがのう、つらいことがあればすがった怪しいものが本物になるんかのう。何をやってもつらかったから上手くいくと。ザンコクなことをすれば結果がついてくると。そんなに世の中っちゅうもんは甘かったかのう?」
 主従のお互いが理屈を知っているわけではないが。それは例えるのならコンコルド効果にも似たものではないかと言う大意は切嗣にもわかった。今さら退けぬということが、本当に意味ある行動であるという理由になるのかと。

「じゃあ……今さら、どうしろというんだ」
「決まっとるわい」
 切嗣の質問に対し、中岡元は立ち上がって言い放った。
「こんな戦争に乗るばかたれ共はみんな下駄でひっぱたいたるわいっ! 行くぞっキリツグッ!」
 そう言って風を切って歩く元に対し、令呪を使おうかと思い……切嗣は、止めて後ろをとぼとぼと付いていった。
 あの半生を送った立場で、それでもなお己の矜持を貫いて最後まで生き抜いた者を、止められるわけがないのだから。

 衛宮切嗣は堂々と歩いていくサバイバーの背を見て呟く。
「ゲン。君だって戦争によるおぞましい光景は山ほど見たはずだ。己の無力さを知り、友も、恋する人も、家族すら犠牲になったはずだ。なんで、なんでそれでも君は」
 そんなに強く生きられるんだ。
【クラス】
 サバイバー
【真名】
 中岡元@はだしのゲン
【パラメータ】
筋力D 耐久E++++ 敏捷C 魔力E 幸運EX 宝具EX
【クラス別スキル】
生存続行:EX
 戦闘続行の亜種。異能や頑強さとも違ういかなる場合でも生き抜くという生存能力、適応能力。

【保有スキル】
喧嘩殺法:B
 乱戦、脅し、ブラフ、なんでもありの野生の戦闘技術。

【宝具】
『麦のように強く』
 ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:- 最大補足:-
 サバイバーが託された願い、生きたいという無念、貫いてきた意志の半生が宝具となった結晶。
 生きようとする意志がある限りサバイバーはいかなる環境、戦局においても生き抜き、令呪であろうとその一切の意志を縛られることはない。運命と戦乱に抗う生の宝具。
 この宝具によりサバイバーの幸運は高い低いではなく評価のしようがないためEXとなっている。

【人物背景】
 原爆を投下された広島在住の少年。家族を失い、生きるためにあらゆる手段に走り友を得て、恋を知り、そしてまた失いながらも自立しただの人として生き抜いていった。
【サーヴァントとしての願い】
 なにが聖杯戦争じゃっおどれらチンポさかむけにしたるぞ!!

【マスター】
 衛宮切嗣@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
 世界平和。
【能力・技能】
 高い暗殺能力。起源を暴走させ相手の魔術回路をショートさせる起源弾。
【人物背景】
 幼少時に父の魔術的実験の事故で住んでいた島が全滅した過去を持つ。その直後、魔術師の父を殺害。
 別の女性の元で育つが、その育ての親とも言える女性が乗った飛行機を広域汚染を防ぐため爆殺する。
 そして戦地に魔術使いの殺し屋として介入し続け魔術師殺しとしての異名が定着するも、第四次聖杯戦争に際し聖杯戦争の製作者、アインツベルンの一族にその殺しの腕を依頼され、聖杯の力による恒久的世界平和をもたらすため了承し参加。
 表向きは妻となったアインツベルンの女性アイリスフィールを唯一無二のマスターと見せかけ、自身は本当のマスターとして己のサーヴァントであるセイバーの意見を無視し続け暗躍する。
【方針】
 サーヴァントを……このサーヴァントを……ど、どうすればいいんだ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年07月02日 23:45