勝手に>>174の続き。 「……あら?」 もう何度目かの「お願いします」に、幽香の手がようやく止まる。 天子は白濁とした意識の中に、希望の光を見たような気がした。 「もう完全に抵抗しないのね?」 「はい、ごめ……なさい。ごめんなさい」 気がしたのだ。 「そう、それじゃあ仕方がないわね」 気がした、だけだった。 見上げた薄い笑いに、天子の肩が小さく跳ねる。 まるで氷を飲み込んだ時のような感覚が、天子を襲っていた。 それは、終わりの見えない暴力に感じていたそれよりも大きな、恐怖。 「向日葵たちはあなたに、成す術もなく、ゴミクズのように潰されたのよ?」 暴力の最中、一度耳にした言葉が再びこぼされた。 幽香の足が一歩、天子へと踏み出される。 幽香の指先が、天子の口元へと差し出される。 そして、 「だから、抵抗もしないあなたは向日葵たちと何も変わりはしない」 白い指先が天子の唇から血を拭った後に、音も無く、前歯を一本引き抜いた。 声は出なかった。目の前にある微笑が、あまりにも恐ろしかったのだ。 「そうしたら、ねえ?」 ――あなたも向日葵になってしまえばいい。 幽香の唇は優しく、笑みに歪んでいた。 その唇が紡いだ言葉を、天子は理解したくなかった。 幽香の手の内で、抜かれた前歯が向日葵の種に姿を変えた。 天子は、 いやだ、いやだ、いやだ、向日葵になんてなりたくない。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もう異変なんて起しません。 やめて――やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて…………あ。 天界には一面の向日葵畑が広がっていた。 そして、その中にはおおよそ天界には似つかわしくない下賎な妖怪が一匹。 「綺麗ね……そう思わない?」 妖怪は花ではなく、その茎の更に下にある苗床に語りかけていた。 「ああ、でもこの向日葵、無駄な葉がついてしまっているわ……よいしょ」 ――――っ! “苗床”がぴくり、と蠢いた。 感じたのはまだ下賎な人間であったときの出来事。 それは確か、爪がまるまる一枚剥がれた時の痛み。 “苗床”は思い出しながら、うまく動かない体を必死にまるめていた。 「あら、そんなに怯えないで? 私はお花には優しいのよ?」 薄い笑いが咲いていた。 それが何よりも、“苗床”を恐怖させていた。 妖怪は微笑んだまま背を向ける。 クスクスと笑みをこぼしながら、比那名居天子だったものに背を向ける。 “苗床”は安堵した。もうぼんやりとしか見えない視界から妖怪が消えたから。 「これか、突然現れたという地上の花は」 不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。 “苗床”はまだ憶えていた。 自分がこぼれ落ちていく中で、どうにか憶えていることができた。 ――お父さん。 「下賎な、天界の風景にこんなものは必要ない。燃やしてしまえ」 “苗床”は薄れていく感情の中で、唯一残ったものを貼り付けた。 葉を一枚削がれただけで感じた痛みを思い出しながら、敬愛していた父が放った火種を見つめていた。 比那名居天子は笑って死んだ。 ――Happy End. ---- - 救われなさすぎwwww -- 名無しさん (2009-04-23 23:04:00) - 幽香の情け容赦の無さが凄い。 -- 名無しさん (2009-04-25 01:29:12) - 天子だからってフルボッコすぎるwww -- 名無しさん (2009-05-11 02:54:31) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)