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70 :ひゅうが:2014/06/28(土) 21:33:38 ※ 火葬戦記してみました。 ネタ――「栄光に満ちた敗北(戦後夢幻会前日譚)」 ――1945(昭和20)年5月1日 日本本土 三陸沖 「左舷雷跡4つ!扇状に近づく!」 「気泡確認!直ちに爆雷の投下を開始します!!」 さぁ。おっぱじめようか。 阿部俊雄大佐は舌なめずりをするように艦橋内に貼り出された強化ガラスボードを睨みつけた。 甲板の上では対潜哨戒機「天山 12乙型」がプロペラを回しつつ急速に発艦しようとしている。 その腹の中に磁気探知機を仕込んでいるために鈍重ではあるが、それでも4発の対潜爆雷を搭載できるこの機体は地上配備されている「東海」とならんでこの時代の潜水艦の天敵といってもいい。 実際のところ、先の東南海地震のおかげで混乱状態にある工場でも生産が続けられている「余剰機」を改造してなし崩し的に制式配備されたといってもいいのだが、まぁ末期状態にある帝国海軍に舞い降りた数少ない幸運であるともいえるだろう。 「『雪風』『浜風』、急行中。射程まであと5分!」 「聴音より艦橋、敵艦は遁走に入った模様です!」 「よろしい。引き続き警戒を厳とせよ。」 阿部は、ガラスボードに水性インクで器用に書き込まれた情報に目を配りつつ、内心で少しだけ力を抜いた。 71 :ひゅうが:2014/06/28(土) 21:34:13 ――かつて嶋田繁太郎と呼ばれた男が目を覚ました時、彼の目の前では4隻の正規空母が失われておりソロモン海では死闘が展開されていた。 「これで何度目か?」とうすら寒いものを感じつつ、海軍軍人という今や生きなれた生き方の枠内で彼は足掻く。 阿部俊雄は現場を歩く「車引き」であり、水雷戦隊畑の一員として主として「対潜装備の強化」にほとんど狂奔といっていいくらいに力を尽くした。 そのうちに腐れ縁といってもいい連中との再会を果たすなどの出来事もあったのだが、かつて元帥海軍大将であった頃とは違い、彼らはいずれも少壮将校や若手官僚がせいぜいというところである。 当然ながら、「東条幕府」といわれた戦時統制下で国政の決定権を得ることなどできはせず、細々とした歴史上の悲劇の阻止に成功すれば御の字であった。 しかし、収穫はあった。 1942年にはかつて南雲忠一であった男の尽力のおかげで戦艦「比叡」が鉄底海峡からの奇跡の生還を果たし、戦艦「サウスダコタ」撃沈という勝利で終わらせた。 最大の成果となったのは、彼が(海軍中央から睨まれるのと引き換えに)作り上げた艦隊対潜網がマリアナ沖海戦における空母喪失を最低限におさえたことだろう。 おかげで空母「大鳳」と「翔鶴」は囮として出陣したレイテ沖においてハルゼー機動部隊の袋叩きを受ける中耐久と続け、軽空母2隻を防空用に伴うことができた宇垣艦隊はレイテ湾で「聖バレンタインの虐殺」と称される一方的な勝利を飾ることができたのだった。 もっとも、そのおかげで悲劇も発生する。 空母機動部隊による攻撃はまだしも、ある程度の対潜能力を身に着けた海上護衛部隊のおかげで石油輸送量は史実を大きく上回った。 そのため、生き残っていた空母瑞鶴と戦艦大和 長門 陸奥による沖縄への水上特攻という投機的作戦が実施され、そして最後の艦隊決戦が生起する。 結果的に戦艦大和と陸奥、そして瑞鶴は東シナ海で散華し帝国海軍最後の勝利を飾ることとなったのだ。 「栄光に満ちた敗北。」 これを達成する助けをしか阿部は達成することができなかったのだ。 だが――それこそが歴史を動かす。 海軍は精神的にその作戦目的を達成したことで、しかも沖縄沖で奮闘し陸軍を大いに支援したことで「栄光に満ちた敗北」を受け入れる準備を整えたのだ。 かつては辻という名であったある大蔵官僚とかつて近衛という名であった侍従の奔走は「この世界の」近衛という名の機会主義者を動かしつつあり、ついに「天を動かす」ことに成功したのである。 それに対する反応は激烈だったといっていい。 本土決戦派であった陸軍主流派による暗殺を警戒した「ゆかいな仲間たち」はかつての山元五十六同様に阿部を海へと出す選択をした。 阿部としては、それが「資材不足と設計変更によって竣工が遅れた空母信濃」であったことに乾いた笑みを禁じ得なかったが。 今この瞬間、燃え続ける帝都東京では最後の暗闘が繰り広げられている。 そして、自重をやめた嶋田は、「舞鶴鎮守府への疎開命令」に従って「水密試験を終えて完成した最新鋭空母信濃を廻航」している。 まさに歴史のジョークのような光景だ。 ま、なるようになるか。と嶋田あらため阿部は思った。 このフネが生き残れば、特別輸送艦として南方から将兵を救出する任務が待っている。 それを経て解体されるとしても、このフネを生き残らせる意義はあるだろう。と。 「2隻目」の潜水艦の撃沈確認を聞きながら彼はそんなことを考えていた。 ――なお、戦後の記録によると彼らが沈めた潜水艦は「3隻」。 艦名を「シーライオン」 「ボーフィン」 そして「アルバコア」といった。
