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698 :954:2013/09/06(金) 01:00:39 それでは行きます。 ~朝鮮島転移~ 11.嚆矢 『――この様に日帝は、我が国を筆頭にアジアの国々に多くの被害と悲劇をもたらしました!』  やや荒いTV画面の中で鼻息荒く『日帝の犯罪』とやらを糾弾している某女大統領。  それを白けた顔で眺めながら、卓を囲む面々は鉄板の上でジュウジュウと良い音を立てている焼き肉を、思い思いに引っ繰り返しては、個々の好みの焼け具合になったところで、自分の皿へと引き上げていく。 「ふむ……○金のタレも、研鑽が進んでいるな」 「レモンの絞り汁や塩も、さっぱりしていてイケますよ」 「これを炊きたての白ご飯にのせて食べるのが、また格別ですな」  思い思いの好みやこだわりを口にしつつ、ようやく前世の域に達した旨い食事を堪能する彼ら――夢幻会・会合メンバーは、甘いサシの入った肉汁のしたたる焼きたて肉を味わいつつ、BGMたる女酋長の演説(?)へと意識を少しだけ割いた。 『――しかし、やがて悪は正義に敗れ、日帝を支配していた軍国主義者達は、正義の鉄槌の下に屈服したのです!』  身振り手振りのオーバーリアクションと共に語られる『正義の勝利』を苦笑混じりに聞き流しながら、辻が軽く肩をすくめた。 「それはそれは結構な事で。  正義が勝ち、悪が滅びる……勧善懲悪の物語は、そうでなければなりませんからね」 「しかし、最近は単純にそういったストーリーも少なくなったな」 「所詮はお子様向けの設定ですからね。  目の肥えた最近の読者には受けないんでしょうな」  辻と近衛が交わす皮肉混じりの会話が、貸切の焼き肉店内に響く中、『彼女』の演説は最高潮へと突入する。 『ここに我が国は、今再び過ちを犯そうとしている日帝の非を断罪し、そして彼らの反省を要求します。  我々の世界の日帝の様に不要な軍事力を捨て、戦争を放棄し、正しい歴史認識の下、真摯な謝罪と賠償を我が国を始めとした被害国に行い、国際社会の一員に復帰する事こそが正しい道であると!!』  前世でも良く耳にした三点セット――『謝罪』『賠償』『正しい歴史認識』――に、ビールをグイッと飲み干した嶋田は、呆れた様に呟く。 「そして貴様等のATMになれと?」 「……笑えんな。  そもそもなんで連中の言う正しい歴史認識とやらに従わねばならぬ義務がある?」  口の中の牛タンのコリコリ感を惜しみつつ呑みこんだ東条が、吐き捨てる様に同意した。 699 :954:2013/09/06(金) 01:01:31  まあ、百歩譲って連中が連中の世界で、日本に対し謝罪だ、賠償だ、正しい歴史認識だと喚くのは自由だろう。  対処すべきは連中の世界の日本の仕事であり、この世界の彼らが関与すべき事ではない。  だが逆に言うなら、この世界において連中に対処するのは、彼らの仕事であり、当然、彼らの側には、連中からの謝罪だ、賠償だ、正しい歴史認識だ等と言う『たわ言』に耳を傾ける義務も理由も無いのだ。  そんな一同の意見を代表する様に、皮肉気に片頬を釣り上げた辻が、苦笑混じりに呟いた。 「そもそも彼等は、我が国に対して『謝罪』だ『賠償』だ『正しい歴史認識』だなどと言う権利も無いのですがね」  この世界の日本は、韓国――もとい朝鮮を併合などしていない。  当然、彼らの言うところの史上最悪の残虐な植民地支配というものもない。  なにより、彼等は異邦人。  いきなり現れて、いきなり殴りかかって来た挙句、殴り返されたから『謝罪』しろ、『賠償』しろ、『正しい歴史認識』を持てとでも言いたいのだろうか?  ……はっきり言ってしまえば、狂人の論理以外の何物でもないソレに、もはや匙を投げていた会合の面々は、白っぽい視線を返すだけだった。  そんな視聴者の白けムードなど露とも知らぬ女酋長は、長々と続いた演説(?)の本来の目的の部分へとようやく差し掛かっていく。 『――我が国は、日本国民が邪悪な軍国主義者の支配を立ち切り、この不毛な戦争を終結させ、講和への道を選択してくれる事を真摯に望みます!!』  