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支援2_名無し三流さま_魔王の日記 - (2011/12/30 (金) 21:40:10) の編集履歴(バックアップ)


447. 名無し三流 2011/09/05(月) 21:55:11
  ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。
彼の能力は憂鬱世界においても十二分に発揮されていた。
史実より国力が弱体であったドイツにおいても、ソ連軍の補給将校に対し、
悲鳴を上げさせる程の戦果を上げていたのである。

  赤軍の中でも数少ない戦艦であるマラートを撃沈し、
その後も戦車や重砲などの陸上部隊を次々と殲滅。その多大な功績に感激したヒトラーは、
なんと彼に少将の位を与えようとしたが本人は「将軍になんかなったら前線で戦えないじゃないか!」
としてこれを固辞。相変わらず大佐のまま東部戦線を戦っていた。


  さらに彼にとって幸運だった事には、彼の師匠ともいえるステーン大尉が生き残っていたのだ。
史実では戦艦マラートを撃沈したルーデル達は巡洋艦キーロフを撃沈するため再出撃を命じられ、
その時ルーデルは乗機が破損したステーンに自分の機体を貸して居残ったのだが、
キーロフとの戦闘でステーンは帰らぬ人となっていた。その時、ルーデル最初の相棒である
後部銃座手シャルノブスキーも戦死したのだが、憂鬱世界においては重工業化に頓挫していたソ連側が、
これ以上貴重な大型艦(ソ連海軍では巡洋艦も立派な大型艦であった)を失う事を恐れ、
自分達からキーロフを後方へ後退させてしまったのだ。

  このためキーロフ攻撃自体が行われず、結果としてステーンとシャルノブスキーは生存。
その後の戦局の流転でルーデルは2人と離れ離れになってしまうが、ルーデルは言わずもがな、
ステーンもバグー攻略作戦でソ連軍の装甲列車を脱線させるなどの戦果を上げており、
『師匠と弟子』という美しい関係もあってドイツ週刊ニュースに華を添えていた。
全くソビエト側にとっては不幸というほか無い。


  そんなルーデルは陣中で、「前線の記述を書いて出版したら老後の足しになるだろう」
という事で、牛乳を飲みながらこまめにそのネタのための日記を付けていた。
今回は、その日記の一部を抜粋してみよう。なお、日付と一部人名は伏せさせていただく。
448. 名無し三流 2011/09/05(月) 21:55:43

                      提督たちの憂鬱  支援SS  〜魔王の日記〜



○月×日
補給と一緒にステーン大佐から手紙が届いた。
あちらでも赤軍の攻撃は散発的になっており、大分楽ができるそうだ。
此処もここ2日ほど大した動きは無いが、燃料に余裕があれば敵陣の偵察もしている。
ついでに爆撃も。最近はトラックさえ見られなくなったが、
彼らは荷物を運ぶときは背中に担いでいるのだろうか?


△月□日
整備士のRが「最近、機体に無理をかけすぎではないか」と言う。
無理だってしなければならない状況だという事は彼もよく分かっている筈なのだが。
ただ機体を無駄に損耗させたくない気持ちも分かる事は分かるので、
今度人手が足りなくなった時は後部銃座にでも放り込み、我々の状況を改めて教えようかと思う。


☆月○日
先に出撃した仲間から「イワンの迎撃機に追われている」とSOSが入ったので、
私も直ちにスツーカに乗り込んで助けに向かった所、既に味方のBf109が連中を追い払っていた。
機首に黒いチューリップを描いている所を見ると、なかなか洒落た奴らしい。
私はと言えばその直後に発見した敵戦車の増援を阻止するのに忙しく、
うっかり礼を言うのを忘れてしまった。今度あの機は誰だったのか調べておこう。


☆月×日
地上の兵にとっては厄介な塹壕も、空からはよく見渡せるものだ。
擬装ネットも、中にいた兵が怖気づいてこちらへ先制発砲すれば全くその意味を成さない。
これに撃墜されるうっかり者もいるようだが、自分の居場所を知られたという損害は、
敵機を1機撃墜した功績を上回るのは自明の理だ。


○月∀日
此処の地上部隊にも、ようやく噂の新型戦車が届くらしい。
武装親衛隊のM・Wとかいう人物がこれで大きな戦果を挙げているらしいが、
そういう話を聞くとふと、そんな兵が1個軍団、いや1個師団でももいれば、
この戦争ももう少し早く片付くのではないか、と思うことがあるのだ。
そのような話をヘンシェルにした所、「貴方もそんな兵の1人ですね」と言われた。
私には特に、大した事をしているといった自覚は無いのだが……
449. 名無し三流 2011/09/05(月) 21:56:15
◆月☆日
今日は戦車を15両くらい破壊した所で、向こうの方からさっさと逃げ出してしまった。
逃げ出す敵の中にはざっと10両ほどの戦車を確認できたが、あれも破壊できなかったのが何よりも悔しい。
そろそろイワンも逃げ足が早くなってきたようだ。今ごろになって恐怖という物を知ったのか。


