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~東方氷水録~

1章

『工房』

「にとりー!!」
にとりの工房にチルノが遊びにやってきた。
無邪気で子供じみた少女は笑顔でにとりの元へ歩み寄る。
「にとり、次の道具完成したのか?」
「ん?あーチルノか……。一応完成してるぞ」
古びた倉庫の片隅に置いてあるガラクタにしかみえない山からにとりはなにかごそごそとあさり始めた。
「おっ、あったあった。これだよ」
にとりが差し出したのは小さな受信機のようなものと十字キーやいろんなボタンのついたものであった。
それを見てチルノは不思議そうににとりを見つめた。
「これ、なんだ?使い方がわからない……」
にとりはそんなチルノを見て微笑む。
「これはな、コマンド入力することによって人を操ることが出来るんだ」
「人を操るのか!?すげー!にとりすげー!」
チルノが目を輝かせてにとりとコントローラを交互に見つめた。


チルノは普段からとてもいたずらが好きなのだが、チルノが考えるいたずらは幼稚ですぐにばれてしまう。
だが、チルノがうまくいたずらを成功させられないものかと考えていたとき、二人は出会った。
実験のために河でいろんな形の石を集めていたにとりが、そろそろ帰ろうかと思ったときだった。
チルノがうつぶせになって伸びているのを発見したのである。
チルノが言うには、どんないたずらするか考えていたら石につまずいたのだそうだ。
にとりはこの天然でドジっぽいところが気に入り、よく工房へ招くようになったそうだ。
にとりが作るアイテムに興味を持ったチルノは、にとりにいたずら用の道具は作れないかとたずねた。
それをにとりが喜んで引き受けたことでチルノのいたずらは今までの幼稚なものとはまるで違うものとなった。
だが、チルノはその道具をうまくつかいきれず、毎回のように追い返されているようなのだ。
だから、にとりがそんな道具をつくってあげているのもそんなチルノを理解しているからではないだろうか……。

 

「これ……どうやって使うんだ?」
チルノは早速使ってみたくてしょうがないようだ。
にとりは微笑んで言った。
「これは人間にしかきかないんだ。で、これのことをコントローラーというんだ」
「コントローラー……?」
「そぅ、コントローラー。この十字キーといっぱいあるボタンでコマンドをいれると相手の人間を操れるんだ」
「すげぇー!!コントローラーすげぇ!!」
チルノは再び目を輝かせて見つめた。
「さっそくいたずらしてくるよ!」
「いってらっしゃい」
にとりは、無邪気にはしゃいで家をでていくチルノをそっと見つめてほほ笑んだ。

「すげぇー。コントローラーすげぇー!」
そんなにとりに気づくこともなくチルノはもらったコントローラーを片手にたったっと紅魔館のほうへ走っていった。


「チルノはほんと元気だな……」
にとりはチルノのような子が一番自分にあっていると確信していた。
まるで我が子のように……。

 

 

3時間後……

『博麗神社』

「ふぁぁ……。退屈ねぇ……、事件のひとつでもおきないかしらね」
「昼から物騒なこと考えているな……。まぁ、いつものことかww」
「何よ……。毎日平凡に過ごしていて面白いことのひとつもないじゃないの」
博麗神社に住む博麗霊夢はこの神社の巫女であり、神様の力を体に宿すことで神様の力を使うことが出来る。
そのため、神社の巫女として妖怪退治などをしているが信仰はあまり深くなく、賽銭もほとんどない。
彼女が貧乏巫女と呼ばれてるのもそのひとつであろう。
また、博麗神社によく遊びに来るのは霧雨魔理沙。
人間でありながら魔法の森で暮らし、魔法を使うことが出来る魔法使いである。
二人は昔から仲がよく、気がつけば二人でお茶したりしているそうだ。