講和の二文字にも、さしたる反応は起こらない。  むしろうんざりとした空気が、焼き肉の煙の中に混じっていくだけだった。 「……随分と上から目線の講和の意思表明だな」 「連中にしてみれば、これでも譲歩したつもりなのでは?」 「喧嘩売ってるとしか思えんぞ。  要は軍備を放棄した上で、連中の言いなりになれと言ってるだけだろ?」  思い思いに会話を交わす会合のメンバー達。  だがそのどれもが、ポジティブさの欠片も無く、女酋長の会心の演説にも感銘を受けた者は皆無だった。  そしてそれは、続く演説の締めで、更に悪化の方向へと…… 『日本国民の皆さん!  国際社会の正義と人道の名の下、共に悪しき帝国主義者の打倒を目指そうではありませんか!!』  その結びと共に、瞬くフラッシュの砲火を浴びながら、意気揚々とポーズを取る某女大統領。  それを見る会合の人々の双眸には、アホの子を見る憐れみにも似た色がたゆたっていた。  『正義』『人道』――ナニそれ、おいしいの?  良くも悪くも、これがこの世界のグローバルスタンダードである。  弱ければ身包み剥がされても文句は言えない。  負ければ国を滅ぼされ、国民が奴隷に落とされても救いの手は差し伸べられない。  それが正しいと言うつもりは、彼ら夢幻会にも無かったが、それでもそれが世界の常識である以上、国と民を守る為、外道な手段を取る事も辞さなかった彼等からすれば、何を『寝言』をというのが偽らざる本音だった。  ――連中が甘いのか、それとも自分達がスレてしまったのか?  一瞬、そんな疑問を抱いた嶋田だったが、それを心の底へと押し込めると、帝国宰相としての仮面を被り直して、情報局長の田中に尋ねた。 「この映像が、国民に見られる事は無いだろうな?」 「それはありません。  元々の出力が大した事が無い上に、周囲に展開している艦から電波妨害も掛けています。  『朝鮮島』の沿岸部まで近づかない限り、まともな映像は受信できないでしょう」 700 :954:2013/09/06(金) 01:02:41  自信満々にそう答える田中に、嶋田も納得した様に頷いた。  こんな映像が、まかり間違って市中に流布などしようものなら、現在も『賊徒殲滅』を叫んでいる国民のテンションが制御不能なまでにヒートアップしてしまう可能性が高い。  国民感情に振り回されて、戦略が制限されるなどという愚行を、彼は犯すつもりは無かった。  冷静に、慎重に、そして時に大胆に。  詰将棋の様な綿密な手順を以って、連中をあの島に封じ込める事が、会合の決定でもある。 『下手に勢いに任せて動いて、取りこぼしが外に出られても面倒だからな』  そう胸中で呟きながら、彼は今後の手順を確認していく。 「列強……特にドイツの動静は?」 「天津を根城に『賊徒共』との接触を図る動きがあるようです。  ですが周囲は我が国の勢力圏ですし、『朝鮮島』の周りにも帝国海軍の眼が光っていますので、未だ手を出しあぐねているのが現状の様です」  『九州事変』により帝国軍が甚大な被害を受けた事を察知したドイツ第三帝国は、それを為した相手との接触を図ろうと動き出してはいたのだが、何分、日本のお膝元とでも言うべき場所では、あまり派手な動きも出来ず、制海権を日本が押さえた時点で、更にその動きは制限されてはいた。  とはいえ、放置しておけば遠からず何らかの手段で接触を持つ事は確実であり、それは日本にしてみれば面白くもない事態である以上、そうなる前に決着をつける必要性があった。  そして、そんな懸念を裏打ちする様に、辻も真面目な顔に戻って忠告して来る。 「腹黒紳士も、色々と動き始めている様です。  あちらも、こと諜報に掛けては、未だ衰えてはいないですからね。  早めに決着をつけないと、何らかの形で介入してくるのは確実ですよ」  と旧同盟国・現友好国の動きを告げて釘を刺して来る腐れ縁の知人に苦笑を返しながら、嶋田は海軍側の動静を一同へと報告する。 「既に海軍側の準備は終わっています。  予定より少々前倒しになりますが、仕掛ける事自体は可能です」  当初は連中が兵糧攻めで干乾びて、勝手に自壊するのを待ってから仕掛ける算段ではあったが、周囲の動きが本格化する気配があるなら、それを待っていては禍根を残す可能性が出て来た事になる。  