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映姫さまいじめ:27スレ650 - (2009/09/07 (月) 08:31:21) の1つ前との変更点

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「 上白沢 慧音… 久しぶりね 」 『 ――― 』 映姫は久しく顔を合わせた知人に言葉をかける。 しかし返事は返らない。 「 そう… 貴方にもようやく寿命が訪れたのね。   巫女は河に沈み、白黒の魔法使いは黒になり、何とか河を渡れた悪魔の従者…   彼女達が居た時代から随分と経ちましたが、やっぱりあの時期が一番騒がしかったわね 」 『 ――― 」 「 うふふ、随分幻想郷は変わったけれど… そうね。あの時期は騒がしくも、楽しかったわ。 貴女も… やっぱりそう思う? 」 霊の声は普通の者には聞こえずとも、同じ亡霊や死神、そして閻魔にはその声を聞く事が出来る。 傍から見れば一方的に語っている様に見えるだろう、この光景。 そう、他愛ない思い出話… 『 ――― 』 「あ、あら、そうね。そろそろ審判に入らないと 」 小一時間話した所で幽霊が躍る。 映姫は仕事の最中という事を忘れ、長話に入ろうとしていた自分を恥じて頬を掻いた。 「 では 」 映姫の瞳が険しくなり、その表情から笑顔が消える。 「 上白沢 慧音…貴女は多くの人間に慕われ、人間として多くの善行を積んできました 」 『  』 「 しかし…貴女は妖怪としての役割を、全く果たしてはいなかった。 私は貴女に説いた筈です 」 『   』 「 …そうね、貴女は妖怪より人として生きる道を選んだ。 妖怪の力を、人の為に使う事を選んだ 」 『 ――― 』 「 後悔は無い  ですか。 ふふ、貴女ならそう言うと思っていたわ 」 これから下される判決の結果を、この幽霊は知っていた。 「 そう、貴女は少し、妖怪である事を放棄し過ぎた。 人としての善行は素晴らしい物だったけれど…   やはり、その罪を償うには足りなかった 」 『 ――― 』 「 貴女には、ほんの少しだけ地獄で残った罪を洗い流してもらいましょう。 判決は『黒』よ。   大丈夫、貴女なら直に転生の時が訪れるでしょう … 」 幽霊は判決を聞き入れると、頭部を下げる動作をした。 『 ――― 』 「 世話になった…と。 黒の判決を出されてそんな事を言ったのは…貴女が初めてよ 」 しばらく二人が見つめあった後、幽霊は背を向けて地獄門へと歩み出した。 「 さようなら、上白沢 慧音… 」 『 ――― 』 霊が映姫の呼びかけに振り返ると、再びその頭を下げた。 霊は、最後まで礼儀正しかった…。 上白沢 慧音の裁判が終わり、一週間後――― 「 うわ、四季様 」 「 うわ… って何よ小町 」 部下の怪訝な顔に、思わず苦笑する。 「 何ですか、ちゃんと仕事してますって 」 「 まだ何も言ってないわ 」 「 眼が 働け って訴えてます 」 「 そうね、私達も付き合い長いものね。 以心伝心よね。 だから私も貴女がサボってた事くらい分かるの 」 小町は心外だといわんばかりに顔をしかめる。 「 言い掛かりです 」 「 原っぱに寝転んでるそんな姿で言われても、私どころか妖精の目も誤魔化せないわよ 」 「 おぉっと 」 急いで体を起こす小町。 長い付き合いで説教をしてきたが、最近は諦めの方が先に来ている。 悪い傾向だ。 「 お出かけで? 」 「 そうよ、誰かさんのおかげで全く仕事にならないから 」 「 サボりの口実ですか。 かわいい部下のせいにして、酷い~ 」 「 ほざくわね。私が戻ってくるまでに霊がノルマに達していなかったら鼻を折るわよ 」 言葉に反応して、手で鼻を隠す小町。 「 最近四季様、表現が生々しいです。 やめてください 」 「 いいからさっさと仕事なさい 」 「 ぎゃん!! 」 部下を船の上に蹴り飛ばすと人里に向かう事にした。 これといって説教の相手がいる訳では無かったが…映姫自身、里の様子が気になっていた。 遥か昔から村の守り神として君臨し続けた、慧音が居なくなった人里を。 久方ぶりに幻想郷に降りてきたものの、数世紀に渡り変わらない光景に感嘆する。 住む者達の世代は変われど、山も人里も…まるで時間が止まったかのように昔と同じ光景だった。 人里に足を踏み入れた映姫は、突然 「変化」 を感じた。 村人が映姫の姿を見れば大概怖れ畏まるか、拝み一礼をする者が多いのだが… 「 …? 」 村人は映姫の姿を見るなり、どこか余所余所しかった。 眼を逸らしたり、あからさまに嫌悪の表情を向ける者もいた。 明らかにおかしい村人の反応に、怪訝な反応を浮かべていると 「 !? 