「面白いことねぇ……そんなもの頻繁にあっても困るだろ……」
「いいじゃないの、暇なんだし」
「そもそも暇な状況がおかしいと思うんだぜ」
「仕方ないでしょ?参拝客が少ないんだから・・・・・・」
「そうはいっても……なぁ……」
魔理沙がやれやれといった感じで考え込むと、霊夢も釣られて考え込む。
そんな時だった。
「あやぁ……お二人さん!暇そうにしているお二人に耳寄りな情報もってきましたよ!」
「まて、私は暇してないぜ。霊夢に山菜分けに来ただけなんだけどな……」
などと謎の声に反応する魔理沙。そのままふと声のほうを見る。
そこにあらわれたのは、いろんなネタを求めてあちらこちらへと飛び回る天狗の文だった。
その文が言うには、チルノが紅魔館にいたずらを仕掛けたらしいのだ。
「文……?チルノがいたずらをするのはいつものことじゃないの」
「そうだな……。それがどう耳寄りな情報になるんだ?」
チルノがいたずら好きということは幻想郷のほとんどのものが知っているのである。
しかも、毎回どんなことをしようと失敗しているのだ。
いまさらそのチルノのいたずらに興味を持つほどではないわけだ……。
だが、文はその二人を見て苦笑いしつつも続けて言った。
「ですが、今回のチルノさんのいたずらは成功しています」

そこで一瞬の沈黙……。

「「……へ?それほんとなの(か)?」」
二人が同時といっていいほどにハモると、文は再び笑った。
「はい、そのいたずらのおかげで紅魔館のレミリアさんはチルノを幽閉しています。レミリアさんはそうとう怒っているみたいですよ」
「そう……。チルノには恩があるしね……暇つぶしにはなる……か」
「おい、霊夢……助けに行くのか?」
魔理沙は不思議そうな顔して言った。
「そうよ……。何かおかしい?」
「……いや、いいんだけど」
「もちろんあなたも行くのよ?」
「まじか!?私は面倒だからパスしたいとこなんだが……。どうせ言っても連れて行く気なんだろ?」
魔理沙は顔を曇らせて言う。
「当然よ!」
霊夢は魔理沙の気持ちを気にしない様子で断言した。
しかし、結局のところ魔理沙も気になってはいるのである。
だが、自分から行動を起こすとめんどうなので、霊夢が発起人だとすれば魔理沙自身に害はないためである。
二人の会話を聞きつつ文は不適な笑みを零していた。
「これで約束は……」
「ん?何か言った?」
「あやぁ、なんでもないですよ?ただの独り言です」
文はあわてて手を振ってごまかした。
「でも文、なんであんたがわざわざ私たちにその情報を?」
霊夢がもっともなところをついてくる。
文は誤魔化すことなく素直に答えた。
「新聞のネタのためですよ」
「霊夢と私がチルノを助けに紅魔館へ行った……ってか?」
魔理沙が茶化して言うものの、文はこくりとうなずいた。
そして文がタイミングを見計らったように今の状況について話し始めた。
「チルノさんは朝、にとりさんにもらった道具で紅魔館にいたずらを仕掛けました。どんないたずらしたかについてはこれからまとめて話します」
「にとりが……?」
「はい。チルノさんはにとりさんに道具を作ってもらって遊んでいるようです」
「そうなのか……。どうりで最近チルノのいたずらが増えたわけだ……」
それから文はにとりとチルノの関係について知っている限りを話した。
「しかしあれだな、チルノがいたずら成功したのってはじめてじゃないのか?」
「そうね……。みたことも聞いたこともないわね……」

 


1時間前……

『工房』


カチャカチャ・・・・・・カチャ・・・・・・ガリガリ・・・・・・
「んー、ここの改良は難しい・・・・・・」
チルノが出かけてからというものの、にとりは工房で新しいアイテムの作成に取り掛かっていたが、なかなか成功せずに悩んでいた。
にとりは最近、外の世界の道具に深く興味を持っているため外の世界の道具を改良して新しいものを作るということを繰り返している。
チルノが自分の作った道具を使ってくれているのでにとりは研究に集中できているのだ。
「ふぅ・・・・・・。ちょっと休憩しようかな」
そういって背伸びをしたときだった。
「にとりさん、にとりさん!!大変です!」

にとりは驚いてドアの入り口のほうを見る。
バタンっとドアを開けて現れたのは天狗の文だった。
「どうしたの・・・・・・?」
「チルノさんのいたずらが成功したみたいです」
「へぇ、チルノが・・・・・・ねぇ。それはよかったじゃないか・・・・・・」
にとりは少し驚いた様子で言った。だが、むしろ嬉しい気持ちの方が多かった。
チルノのいたずらが成功するとは思っていなかったけれど、それはすなわち私の研究の成果があったということでもある。
素直に喜んでやろうと思った・・・・・・。

