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ミスティー監禁:2スレ417 - (2010/03/23 (火) 00:49:28) の編集履歴(バックアップ)



注:ちょっとグロいので、お読みになる際は御注意下さい。




ミスティア=ローレライは闇の中で薄く目を開いた。
光源が一切無い暗闇。
彼女は"部屋"の中心で、膝を抱くようにして屈んでいる。
正面に鉄格子。他の三方は石壁。
狭い空間に漂う土と岩の匂い。
その中に微かにこびり付いて残る、生き物の骸が放つ腐臭。
空気が流れる音と感触から推測するに、ここは地下の様であった。

この闇の中でも、夜を生きる妖怪たる彼女には周りの様子が見えていた。
壁、天井、鉄格子には、札が隙間無くびっしりと貼り付けられている。
恐らく畳の下の石床にも同様の処置が施されているだろう。
気味の悪い文字がのくたっているその札は ゛専門゛ の人間による手製。
触れれば紫電が弾け、あやかしを拒む力場を生む。

ミスティアは知る由も無かったが、ここは人間の里の地下牢であった。
重大な里の掟を破った者、 手のつけられない感染症にかかった者、 狂人―――そういった人間が幽閉される場所。
そのような場所に監禁されながらも、彼女が案じているのは己が身の行く末ではなかった。

彼女が一心に想うのは、引き離された我が子達の事だった。




 = = =




       ・ ・ ・ ・ ・
彼女は、やり過ぎてしまった。

育ち盛りの幼い子供達。
その旺盛な食欲を満たしてあげる為に、彼女は懸命に飛んだ。
夜のみならず、陽も落ちきらない夕刻にすら動いた。
林道をかつてない頻度で飛び回って "狩り" をして―――

それで とうとう ゛その手の人間゛ の所へ話が上がってしまった。



ミスティアは目に涙を浮かべながら、一層強く自分の身を抱きしめる。
捕らわれる際に負わされた傷が全身のいたる所で痛むが、そんなものはどうでも良かった。
この地下牢で意識を取り戻してから、およそ二日。
その間、身じろぎもせずに ただひたすら我が子達の事を考え続けた。
考えたくもない結末を考え、その結末に怯える。それを繰り返した。
やがて身も心も疲れ果てるが、不安と恐怖で眠る事もできない。

彼女は部屋の隅にある薄汚れた寝具も使わず、所々に黒ずんだ染みのある畳に横になった。
つい二日前には、横たわる彼女の翼の下に、眠る子供達が居たのだ。
それを思い出し、再び涙が目尻に溢れ出す。

彼女は唇を開き、震える声で、小さく子守唄を口ずさんだ。
もうどこで覚えたのかも忘れた子守唄。
それを聞くと、子供達は安心して眠った。
おそらく歌の内容はどうでも良かったのだろう。
子供達にとって大事なのは、母親がそばで歌ってくれている事であっただろうから。
今は、その子守唄はミスティア自身を慰め、眠らせる為のものだった。


急に、歌が途切れる。
ミスティアの鋭敏な感覚が、闇の奥に何かを捉えた。
地下道の彼方に、オレンジ色の灯りが幾つか揺らめいている。
ミスティアは跳ね起きると鉄格子の側に寄り、灯りで闇を削りながら牢に近付いて来る人間達を凝視した。




 = = =




牢の前に、松明を手にした十数人の人間達が立ち並んだ。
二十以上の目が全て、牢の中のミスティアを凝視している。
ミスティアも彼らを睨む。
…が、彼女の瞳は、すぐに不安と焦燥に濡れた。
力無く鉄格子の側に座り込み、最も牢の近くに立つ初老の男の顔を見上げて哀願する。
「子供達に会わせて…」

その言葉を聞いた途端、男の両目に憤りとも悲しみとも取れる色が浮かんだ。
「その前に聞くが、お前は わしの息子を どうした」

ミスティアは言葉を失った。
男の顔を見上げたまま表情を硬直させ、ただ小さく震えている。
男も それ以上は何も言わなかった。
ミスティアの乱れた呼吸の音だけが、地下に響く。