痛…ッ! 」 突然頭に激痛が走った。 どうやら、誰かが石を投げつけたらしい。 とっさの事で反応出来ず、直撃を貰ってしまった。 普通の人間なら死んでいたかもしれない。 「 う… 」 頭を上げると、子供がいた。寺子屋の子供が石を投げたらしい。 目尻には涙を浮かべ、恨めし気にこちらを睨み付けている。 「 ……成程、そういう事ですか 」 頭を抑えながら、映姫はおおよその事態を察した。閻魔として、こんな経験は一度や二度では無かった。 「 上白沢 慧音… 貴方は本当、よく慕われていたのね…… 」 どういう訳かは知らないが、慧音への審判結果が、里に知れ渡っているらしい。 人里は問題なく機能しているようだ。出来れば顔を出したかった者達も多々居るが・・・ 「 何してるの!! 」 その子供の親が飛び出し、突然映姫に土下座をして見せた。 「 ああ、ウチの子をお許しください!お許しください! 」 「 いえ…私は… 」 まるで人を食う妖怪に向ける様な態度。 他の者達の注目も集まってきた。 …これ以上ここにいるのは不味い。 様子を見に来て、閻魔が人に罪を重ねさせてしまっては笑えない。 歯痒さを感じつつも、映姫は逃げる様に里人を去った。 「 はぁ… はぁ… 」 よもや人里を追われる事になるとは。 かつては地蔵菩薩として人々を守ってきた神。 今は閻魔として人の罪を祓い清める神として 人間を見守ってきた映姫は、皮肉にも払った罪によって人に否定された。 「やれやれ…閻魔を辞した時、私はどこに行けば良いのかしらね」 映姫は自分が地蔵に戻った時、居場所に苦労しそうだな  と考えていた。 嫌われているのは昔から。 今更感傷に浸るべき事でも無い。 だが…  「 あんたに居場所なんざ必要ないよ 」 嫌われるよりも残念な、もう一つの事実に映姫が顔を伏せた時 後ろから聞き覚えのない声がした。 「 随分嫌われたもんだね、閻魔様 」 竹林に住まう不死鳥、藤原 妹紅がそこにいた。 聞き覚えが無い声なのも無理は無い。もう随分と会っていないのだから。 「 嫌われているのは元からだったと思うけどね… 」 「 ふぅん。けど、ここまで拒絶されたのは初めてでしょ 」 「 どうだったかしら 」 にこりと笑って会釈する映姫だが、妹紅からはあからさまな敵意と怒りが向けられている。 「 うふふ、貴方は私を好いてくれてるのかしら? 」 「 冗談 」 でしょうね と返す。心は里人と同じなのだろう。 「 慧音を…地獄に落としたって? 」 「 ええ 」 躊躇う事なく答えた。 欺いて何が変わる訳でも無い。 「 ……… 」 妹紅の睨みが一掃険しくなる。 「 誰から聞いたの? 」 「 地底の妖怪が、新地獄でハクタクが入ってきたって話をしてたらしくてね… 里人にも広がっちまった 」 「 やれやれ… 罪人の事を酒の肴にして話すなんて、少し注意が必要かしらねぇ 」 「 落としたんだ? 地獄に 」 妹紅の背から炎が上がる。 これが最後の警告だと言わんばかりに。 「 …ええ 」 炎がますます強くなる。 「 なんでよ!! 閻魔、アンタの目は節穴? あいつの何を見ていたんだ!! 」 「 彼女は『人間として』は正しかった…ですが半身の…妖怪としての役割を果たす事は出来なかった 」 「 そんな理由で… そんな理由で慧音は…!? 」 「 そんな理由とは心外ね… 大事な事なのですよ。理不尽な理由とはいえ罪は確かに溜まっていく、それを祓うのが私の… 」 「 お前えええええええ!!! 」 今にも殴りかからん勢いの妹紅。 穏便に事を進めるスペルカードルールの事など、頭に無い様だ。 元よりこれは一方的な敵意。決闘に至る必要も無い  と映姫は判断した。 「 …私が憎いですか、藤原 妹紅 」 「 当たり前でしょ、ふざけてんのあんた…! 」 映姫は妹紅を見据えると、静かに言った。 「 そう、貴方の憎しみは少し深すぎる。 どのような感情も何れは冷める…されど貴方の其れは里の人間の比では無い。   永劫、時を重ねる貴方はその深すぎる恨みを抱えるべきでは無い。   そのままその憎しみを抱え続ければ、貴方は人間である心すらも失うかもしれない… 」 永く永く同じ時を歩み続けた親友を、地獄に落とした張本人。 輝夜に向けていた物よりも、その恨み、憎しみは酷く燃え上がっていた。 「 一体誰のせいだと思ってる!? 」 「 私を恨むな… というのも無理でしょうね。 良いでしょう 」 映姫はため息に近い息を吐くと、言った。 「 貴方の気が済むまで殴りなさい… その恨みを、貴方は抱え続けるべきでは無い 」 映姫は悲しそうな顔を上げた。 妹紅はそれを確認する事もなく 「 うああああああッ!! 」 狂ったように叫び声を挙げると、思い切り映姫の頬を殴りつけた。 「 ぐ…っ!! 