「それだけならまだいいですが・・・・・・」
「・・・・・・?」
だが、話はそれだけでは終わりではなかった。
にとりは不思議そうに首をかしげて文をみつめた。
「チルノがどうかしたのか・・・・・・?」
文は急に重い表情をして話し始めた。
「チルノさん、紅魔館のレミリアさんが地下に幽閉してしまったみたいなんです・・・・・・」

「っ・・・・・・!?」
にとりはその言葉をきいたとき、一瞬思考が停止した。
この子はなにを言っているんだ・・・・・・?
よく考えてみると、そもそもチルノのいたずらが成功したということ自体がおかしい・・・・・・。
あの子にあの道具が使いこなせるはずがないのだ・・・・・・。簡単な説明しかしてないのだからコマンドすら出来るはずがないのだ・・・・・・。
それを予想した上でチルノに道具を貸しているのだから・・・・・・。
「それ・・・・・・。い、いや、何の冗談を・・・・・・」
「冗談じゃないです、私は見ました。チルノさんが紅魔館の咲夜さんを妙なコントローラーで操っていました。どうやらレミリアさんの気にふれるようなことしたみたいです・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
くそっ・・・・・・、私のミスだ。こんなことになるならあのコントローラーを渡すんじゃなかった・・・・・・。
にとりは、いままでチルノが自分の作った道具でいたずらに成功したことがなかったため、万が一にも成功することなど考えていなかったのだ。
にとりはチルノにコントローラーを貸してしまったことを後悔し、自負の念にかられていた・・・・・・。
そんなにとりを見ていた文はなにを思ったかにとりの肩をそっと叩いて言った。
「何落ち込んでるんですかにとりさん、そうやって考え込んでいるよりもチルノさん助けに行ったほうがよくないですか?」
そういってにとりに微笑みかける。
にとりはこくっとうなずいて立ち上がった。
「ありがとう・・・・・・。でも、なんで文がチルノの情報を私に・・・・・・?」
少し落ち着いたのか、ふと疑問に思ったことを告げてみる。
「え?私ですか?そりゃぁもちろん記事のためにきまってるじゃないですかぁ」
そういってにとりの肩をポンポンと叩く。
「そうか・・・・・・」
にとりは苦笑いしてありがとう、と再び告げた。
文がそう言ったのも、気持ちを切り替えるために場を和ませる意味でに言ってくれたのだと思ったからである。
せっかくだからと、にとりはその気遣いを素直に受けることにした。
「それなら、チルノを助けたら私が貸してる操り機で霊夢と魔理沙のちょっとあれな写真をとらせてあげよう」
そういってにとりも笑って見せた。
「ホントですか?本気にしちゃいますよ?」
「チルノを助けるためにちょっとくらいいいと思うよ。特に霊夢はチルノに借りがあるみたいだし・・・・・・」
そんなこんなで一通り落ち着いた頃を見計らって、チルノを助けるための作戦を話すことにした。


『工房』


「……以上、説明したとおりにお願い」
「わっかりましたー。霊夢さんと魔理沙さんを思うように操れるなんて夢みたいです。これは面白いネタになりますよぉ」
「ちょっと待った、報酬はチルノ取り戻してからだよ?」
半ばはしゃいでいる感じの文を見て、にとりは苦笑いまじりにそう言った。
「わかってますよー。私は記者です。ネタのためならどんなことでもしますって!」
「そうか……」
にとりは苦笑いしながらそう頷いた。
それから文は準備を始めながらも、これからすることの再確認も含めて数十分前の会話を思い出していた。




