【太歳星君が幻想入り】 「だからあれは災いを呼ぶのよ!信じてよ!」 「はいはい、わかったからわかったから」 薄く雲が浮んだある晴れた昼下がり、博麗霊夢はお茶を啜りながら、ある一匹の妖怪を面倒そうにあしらっていた。 事の始まりは突如幻想郷に現れた、紅魔館の湖に現れたある一匹の妖怪であった。 その妖怪は大きなナマズの姿をしており、いつの間にか大ナマズと呼ばれるようになった。 その妖怪は柔和な物腰と、愛らしい姿ですぐさま幻想郷へと馴染み、今ではすっかり幻想郷の一員である。 しかし、ただ一人、その存在を悪だと言うものがいた。 それこそ、今霊夢に直談判を訴えている紅美鈴である。 「いい!?あれは太歳星君といって、恐ろしい祟り神で……!」 「あのねぇ、それあんたの夢の話でしょう?それにまだ異変も何も起こってないじゃない?妄想も大概にしなさいよね」 美鈴は明らかに邪険に扱う霊夢にあからさまに表情を歪める。 「皆はあれがどんなものか知らないからそんな事が言えるのよ!」 「……あんたいろんな所でそんなこと言ってるんでしょ?いい加減やめたほうがいいわよ。そのうち誰からも信じられなくなるわ」 「……っ!!分かったわ……失礼したわね……」 美鈴は唇を噛みながら、空へと飛んでいった。 美鈴は今のように、あらゆる所で訴えかけていた。 紅魔館はもちろん、白玉楼、永遠亭、妖怪の山、地底、命連寺……しかし、誰も彼女の訴えを信じてくれるものはいなかった。 いつしか美鈴は影で嘘吐き呼ばわりされるようになり、誰からも信用されなくなっていた。 霊夢は去っていく美鈴の後姿を眺め、その姿に、いいようのない何かを感じた気がしたが、とりあえず気のせいとして片付ける事にした。 空は、いつの間にか厚くなった雲によって太陽が隠れ、ぽつぽつと雨が降り始めていた。 ◇◆◇◆◇ 太陽は地に沈み、空はバケツをひっくり返したような土砂降りが降り、あたりは一寸先も見えない闇があたりを支配していた。 その冷たい雨にうたれ息を荒げながらも、美鈴は湖の真上に浮び、目下に広がる湖を眺めている。 「さあ出てきなさい太歳星君!!私だけでも……私だけでもあんたと戦ってやる!!」 美鈴は五月蝿く響く土砂降りの音に負けない大声で湖に叫んだ。 すると、湖の中で妖しく光る双眸が美鈴を捉え、ゆっくりと、そしてねっとりとした声が響いた。 「可哀想に……誰よりも幻想郷を愛しているのに、誰もお前を信じない。お前は誰からも信用されていないのだよ、悲しいのう……」 「五月蝿い!!黙れ黙れ黙れっ!!うおおおおおおおおおおおおおお!!」 美鈴は腕にありったけの気を纏わせ、湖の中にいる存在に向かって飛びかかっていき―― ◇◆◇◆◇ その日も霊夢は縁台でひとりお茶を啜っていた。 「やっほー霊夢、元気かー!」 と、そこへ空から見知った顔がやってくる、霧雨魔理沙だ。 だが、その服装はいつもと違って、とてもお洒落な服装を着ていた。 「どうしたのよ魔理沙、その服装。それにやけに上機嫌じゃない」 「いやー、一応私だって女の子だぞ?たまーにこういうの着たくなることだってあるさ。それにな、うっかり香霖に見られちまったんだけど『かわいい』っていってくれてな!」 「ふーん、それで浮かれてその格好で飛びまわってるわけ」 「まあな、霊夢もたまにはかわいい服でも着てみたらどうだ?」 「興味ないわよ」 「淡白だなあ」 「いいじゃない別に」 霊夢は浮かれる魔理沙を興味がないようにあしらっていると、思い出したように魔理沙は話題を変えてきた。 「そういや聞いたか?どっかいってた美鈴が突然戻ってきたらしいぜ」 「え?そうなの?」 美鈴は霊夢と分かれたあの後、行方不明になっていた。 霊夢は美鈴の事を聞いて、いままで妙な引っ掛かりを感じていた。 いうなれば、それは勘であった。 「それがおかしくてよ、あんなに大ナマズの事悪く言ってたくせに、帰ってきたら大ナマズの事やたら褒めちぎりだしてよ。