」 大きくふらついた映姫に掴みかかり、顔を、腹を、狂ったように殴り続ける。 「 お前が…お前が慧音の…!! 」 「 か  はっ… 」 映姫は苦痛に顔を歪めるも、妹紅の怒りの形相からはボロボロと涙が零れ落ちており その悲痛な表情が、映姫に抵抗や防御を躊躇わせた。 「 お前が慧音の何を知ってるんだぁぁぁぁ!! 」 「 ぐう…! がふっ 」 妹紅が腹を蹴りつけ、映姫はその場に崩れ落ちた。 「 う… こほっ ッ…   く…… 」 「 このぉっ!! 」 膝を着いた映姫の頬を蹴りつけ、地面に倒す。 どれだけ殴っても蹴っても、映姫の体は瞬時に回復して痣さえ出来ない。 映姫の体には確実に激痛が蓄積されているが、その不変さに妹紅は気付かぬ内に輝夜を重ね、余計に怒りを募らせた。 倒れこんだ映姫の腹を蹴りつけ、胸を踏みつけた。 「 ぐぁ…っ …は…ッ 」 妹紅は踏みつけていた足を上げると、その足に炎を纏わせた。 「 くらえ!! 」 その足を映姫の手に思い切り振り下ろした。 「 ぐあぁぁぁぁぁ! ……ああっ!!」 ブスブスと物が焦げる嫌な音と臭いが辺りに広がる。 凡そ数十秒、炎を纏った足で映姫の足を踏みにじった。 歯を食いしばる映姫の腕が炭に近くなってきた頃、ようやく妹紅が足を上げた。 「 くぅ…ううっ… 」 日常的に人を裁いた自分の罪を清める為、地獄で凄惨な罰を受ける映姫だが 勿論殴られれば痛いと感じるし、焼かれれば熱いと感じる。 自らに罰を与える閻魔の体は、そう出来ている。 だがそれだけの苦痛を受けても仕事に支障が出ぬ程に その回復力は異常な程に早い。 足を上げて数秒で、映姫の腕が元に戻った。 「 チッ!! 」 まるで効いていないと言わんばかりの回復力が気に入らないのか、今度は映姫に馬乗りになると その拳を顔に向けて振り下ろした。 「 ……っ! 」 頬に振り下ろされる拳が一掃激しさを増し、声も出ない。 だが振り下ろされる拳と一緒に、水滴が一滴、二滴と頬に落ちる。 「 ……? 」 泣いていた。 妹紅の悲痛なその顔が、映姫は殴られるよりも苦しかった。 「 お前が慧音の… うう… うぅぅぅ…… 」 腕を振り上げた妹紅の腕に炎が灯り、映姫の首を押さえつけた。 力を込めた一撃が自分の顔に振り下ろされる事を察した映姫は、ただ静かに眼を閉じて衝撃を待った。 「 うおおぉぉぉぉあああああッ!! 」 「 …… 」 しかし時間が経っても衝撃が顔を襲う事は無く、映姫の顔にはただ涙が零れた。 妹紅の炎は消え、映姫の体を殴り続ける。 とはいえ、その殴打は最早駄々をこねる子供のように…何の力も無く、手を振り回している様だった。 「 ……少しは、怒り… 収まり、ましたか… 」 へたりと手が下りた。怒りよりも虚しさの方が大きくなってきた様だ。 それを認めない という様に、妹紅は手を振り回す。 「 なんで… なんで慧音が地獄に行かなきゃいけないんだ… 慧音は…! 」 胸倉を掴み、叫ぶ。 「 … 地獄には…深さがある 」 小さな声で映姫がつぶやく。 「 …え? 」 「 彼女は私が認める程に善い魂だった… ただ、罪は清めねば転生さえ出来ない…   彼女次第ですが… 地獄の罰はおよそ数週間で済むかもしれない…   そうすれば… 」 「 数…週間? で、でも…! 」 思ったより地獄にいる日数が少なかったせいか、妹紅は混乱している様だった。 「 私とて、地獄の罰を  好き好んで与えている訳ではない…   私は慧音に… 生前言いました…  人からの畏れが少なすぎると… そのままでは半分の妖怪の血を…   否定する事になるのだと… しかし… 」 体は回復しても苦痛は引かない。 息を切らしながらも映姫は語りかける。 妹紅は掴んでいた胸倉を掴み、映姫の声に聞き入っていた。 「 彼女は言いました…  藤原妹紅…貴方が人間として生き続けている様に…    私も彼女と同じ様に… 生きていたいと… 」 妹紅が項垂れた。 「 そんな… 慧音…   じゃあ、あいつは私の真似をして、その罰を… 」 「 貴方は罪悪感を感じてはならない… 彼女は、貴方に感謝していたのだから。   貴方は…それを否定すべきではない 」 「 な、なんで、なんで先に言ってくれなかったのよ!!」 「 私が…地獄に落としたという事実が変わる訳でも無いでしょう… 」 妹紅が映姫の腹に乗せていた尻を退ける。 「 ……ごめん…私、あんたに八つ当たりしてただけだった… 」 「 良いのよ…  私を憎むのは当然だもの 」 「 い、今からでも人里に行こうよ! あんただって意地悪で判決出したワケじゃないって…   私が原因なんだって説明すれば! 」 妹紅なりの映姫への贖罪のつもりなのだろうが、映姫は苦笑して断った。 