「まず、チルノを助けるには何が必要だと思う?」
「えーとぉ、しっかりとした作戦じゃないでしょうか?」
「そうだね。じゃぁ、しっかりとした作戦を考えるには何が必要だと思う?」
「またですか……、しっかりとした作戦を考えるには……ですか」
にとりはすでにするべきことは決まってるとでも言うかのように文に質問攻めをする。
だが、にとりが意図するところを文はまだ理解しきっていなく、思考をめぐらせた。
「しっかりとした作戦を考えるにはいろんな人の意見が必要ってことでしょうか」
「うん、そうだ。ということは二人だけじゃ出る意見は少ないということ。だからチルノを助け出すのを手伝ってくれる人たちがほしいわけ」
そこまで言ったところで文はにとりのいわんとすることを理解したらしく、大きく頷いた。
「ですが、チルノさんを助けるために動いてくださる方っていますかねぇ?」
文のその質問に軽く頷いてにとりはそのまま話を続ける。
「そこで、だ。私が作った道具が必要になる。これだ」
そういって取り出したのは、チルノが持っていったものと同じ型のコントローラーとその受信機のようなものであった。
にとりが言うにはチルノに持たせているアイテムは毎回予備を作っているらしいのだ。
いつもならチルノは毎回のようにいたずらに失敗しているから、作った道具も壊してくることが多いらしい。
そういうわけで今回の道具も予備が3セット残っていた。
にとりが文に説明したのはチルノに貸したときとほぼ同じ内容のものだったが、ふたつだけ違う箇所があった。
コントローラーで効果があるのは人間だけではない。ということである。
チルノに説明したとき、人間にしか聞かない。というのは人間のほうがコントローラーからの命令にかかりや萃香らである。
このコントローラーは、相手の精神にもぐりこんで各部位に刺激を与えることで思考をそちらのほうに向かせる、というものである。
だが、これを人間ではなく妖怪などの精神力の高い相手に使った場合、コントローラーの指令が届かないのである。
そして、もうひとつはこの道具は相手を完全に支配して操るものではないということである。
コントローラーで命令を送っている間にも本人の意識はのこっているし、記憶にも残るのである。
このコントローラーは受信機をつけた相手に特殊な波長の電流を流し、神経ごとに刺激を与えるのだ。
例えば、健康的で一般的な規則正しい生活をしていて、精神力もそこまで高くない人間に受信機をとりつけたとする。
その人間にコントローラーから眠気を誘うような電波をコマンドし、送ったとしよう。
するとその人間は、送った直後から急激に眠気を感じ始めて眠ってしまうのである。
しかし、さきほども言ったようにこれが精神力の高い相手だった場合はとても難しい。
眠気があっても気合で起きている……なんてことは経験ある人もいるだろう。つまりはそういうことなのである。
このコントローラーはあくまで命令を出すだけであって、その命令に従うかどうかは命令された本人しだいなのである。
だからこそチルノが使いこなせたということ自体にも疑問を感じるのであるが。

とにもかくにも、人員を増やすためににとりが考えた今回の作戦はこうである。
文が博麗神社へ向かい、暇してるであろう博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人に面白い事件がありましたよと告げる。
うまく話をつなぎつつ二人の隙を見てコントローラーの受信機を取り付け、後はにとりが二人を誘導するというものであった。
それが成功するかは文次第で、受信機取り付け後はうまく誘導するということであった。



「文、準備は大丈夫?」
にとりが確認すると文は大きく頷いた。
「はい♪準備は万全です」
「よし、いくよ……」
二人はお互いを見、手をあわせると博麗神社に向かって各々行動を開始した。





『博麗神社』

「……というわけなんですよ」
文は霊夢と魔理沙に、にとりからの話も含めあらかた自分の知っている情報を一通り伝えた。
そして一息つき、微笑んだ。
「しかし霊夢、珍しいこともあるもんだな……チルノがそんなに難しい機械を扱っただなんて……な」
「そうねぇ……。で、私たちはどうしたらいいのかしら?」
「とりあえずにとりさんの工房に集まってもらいます。お二人は工房へ来てください」
「「わかったわ(ぜ)!!」」
文は二人を交互に見、お辞儀をすると博麗神社から飛び去っていった。
と、同時ににとりも近くの木の茂みから離れていった。
そして、文を見送った二人は、お互い目を合わせるわけでもなく空を見上げながら言った。
「しかし霊夢、結構乗り気じゃないか」
「魔理沙こそめんどくさいとか言っていたじゃないの」
「ん、まぁ退屈はしなさそうだからな」
「そうね……楽しめそうだわ」
などと言い争ったかと思えば二人同時に笑い出す。
本当の意味で仲がいい二人ということなのであろう。
そして、霊夢は工房に向かう準備をはじめ、魔理沙は同じく準備をするために家へと帰っていった。