現状をそう判断した嶋田は、言外に作戦の前倒しを会合に打診すると、メンバー内でも賛否両論が湧き起こり始めた。 「まだ余力を残している内に仕掛けるのは危険ではないか?」 「今は帝国軍が優位にあるが、半世紀の技術格差を侮って、思わぬ痛手を被るのはどうかと……」 「だが他の列強、特にドイツ辺りと接触を持たれても困るだろう?  なんらかの形で技術流出が起きれば、我が国の優位が崩れる恐れもある」 「確かに、最悪ノートパソコン程度でも、かなりの情報の持ち出しと利用が可能な筈だからな」 「……う~ん……」  充分に相手を弱らせてからでなければ、無駄な犠牲が出るのではと危惧する意見と、時間を掛け過ぎる事により増大していく技術流出の危険性を恐れる意見が会合内で交わされていく。  リスクとソレを犯す事により得られるメリットと安全策を取った際のデメリット、それらを天秤に掛けながら意見を交わしていくが、中々、結論へは至らない。  そうやって揺れ動く討論を一歩下がって見ていた形になる嶋田に辻が声を掛けて来た。 701 :954:2013/09/06(金) 01:03:11 「嶋田さん的には、どうしたいのですかね?」 「……私は……」  答えようとして、思わず口籠る。  腹案が無い訳では無かった。  いやむしろ彼自身の判断は既に決まっている。  ただ会合としての意見のすり合わせを重視したのだが、そんな思惑は承知の上で尋ねてくる辻に困った様な視線を向けるが、気が付けば逆に皆の視線が自分に集まっていた。 「……辻さん……」  地の底から響いて来るようなその声を、真正面から受け止めながら辻がカンラと笑う。 「皆さんも、嶋田さんの意見を聞きたいそうですよ?」  あまりにもアッサリとしたその物言いに、嶋田の肩からも力が抜けた。  ヤレヤレといった表情を浮かべた男は、少し温くなったビールで唇を湿らせると自身の意見を口にする。 「私としては仕掛けるべきだと思います。  相手の弱体化が不完全であるのは事実ですが、それ以上に情報流出は避けるべきです。何より――」  そこで何かを思い出した様に一瞬言葉を途切れさせた嶋田は、軽い咳払いと共に途切れた意見を繋ぐ。 「――何より、あの様なふざけた真似を二度とさせない為にも、可能な限り迅速な無力化こそが望ましいでしょう」  先の漢城襲撃の一件を挙げながら、そう主張する嶋田の意見に一同が耳を傾ける中、フォローするように辻が言葉を繋いだ。 「……まあ弱り切るまで放置しておいて、破れかぶれで、また何処かが襲撃されても困りますからね」  その一言が場の空気を一方向へと向ける最後の一押しとなる。  悪い意味で予想外な真似をするあの民族の性向を、いま一度思い起こした面々は、渋い表情を浮かべつつも、嶋田らの意見に賛同した。  軍の損害を恐れて、民間に被害をもたらせるなど本末転倒というもの。  ある程度の損害は覚悟の上で、一気にケリをつけるという意見が大勢を占める中、辻がダメ押しとばかりに言い放った。 「なに時間が足りない分は、『彼等』に頑張って貰いましょう。  これから先の家賃の前払いと思って貰えばいいでしょうしね」  その一言で、当初予定外だった筈の駒の事を思い出す一同。  確かにと頷く者も少なくない中、嶋田が溜息混じりに呟いた。 「……本当に人使いの荒い方ですね。貴方は……」 「そうでしょうか?  彼等としても、連中とは違うのだと示す絶好の機会だと思いますけどね」  そう言って笑う辻の背後に得体の知れないオーラを感じ、思わずドン退きする面々を他所に、嶋田が決を取る様に問い質す。 「それでは、『朝鮮島仕置き』の前倒しと言う事でよろしいでしょうか?」 「「「異議無し~」」」  ここに大日本帝国の意思は定まった。  そしてその磨き抜かれた矛先は、もはや止まる事無く賊徒こと大韓民国へと向けられたのだった。 702 :954:2013/09/06(金) 01:03:43 「何故、国際社会は動かないのよっ?!  あれだけ日帝の非道を訴えたのに、どこからも何も言ってこないなんておかしいじゃない!!」  今日も青瓦台に、ヒステリックな女の叫びが響き渡る。  