「 嬉しいですが、止めておきましょう… 貴方と私だけでは、大衆の意を覆す事は出来ない 」 「 でも…! 」 「 仮に事実を聞いたとしても、私が地獄に落とした事を彼らはきっと許さない 」 「 そんな… 」 「 どのような状態だろうと… 人は己の感情で動く生き物です。   それだけ慧音は慕われていたという事。 …ふふ、少し妬いちゃうわね 」 よろよろと立ち上がると、映姫はその場から立ち去ろうとした。 「 今日は… 本当にごめん…    こんな事言うのも何だけど… 慧音の行き場所が決まったら、またその時教えにきてくれないか…? 」 映姫は笑って 必要ない と答えた。 「 行き場は天国に決まっているでしょう。転生までの期間ですが… それは決めているわ 」 映姫はふらつきながら、妹紅の視界の外へと消えていった。 「 ……  う…っ 」 歩いて暫くして、映姫はその場に膝を着いた。 「 少し…殴られすぎたかしらね…   痛みがなかなか引かない… 数分は掛かるかしら… 」 「 それじゃ仕事に遅れちゃいますよ 」 聞き覚えのある声が耳に入る。 「 最近は相手の背後から声をかけるのが流行ってるのかしら…? こんな所で何してるのよ小町 」 「 そりゃこっちの台詞ですよ 」 不機嫌そうな顔を浮かべて小町が映姫を見下ろしていた。 「 みっともない姿ですね、何でそんなボロボロなんですか 」 「 …… 」 「 四季様に、他人に殴られてやる趣味があるなんて思いませんでしたよ 」 「 何よ見てたの… どうしてここにいるかと聞いているのよ 」 小町は鎌を振り上げた。 「 ちょいとあの不死の女の首を飛ばしてこようかと思いまして 」 「 小町…!! 」 映姫は小町を睨んだ。 本気の静止の視線を小町は冷めた表情で受け止めた。 「 …冗談ですよ 」 小町はひょいと映姫を担ぎ上げる。 「 …随分と酷い事になってましたよ、人里が 」 「 …… 」 「 ハクタクの審判結果が気に食わないからって、酷いもんじゃないですか 」 「 …… 」 「 正しい行いをしている四季様がこんな目に合って… 理不尽だとは思わないんですか 」 「 小町… 」 「 理不尽以外の何でもないでしょう…こんなの。 本当に良かったんですか、こんな事になって 」 「 私は一度も自分の出した判決に、後悔した事は無いわ 」 「 そうですか… でもねぇ。私から見ても、これは正しかったのかって思いますよ 」 映姫は顔を伏せた。 「 貴方は私を理解してくれているんでしょう? なら、それで良いじゃない 」 「 …納得がいきません 」 「 …いいのよ。元より私は、幻想郷の者ではありませんから… 」 小町は、やはり納得のいかない顔をしたが、それ以上何も言う事は無かった。 「 山の戦神よ、いらっしゃいますか 」 「 我を呼ぶのは何処の人ぞ 」 映姫はその後、山の神社の神を尋ねていた。 「 あら、閻魔様じゃないの。お久しぶりじゃないの 」 八坂神奈子。 かつては外の世界に忘れられ、こちらへ逃げ込んできた神。 長い長い時を幻想郷で重ねるにつれ、今やその信仰も不動の物となっていた。 「 お元気そうで何より… 巫女の様子はどうです? 」 「 まだまだ修行がアレだけど、まぁ資質はあると思うよ。 それで、今日はまた何の御用? 」 映姫は少し悲しそうに笑った。 「 突然現れるなり不躾ですが… 少し頼みたい事がありまして 」 「 …… 成程ねぇ。あんたの代わりに善行の何たるかを伝えてほしい と 」 「 ええ。 地獄に堕ちぬ方法を伝えれば、貴方への信仰はより深い物となる。  私の言葉を、そのまま伝えてくれるだけでも構いません。 …ただ、私の名は出さぬ様に 」 「 う~む 」 神奈子は顔を顰めた。 「 いや、それが嫌というワケじゃないんだよ。   ただねぇ… あんたは良いのかね? それを私に任せたら、あんたは恐らく… 」 「 構いません。 …今となっては、人間達には私の言葉は意味を成しませんから 」 「 …そうかい 」 では、よろしくお願いします と頭を下げた映姫は、山のように書物を神奈子に渡すと すぐに神社を後にした。 「 説教の音が、かつては幻想の音となっていたが…   今の外では再び戻りつつあるのかねぇ。 喜ばしいやら悲しいやら… 」 古い付き合いの者達も、時間と共に幻想郷からも消えていく。 また一人、もう幻想郷には訪れないであろう知り合いの一人を憂いながら 神奈子はパラパラと書物に目を通し、内容を暗記していった。 幻想郷縁起に名を残している、幻想郷担当閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥ。 その名と姿は残っていれど、その後暫くの世代交代まで、彼女の姿を見た者は誰も居なかった。 #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