「お前の子供らに、会わせてやる」
唐突に男が口にした一言に、ミスティアの瞳が大きく見開かれた。
男はゆっくりと片腕を上げる。
そのまま、すぅっと人差し指をミスティアの背後へ向けた。
その動作の意味する所が判らず、ミスティアは戸惑いの表情を浮かべながら、男の指差す方向を振り向いた。

その先には、あの粗末な寝具―――毛布と枕が置かれているだけである。
ミスティアは困惑したまま、もう一度男の顔を振り返り、思わず息を飲んだ。

男の顔に、喜悦と嗜虐を混ぜたような おぞましい表情が張り付いていた。
その男だけではない。
立ち並ぶ人間が全員、同様の表情を浮かべている。
ただそれだけで、誰も何も言葉を発しない。

ミスティアの鼓動が早まる。
早く短く切るように息をしながら、ゆっくりと寝具の方へ振り向く。
恐る恐る、這って寝具に近付き、震える手でそっと枕に触れた。
外布こそ薄汚れているが、その枕は程よい弾力を掌に返してきた。
「 ぁ……  あ…… 」
どこか懐かしいその感触に、ミスティアの顔色が蒼白になる。
ミスティアは激しく震える人差し指の鋭い爪で、スッと枕の布を裂いた。
「 ッ…   ひッ……! 」
布の中に詰まっていたものを目にして、ミスティアの視界が黒ずんで反転した。

「 ひあああああ"あ"あ"あ"ア"アァァ!!!!!! 」
耳元に痛い程響いている音が、自分の発している悲鳴である事にミスティアは気付いていなかった。
やがてその事に気付いたが、どうにもできなかった。

「 ひゃらッ! やらァッ!! いやああああぁァッ!! 」
ガクガクと身体を痙攣させながら、ミスティアは枕の中の羽毛を両手で必死に掻き出す。
その行動に何の意味が有るのかは彼女にもわからない。

「う"ぐ……う"あ”あ"ア”ア”ア"アァァァァっ!!!!!」
羽毛の中から幾つか現れた小骨を目にして、ミスティアは更に狂ったような絶叫を上げる。

「がハッ!!」
血を吐いた。
強靭な造りを持つ筈のその喉が、破れた。
それ程に激しい悲泣の叫びであった。
ミスティアは涎と血の両方を口から垂らしながら、小さな骨片や大量の羽毛を必死に掻き集めて胸に抱く。
だがいくら掻き集めても、腕の間から羽毛がこぼれ落ちていく。
それをまた狂ったように何度も何度も拾い集めた。
口から漏れ続ける荒い呼吸は、既に喘ぎ声に近い。
時折、破れた喉に血が絡まり、嘔吐と共に赤い吐瀉物を吐き出す。
撒き散らされた血が、畳の上に落ちた羽毛を赤く湿らせていった。
ミスティアはもう自分を保てなかった。
心が壊れて何もわからなくなる。

狂い果てる。
それが、人間を狂わせるあやかしである彼女の最期であった。





地下牢の入り口は完全に埋められ、厳重に封印を施された。
もう二度と光が差す事は無い。

闇の中。
ミスティアは"部屋"の中心に、膝を崩して座っていた。
虚ろな目をしたまま両腕に抱きかかえているのは、あの枕。
まるで毛布に包まれた赤子をあやすかの様に、抱えた枕を優しく揺らしている。
中には彼女が掻き集めた小骨と羽毛が詰まっていた。
枕の所々には、赤い斑点が滲んでいる。

端から血を垂らしたミスティアの唇が、微かに動いていた。
しかし声は聞こえない。
彼女の潰れた喉からは、もう空気が掠れる音しか出なかった。
あとは時々、痰が絡むような音がするだけである。
ミスティアは枕にそっと頬擦りをする。
そして、いつまでも声の無い子守唄を歌い続けた。













  • 何だかなあ…… -- Aーfd (2010-03-22 21:38:35)
  • まあ鳥類だから狩られても仕方ないよな
    子供食われたら誰だって怒るし -- 名無しさん (2010-03-22 23:59:46)
  • やったらやり返されるからな
    そしてエンドレス -- 名無しさん (2010-03-23 00:49:28)
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