ほぼ年中行事と化したコレに、諦めを感じながら、本日の生贄――もとい側近の一人が、恐る恐ると言った風情で宥めに掛かるが、フラストレーションが極限まで溜まり切った女酋長の怒りを鎮める事など出来はしなかった。 「中国はどうしたの!  欧州は、日帝と敵対しているというナチ共はなんで動かないのよ!?」  もはや喚き散らし、周囲に当たるだけと化した存在に、己の選択と運の悪さを後悔しながら、教え諭す様な調子で側近は説明を繰り返した。 「……大統領、以前ご説明した通り、現在の中国は地方軍閥が乱立し、群雄割拠している状態で中央政府などという物は存在しておりません。  また我が国が転移した黄海周辺地域は、残念な事に日帝の勢力範囲ど真ん中な為、ドイツ政府も表立っての接触が困難なものと思われます」  これで何度目かと胸中で憤りつつ、そう告げる彼。  だが彼等の民族特有の症状を示しつつある上司には、そんな理屈は通じはしなかった。 「それじゃどうしようもないじゃないの!」  そう言って一喝され思わず首を竦めた男に、欲求不満の全てをぶつける様に喚き散らす様は、心療内科の医師なら一度入院を勧めたくなる程に常軌を逸した狂乱ぶりだったが、ここにはそれ程の勇者はおらず、皆が皆、息を殺して嵐の過ぎ去るのを待つだけだった。  そのまま暫く怒りのたけを吐き出し続けた女は、やがて流石に息を切らして椅子へと座り込む。  欧州製の特注品が彼女の全身を柔らかく受け止めホールドするが、その心地良さも女の気持を和らげる事は無かった。  国際社会を巻き込んで日帝包囲網を築く事を狙っていた彼女にしてみれば、歯車が狂う事甚だしい。  折角、渋る技術者達の尻を蹴飛ばし、ようやく造らせた時代遅れの放送設備を使った周辺諸国への広報活動にも、なんらレスポンスが無く期待外れに終わっていた。  自分達は正しい。  自分達は正義だ。  だからこそ悪の日帝は、彼等の前に跪き、全てを差出し許しを乞うべきなのだ。  そんな民族の宿痾そのものと化した思想が、全てとなった女には、何故誰も日帝を非難し、彼等の下に馳せ参じないのかが理解できなかった。  ……もし、もしであるが、そんな彼女の内面を知れば、某大蔵省の魔王辺りは鼻先でせせら笑った上で、心底、呆れかえった口調で、こう言い放つだろう。  ――正義? 悪? 馬鹿馬鹿しい。そんなモノに一円の価値すらありませんよ。少なくともこの世界ではね。  価値観が違う。  世界の在り様が違う。  異世界なのだから当たり前の事でしかないのだが、彼女には、否、彼等民族にはそれが理解できなかった。  理解できなかったが故に、自分達の理屈を周りに押し付けようとし、そして拒絶される事となる。  ……具体的には、一瞬後に。  唐突な轟音と共に、大統領執務室の窓ガラスがビリビリと震えた。  いきなりの出来事に肝を潰し固まった室内の者達が、一瞬後、思い思いに動き出す中、再び、女の絶叫が轟く。 「なによ! 何が起きたのよ!? また日帝の仕業なの!!」  そう言いながら、重厚な机の下へと逃げ込んでいる上司に、醒めた視線が集まるが、当の本人は気付かない。 「答えなさい! 早く!!」  具体的な指示も無く、ただ答えろと命ずる声が延々と繰り返される中、あちらこちらへ電話を掛けていた内の一人が、真っ青な顔で告げる。 「……大統領閣下、龍山基地が爆発炎上したとの事です」 「――っ!?」  騒々しかった室内に沈黙が落ちた。  反射的に窓際へと駆け寄った者の視界に、龍山方面から立ち上る黒煙と烈火の揺らめきが映る中、音程の狂った恐怖の叫びが皆の鼓膜を叩く。 「日帝の攻撃っ!? また弾道弾を撃ち込まれたの!?」  誰もが想像したその予想。  だが現実は、それより更に悪かった。  真っ青な顔になった側近が、震える声で確認した事のみを簡潔に告げる。 「詳細は不明との事ですが、弾道弾は観測されておりません。  またこれは未確認情報ですが、基地が爆発する直前に在韓米軍が集団で基地から離れ南方へと向かったとの事です」  在韓米軍の離反――彼等視点での反乱――の幕開け。  その嚆矢たる烈火が、ソウルの空を焦がさんばかりに赤々と燃え上がっていたのだった。