「 上白沢 慧音… 久しぶりね 」 『 ――― 』 映姫は久しく顔を合わせた知人に言葉をかける。 しかし返事は返らない。 「 そう… 貴方にもようやく寿命が訪れたのね。   巫女は河に沈み、白黒の魔法使いは黒になり、何とか河を渡れた悪魔の従者…   彼女達が居た時代から随分と経ちましたが、やっぱりあの時期が一番騒がしかったわね 」 『 ――― 」 「 うふふ、随分幻想郷は変わったけれど… そうね。あの時期は騒がしくも、楽しかったわ。 貴女も… やっぱりそう思う? 」 霊の声は普通の者には聞こえずとも、同じ亡霊や死神、そして閻魔にはその声を聞く事が出来る。 傍から見れば一方的に語っている様に見えるだろう、この光景。 そう、他愛ない思い出話… 『 ――― 』 「あ、あら、そうね。そろそろ審判に入らないと 」 小一時間話した所で幽霊が躍る。 映姫は仕事の最中という事を忘れ、長話に入ろうとしていた自分を恥じて頬を掻いた。 「 では 」 映姫の瞳が険しくなり、その表情から笑顔が消える。 「 上白沢 慧音…貴女は多くの人間に慕われ、人間として多くの善行を積んできました 」 『  』 「 しかし…貴女は妖怪としての役割を、全く果たしてはいなかった。 私は貴女に説いた筈です 」 『   』 「 …そうね、貴女は妖怪より人として生きる道を選んだ。 妖怪の力を、人の為に使う事を選んだ 」 『 ――― 』 「 後悔は無い  ですか。 ふふ、貴女ならそう言うと思っていたわ 」 これから下される判決の結果を、この幽霊は知っていた。 「 そう、貴女は少し、妖怪である事を放棄し過ぎた。 人としての善行は素晴らしい物だったけれど…   やはり、その罪を償うには足りなかった 」 『 ――― 』 「 貴女には、ほんの少しだけ地獄で残った罪を洗い流してもらいましょう。 判決は『黒』よ。   大丈夫、貴女なら直に転生の時が訪れるでしょう … 」 幽霊は判決を聞き入れると、頭部を下げる動作をした。 『 ――― 』 「 世話になった…と。 黒の判決を出されてそんな事を言ったのは…貴女が初めてよ 」 しばらく二人が見つめあった後、幽霊は背を向けて地獄門へと歩み出した。 「 さようなら、上白沢 慧音… 」 『 ――― 』 霊が映姫の呼びかけに振り返ると、再びその頭を下げた。 霊は、最後まで礼儀正しかった…。 上白沢 慧音の裁判が終わり、一週間後――― 「 うわ、四季様 」 「 うわ… って何よ小町 」 部下の怪訝な顔に、思わず苦笑する。 「 何ですか、ちゃんと仕事してますって 」 「 まだ何も言ってないわ 」 「 眼が 働け って訴えてます 」 「 そうね、私達も付き合い長いものね。 以心伝心よね。 だから私も貴女がサボってた事くらい分かるの 」 小町は心外だといわんばかりに顔をしかめる。 「 言い掛かりです 」 「 原っぱに寝転んでるそんな姿で言われても、私どころか妖精の目も誤魔化せないわよ 」 「 おぉっと 」 急いで体を起こす小町。 長い付き合いで説教をしてきたが、最近は諦めの方が先に来ている。 悪い傾向だ。 「 お出かけで? 」 「 そうよ、誰かさんのおかげで全く仕事にならないから 」 「 サボりの口実ですか。 かわいい部下のせいにして、酷い~ 」 「 ほざくわね。私が戻ってくるまでに霊がノルマに達していなかったら鼻を折るわよ 」 言葉に反応して、手で鼻を隠す小町。 「 最近四季様、表現が生々しいです。 やめてください 」 「 いいからさっさと仕事なさい 」 「 ぎゃん!! 」 部下を船の上に蹴り飛ばすと人里に向かう事にした。 これといって説教の相手がいる訳では無かったが…映姫自身、里の様子が気になっていた。 遥か昔から村の守り神として君臨し続けた、慧音が居なくなった人里を。 久方ぶりに幻想郷に降りてきたものの、数世紀に渡り変わらない光景に感嘆する。 住む者達の世代は変われど、山も人里も…まるで時間が止まったかのように昔と同じ光景だった。 人里に足を踏み入れた映姫は、突然 「変化」 を感じた。 村人が映姫の姿を見れば大概怖れ畏まるか、拝み一礼をする者が多いのだが… 「 …? 」 村人は映姫の姿を見るなり、どこか余所余所しかった。 眼を逸らしたり、あからさまに嫌悪の表情を向ける者もいた。 明らかにおかしい村人の反応に、怪訝な反応を浮かべていると 「 !? 痛…ッ! 」 突然頭に激痛が走った。 どうやら、誰かが石を投げつけたらしい。 とっさの事で反応出来ず、直撃を貰ってしまった。 普通の人間なら死んでいたかもしれない。 「 う… 」 頭を上げると、子供がいた。寺子屋の子供が石を投げたらしい。 