◆月◎日
全てが静かに、まるで死んだように見える。
目を皿のようにしても、赤軍は見当たらない。


□月〆日
Gは私に本国へ戻り後進の教育に当たってほしいらしい。一体何を考えているんだ。勿論断った。


□月●日
ステーン大佐から久しぶりに連絡が来た。来月から軍学校で教鞭を執る事になるそうだ。
Gは私の代わりに彼を呼び戻す事にしたらしい。この場合、Gの判断は間違ってはいないと思う。
私は大佐から多くの事を学んだ。学校の生徒も、彼から多くの事を学んでくれるに違いない。
願わくば、彼の新しい弟子たちと共に空を飛びたいものだ。


×月◇日
今日は装甲列車を生き埋めにした。
あれはいつもトンネルに隠れる卑怯者でほとほと困っていたが、
そんなに地中にいたいなら一生いてもらおう。そういう訳で、
私は件の列車が隠れたトンネルの両出入り口を一思いに爆砕してやったのだ。


●月●日
例によって高射砲の砲弾の破片が運悪く当たってしまい、
味方の基地に辿り着く前に不時着してしまった。そこはどうやら村らしく、
大した物もなさそうだったので、駄目になったスツーカの燃料を分けてやると大層感謝された。
村の老婦人に、彼女の家の地下室で仮眠を取る事を勧められたのでそこで30分ほど休み、
その後婦人に礼を言ってから改めて味方の基地まで歩いて戻った。


●月◆日
後で分かった事だが、以前私が世話になったあの村は、何日か前に赤軍から食料を掠奪されていたらしい。
もうすぐ冬が来ようというのに酷い話だ。それで私が燃料を分けてあげたのにとても感謝したようだ。
さらに、私が例の地下室で休んでいた間に、イワンが村へ私を探しに来ていたという。
そうすると、もしかしてあの老婦人は私を匿ってくれたのだろうか。
今は彼女の勇気と親切に感謝し、その無事を祈る事にしよう。
450. 名無し三流 2011/09/05(月) 21:58:31
▽月╋日
大西洋で起きた恐ろしい津浪と、それがアメリカに与えた被害についての話題は枚挙に暇が無い。
だがそれを話題にする者達は、総じて我々が直面しているもっと重要な問題を忘れているように見える。
東方からやってくる蛮族の津浪が、祖国を踏みにじる事態にならない事を願うばかりだ。


▽月△日
今いる辺りはソビエトのラジオ放送も入ってくるが、中身はどれも随分と勇ましい物ばかりだ。
だが、実の所は随分いい加減らしい。今日は『ハンス・ルーデルを捕らえた』などとほざいていたため、
それが間違いである事を教えてやるために、最寄りの敵防空陣地を2つほど潰してきた。


☆月◆日
爆弾が欠乏しているので何か良い攻撃方法は無いかと思案していたが、
ひっくり返った状態で飛行すれば、機首の機銃だけでなく後部銃座も機銃掃射に使えるので、
歩兵やボートなどの非装甲目標が相手なら破壊力が上がるのではないかという事を思いついた。
だがヘンシェルは「危険です、やめましょう」というので「やってみなきゃわからん」と返しておいた。
それで実際にやってみた所、機体が恐ろしく安定せず、失速してしまいそうになったためすぐに止めた。
一応、その時の状況をレポートに書いて提出しておく。この機動専用の機体があれば上手くいくかもしれない。


☆月╋日
焼け落ちた教会は、ソ連の反宗教の姿勢をよく示している。
だが時折、連中はイデオロギーのためばかりか、掠奪のために教会を焼く事さえある。
一度その場面に遭遇したが、気分が悪くなったので彼らが教会から"凱旋"していた所を爆撃してやった。


〆月〆日
ドイツアメリカ軍団が出撃し、それなりの成果を挙げているようだ。
私があの軍団に組み入れられなかったのは幸運だったとしか言いようが無い。
向こうには爆撃すべき物が残っているという証拠はないが、
こちらでは探さずともいくらでも出て来るのだから。


〆月□日
よもやそんな事はあるまいが、総統閣下が北アメリカへの進出に熱を上げるあまり、
東部戦線を忘れてしまう事を危惧している。
なぜなら、我々の本当の敵はアメリカではなく、東部戦線にいるからだ。


〆月☆日
我が国の動きを知っているのか、最近イワンどもの元気が良い。
まるで「暫く攻めて来る事はあるまい」と思っているふうだったので、
戒めとして彼らの頭上に爆弾を投下した。戦争はまだ終わった訳ではない。


***


  ルーデルは他にもたくさんの記録を残しているが、割愛させていただく。
とにもかくにも、彼の調子は史実世界だろうが憂鬱世界だろうが大して変わりはなかったのだ。

  ルーデルの事をよく知っている夢幻会はそんなわけで、
規格外な彼の力が日本に向けられる事態を本気で危惧していたという……


                                  〜  f  i  n  〜