211 :138:2011/05/05(木) 23:37:05 いつも皆様のすばらしい作品を楽しく拝見させていただいています。 先週ジョルジュ・ビゴーを描いたSSを投稿した際には、earth様をはじめ多くの方に感想をいただき、 ありがとうございました。 非常に嬉しかったので、つい調子に乗って続編らしきものを作ってしまいました。 妙に暴走した内容になっていますが、ご覧いただければ幸いです。 提督たちの憂鬱 支援SS ある風刺画家の人生外伝 『アンクル・サムをぶっ飛ばせ!』 ―――このSSは、[[→149-153>http://www18.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/427.html]]で投稿させていただいた、『ある風刺画家の人生』を元に作成しております――― 日本において、ジョルジュ・ビゴーは風刺画の第一人者としてその名声を確固たるものとしている。 また当時の有力者たちがこぞって彼に会いたがったこともあって、 彼は日本の上層部と確固たるつながりを持つ外国人と認識されることになる。 そんな彼には、夢幻会の情報を探ろうとするスパイも数多く寄ってきたが、 彼は夢幻会の中枢を占める近衛公爵、伏見宮殿下とは親友でありつつも、夢幻会自体とは距離を置いていたため、 スパイたちはそれほど有力な情報を手に入れることは出来なかったと言われている。 さて、今日のフリー百科事典における彼の項目には、彼の業績がずらりと並べられている。 その記事の多さはなるほど、確かに偉人であると感じさせるに十分なものであるが、 業績の最後の方に、何故か可愛らしい少女のイラストと共に紹介されている部分がある。 しかしこれこそが、彼が日本にもたらした、ある意味では最も重大な偉業であるのだ。 その偉業の詳細は、その記事中で遠慮がちに書かれた彼の異名が物語っている。曰く、 『萌え絵の開祖』 ―――昔の偉い人は言いました。曰く、『朱に交われば赤くなる』――― 212 :138:2011/05/05(木) 23:40:08 ビゴーと夢幻会との関係が出来たのは、どんなに遅くとも第一次世界大戦前後であるといわれている。 この頃にはすでに彼は老齢にさしかかろうとしていたが、 そのインテリジェンスや風刺精神は衰えることなく、むしろますます磨きがかかっていた。 とはいっても、帰化して日本人となった彼は、 この頃にはすでに立派な愛国者となっており、単なる皮肉屋ではまったくなくなっていた。 また、日本をより良くするために活動する夢幻会の人間との交際は、 愛国者となった彼にとっては非常に充実したものであったようだ。 彼の死後遺された日記にも、皮肉屋の彼には珍しく、彼ら夢幻会派の人間たちについては好意的な記述が目立つ。 そうして国家の上層部との交際が深まるにつれて、彼はえこひいきされているという疑いをかけられないため、日ノ出新報社を退社した。 ただこのことによって報道の中立から解き放たれたことで、 彼は自身の著作活動と並行して、夢幻会からの要請を受けてイラストレーターとしての活動を行うようになる。 夢幻会からの最初の仕事は、第一次世界大戦における、国民向けの兵士募集ポスターの製作であった。 日露戦争で甚大なダメージを受け、その痛手から完全には回復しきったわけではない陸軍が、欧州へ軍を派遣する。 その裏でスカスカになる本土防衛力の穴埋めのため、というのがもっともらしい建前ではあったが、 夢幻会の人間が彼に付けた注文を見る限り、どうやら他にも理由がありそうであった。 近衛公爵曰く、 「日本を擬人化した感じで、出来るだけシンプルに」 未来を知る者ならば、かの有名なアメリカ陸軍の兵士募集ポスター、 『アンクルサムがこちらを指差し、【I WANT YOU FOR U.S. ARMY】と印字されている』 を意識したことがバレバレな注文であったが、ビゴーは何とも微妙なアイデアに首をひねったものの、製作に取り掛かる。 また同時期に、政府発信のポスターを作る傍らで、日ノ出新報に現在の状況を風刺した、 『不安顔の妻と息子を残し、意気揚々と出掛ける軍服姿の父(遠くには、棍棒を持った中国人らしき影が小さく描かれている)』 というイラストを投稿しているのが興味深い。 この彼の行動を指して、“風刺画家としての名声にすがりつきつつ、権力にもおもねる変節漢” と揶揄する研究者もいるが、 一般的な理解では、どちらも国民を啓蒙することを目的とした行動であって、 日本を愛する彼からすれば、手段が多少違うだけでまったく矛盾しないとなっている。 事実、このことで彼は政府筋から何のペナルティーも受けてはいない。 213 :138:2011/05/05(木) 23:42:43 さて、話は多少それたが、兵士募集のポスターである。 “擬人化した日本”という注文に、当初彼は、『侍の格好をした男性が雄雄しく刀を振り上げる』という構図のポスターを作った。 これは事前に見せた妻と子供たちには大好評であり、またビゴー自身も自信を持って出せる作品であったが、 何故か近衛公爵と伏見宮殿下からはダメ出しを喰らってしまう。 