698 :954:2013/09/06(金) 01:00:39 ~朝鮮島転移~ 11.嚆矢 『――この様に日帝は、我が国を筆頭にアジアの国々に多くの被害と悲劇をもたらしました!』  やや荒いTV画面の中で鼻息荒く『日帝の犯罪』とやらを糾弾している某女大統領。  それを白けた顔で眺めながら、卓を囲む面々は鉄板の上でジュウジュウと良い音を立てている焼き肉を、思い思いに引っ繰り返しては、個々の好みの焼け具合になったところで、自分の皿へと引き上げていく。 「ふむ……○金のタレも、研鑽が進んでいるな」 「レモンの絞り汁や塩も、さっぱりしていてイケますよ」 「これを炊きたての白ご飯にのせて食べるのが、また格別ですな」  思い思いの好みやこだわりを口にしつつ、ようやく前世の域に達した旨い食事を堪能する彼ら――夢幻会・会合メンバーは、甘いサシの入った肉汁のしたたる焼きたて肉を味わいつつ、BGMたる女酋長の演説(?)へと意識を少しだけ割いた。 『――しかし、やがて悪は正義に敗れ、日帝を支配していた軍国主義者達は、正義の鉄槌の下に屈服したのです!』  身振り手振りのオーバーリアクションと共に語られる『正義の勝利』を苦笑混じりに聞き流しながら、辻が軽く肩をすくめた。 「それはそれは結構な事で。  正義が勝ち、悪が滅びる……勧善懲悪の物語は、そうでなければなりませんからね」 「しかし、最近は単純にそういったストーリーも少なくなったな」 「所詮はお子様向けの設定ですからね。  目の肥えた最近の読者には受けないんでしょうな」  辻と近衛が交わす皮肉混じりの会話が、貸切の焼き肉店内に響く中、『彼女』の演説は最高潮へと突入する。 『ここに我が国は、今再び過ちを犯そうとしている日帝の非を断罪し、そして彼らの反省を要求します。  我々の世界の日帝の様に不要な軍事力を捨て、戦争を放棄し、正しい歴史認識の下、真摯な謝罪と賠償を我が国を始めとした被害国に行い、国際社会の一員に復帰する事こそが正しい道であると!!』  前世でも良く耳にした三点セット――『謝罪』『賠償』『正しい歴史認識』――に、ビールをグイッと飲み干した嶋田は、呆れた様に呟く。 「そして貴様等のATMになれと?」 「……笑えんな。  そもそもなんで連中の言う正しい歴史認識とやらに従わねばならぬ義務がある?」  口の中の牛タンのコリコリ感を惜しみつつ呑みこんだ東条が、吐き捨てる様に同意した。 699 :954:2013/09/06(金) 01:01:31  まあ、百歩譲って連中が連中の世界で、日本に対し謝罪だ、賠償だ、正しい歴史認識だと喚くのは自由だろう。  対処すべきは連中の世界の日本の仕事であり、この世界の彼らが関与すべき事ではない。  だが逆に言うなら、この世界において連中に対処するのは、彼らの仕事であり、当然、彼らの側には、連中からの謝罪だ、賠償だ、正しい歴史認識だ等と言う『たわ言』に耳を傾ける義務も理由も無いのだ。  そんな一同の意見を代表する様に、皮肉気に片頬を釣り上げた辻が、苦笑混じりに呟いた。 「そもそも彼等は、我が国に対して『謝罪』だ『賠償』だ『正しい歴史認識』だなどと言う権利も無いのですがね」  この世界の日本は、韓国――もとい朝鮮を併合などしていない。  当然、彼らの言うところの史上最悪の残虐な植民地支配というものもない。  なにより、彼等は異邦人。  いきなり現れて、いきなり殴りかかって来た挙句、殴り返されたから『謝罪』しろ、『賠償』しろ、『正しい歴史認識』を持てとでも言いたいのだろうか?  ……はっきり言ってしまえば、狂人の論理以外の何物でもないソレに、もはや匙を投げていた会合の面々は、白っぽい視線を返すだけだった。  そんな視聴者の白けムードなど露とも知らぬ女酋長は、長々と続いた演説(?)の本来の目的の部分へとようやく差し掛かっていく。 『――我が国は、日本国民が邪悪な軍国主義者の支配を立ち切り、この不毛な戦争を終結させ、講和への道を選択してくれる事を真摯に望みます!!』  講和の二文字にも、さしたる反応は起こらない。  むしろうんざりとした空気が、焼き肉の煙の中に混じっていくだけだった。 