目尻には涙を浮かべ、恨めし気にこちらを睨み付けている。 「 ……成程、そういう事ですか 」 頭を抑えながら、映姫はおおよその事態を察した。閻魔として、こんな経験は一度や二度では無かった。 「 上白沢 慧音… 貴方は本当、よく慕われていたのね…… 」 どういう訳かは知らないが、慧音への審判結果が、里に知れ渡っているらしい。 人里は問題なく機能しているようだ。出来れば顔を出したかった者達も多々居るが・・・ 「 何してるの!! 」 その子供の親が飛び出し、突然映姫に土下座をして見せた。 「 ああ、ウチの子をお許しください!お許しください! 」 「 いえ…私は… 」 まるで人を食う妖怪に向ける様な態度。 他の者達の注目も集まってきた。 …これ以上ここにいるのは不味い。 様子を見に来て、閻魔が人に罪を重ねさせてしまっては笑えない。 歯痒さを感じつつも、映姫は逃げる様に里人を去った。 「 はぁ… はぁ… 」 よもや人里を追われる事になるとは。 かつては地蔵菩薩として人々を守ってきた神。 今は閻魔として人の罪を祓い清める神として 人間を見守ってきた映姫は、皮肉にも払った罪によって人に否定された。 「やれやれ…閻魔を辞した時、私はどこに行けば良いのかしらね」 映姫は自分が地蔵に戻った時、居場所に苦労しそうだな  と考えていた。 嫌われているのは昔から。 今更感傷に浸るべき事でも無い。 だが…  「 あんたに居場所なんざ必要ないよ 」 嫌われるよりも残念な、もう一つの事実に映姫が顔を伏せた時 後ろから聞き覚えのない声がした。 「 随分嫌われたもんだね、閻魔様 」 竹林に住まう不死鳥、藤原 妹紅がそこにいた。 聞き覚えが無い声なのも無理は無い。もう随分と会っていないのだから。 「 嫌われているのは元からだったと思うけどね… 」 「 ふぅん。けど、ここまで拒絶されたのは初めてでしょ 」 「 どうだったかしら 」 にこりと笑って会釈する映姫だが、妹紅からはあからさまな敵意と怒りが向けられている。 「 うふふ、貴方は私を好いてくれてるのかしら? 」 「 冗談 」 でしょうね と返す。心は里人と同じなのだろう。 「 慧音を…地獄に落としたって? 」 「 ええ 」 躊躇う事なく答えた。 欺いて何が変わる訳でも無い。 「 ……… 」 妹紅の睨みが一掃険しくなる。 「 誰から聞いたの? 」 「 地底の妖怪が、新地獄でハクタクが入ってきたって話をしてたらしくてね… 里人にも広がっちまった 」 「 やれやれ… 罪人の事を酒の肴にして話すなんて、少し注意が必要かしらねぇ 」 「 落としたんだ? 地獄に 」 妹紅の背から炎が上がる。 これが最後の警告だと言わんばかりに。 「 …ええ 」 炎がますます強くなる。 「 なんでよ!! 閻魔、アンタの目は節穴? あいつの何を見ていたんだ!! 」 「 彼女は『人間として』は正しかった…ですが半身の…妖怪としての役割を果たす事は出来なかった 」 「 そんな理由で… そんな理由で慧音は…!? 」 「 そんな理由とは心外ね… 大事な事なのですよ。理不尽な理由とはいえ罪は確かに溜まっていく、それを祓うのが私の… 」 「 お前えええええええ!!! 」 今にも殴りかからん勢いの妹紅。 穏便に事を進めるスペルカードルールの事など、頭に無い様だ。 元よりこれは一方的な敵意。決闘に至る必要も無い  と映姫は判断した。 「 …私が憎いですか、藤原 妹紅 」 「 当たり前でしょ、ふざけてんのあんた…! 」 映姫は妹紅を見据えると、静かに言った。 「 そう、貴方の憎しみは少し深すぎる。 どのような感情も何れは冷める…されど貴方の其れは里の人間の比では無い。   永劫、時を重ねる貴方はその深すぎる恨みを抱えるべきでは無い。   そのままその憎しみを抱え続ければ、貴方は人間である心すらも失うかもしれない… 」 永く永く同じ時を歩み続けた親友を、地獄に落とした張本人。 輝夜に向けていた物よりも、その恨み、憎しみは酷く燃え上がっていた。 「 一体誰のせいだと思ってる!? 」 「 私を恨むな… というのも無理でしょうね。 良いでしょう 」 映姫はため息に近い息を吐くと、言った。 「 貴方の気が済むまで殴りなさい… その恨みを、貴方は抱え続けるべきでは無い 」 映姫は悲しそうな顔を上げた。 妹紅はそれを確認する事もなく 「 うああああああッ!! 」 狂ったように叫び声を挙げると、思い切り映姫の頬を殴りつけた。 「 ぐ…っ!! 」 大きくふらついた映姫に掴みかかり、顔を、腹を、狂ったように殴り続ける。 「 お前が…お前が慧音の…!! 」 「 か  はっ… 」 映姫は苦痛に顔を歪めるも、妹紅の怒りの形相からはボロボロと涙が零れ落ちており その悲痛な表情が、映姫に抵抗や防御を躊躇わせた。 