『工房』

それから数時間後、4人はにとりの工房に集合した。
にとりはあらためて概要を説明するとともにまだメンバーを追加する予定であることを告げた。
その中の一人にアリスが上げられていた。
アリスを参加させるために魔理沙が必要だったため、誰よりも先に霊夢と魔理沙をメンバー入りさせたわけなのである。
にとりは早速魔理沙にアリスを誘うように告げた。
「アリスが魔理沙に好意を抱いているのは知っているだろ?」
「まぁ一応な」
「だから、それを利用させてもらう。魔理沙が頼めばアリスはきっと参加するはずだ」
しかし魔理沙は、むっとした表情をあからさまに見せた。
魔理沙は、その計画にはあまり乗り気ではないようだった。
「私は人の心を踏みにじるような行為はしたくないぜ」
「今回だけでいいんだ。お願いするよ」
「けどな……」
それでも魔理沙は話に突っかかるような態度を見せた。

「……」
にとりは意を決したかのように膝を突いた。
「頼む、今回だけでいいんだ。チルノはたしかに天然でドジな子だけど。たしかにいたずら好きではあるけどっ……。けど、私にとっては大事な親友なんだっ。今回だけでいい。協力してくれないか……」
にとりは涙を必死に堪えて魔理沙を説得しようとする。
彼女がここまで感情的になることは滅多にない。それほどチルノが大事ということなのであろう。
だからこそ、それは魔理沙を説得するには十分であった。
魔理沙は大きなため息をついてやれやれ、といった感じで苦笑いした。
「……わかったぜ。今回だけだからな」


その後の話し合いの結果、アリスに加えて萃香と大ちゃんの合計3人を誘うこととなった。
魔理沙はアリス、霊夢は萃香、にとりは大ちゃんを誘いに行くといった感じだ。
文はというと紅魔館の様子見をするらしい。敵地の情報を得ることで、作戦を有利に進めやすくするためである。
にとりが軽食を用意していたので、4人は食事をすませてから少し休憩し、それから各自行動を開始した。


『魔法の森~アリス邸~』

魔理沙は、にとりの工房から解散したあと一度家に戻り、ひとしきり落ち着いてからアリス邸へと来ていた。
「おーい、アリスいるか?」
外から比較的大きめの声で叫ぶと、家の中からガタガタっと慌てているような物音がなり始めた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
アリスが家の中から叫びかえして来たかと思うと、一層慌ただしい物音が響いた。
それから少し待つと、急にドアがガチャリと開いた。
「よっ!久しぶりなんだぜ!」
「魔理沙……お待たせ。入って」
そして促されるままに魔理沙は家の中へ入る。

「そこのこたつにでも入って待ってて」
そう言ってアリスはキッチンへと向かった。
言われるままにこたつへ入り、することもないので何気なくあたりを見回す。
周りにある棚には、たくさんの人形が段ごとにきれいに座らされていた。
アリスはたくさんの人形を同時に操り、それぞれ別の行動をとらせることができる能力を持っている。
実際、今キッチンにいるアリスの方を見ると、アリスが紅茶をいれている最中に棚と同じ人形たちがせっせと働いている。
「あいかわらず人形だらけだな。というより前より増えてるんじゃないか?」
魔理沙はキッチンに聞こえるように少々大きめの声で言った。
「そうね、最近は平和だからすることなくてね。無駄に増えちゃうのよ」
「じゃあ、大丈夫そうだな」
「……? ちょっと待っててね。今そっち行くから」
そして少しの間のあと、アリスは魔理沙の向かい側に座ってこたつに入った。
「それで、どうしたの急に押しかけてきて?」
アリスは用意した紅茶と煎餅を差し出しながら本題を聞く。
「あぁ、実は妖精のチルノがいたずらに成功したそうなんだ」
「うん」
「それでな、その相手が紅魔館だったらしくてな。チルノが紅魔館の地下に幽閉されてるらしいんだ」
魔理沙はたんたんと文やにとりに聞いたことを話していく。
そしてひととおり話し終えたところで、魔理沙は紅茶を一口飲んで一息つく。
「それで?その話をするためだけにきたわけじゃないでしょ?」
「いや、それだけだ」
「は?」
「いや、冗談だ。ちょっと話すのが疲れただけだぜ」
魔理沙は苦笑いしながら茶化してそういう。
その様子を見るなり呆れた様子でアリスは苦笑いする。
「で、本題は?」
「つまり、アリスもそのチルノを救出するのを手伝ってほしいんだ」
「私が?私はチルノとは何の関係もないんだけどな……」
アリスは少しめんどくさそうに言う。
たしかに魔理沙の頼みではあるが、自身にまったく関係のない妖精を助けるの少々面倒だったため、乗り気ではなかった。
「アリスは私と一緒にやるのは嫌なのか?」
「あ、いや……。別に嫌ってわけじゃないんだけど……」
「じゃあ、いいじゃないか、な?」
「うん……わかった」
魔理沙は、にこりと笑ってありがとうと告げる。
そして、しばらくの間会話を交わして工房へと向かった。