なまじイラストという共通の趣味を持っていたことで、 身分や年齢差を越えた友人関係を築いていたが故に、彼らの間には遠慮がない。 どうやらたかがポスター一枚に喧々囂々の議論を繰り広げたらしく、その模様はビゴーの日記に、 「奴らが忙しいのは分かるが、激務で頭までやられたのか!?」 などと書き殴られる始末であった。 日記とはいえ宮様と公爵様相手にここまで書けるのだから、彼らの親密ぶりが分かるといえよう。 ともあれ、ある意味どうでもいいことで騒いで、未来の首相の胃にダメージを与えつつ、ポスターは完成した。 が、そのポスターは日本人はおろか、後にそれを見た例のアメリカ陸軍兵士募集ポスターを作製した、 ジェームズ・フラッグをも驚愕させた代物であった。 夢幻会の会合の席上、完成したポスターを見せられた面々は一様に叫ぶ。曰く、 「こりゃまんまセ○バーじゃねえか!」 完成した作品は、 『黒髪をポニーテールにまとめた少女が静かに目を閉じ、眼前にまっすぐに掲げた抜き身の刀をかざしている横顔』 という構図のものであった。 はっきり言って、某運命なゲームのサウンドトラックに描かれたメインヒロインのイラストそのものである(弓の人?知らんな) そしてポスターの下部には、『この國を守る力を』という文字が入っていて、 現代の知識を持った逆行者たちからすれば、F○TEにかぶれた中学生が作ったポスターとでも揶揄されそうなそれは、 しかし事実上こうした美少女のイラストを目にするのが初めてという民衆に対しては、絶大な効果を発揮した。 各地では兵役に志願する若者たちが殺到し、軍の担当者にいろんな意味で悲鳴を上げさせ、 また全国の女学校で、剣道の競技人口が薙刀道を駆逐する勢いで爆発的に増えていったのである。 このイラストを描いたビゴー自身がそのあまりの影響力に驚いた『彼女』は、 彼が続いて手がけた関東大震災の復興ポスターでも使われたことによって、一気に市民権を得た。 なんだかんだで『彼女』を気に入ったらしいビゴーが、『やまとなでしこ』からとった『撫子』と名付けたのだ。 そう、アメリカ合衆国を擬人化したのがアンクル・サムならば、日本を擬人化したのが彼女、『撫子』である。 214 :138:2011/05/05(木) 23:46:14 『撫子』はまた、ビゴーが亡くなった後も様々な場面で、彼を慕う様々な画家たちの手によって描かれた。 世界恐慌時には清貧に耐える『撫子』のイラストがとある新聞に掲載され (一方日ノ出新報は、ボロボロの服を着た欧米人を尻目に札束を数える『撫子』を描いた) 上海事変では、辮髪のナマズヒゲ野郎を相手に抜刀して立ちふさがる『撫子』が。 冬戦争では、狙撃銃を構えたサンタクロースと肩を並べる『撫子』がそれぞれ描かれることなる。 これらを通じて、彼女には自然発生的に様々な属性が勝手に付加されていった。曰く、 “黒髪をポニーテールにまとめ、日本刀を携えた袴姿の美少女” “忍耐強く、義理人情に篤い性格” “実は非常に優れた剣術の使い手で、怒らせるとヤバイ” “しかし金に汚い” これらの属性は、実は強いという部分以外は、おおむね諸外国から見た当時の日本として間違ってはいない。 こうして新聞紙上に描かれる機会が増えており、一般的な認知度が高まっていたことに加えて、 戦争不可避の流れが決定的になりつつあった中での合同文化祭において、とある海軍士官が 『アンクル・サムと辮髪のナマズヒゲ野郎をフルボッコにする撫子たん』 という同人誌を出展したことで、彼女の人気は爆発した。 アメリカと中華民国の横暴に不満を持っていた(同時に、ここまでされてなお我慢している政府への不満もあった) 民衆の間で、同様の構図の同人誌が出回り始めたのだ。 戦争への流れを大衆の側から決定付けかねない危険な流れであるとして、夢幻会は当初引き締めに走ったが、 一部すでに『撫子たん』に萌えていた構成員と、言論統制に限りなく近いのではとする反対意見により黙殺の流れとなり、 結果『撫子』は、“擬人化された日本”としてそのキャラクターを確立することとなる。 同時に彼女の“生みの親”が、かのジョルジュ・ビゴーであるということも知れ渡り、 すでに亡くなっていた彼の経歴に、さらなる箔?を付けることとなったのであった。 ちなみに『撫子たん』の人気は今日でも衰えず、合同文化祭において堂々たる一ジャンルとして生き残っている。 未来人の視点で言ってしまえば、TS版ヘタリアとして。 なお余談であるが、黒髪ポニーの剣術少女というキャラクターの爆発的人気により、夢幻会のファース党員が勝利を宣言。 これに反発したオルコッ党員の一部が悔し紛れに、 「撫子たんのイメージが強すぎて、 黒髪ポニーの剣術少女などというテンプレ的キャラクターは、この先誕生することはないだろう」 などと発言したがために、真宮寺さ○ら萌えの古参オタクをも巻き込んだ大乱闘に発展。 嶋田首相の胃にまたしても甚大なダメージを与えることとなるのであった。 どっとはらい