あれかな、やっとわかったってことかな」 「う、うん……」 生返事をするも、霊夢の感じた妙な感情は消える事はなかった。 もっと彼女の話をしっかり聞いてやるべきであったのではないか。 私はもしや、何か大きな事を見過ごしてしまったのではないか。 「ねえ魔理沙、私ちょっとで掛けてくるわ」 「え?一体どこにだよ、オイ霊夢ー!」 霊夢は、急変したと言う美鈴の話を聞き異変の匂いを感じ取った。 ◇◆◇◆◇ 「美鈴!」 「あら霊夢、お久しぶり」 霊夢は美鈴と会うために紅魔館の門に来ていた。 美鈴は、以前と変わらない笑顔で門の前に立っていた。 「言ってることがこの前と正反対らしいじゃない、一体どうしたのよ」 「霊夢、私は今まで間違ってたのよ。大ナマズ様は幻想郷を導いてくれる救世主だわ。とても素晴らしい存在なのよ」 「……あんた、一体何があったのよ」 美鈴は霊夢の問いかけを聞くと、とても満ち足りたような顔で笑いかけて、言った。 「霊夢も、大ナマズ様に会ってみれば、わかりますよ」 ◇◆◇◆◇ ぽたぽたとした音が、木霊して響いていた。 霊夢はぼやけた視界で目を覚ます。 動こうとしたが、動けない。体が縄で椅子に縛り付けられていた。 椅子も縛り付けている縄もかなり頑丈そうで、身動き一つすることが出来なかった。 だんだんとはっきりしてきた視界で辺りを見回すと、どうやら自分は薄暗い地下室のような場所に閉じ込められていると言う事を霊夢は理解し た。 さっきから聞こえてきたぽたぽたという音は、天井から染み出た水が滴り落ちている音であった。 目の前にはとても巨大で重たそうで観音開きの鉄扉がそびえていた。 どうにか抜け出せないかともがいていると、その鉄扉がゆっくりと開かれた。 扉を開いているのは美鈴であり、そして、その後ろにいるのは、見間違うことのない存在だった。 「大ナマズ!!」 「こりゃあ霊夢、元気そうで何より」 霊夢はだんだんとこうなる事の前の事を思い出してきた。 霊夢は美鈴に連れられ湖まで連れてこられた。そして湖の真上に浮ぶと、突如湖の底から何かがなにやらひも状の何かが襲ってきて―― 「ああ、ありゃわしのひげじゃ」 「……何よあんた、心でも読めるの?」 「いいや、貴様が分かりやすい顔をしていただけじゃ」 「で、私をこんなところに閉じ込めて何のつもり?」 「いいや簡単な事じゃよ、これからわしが幻想郷をのっとるのを見て見ぬふりをしてほしいだけじゃ」 「ふざけないで!そんなこと出来るわけないでしょ!?」 それを聞くと、大ナマズは側にいる美鈴に目配せをする。 すると、美鈴の魅力的な足が、霊夢の腹部を思い切り蹴り飛ばした。 「っ……!!」 あまりの痛みに霊夢は声にならない悲鳴を上げる。 「別に素直に応じてくれるとは思ってないわい。だから、体に教えるだけじゃ。ああ助けなんて期待せんほうがいいぞ。ここは湖の底にあって、 しかも外部にあらゆる霊力も気配もとどかない。スキマ妖怪でも気づくのは無理じゃろ」 「はぁ……はぁ……」 霊夢はまだ苦痛から開放されず、みっともなくよだれを垂らしながら苦しんでいた。 「ねえ霊夢、太歳星君様の言うこと、聞いてくれない?」 「だ……だれが……」 「ですよねー!」 「ぐひゃあ!!」 美鈴は霊夢の回答を聞くと拳を握り締め霊夢の顔を殴りつける。歯が何本か抜ける感触を霊夢は味わった。 「ああ……ああ……」 「あ、ちょっとやりすぎたわね」 そういうと美鈴は懐から妙な液体の入った注射器を取り出し、嫌がる霊夢にそれを無理やり打ち込む。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛づい゛!あ゛づい゛!あ゛づい゛よ゛お゛!!!」 その瞬間、霊夢の全身を地獄の炎に焼かれるような痛みが駆け巡ったかと思うと、いつの間にか霊夢の体は元通りになっていた。 