「……随分と上から目線の講和の意思表明だな」 「連中にしてみれば、これでも譲歩したつもりなのでは?」 「喧嘩売ってるとしか思えんぞ。  要は軍備を放棄した上で、連中の言いなりになれと言ってるだけだろ?」  思い思いに会話を交わす会合のメンバー達。  だがそのどれもが、ポジティブさの欠片も無く、女酋長の会心の演説にも感銘を受けた者は皆無だった。  そしてそれは、続く演説の締めで、更に悪化の方向へと…… 『日本国民の皆さん!  国際社会の正義と人道の名の下、共に悪しき帝国主義者の打倒を目指そうではありませんか!!』  その結びと共に、瞬くフラッシュの砲火を浴びながら、意気揚々とポーズを取る某女大統領。  それを見る会合の人々の双眸には、アホの子を見る憐れみにも似た色がたゆたっていた。  『正義』『人道』――ナニそれ、おいしいの?  良くも悪くも、これがこの世界のグローバルスタンダードである。  弱ければ身包み剥がされても文句は言えない。  負ければ国を滅ぼされ、国民が奴隷に落とされても救いの手は差し伸べられない。  それが正しいと言うつもりは、彼ら夢幻会にも無かったが、それでもそれが世界の常識である以上、国と民を守る為、外道な手段を取る事も辞さなかった彼等からすれば、何を『寝言』をというのが偽らざる本音だった。  ――連中が甘いのか、それとも自分達がスレてしまったのか?  一瞬、そんな疑問を抱いた嶋田だったが、それを心の底へと押し込めると、帝国宰相としての仮面を被り直して、情報局長の田中に尋ねた。 「この映像が、国民に見られる事は無いだろうな?」 「それはありません。  元々の出力が大した事が無い上に、周囲に展開している艦から電波妨害も掛けています。  『朝鮮島』の沿岸部まで近づかない限り、まともな映像は受信できないでしょう」 700 :954:2013/09/06(金) 01:02:41  自信満々にそう答える田中に、嶋田も納得した様に頷いた。  こんな映像が、まかり間違って市中に流布などしようものなら、現在も『賊徒殲滅』を叫んでいる国民のテンションが制御不能なまでにヒートアップしてしまう可能性が高い。  国民感情に振り回されて、戦略が制限されるなどという愚行を、彼は犯すつもりは無かった。  冷静に、慎重に、そして時に大胆に。  詰将棋の様な綿密な手順を以って、連中をあの島に封じ込める事が、会合の決定でもある。 『下手に勢いに任せて動いて、取りこぼしが外に出られても面倒だからな』  そう胸中で呟きながら、彼は今後の手順を確認していく。 「列強……特にドイツの動静は?」 「天津を根城に『賊徒共』との接触を図る動きがあるようです。  ですが周囲は我が国の勢力圏ですし、『朝鮮島』の周りにも帝国海軍の眼が光っていますので、未だ手を出しあぐねているのが現状の様です」  『九州事変』により帝国軍が甚大な被害を受けた事を察知したドイツ第三帝国は、それを為した相手との接触を図ろうと動き出してはいたのだが、何分、日本のお膝元とでも言うべき場所では、あまり派手な動きも出来ず、制海権を日本が押さえた時点で、更にその動きは制限されてはいた。  とはいえ、放置しておけば遠からず何らかの手段で接触を持つ事は確実であり、それは日本にしてみれば面白くもない事態である以上、そうなる前に決着をつける必要性があった。  そして、そんな懸念を裏打ちする様に、辻も真面目な顔に戻って忠告して来る。 「腹黒紳士も、色々と動き始めている様です。  あちらも、こと諜報に掛けては、未だ衰えてはいないですからね。  早めに決着をつけないと、何らかの形で介入してくるのは確実ですよ」  と旧同盟国・現友好国の動きを告げて釘を刺して来る腐れ縁の知人に苦笑を返しながら、嶋田は海軍側の動静を一同へと報告する。 「既に海軍側の準備は終わっています。  予定より少々前倒しになりますが、仕掛ける事自体は可能です」  当初は連中が兵糧攻めで干乾びて、勝手に自壊するのを待ってから仕掛ける算段ではあったが、周囲の動きが本格化する気配があるなら、それを待っていては禍根を残す可能性が出て来た事になる。  現状をそう判断した嶋田は、言外に作戦の前倒しを会合に打診すると、メンバー内でも賛否両論が湧き起こり始めた。 