『博麗神社』

にとりの工房から解散した博麗霊夢は、萃香を神社に呼んで話をすることにした。
「しかし、にとりの提案とはいえ、萃香が役に立つとは思えないんだけどねぇ・・・・・・」
頭を抑えながら呟くものの、にとりの作戦であるから何か裏があるのであろうと思う。
萃香がくるまで暇なので、神社の掃除でもするかと立ち上がったそのときだった。
「ぉーい、霊夢ぅ!」
萃香が見計らっていたとでもいうようなタイミングで現れる。
彼女は片手にお酒の入ったひょうたんの紐を掴んで走ってくる。
「霊夢、用事ってなんd……ぅあ!?」
「ぇ、ちょっと萃香っ!?」
萃香は霊夢に向かって走ってきたが、その手前で石につまずいて倒れてしまう。
萃香は半ば涙目になりながらも起き上がり、霊夢を見つめた。
どうやら転んだせいで膝を怪我してしまったようだ。
「霊夢ぅー、痛い……」
「はぁ……仕方ないわね。消毒してあげるからこっちへいらっしゃい」
霊夢は神社の入り口の玄関の段に座らせて、そこで待っているように指示して救急セットとペットボトルに汲んだ水を持って玄関へと戻った。
「ほら、これで傷口洗って」
そう言ってペットボトルを差し出し、救急セットからアカチンと大きな絆創膏に加えて包帯を取り出した。
萃香が水で傷口をしっかりと洗う。
その光景を見て、霊夢は少し微笑む。
「ほら、足をこっちに向けて」
そういって萃香がこちらに足を出すと、霊夢は布にアカチンを少し垂らして、萃香の膝にあてがった。
「っ!!霊夢、沁みる……」
「我慢なさい。自分で転んだのがいけないんでしょ?」
「そうだけど……」
霊夢は膝の消毒が終わると、怪我より少し大きめの絆創膏を膝に貼り付け、包帯を巻いて固定した。
「はい、これでおしまい」
そういって霊夢は軽く膝をぽんっと叩く。
「痛っ!……霊夢ぅ……」
「それだけ元気があれば、大丈夫よ」
そういって霊夢は苦笑いする。
萃香はなにやらぶつぶつと言っていたが、霊夢は聞こえてないふりをする。