「これは永遠亭特性の治癒効果を高める薬でね、人間には効き過ぎて焼かれるような痛みが来るような劇薬だから本当は使っちゃいけないんだけ ど、別にいいよねぇ?」 「ふっふっふ、それじゃあ次はわしのばんじゃな」 「いや……いやあ……!」 霊夢は泣いて懇願するも、大ナマズは聞こうとしない。 そして大ナマズのひげが霊夢の素肌についたと思うと、急にそのひげが光を帯びだしてきた。 「ま、まさかっ!!」 「そう、そのまさかじゃよ」 その瞬間、大ナマズのひげから電流が流れ、霊夢の体を駆け巡った。 「いぎゃあああああああああああああああああああああ!!」 体に流れた電流は、確実に霊夢の体を駆け巡り彼女の体を蹂躙したが、大ナマズが加減をしているのか、霊夢の巫女としての神得のおかげなの か、死に至ることはなかった。 「はぁ……はぁ……」 「美鈴、薬を」 「はい太歳星君様」 美鈴は霊夢に休む暇を与えず薬をうつ。 「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 それゆえ、霊夢は体は回復したとしても、実質的な痛みとしては休みなく襲ってくる。 霊夢の精神が、それに耐えれるはずもなかった。 「あらあら、気を失っちゃいましたか」 「それじゃあ今日はここまでじゃな」 美鈴と大ナマズがゆっくりと部屋からでていき、部屋に残ったのは気を失い失禁をしている霊夢だけだった。 ◇◆◇◆◇ それから5日間、霊夢にとって地獄の日々であった。 肉体的な暴行はもちろんの事、外界から取り寄せた多種多様にわたる拷問道具、大ナマズによる妖術、無理な蘇生、それによって霊夢の心と体 は既にぼろ雑巾のようにずたずたであった。 そして5日目の拷問を終えた後、生気のない目で地面を見つめる霊夢に対し、美鈴がポツリと呟いた。 「……大変よね、博霊の巫女って」 「……え?」 「だってそうじゃない。誰とも深く関われない。自分のやりたいことなんてできやしない。ただ神社で何にも関心がないように居座り、妖怪からは 憎まれ人からは疎まれる。孤独は辛いわよね」 美鈴の言葉は、弱りきった霊夢の心に深々と突き刺さっていく。 「う、うるさい……」 「貴女はこれからもずうっとひとりぼっち。やりたいことも出来ず、一生幻想郷を維持するための人柱として生きていくの。それが貴女の運命な のよ」 「そ、そんな……」 「まだ分からないの?ホラッ!」 弱気になった霊夢の鳩尾を美鈴はすかさず拳を捻りこんだ。 「ガァッ……!!」 「貴女が今こうして苦しんでるのだって、巫女だからよ。巫女である限り、貴女に幸せなんて訪れるはずがない、本当は分かってるんでしょ?た だ、認めたくないだけなんでしょ?認めてしまいなさい、そうすれば、楽になるわ……」 それを聞いた瞬間、今まで霊夢を保たせていたか細い何かが切れた。 「ふ、ふええええええええええん!!もうやだよおおおおおおお!!なんでわだじばっがりこんなめにあわなぎゃいげないのよおおおおお!!わ だじだっで、女の子らしく生きたいよおお!可愛らしい服をぎだいよおおおお!!好きな男の人にほめでもらいだいよおおお!!どうじで、どうし でわだじが博麗の巫女なのよおおおおおお!!」 もはやそこに博麗の巫女はいなかった。いるのは、ただ一人、歳相応の少女だけであった。 その霊夢に、まるで子を諭す母親のような優しい笑みで、美鈴が霊夢に語りかけた。 「大丈夫、私だって孤独だった。誰からも信じてもらえず、自分ひとりで全てを解決するしかなかった。でもね、太歳星君様は違う。あの方は、 私達を分かってくださる。私達を救ってくれる。あの方の作る幻想郷は、私達にとって、とっても優しい世界になる」 「ああ、わしが保証しよう。わしが、貴様らにとって優しい世界を作り上げてみせよう。大丈夫だ、わしはキミの味方になることができる」 「ほんと……?本当に私は、博麗の巫女じゃなくて、いいの……?」 「ああ、もちろんだとも。だから、どうかキミの力を貸してくれないか……?」 