「まだ余力を残している内に仕掛けるのは危険ではないか?」 「今は帝国軍が優位にあるが、半世紀の技術格差を侮って、思わぬ痛手を被るのはどうかと……」 「だが他の列強、特にドイツ辺りと接触を持たれても困るだろう?  なんらかの形で技術流出が起きれば、我が国の優位が崩れる恐れもある」 「確かに、最悪ノートパソコン程度でも、かなりの情報の持ち出しと利用が可能な筈だからな」 「……う~ん……」  充分に相手を弱らせてからでなければ、無駄な犠牲が出るのではと危惧する意見と、時間を掛け過ぎる事により増大していく技術流出の危険性を恐れる意見が会合内で交わされていく。  リスクとソレを犯す事により得られるメリットと安全策を取った際のデメリット、それらを天秤に掛けながら意見を交わしていくが、中々、結論へは至らない。  そうやって揺れ動く討論を一歩下がって見ていた形になる嶋田に辻が声を掛けて来た。 701 :954:2013/09/06(金) 01:03:11 「嶋田さん的には、どうしたいのですかね?」 「……私は……」  答えようとして、思わず口籠る。  腹案が無い訳では無かった。  いやむしろ彼自身の判断は既に決まっている。  ただ会合としての意見のすり合わせを重視したのだが、そんな思惑は承知の上で尋ねてくる辻に困った様な視線を向けるが、気が付けば逆に皆の視線が自分に集まっていた。 「……辻さん……」  地の底から響いて来るようなその声を、真正面から受け止めながら辻がカンラと笑う。 「皆さんも、嶋田さんの意見を聞きたいそうですよ?」  あまりにもアッサリとしたその物言いに、嶋田の肩からも力が抜けた。  ヤレヤレといった表情を浮かべた男は、少し温くなったビールで唇を湿らせると自身の意見を口にする。 「私としては仕掛けるべきだと思います。  相手の弱体化が不完全であるのは事実ですが、それ以上に情報流出は避けるべきです。何より――」  そこで何かを思い出した様に一瞬言葉を途切れさせた嶋田は、軽い咳払いと共に途切れた意見を繋ぐ。 「――何より、あの様なふざけた真似を二度とさせない為にも、可能な限り迅速な無力化こそが望ましいでしょう」  先の漢城襲撃の一件を挙げながら、そう主張する嶋田の意見に一同が耳を傾ける中、フォローするように辻が言葉を繋いだ。 「……まあ弱り切るまで放置しておいて、破れかぶれで、また何処かが襲撃されても困りますからね」  その一言が場の空気を一方向へと向ける最後の一押しとなる。  悪い意味で予想外な真似をするあの民族の性向を、いま一度思い起こした面々は、渋い表情を浮かべつつも、嶋田らの意見に賛同した。  軍の損害を恐れて、民間に被害をもたらせるなど本末転倒というもの。  ある程度の損害は覚悟の上で、一気にケリをつけるという意見が大勢を占める中、辻がダメ押しとばかりに言い放った。 「なに時間が足りない分は、『彼等』に頑張って貰いましょう。  これから先の家賃の前払いと思って貰えばいいでしょうしね」  その一言で、当初予定外だった筈の駒の事を思い出す一同。  確かにと頷く者も少なくない中、嶋田が溜息混じりに呟いた。 「……本当に人使いの荒い方ですね。貴方は……」 「そうでしょうか?  彼等としても、連中とは違うのだと示す絶好の機会だと思いますけどね」  そう言って笑う辻の背後に得体の知れないオーラを感じ、思わずドン退きする面々を他所に、嶋田が決を取る様に問い質す。 「それでは、『朝鮮島仕置き』の前倒しと言う事でよろしいでしょうか?」 「「「異議無し~」」」  ここに大日本帝国の意思は定まった。  そしてその磨き抜かれた矛先は、もはや止まる事無く賊徒こと大韓民国へと向けられたのだった。 702 :954:2013/09/06(金) 01:03:43 「何故、国際社会は動かないのよっ?!  あれだけ日帝の非道を訴えたのに、どこからも何も言ってこないなんておかしいじゃない!!」  今日も青瓦台に、ヒステリックな女の叫びが響き渡る。  