70 :ひゅうが:2014/06/28(土) 21:33:38 ※ 火葬戦記してみました。 ネタ――「栄光に満ちた敗北(戦後夢幻会前日譚)」 ――1945(昭和20)年5月1日 日本本土 三陸沖 「左舷雷跡4つ!扇状に近づく!」 「気泡確認!直ちに爆雷の投下を開始します!!」 さぁ。おっぱじめようか。 阿部俊雄大佐は舌なめずりをするように艦橋内に貼り出された強化ガラスボードを睨みつけた。 甲板の上では対潜哨戒機「天山 12乙型」がプロペラを回しつつ急速に発艦しようとしている。 その腹の中に磁気探知機を仕込んでいるために鈍重ではあるが、それでも4発の対潜爆雷を搭載できるこの機体は地上配備されている「東海」とならんでこの時代の潜水艦の天敵といってもいい。 実際のところ、先の東南海地震のおかげで混乱状態にある工場でも生産が続けられている「余剰機」を改造してなし崩し的に制式配備されたといってもいいのだが、まぁ末期状態にある帝国海軍に舞い降りた数少ない幸運であるともいえるだろう。 「『雪風』『浜風』、急行中。射程まであと5分!」 「聴音より艦橋、敵艦は遁走に入った模様です!」 「よろしい。引き続き警戒を厳とせよ。」 阿部は、ガラスボードに水性インクで器用に書き込まれた情報に目を配りつつ、内心で少しだけ力を抜いた。 71 :ひゅうが:2014/06/28(土) 21:34:13 ――かつて嶋田繁太郎と呼ばれた男が目を覚ました時、彼の目の前では4隻の正規空母が失われておりソロモン海では死闘が展開されていた。 「これで何度目か?」とうすら寒いものを感じつつ、海軍軍人という今や生きなれた生き方の枠内で彼は足掻く。 阿部俊雄は現場を歩く「車引き」であり、水雷戦隊畑の一員として主として「対潜装備の強化」にほとんど狂奔といっていいくらいに力を尽くした。 そのうちに腐れ縁といってもいい連中との再会を果たすなどの出来事もあったのだが、かつて元帥海軍大将であった頃とは違い、彼らはいずれも少壮将校や若手官僚がせいぜいというところである。 当然ながら、「東条幕府」といわれた戦時統制下で国政の決定権を得ることなどできはせず、細々とした歴史上の悲劇の阻止に成功すれば御の字であった。 しかし、収穫はあった。 1942年にはかつて南雲忠一であった男の尽力のおかげで戦艦「比叡」が鉄底海峡からの奇跡の生還を果たし、戦艦「サウスダコタ」撃沈という勝利で終わらせた。 最大の成果となったのは、彼が(海軍中央から睨まれるのと引き換えに)作り上げた艦隊対潜網がマリアナ沖海戦における空母喪失を最低限におさえたことだろう。 おかげで空母「大鳳」と「翔鶴」は囮として出陣したレイテ沖においてハルゼー機動部隊の袋叩きを受ける中耐久と続け、軽空母2隻を防空用に伴うことができた宇垣艦隊はレイテ湾で「聖バレンタインの虐殺」と称される一方的な勝利を飾ることができたのだった。 もっとも、そのおかげで悲劇も発生する。 空母機動部隊による攻撃はまだしも、ある程度の対潜能力を身に着けた海上護衛部隊のおかげで石油輸送量は史実を大きく上回った。 そのため、生き残っていた空母瑞鶴と戦艦大和 長門 陸奥による沖縄への水上特攻という投機的作戦が実施され、そして最後の艦隊決戦が生起する。 結果的に戦艦大和と陸奥、そして瑞鶴は東シナ海で散華し帝国海軍最後の勝利を飾ることとなったのだ。 「栄光に満ちた敗北。」 これを達成する助けをしか阿部は達成することができなかったのだ。 だが――それこそが歴史を動かす。 海軍は精神的にその作戦目的を達成したことで、しかも沖縄沖で奮闘し陸軍を大いに支援したことで「栄光に満ちた敗北」を受け入れる準備を整えたのだ。 かつては辻という名であったある大蔵官僚とかつて近衛という名であった侍従の奔走は「この世界の」近衛という名の機会主義者を動かしつつあり、ついに「天を動かす」ことに成功したのである。 それに対する反応は激烈だったといっていい。 本土決戦派であった陸軍主流派による暗殺を警戒した「ゆかいな仲間たち」はかつての山本五十六同様に阿部を海へと出す選択をした。 阿部としては、それが「資材不足と設計変更によって竣工が遅れた空母信濃」であったことに乾いた笑みを禁じ得なかったが。 今この瞬間、燃え続ける帝都東京では最後の暗闘が繰り広げられている。 そして、自重をやめた嶋田は、「舞鶴鎮守府への疎開命令」に従って「水密試験を終えて完成した最新鋭空母信濃を廻航」している。 まさに歴史のジョークのような光景だ。 ま、なるようになるか。と嶋田あらため阿部は思った。 このフネが生き残れば、特別輸送艦として南方から将兵を救出する任務が待っている。 それを経て解体されるとしても、このフネを生き残らせる意義はあるだろう。と。 「2隻目」の潜水艦の撃沈確認を聞きながら彼はそんなことを考えていた。 ――なお、戦後の記録によると彼らが沈めた潜水艦は「3隻」。 艦名を「シーライオン」 「ボーフィン」 そして「アルバコア」といった。

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