「霊夢、ありがとう」
萃香は、一応それでも治療してくれたのだからと、霊夢にお礼を言う。
「……どういたしまして」
霊夢は少々てれながらも、素直に微笑む。
ここでいつもなら治療代!とでも言っているのだろうが、今回はチルノの件があるので言わないでおく。
霊夢は萃香と食べ物の話や以前行った宴会の話などを話していたが、そんな最中もチルノの件で話を切り出すタイミングを見計らっていた。そんなときだった。
「……そういえば最近、私のまわりでおかしなことが起こってるんだよね……」
「萃香……?」
萃香が急に話をがらりと変えた。まるで霊夢がここへ呼んだ理由を知っていたかのように。
「霊夢、私に用があったんでしょ?話をしてよ……」
霊夢は驚いた表情で萃香を見つめた。
あれ?おかしい……。萃香ってこんな子だっけ?
萃香の様子が少しおかしく感じた霊夢は少し後ろへ後ずさる。
「霊夢ぅ?用件って何なの?」
……あれ?気のせい……かな。
ふと萃香を見ればいつもの萃香に変わりなく、どこも変わった様子は見られない。
「霊夢……?」
萃香が心配そうにこちらを見る。
……気にしてもしょうがない……か。
霊夢はとりあえずチルノの件を話すことにした。
「萃香は妖精のチルノって子知ってるよね?」
「チルノ……?あの氷の妖精のこと?」
「そう、いたずらが好きな妖精のことよ」
「それなら、知ってるぞ!あの妖精は有名だからなっ」
それなら話しやすい、と霊夢は軽く苦笑いする。チルノがいたずら好きで有名なのは確かだけど、この萃香までもが知っているとは思っていなかったのである。
霊夢はにとりの話を簡単に説明した。
萃香は最後まで真剣に聞いてくれていたので助かった。
最後まで話し終わったところで萃香に聞いてみることにした。
「……というわけで、萃香にもチルノを助けに行くの手伝ってほしいのよ」
「霊夢ごめん、手伝いたいところなんだけど、実は私のまわりでもおかしなことが起きているんだ。だから手伝えそうにない」
「おかしなこと……?どんな……?」
「ごめん、いくら霊夢でもこの話には関係ないから……」
「ちょ、萃香!!」
萃香はそう言うなり、慌てて去っていってしまった。
「萃香・・・・・・」
霊夢は萃香を心配に思いつつも、とりあえずこのことをにとりに告げようと工房へ向かった。



『妖精の住む湖』


「湖まで来たはいいけど、大ちゃんはどこに……」
大ちゃんを探しに来たにとりは、チルノが湖の近くで過ごしているらしいため、そこにいるのではないかと湖の回りまで来ていた。
みんな、うまくやってくれているかな……。
ふと、アリスや萃香を呼びに行った二人がにとりの脳裏をよぎる。
「あれだけ涙浮かべて説得したんだからきっと必死になって説得してくれているとは思うけどねww」
にとりは、すべて計算ずくだったとでも言うかのように苦笑いした。そうこう考えているうちにも湖のまわりを探索していたが、すぐに見つかるはずもなかった。
にとりは、チルノを自分の工房に呼ぶことはあっても自分からチルノの方へ行くということはなかったためである。
そこでにとりは誰かに聞いてみようかと、あたりを見渡した。
しかし辺りには誰かいる様子もなく、にとりがどうしようかと考えていたところ、ふと近くの茂みで何が動いたような気がした。
「……っ!? 誰だ?」
向こうからの反応がないため、にとりはそっと気配のするほうへ向かっていった。ゆっくりと近づいていくものの、向こうから何かアクションがある様子もない。
にとりは、自分の気のせいかと思いつつそこへ行くと、草の茂みで大ちゃんがこちらを見ているのに気がついた。
「大ちゃん……?どうしたんだい、そんなとこで」
「あ、にとりさんでしたか。ちょっとチルノを探していたんですよ。チルノ、にとりさんのとこへ行くって言ったきり帰ってこないんです。にとりさんのところに来てませんか?」
そういうことか。大ちゃんはチルノのお姉さん的な面もあるからな……。きっと必死に探していたんだろうな。
「チルノは一度来たよ。私の作った道具を持っていたずらに出かけちゃったんだ」
「やっぱり……。そんなことじゃないかとは思っていたんですけどね。いつも失敗して帰ってくるチルノを看病する私の身にもなってほしいです」
大ちゃんはチルノに対する文句をぶつぶつと言いながらも、半ば安心した様子でにとりを見る。
その様子をみているとにとりはとてつもなくやるせない気持ちになった。
この大ちゃんに今チルノのことを話したらと思うと、にとりは言葉を発することができずに俯くことしか出来なかった。
「……にとり……さん?」
大ちゃんは、にとりが俯いてしまったことで不安に駆られたのかにとりをそっと見つめて言う。
にとりは、ここはあきらめて大人しく引くことにした。
「い、いや、なんでもないよ。チルノならそのうち帰るんじゃないかな?」
「そうですか……?」
大ちゃんはどこかしっくり来ない様子だったが、そこまで深く追求するつもりもないようだった。
「そういえば、にとりさんはここへ何かご用でしたか?」
「いや、いいんだ。もう用件は済んだから帰るところだったんだ。それでちょっと何か気配を感じたから……」
「あ、そうでしたか。では、長く引き止めちゃ悪いですね……」
そういってにとりに一礼すると、大ちゃんは草陰の奥のほうへと走って行った。
……しまったな。こんなつもりじゃなかったのに……。
にとりは頭をガリガリと掻きながら大きなため息をつく。
「大ちゃんに声をかけたのは失敗だったか……」
と呟きながらも、にとりはとりあえず工房に戻ることにした。
他の二人がそろそろ工房に戻っている頃である。
にとりは、なんとも言えない気持ちになりながらもとにかく工房へと来た道を戻るのであった。