「 お前が慧音の何を知ってるんだぁぁぁぁ!! 」 「 ぐう…! がふっ 」 妹紅が腹を蹴りつけ、映姫はその場に崩れ落ちた。 「 う… こほっ ッ…   く…… 」 「 このぉっ!! 」 膝を着いた映姫の頬を蹴りつけ、地面に倒す。 どれだけ殴っても蹴っても、映姫の体は瞬時に回復して痣さえ出来ない。 映姫の体には確実に激痛が蓄積されているが、その不変さに妹紅は気付かぬ内に輝夜を重ね、余計に怒りを募らせた。 倒れこんだ映姫の腹を蹴りつけ、胸を踏みつけた。 「 ぐぁ…っ …は…ッ 」 妹紅は踏みつけていた足を上げると、その足に炎を纏わせた。 「 くらえ!! 」 その足を映姫の手に思い切り振り下ろした。 「 ぐあぁぁぁぁぁ! ……ああっ!!」 ブスブスと物が焦げる嫌な音と臭いが辺りに広がる。 凡そ数十秒、炎を纏った足で映姫の足を踏みにじった。 歯を食いしばる映姫の腕が炭に近くなってきた頃、ようやく妹紅が足を上げた。 「 くぅ…ううっ… 」 日常的に人を裁いた自分の罪を清める為、地獄で凄惨な罰を受ける映姫だが 勿論殴られれば痛いと感じるし、焼かれれば熱いと感じる。 自らに罰を与える閻魔の体は、そう出来ている。 だがそれだけの苦痛を受けても仕事に支障が出ぬ程に その回復力は異常な程に早い。 足を上げて数秒で、映姫の腕が元に戻った。 「 チッ!! 」 まるで効いていないと言わんばかりの回復力が気に入らないのか、今度は映姫に馬乗りになると その拳を顔に向けて振り下ろした。 「 ……っ! 」 頬に振り下ろされる拳が一掃激しさを増し、声も出ない。 だが振り下ろされる拳と一緒に、水滴が一滴、二滴と頬に落ちる。 「 ……? 」 泣いていた。 妹紅の悲痛なその顔が、映姫は殴られるよりも苦しかった。 「 お前が慧音の… うう… うぅぅぅ…… 」 腕を振り上げた妹紅の腕に炎が灯り、映姫の首を押さえつけた。 力を込めた一撃が自分の顔に振り下ろされる事を察した映姫は、ただ静かに眼を閉じて衝撃を待った。 「 うおおぉぉぉぉあああああッ!! 」 「 …… 」 しかし時間が経っても衝撃が顔を襲う事は無く、映姫の顔にはただ涙が零れた。 妹紅の炎は消え、映姫の体を殴り続ける。 とはいえ、その殴打は最早駄々をこねる子供のように…何の力も無く、手を振り回している様だった。 「 ……少しは、怒り… 収まり、ましたか… 」 へたりと手が下りた。怒りよりも虚しさの方が大きくなってきた様だ。 それを認めない という様に、妹紅は手を振り回す。 「 なんで… なんで慧音が地獄に行かなきゃいけないんだ… 慧音は…! 」 胸倉を掴み、叫ぶ。 「 … 地獄には…深さがある 」 小さな声で映姫がつぶやく。 「 …え? 」 「 彼女は私が認める程に善い魂だった… ただ、罪は清めねば転生さえ出来ない…   彼女次第ですが… 地獄の罰はおよそ数週間で済むかもしれない…   そうすれば… 」 「 数…週間? で、でも…! 」 思ったより地獄にいる日数が少なかったせいか、妹紅は混乱している様だった。 「 私とて、地獄の罰を  好き好んで与えている訳ではない…   私は慧音に… 生前言いました…  人からの畏れが少なすぎると… そのままでは半分の妖怪の血を…   否定する事になるのだと… しかし… 」 体は回復しても苦痛は引かない。 息を切らしながらも映姫は語りかける。 妹紅は掴んでいた胸倉を掴み、映姫の声に聞き入っていた。 「 彼女は言いました…  藤原妹紅…貴方が人間として生き続けている様に…    私も彼女と同じ様に… 生きていたいと… 」 妹紅が項垂れた。 「 そんな… 慧音…   じゃあ、あいつは私の真似をして、その罰を… 」 「 貴方は罪悪感を感じてはならない… 彼女は、貴方に感謝していたのだから。   貴方は…それを否定すべきではない 」 「 な、なんで、なんで先に言ってくれなかったのよ!!」 「 私が…地獄に落としたという事実が変わる訳でも無いでしょう… 」 妹紅が映姫の腹に乗せていた尻を退ける。 「 ……ごめん…私、あんたに八つ当たりしてただけだった… 」 「 良いのよ…  私を憎むのは当然だもの 」 「 い、今からでも人里に行こうよ! あんただって意地悪で判決出したワケじゃないって…   私が原因なんだって説明すれば! 」 妹紅なりの映姫への贖罪のつもりなのだろうが、映姫は苦笑して断った。 「 嬉しいですが、止めておきましょう… 貴方と私だけでは、大衆の意を覆す事は出来ない 」 「 でも…! 」 「 仮に事実を聞いたとしても、私が地獄に落とした事を彼らはきっと許さない 」 「 そんな… 」 「 どのような状態だろうと… 人は己の感情で動く生き物です。   それだけ慧音は慕われていたという事。 …ふふ、少し妬いちゃうわね 」 よろよろと立ち上がると、映姫はその場から立ち去ろうとした。 「 今日は… 本当にごめん…    こんな事言うのも何だけど… 慧音の行き場所が決まったら、またその時教えにきてくれないか…? 」 映姫は笑って 必要ない と答えた。 「 行き場は天国に決まっているでしょう。転生までの期間ですが… それは決めているわ 」 映姫はふらつきながら、妹紅の視界の外へと消えていった。 「 ……  う…っ 」 歩いて暫くして、映姫はその場に膝を着いた。 「 少し…殴られすぎたかしらね…   痛みがなかなか引かない… 数分は掛かるかしら… 」 「 それじゃ仕事に遅れちゃいますよ 」 聞き覚えのある声が耳に入る。 「 最近は相手の背後から声をかけるのが流行ってるのかしら…? こんな所で何してるのよ小町 」 「 そりゃこっちの台詞ですよ 」 不機嫌そうな顔を浮かべて小町が映姫を見下ろしていた。 「 みっともない姿ですね、何でそんなボロボロなんですか 」 「 …… 」 「 四季様に、他人に殴られてやる趣味があるなんて思いませんでしたよ 」 「 何よ見てたの… どうしてここにいるかと聞いているのよ 」 小町は鎌を振り上げた。 「 ちょいとあの不死の女の首を飛ばしてこようかと思いまして 」 「 小町…!! 」 映姫は小町を睨んだ。 本気の静止の視線を小町は冷めた表情で受け止めた。 「 …冗談ですよ 」 小町はひょいと映姫を担ぎ上げる。 「 …随分と酷い事になってましたよ、人里が 」 「 …… 」 「 ハクタクの審判結果が気に食わないからって、酷いもんじゃないですか 」 「 …… 」 「 正しい行いをしている四季様がこんな目に合って… 理不尽だとは思わないんですか 」 「 小町… 」 「 理不尽以外の何でもないでしょう…こんなの。 本当に良かったんですか、こんな事になって 」 「 私は一度も自分の出した判決に、後悔した事は無いわ 」 「 そうですか… でもねぇ。私から見ても、これは正しかったのかって思いますよ 」 映姫は顔を伏せた。 「 貴方は私を理解してくれているんでしょう? なら、それで良いじゃない 」 「 …納得がいきません 」 「 …いいのよ。元より私は、幻想郷の者ではありませんから… 」 小町は、やはり納得のいかない顔をしたが、それ以上何も言う事は無かった。 「 山の戦神よ、いらっしゃいますか 」 「 我を呼ぶのは何処の人ぞ 」 映姫はその後、山の神社の神を尋ねていた。 「 あら、閻魔様じゃないの。お久しぶりじゃないの 」 八坂神奈子。 かつては外の世界に忘れられ、こちらへ逃げ込んできた神。 長い長い時を幻想郷で重ねるにつれ、今やその信仰も不動の物となっていた。 「 お元気そうで何より… 巫女の様子はどうです? 」 「 まだまだ修行がアレだけど、まぁ資質はあると思うよ。 それで、今日はまた何の御用? 」 映姫は少し悲しそうに笑った。 「 突然現れるなり不躾ですが… 少し頼みたい事がありまして 」 「 …… 成程ねぇ。あんたの代わりに善行の何たるかを伝えてほしい と 」 「 ええ。 地獄に堕ちぬ方法を伝えれば、貴方への信仰はより深い物となる。  私の言葉を、そのまま伝えてくれるだけでも構いません。 …ただ、私の名は出さぬ様に 」 「 う~む 」 神奈子は顔を顰めた。 「 いや、それが嫌というワケじゃないんだよ。   ただねぇ… あんたは良いのかね? それを私に任せたら、あんたは恐らく… 」 「 構いません。 …今となっては、人間達には私の言葉は意味を成しませんから 」 「 …そうかい 」 では、よろしくお願いします と頭を下げた映姫は、山のように書物を神奈子に渡すと すぐに神社を後にした。 「 説教の音が、かつては幻想の音となっていたが…   今の外では再び戻りつつあるのかねぇ。 喜ばしいやら悲しいやら… 」 古い付き合いの者達も、時間と共に幻想郷からも消えていく。 また一人、もう幻想郷には訪れないであろう知り合いの一人を憂いながら 神奈子はパラパラと書物に目を通し、内容を暗記していった。 幻想郷縁起に名を残している、幻想郷担当閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥ。 その名と姿は残っていれど、その後暫くの世代交代まで、彼女の姿を見た者は誰も居なかった。 - うん切ないな。 -- 名無しさん (2009-09-07 08:31:21) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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