ほぼ年中行事と化したコレに、諦めを感じながら、本日の生贄――もとい側近の一人が、恐る恐ると言った風情で宥めに掛かるが、フラストレーションが極限まで溜まり切った女酋長の怒りを鎮める事など出来はしなかった。 「中国はどうしたの!  欧州は、日帝と敵対しているというナチ共はなんで動かないのよ!?」  もはや喚き散らし、周囲に当たるだけと化した存在に、己の選択と運の悪さを後悔しながら、教え諭す様な調子で側近は説明を繰り返した。 「……大統領、以前ご説明した通り、現在の中国は地方軍閥が乱立し、群雄割拠している状態で中央政府などという物は存在しておりません。  また我が国が転移した黄海周辺地域は、残念な事に日帝の勢力範囲ど真ん中な為、ドイツ政府も表立っての接触が困難なものと思われます」  これで何度目かと胸中で憤りつつ、そう告げる彼。  だが彼等の民族特有の症状を示しつつある上司には、そんな理屈は通じはしなかった。 「それじゃどうしようもないじゃないの!」  そう言って一喝され思わず首を竦めた男に、欲求不満の全てをぶつける様に喚き散らす様は、心療内科の医師なら一度入院を勧めたくなる程に常軌を逸した狂乱ぶりだったが、ここにはそれ程の勇者はおらず、皆が皆、息を殺して嵐の過ぎ去るのを待つだけだった。  そのまま暫く怒りのたけを吐き出し続けた女は、やがて流石に息を切らして椅子へと座り込む。  欧州製の特注品が彼女の全身を柔らかく受け止めホールドするが、その心地良さも女の気持を和らげる事は無かった。  国際社会を巻き込んで日帝包囲網を築く事を狙っていた彼女にしてみれば、歯車が狂う事甚だしい。  折角、渋る技術者達の尻を蹴飛ばし、ようやく造らせた時代遅れの放送設備を使った周辺諸国への広報活動にも、なんらレスポンスが無く期待外れに終わっていた。  自分達は正しい。  自分達は正義だ。  だからこそ悪の日帝は、彼等の前に跪き、全てを差出し許しを乞うべきなのだ。  そんな民族の宿痾そのものと化した思想が、全てとなった女には、何故誰も日帝を非難し、彼等の下に馳せ参じないのかが理解できなかった。  ……もし、もしであるが、そんな彼女の内面を知れば、某大蔵省の魔王辺りは鼻先でせせら笑った上で、心底、呆れかえった口調で、こう言い放つだろう。  ――正義? 悪? 馬鹿馬鹿しい。そんなモノに一円の価値すらありませんよ。少なくともこの世界ではね。  価値観が違う。  世界の在り様が違う。  異世界なのだから当たり前の事でしかないのだが、彼女には、否、彼等民族にはそれが理解できなかった。  理解できなかったが故に、自分達の理屈を周りに押し付けようとし、そして拒絶される事となる。  ……具体的には、一瞬後に。  唐突な轟音と共に、大統領執務室の窓ガラスがビリビリと震えた。  いきなりの出来事に肝を潰し固まった室内の者達が、一瞬後、思い思いに動き出す中、再び、女の絶叫が轟く。 「なによ! 何が起きたのよ!? また日帝の仕業なの!!」  そう言いながら、重厚な机の下へと逃げ込んでいる上司に、醒めた視線が集まるが、当の本人は気付かない。 「答えなさい! 早く!!」  具体的な指示も無く、ただ答えろと命ずる声が延々と繰り返される中、あちらこちらへ電話を掛けていた内の一人が、真っ青な顔で告げる。 「……大統領閣下、龍山基地が爆発炎上したとの事です」 「――っ!?」  騒々しかった室内に沈黙が落ちた。  反射的に窓際へと駆け寄った者の視界に、龍山方面から立ち上る黒煙と烈火の揺らめきが映る中、音程の狂った恐怖の叫びが皆の鼓膜を叩く。 「日帝の攻撃っ!? また弾道弾を撃ち込まれたの!?」  誰もが想像したその予想。  だが現実は、それより更に悪かった。  真っ青な顔になった側近が、震える声で確認した事のみを簡潔に告げる。 「詳細は不明との事ですが、弾道弾は観測されておりません。  またこれは未確認情報ですが、基地が爆発する直前に在韓米軍が集団で基地から離れ南方へと向かったとの事です」  在韓米軍の離反――彼等視点での反乱――の幕開け。  その嚆矢たる烈火が、ソウルの空を焦がさんばかりに赤々と燃え上がっていたのだった。

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