『紅魔館』


「咲夜、紅茶まだかしら?」
「もう少々お待ちください。すぐにお持ちいたしますわ」
レミリアは昼間だというのにベランダの外のテラスに出て、日傘を差しながらくつろいでいた。
彼女は吸血鬼なので直射日光は苦手なのだが日傘を持ち歩くことで、基本的にはどこにでも行けてしまうのである。

「最近は退屈ね……なにも面白いことがないわ」
「あら、それでしたら今朝あったじゃないですか。あ、紅茶できましたよ」
そういいながら紅茶を差し出す。
咲夜はにこりと微笑みながらレミリアの向かい側に座る。
「今朝……?あぁ、氷の妖精のことね。あれはいたずらにしにきて何もしないで自爆してたのを美鈴がつれてきただけじゃないの。あまりにも可哀想だからとりあえず地下の仮眠室で寝かせてるだけでしょ? というかこの紅茶は、普通の紅茶……」
「珍しい紅茶です」
「……。きょ、今日は何を混ぜたのかしら……?色がおかしい、というか紫っぽい感じ」
「モンターニュブルーをヒントにがんばって青い紅茶を作ってみました」
「青い飲み物なんて斬新ね。ぜんぜん青くないけれど……」
青というよりも、明らかに紫色といったほうが正しいといえるそれは普通の人間が飲んではいけない、そんな感じを受けるほどに毒々しいものであった。
「はぁ……ほんと、退屈ね。面白いことおきないかしらね……」
レミリアは、とことん退屈そうに呟いた。

その頃、地下の図書館ではパチュリーがいろんな本を読んでいるが、どうも慌ただしい様子。パチュリーはチルノの面倒を見るハメになったため、チルノを寝かせている仮眠室と図書館を行ったり来たりしているのである。
「どうして私がこんなことしなきゃならないのよ……」
パチュリーは、少々息が切れ気味にため息をつく。
何故パチュリーがチルノの面倒を見ることになったかというと、いつも働いているメイドの妖精たちが今日は休暇で旅行に行っているのである。
「私が喘息で激しい運動は苦手と知っててこういうことするんだから、咲夜も鬼畜よね……」
パチュリーは、そう言ってため息をつきつつも仕方ないか、と思って行動することに決めた。
どうせ今日一日でチルノは起きるだろうし……ね。
パチュリーは仮眠室ですやすやと眠るチルノを見つめると、いたずらばかりしてるこの子にも少しは可愛いところもあるんだなと微笑んだ。

一方紅魔館の門前では、美鈴がしっかりと門番を……
「んっ、むにむにゃ……」
門番を……。
「むにゃむにゃ……」
どうやらいつものごとく寝てしまっているようだ……。
「美鈴さん?」
「ん、……」
「美鈴さん?」
「むにゃむにゃ……」
「門の入り口は問題なし……っと。そろそろ帰りますかね!」
紅魔館の周りをぐるぐると動き回り、中の様子や紅魔館までの道をくまなく調べ終わった文は、工房へと帰ることにした。



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- 霊夢がチルノに借りがあるってどういうことだろう  -- 名無しさん  (2009-08-30 22:28:54)
- エネミーコントローラーですね わかります  -- 名無しさん  (2009-08-30 22:43:16)
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復元してよろしいですか?