霊夢の思考は、既に死にかけと言っていいほど衰弱しており、その甘言は、今の霊夢にとって、非常に魅力的なものであった。 この苦しみから開放されるなら……普通の女の子として生きられるなら……それも、悪くないのかもしれない……もう……疲れた…… 「はい…………なんでも……言う事を聞きます……」 ◇◆◇◆◇ 5日後、霊夢は無事博麗神社に戻って来ていた。 一時は霊夢の失踪によって少し騒ぎになっていたが、霊夢が返ってきた事によってさらに波紋は広がった。 「よう霊夢、元気か?」 「あ、魔理沙さん。お久しぶり」 「や、止めてくれよ……さんづけなんてむず痒いぜ……」 霊夢はまるで何も憶えていないかのような発言をしていたのだ。 「ところでどう魔理沙さんこの着物。きらびやかでかわいいと思わない?」 「いや、かわいいけどよ……その、巫女らしく巫女装束でも……」 「嫌よ、あんな姿嫌!もっとかわいい服がきたいの!」 その変わりように誰もが霊夢は記憶を失ったものだと思った。 しかし、正確にはそれは間違っていた。 なぜなら、霊夢は記憶など失っていなかったのだから。 霊夢は大ナマズに従うことを決めた後、大ナマズにとある提案をされた。 『一度記憶喪失になった振りをし、本当の自分をされけだしてみてはどうか』と。 そして霊夢はそれを実践した。 そして周りの反応を見て、霊夢はより大ナマズによって作られる世界の必要性を感じ取った。 博麗の巫女という立場は今や霊夢を縛る枷でしかないという認識であった。 記憶喪失という立場は、全てを見過ごすのに持ってこいである。それも大ナマズは理解していたのだろう。 「なあ霊夢、はやく本当のお前に戻ってくれよ……」 魔理沙がポツリともらすが、それはまったく的外れな願いである。 今の霊夢こそが、本当の霊夢であり、今までの霊夢は偽り。少なくとも霊夢自身がそう認識しているため、魔理沙の願いは適わないのだ。 魔理沙がいつの間にか去った後、霊夢は一人、地面に膝をつき、まるで神に祈るかのように手を広げ喋り始めた。 「ああ、太歳星君様、どうか私達を導いてください。私達をどうか理想郷へ……」 楽園の巫女だったものは、今ではその役職を放棄し、幻想郷を見捨てた。 幻想郷はゆっくりと、しかし確実に崩壊しているのである……。 ---- - \これはやべぇ/ -- 名無しさん (2009-10-24 17:30:47) - うわぁ -- 名無しさん (2009-10-24 21:00:05) - ゆかりん助けてゆかりん -- 名無しさん (2009-10-25 10:34:35) - 役立たずになった霊夢をさっさと殺して代わりを用意する紫を幻視した。 -- 名無しさん (2009-10-26 07:59:44) - これ続編出ないかな &br()幻想郷の住人が大ナマズに洗脳されていく感じの -- 名無しさん (2009-10-26 10:09:48) - なんかヘンなエロさを感じる -- 名無しさん (2009-10-27 13:30:39) - 中国・・・(涙 -- 名無しさん (2009-10-28 11:54:52) - ○○学会思い出した -- 名無しさん (2009-11-16 17:31:59) - >「ああ、太歳星君様、どうか私達を導いてください。私達をどうか理想郷へ……」 &br()ベアトリーチェみたいやなw -- 名無しさん (2009-11-17 04:01:15) - つまりこうか &br()霊夢→金蔵 &br()大ナマズ様→ベアト &br() &br()「残念でしたぁー☆」とかいう大ナマズ様幻視したぞどうしてくれるww -- 名無しさん (2009-11-17 22:40:38) - 霊夢じゃねぇww -- 名無しさん (2010-04-09 12:41:11) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)