103 :taka:2015/02/28(土) 14:41:56 海軍甲事件後のとある二人の感慨 甘味屋の奥座敷、四人も座ればいっぱいになる小さな場所に二人の男が居た ふたりとも海軍の制服を着込み、茶とお椀を前にして話をしている 「お前のいうところの歴史通りという奴だな」 対面に座る男の言葉に、阿部は無言で頷いた。 「残念だが、そうなってしまった。場所が変わろうが、護衛を増やそうが、 あの人が前線視察をしようとすれば、暗号が割れてしまっている事を認めなければこうなる事だった」 「……ああ、そうだな。戦局が思わしくない米軍からすれば、何としても討ち取りたいわけだからな」 傍らに置いてある新聞には、戦地の上空で散った海軍の長官を喪す国葬の写真が載っていた 阿部は憂鬱そうな面持ちだったが、対面の男はもっとひどかった やはり、思うところはあるのだろう。名前も姿も違えど、彼の前世は彼だったのだから 「これから、この戦争はもっと厳しくなるだろう かつてとは違い、我々にできる事も権限も限りなく狭い。恐らく、いや、間違いなくこの戦争は不本意な結末になるだろう」 「そうだな。そうなるしかない。戦う前に天災にあの国が崩れ落ちねばあの戦争もこうなっていただろう」 阿部の顔に一瞬苦みが過ったが、対面の男は知らぬふりを通した 前世は前世、今は今だ。過去を思う暇すら無い 「俺は予定通り、後半を見据えた位置から戦備を強化する。お前も打ち合わせ通りに頼む」 「了解した。皇室と国体を、日本を守るためだ。俺も協力は惜しまんよ」 男は、そういいながら手元にあった白砂糖の椀を手に取る 既に配給の対象になり、一般にはなかなか出回りにくくなってきた砂糖を椀の中にたっぷりとまぶす 「やっぱり、これが好物だったらしいよ。こうして食べるとき実に美味そうだったそうだ」 氷水に沈む白い饅頭を崩しつつ、砂糖を混ぜ込んでいく 実に手慣れた感じは、彼がこの食し方を好んでいるからだろう 「もう、彼は食えないんだよな……この、饅頭を」 しんみりとした顔で、スプーンの上にのる饅頭を見やった後 彼は饅頭を頬張り、もぐもぐと口を動かしてその絶妙な甘さを堪能する 転生者ゆえの複雑さと死を見送った感傷を押し流すかのように、男は呟いた。 「ああ、うんめぇ……」 やおい